Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第13話

 三郎は仕事の中で出会った忘れ難い想い出に辿り着き、そこでの感動の意味に気付いていく。

 SAもCADもまだない頃のことだ。希望退職の募集で寂しくなった工場内にオーバーホールや改造の仕事が入ってくる。汚れてくたびれた機械に製造部の人たちは蟻がたかるように群がった。三郎たちがやっとの思いで見付けてきたその仕事は利益幅の薄い経営者にとって敬遠すべきものであった。しかし、機械創りを生業としている者にとってこれはなかなか巡ってこない意味深く有り難い仕事となった。それは三郎の様にゼロから関わった者だからこそ分かることだった。生まれ変わった部品を丁寧に組み上げていくその様は、汚れた機械を分解する荒々しさとは異なって際立って美しく見えた。摺動部は洗浄されグリスアップと共に消耗品が全て交換されていく。この作業は、プラスティックハンマーを用いての分解とは余りにも違っていて工場内の多くの人を感動させ、好対照となって心の襞にその光景を焼き付けていく。
 
  三郎は忘れ難い想い出に辿り着き、崩れ落ちていくもの、そしてあらわになったものを感じ取っていた。強い意志を示した紀子と優柔不断な自分が重なるように現れた。今はもういない仲間の姿が、そして、傍らに夢を失い生きる力をも失った多くの人たちさえ現れた。



 メディアは倒産件数の多さを伝え、それとほぼ同じ数の人が経済的理由から自らの最期を遂げていることを報じていた。その数は実に毎年凡そ1万人にも上っていると言う。私は今までいったい何をしてきたのだ。乗り越えられない現実は人を朦朧とさせ、自身を覆い隠す様ただただ時の流れに従わせてきた。人として求められることは人としての原点に還り人への想いをより強くすることである。それは何よりも実践することでその意味を持ち始める。心の中に封じ込められていた何かが蠢くと、三郎にある想いが芽生え始めた。時を掛けずそれが三郎を覆い尽くすと想いも掛けない三郎の行動となって現れていく。


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右図はH16.7.23 中日新聞より(小説の内容とは一切関係ありません)