Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第12話

 制度の矛盾点は滞納者へ追い打ちを掛ける巧みな裏技として官吏によって利用されていた。

 保険証は毎年新しいものに更新するよう最近改正された。保険証は前年度とは違う色となって一目で更新済みか否かの見分けが付くようになったのである。しかし、保険料滞納者の選別だけの為にこんなに無駄な制度に改めた訳ではなかった。強制入金させる裏技として、保険料滞納者には代わりにピンクの資格証明書が市役所から配布される仕組みとなったのである。炙り出された保険料滞納者は資格証明書を病院の窓口に提出する。すると、領収書が振り出される。これを市役所の窓口に提出すれば治療費が還付されるという触れ込みなのである。自己負担の30%を差し引いた治療費の70%が還付され、これで少しは家計の足しになって家族に迷惑を掛けなくて済む。有り難い、これは良い制度だ、と心も幾分軽くなった感がする。
 ところが、これを真に受けてわざわざ市役所に足を運んでいくとする。すると現実はそうではなかった。もらうべき70%は未払い分としてご苦労様とばかりに回収されていたのである。少しは家計の足しになるかと思って市役所に足を運んだ失業者の努力は失礼にも冷たい仕打ちとなって還っていたのである。

 三郎は居残って初めて、企業の身勝手さを思い知らされた。そして伝え聞く社会の矛盾点は自由主義経済の根底を支える裏の部分として見事なまでにその足元を固めていることを知った。紀子のいないフロアーでは無遠慮に電話口に出ている課長がいる。「いいですよ、その位の事なら何とでもなりますから。ハハハ。」等と言っている。様々な想いをさせられ、その上この様な自責の念にも駆られない太っ腹振りを見せている上司の傍にいまだにいるのだ。俺たちは何の時を過ごしてきたのだ。生産性や合理性など人が求めてきたものはいったい何だったのだろう。他律的で無目的な生活は、流されここまで来た自身への嫌悪へと三郎を追いやり、その精神的補償として決して戻ることのないあの時代の懐かしい想い出を心の襞に蘇らせていく。

 工場の敷地内をゆっくりと一周していくと生垣越しに社員の声が聞こえてくる。その声が懐かしい仲間の声と重なると、三郎はやがて仕事の中で出会った忘れ難い想い出に辿り着いた。

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