Web小説 Restructure                     原作 周防 元水     
第11話

 封じ込められていた人の泥臭さが価値を持ち始めてくると、忘れ去られていた大切な事も現実の矛盾点としてその姿を現し始める。

 仲間の多くが卓球やキャッチボールをして過ごしている短い昼休み、三郎は一人で散歩と決まっていた。工場の敷地内をゆっくりと一周してくるのだ。もうずっと長い間こうしてきたがこれ程自然が美しいものだとはこれまで気付かなかった。緑の鮮やかさ、包み込む様な枝葉の広がり。このところの三郎の周りに起こる様々な出来事は木々の美しさを対照的に際立たせていた。
 心が休まる時間とは言え、歩を進めれば進めるほど頭の中を様々な出来事が駆け巡っていく。人を想えば想うほど現実への矛盾が見え隠れしそしてそれが広がっていく。三郎はじっとしていられない自分を感じそしてそれを意識し始めていた。

 仕事が命とまで思って働き続けてきた筈なのにそんな社員の情は汲まれることなく当の会社はリストラへと走った。三郎は居残って初めて、企業の身勝手さを思い知らされた。聞けば、離職者も同じように冷たい仕打ちが成されたという。典型的な弱者いじめは弱者を救済する筈の当の社会保険制度の中にあった。多種な社会保険制度は受益者負担を基盤に成り立っている。保険料を滞納する者は社会保障を受けられないのである。弱者救済の筈の社会保障が弱者を切り捨てるのである。国民健康保険を例に挙げてみると分かり易い。リストラされ収入の途絶えた人が年間数十万円もの国民健康保険料を負担出来るものだろうか。6ヶ月間の滞納で保険証は没収され、病院での治療費は全額負担となってしまう。分かってはいるのだが払えないものは払えないのである。こうして保険料滞納者は次第に増加することとなる。
 受益者負担なら加入の可否は本来個人責任の範疇にある。にも関わらず失業者に国民健康保険への切り替えを迫るのである。財源不足からきているのは分かっているのであるが、その思いやりのなさはどうしても鎌倉時代の年貢取り立て役人の地頭を思い出させてしまう。どんな手法を使っても取り立てようとするのはおぞましい事であり、生理的嫌悪感を抱かせる。よく病院の窓口に「1ヶ月毎に保険証を提示して下さい」との張り紙を見ることがある。目障りなこの張り紙は、全国的に増え続けている数十万人に上る保険料未払い者への対応策であって警告ともなっているのである。

 更に、制度の矛盾点は滞納者へ追い打ちを掛ける巧みな裏技として官吏によって利用されていたことが、次第に明らかになってきた。

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