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  フェイドアウト           原作 周防 元水

第12話 湖上

 魂は体を離れ自由となる。

 人は人を否定し偽りの中に身を置いて生き、人への想いを裁ち切ることによって人として生きようとしてきた。人はそうして年を重ね後悔の中に崩れそして落ちていく。無情にも人として大切なものは崩れ落ちていくその時初めて暗示され慚愧と共に人に与えられた。止まれない欲求は私を旅立たせ、自己の束縛から逃れられない亡者として、長い日々の身を削る放浪と幻影を見つめる逃避との連鎖の中に於いて次第に次元の違う世界の存在に気付かせその世界へと抜けさせていく。見えなかったもの見付けられなかったものを眼前に描く様になると、楽園の世界と重なる様に、人を疑い自身を疑いそして世津をも疑う醜い塊が見付けられていく。付かず離れず現れた若者は世津の背後にさり気なく現れ思索の目を向けようとしたその時、必ず私の眼前から私を試すが如くに消え去っていった。自身の主の魂は我が身を離れ自由となって自身を見詰め悔いそして悩み幻影として現れては亡者をして清め転生の為後世へと自身を導いていたのだ。 

 耐えられない空虚さは此処まで自身を導いてきた。幾度と無く想い出の地を訪ねては過去を振り返り、現実の姿を重ねてはその空しさに心を引き裂かれてきた。忍び寄る発叫の想いは自身を投げ出させては身を削っていく。研ぎ澄まされ不思議と安堵する私は終焉の地へと自身を誘っていく。こうして私は疲れ果て此処まで来た。導き入れられた内宮は魂の安らぐ最期の処であった。
 これまで為す事全てが自己否定への追求であった。何と哀れで悲しい事か。自身を否定する事に成功すると人は最愛の神に近付く事となる。自身との絆として現世に探し求めた世津の残像が見出せなかった私は何の躊躇いも無くその身を神に捧げる。真に心から悦び世津へと近付いていく。止め処なく溢れ出る涙に何処からか友の叱責の声。

 父母を記憶した谷田の臭いが辺りを覆うと鎮守の森が揺らぎ始め、友と語らいだ校庭が遠離っていく。今、私は世津に迎えられている。夜靄の中で惜しむ様に時を掛け数々のディテールが流れ揺れ切れ切れになりながら青の透明色の湖上に煌めく点となってフェイドアウトすると私は世津とあの星の下に招かれ永遠の旅へと逝く………。

 「フェイドアウト」 完   H14. 8.18  故 親友 Y.Y. に捧ぐ  

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