Web小説 森の中の企業                     原作 周防 元水     
第7話

 祥三は日本という国について語り始めた。いつから政治に興味を持ち始めたのか分からないが、話が熱を帯びてくると決まって話し始めるのだ。子供のようなところがかえって聞いている者を引き入れてしまう。

「日本の官僚機構は、戦前までは実務の専門家集団として機能していたが、戦後はその役割を免脱し弊害が目立ってきた。その実務者としての豊富な知識量を生かして政治をコントロールするようになったのだ。これは戦後になってから法案提出条件を強化するための法案が成立してからのことである。それからというもの議員発議の法案はめっきりと減り、政府提案つまり官僚作成の法案が大部分となってしまったのである。とどのつまり法治国家の日本の政治を動かしているのは官僚ということになる。昨今の報道で承知しているように、階層社会の故にか、それとも一般社会から隔離されているからか、官僚の発想力はさほど高くはないことが明らかになってきている。天下りをしたり、組織防衛を優先したりする姿は、官吏としての判断力・発想力のなさを如実に示している。国民よりも自分たちの利益を優先する官吏に、国民は不信感や反発心をいやおうなしに募らし始めている。今日の様に変化の激しい時代には、実務の専門家集団といえども発想力不足では時代に合わない組織となり下がってしまう、これはよい見本なのだ。」

 具体的な例はいくらでも挙げることができるが、最近の出来事の方がいいだろうと、北朝鮮との外交交渉を例に挙げて説明しだした。拉致された日本人の死亡年月日を一時伏せておいた外務省判断をまず挙げた。

「国家の犯罪を見過ごしてきた政府の怠慢が国民から糾弾され始めた。そんな時、我が子の救済を訴え続け長い間苦労してきた親に、息子や娘の死亡年月日を伏せてしまったのは到底理解できない。世間の常識と大きくずれた官吏の判断に世論は一斉に反発、政府は慌てて謝罪の記者会見を行う羽目となった。その他いくつかの対応のまずさが明らかになっていく。例えば、被害者の安否報告は家族別で報告をするという余計な気の回し方をしてしまっている。そのため、心を一つにしていた被害者家族の本能的反発に遭ったりした。訪朝で得た数々の成果はこのためかすんだものになってしまった。首相は『過去の政府の対応には、反省すべき点があった。』と、これまでの対応の誤りを認めざるを得なくなり、家族の気持ちにそった形で日朝交渉を推し進めていくなど外交スタンスを修正することとなった。国家レベルの議論でも、個人の持っている正しい考え方・感じ方は最も重要な要素として無視してはいけない時代となってきた。このことは国家の指導者がようやく気付きつつある。ところが、発想の乏しい官僚的ヒエラルヒーは多目標・多目的の流動的時代においては、昨今の事実が示す通り、時代を読む能力は皆無に等しくその結果今では無用の長物どころか害とさえなり得てしまう。」

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