Web小説 森の中の企業                     原作 周防 元水     
第5話

 Segwayと呼ばれる電動スクーターが2002年にアメリカで公表された。この事を例にして祥三は自分たちの仕事を説明した。
 祥三は今の仕事に生き甲斐を感じているらしく生き生きと時に私の目を見ながら熱心に話した。お陰で、祥三の言わんとしていることがようやく分かってきた。といっても、技術者にありがちな主語抜きで業界用語の多い一方的な話を私流に理解しただけなのだ。どうやら祥三によると世界は近い将来90度ぐらい(180度と言わないところが祥三らしい)変わるという。祥三たちの仕事はその先取り研究だという。

「Segwayの発明者はDean Kamen氏。2000年に開発されたこの発明品は、あまりにも革新的だったため、その後の試作・実証段階の2年間は開発コードネームをジンジャーとして実態を公表しなかった。技術開発と信頼性向上のために時間を費やし大切に育て上げようとした。満を持して2002年に発表されたSegwayの反響は予想通り相当なもので、世紀の大発明品としてこのニュースは瞬く間に全世界に配信された。Dean Kamen氏らは時の人となってその努力は報われた。この発明品は、2輪車ではあるがジャイロによってバランスを保ち、押されてものけぞっても転倒しない。乗り物にありがちなブレーキもアクセルもない。エンジンもハンドルもない。意志を伝える棒状のものが付いているだけのいたってシンプルなものなのである。しかも省エネで公害を発生しない。車体のコントロール技術は相当なもので、人は立ったままで乗るが、歩くよりもむしろ安定した状態で自分の意志通りにかなりのスピードで移動できるものだ。」

 祥三は、このSegwayが道路や都市そして四輪車や駐車場のあり方を大きく変えていくだろうと予想した。なるほど、確かにこの乗り物が便利で多くの人が使うようになるだろうことは理解した。専用道路みたいなものが車道と歩道の間に必要だということも分かった。段差のないバリアフリー化が急がれることも分かった。面白そうな都市の光景が目に浮かんできた。祥三のお陰で、私の頭の中にはSegwayと呼ばれる電動スクーターが頭の中を行ったり来たりするようになった。
 しかし、祥三はそんなことよりも、どうもその先の事の方が大事らしく、すでにもう別の話をしている。国がどうの、法律がどうのと言っている。

「アメリカは、既に覇権を獲得した政治・軍事と同レベルにまで経済力を発展させようとしている。」

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