Web小説 森の中の企業                     原作 周防 元水     
第4話

 心地よい自我の葛藤がしばらくして収まり自分を取り戻すと、静かな山にギュギュギュギュと響く山鳥の鳴き声を再び聞いた。山鳥の鳴き声を聞くと不思議と落ち着いていく自分を感じる。自分本位で包容力に欠け幾度となく苦い思いをしてきた私は、この時少しずつ変わってきていた。深い山々が発するオゾンは、自然を身近に感じさせ私をリラックスさせていく。険しかった私の表情は森の緑に包まれ自分でも感じ取れる程穏やかになっていく。祥三はそんな私を見届けたかのように話題を変えた。

「こうやるんだよ。」
 祥三は私が飛ばした枝を崖から拾い上げると、拭うでもなくくわえ口の中で何やらもぐもぐとした。それからちょっと顔を上げると吹き矢のようにしてぷっと飛ばした。かすかに尾羽のようなものが見えると、風にのって遠くまで飛んでいった。
 兵士の膿を吸ったという魏の呉起将軍が頭の中をよぎり祥三とだぶって見えた。いっぺんで祥三の全てが好きになった自分が分かってぞくっとすると共に、私の心の中に聞く耳が芽生えた。

 祥三の遠くを見る目線のその先には建物が垣間見えた。ログハウス風だが、大きく窓をあけて実用的になっているらしい。白壁が美しく周りの緑に映えている。あれが自分の仕事場だと言う。建物と舗装された山道や木々の間を走るレール状のものとが、頭の中で一つになってつながると、いとも簡単に私の常識は崩れ去ってしまった。森の中ではあり得ない企業群が、ここには現にあるらしいのだからしかたがない。祥三の回りくどい説明には少々閉口したが、新天地を目指した新しいタイプの人間がここには数多くいることは分かった。ここに暮らす人々への大いなる関心が湧き上がり、私は話をせがむように祥三を腰掛岩へと連れ戻していた。再び長い話になり祥三の独演会となった。しかし、今度は飽きなかった。ドラえもんの歌が頭の中をよぎっていくと、祥三の言わんとしていることがようやく分かってきた。

 こんなこといいな、できたらいいな、あんなゆめこんなゆめ、いっぱいあるけど、
 みんなみんなかなえてくれる、ふしぎなポッケでかなえてくれる

 霧が晴れていくような思いの中で二人は話を続けた。祥三の口元がわずかに緩んでいくのを私は見た。

TOP 森の中の企業 前ページ 次ページ 先頭