Web小説 森の中の企業                     原作 周防 元水     
第14話

幻影から解き放たれると、再びあの山鳥の鳴き声が強く聞こえた。目を閉じ聞き入ると私の頭の中を響き渡っていく。小降りの雨がひとしきり辺りを濡らし終えると、私は、瞬きし切り取るように森を見渡した。森はこれまでと様相を一変し、よりクリアに輝きながら私の心を捉え始めている。虫の変態はかくあるのだと思う。私の気は高揚し新しい意識がむくむくと湧き上がってくるのを覚えた。研ぎ澄まされた五感は見えないものを捉えた。Segweyが走り回る山道を人工の構造物が取り囲む。螺旋状のレールは巧みに木々を避け岩山の蔭に消える…。頭上を静かに移動していく理解出来ないものが目撃されると、いよいよ私の心は別世界へと引き込まれていった。祥三への疑念は体から消えていき、代わって、心の中に研究を見極めなければという衝動が湧き起こっていた。

 祥三の元に戻る途中、意外な自分を発見した。
「ここに来てから、ものの考え方が変わりました。」
 見知らぬ人と交わす挨拶の中で、私は妙な言葉を使っていた。口をついて出たその丁寧な言葉は意識したものではない。どこかで聞いた借り物の言葉だった。
 しばらくすると祥三と再び出会った。出会ったというより祥三は待っていた。
「おお〜い。」
 崖側の小道から上がってきた祥三は、当然のようにあの腰掛岩へと私を誘う。祥三の隣に座ると私は猛烈な疲労感に襲われ、崩れるように横になった。
「協力してくれてありがとう。」
 祥三は耳元で、確かにそう言った。           

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