Web小説 森の中の企業                     原作 周防 元水     
第12話

 祥三は、しばらく私の反応を伺ってから核心に触れた。 

「透視など不思議な現象のベースとなっている『場の理論』を、今、研究している。幾種類かのエネルギ波が介在する極めて難解な『場の理論』の中にあって、比較的分析し易く実証可能な電磁波を入口に研究を始めた。しばらくしてある重要な事を突き止めることに成功した。生物が行う電磁波放射は周知の事実だが、それを生物はどこで捉えどの様に活用しているかはこれまで大きな謎だった。この謎の解明には新しい測定機器の開発が避けて通れない。幸い、臓器の培養技術を応用したバイオセンサーでこの問題はクリア出来た。脳の全局所を再現しエネルギ波に対する反応を分析総合していく中で、極めて微弱な電磁波にも組織的に反応する部位があることを遂に特定することが出来た。どうやら生物全般にエネルギ波を感受する器官が耳の後部に存在するらしいことが分かってきた。生物同士の情報交換が五感以外の方法でも行われていた証になる。この事実は、SFの世界として否定され不可能と思われていた遠距離での意志伝播が実際に行われていた可能性を示している。この秘めた潜在能力を取り戻せるとなれば、これまでの社会の有り様を180度変えてしまうとてつもない大きな影響を人々に与えることになるだろう。

……これからの話はオフレコだが、実は、これらを生かして更に進んだ研究をしている。個別の電磁波を判別し再構築し発射する。つまり人工発生させた電磁波とそれを受けた脳との関係をいろいろ調べている。認識装置は出来たので次は発射装置の研究と言う訳だ。こちらの方は波及効果も大きく利潤がかなり見込めるので、今では研究の中心となっている。外部から脳の特定部位を刺激するこの方法はうまくいっていると言ってもいい。実験を繰り返し対象物に副作用のないことも確認した。しかし、まだ動物実験の段階なので効果がどれだけあったか実のところよく分からない。臨床の実験が必要だが政府の認可が下りない。助成金が配分されないばかりか実験もままならない。政府とは頼るものではないことがよく分かる。もっとも、認可が下りたとしても実験が実験だけに被験者選びが大変だ。相当の常識を備えていて、しかも深い理解者でないと後の追跡がうまくいかない。曖昧な心の変化ではなく、人格に相当する”意志”の変化を捉えることが何よりも重要だと考えているからだ。万難を排して実験が成功したとしよう。それは微弱な電磁波が人の意志に関わっていた証明であり、人類がパンドラの箱を開けた瞬間となる筈だ。後戻り出来ない新しい時代へと足を踏み入れ、社会は大きな混乱の渦に巻き込まれていくだろう。電磁波からのガードやその有効活用に向かって企業は一斉に突き進み出し、電化製品や家屋の設計、教育や法の整備、やがては都市計画にまで影響を及ぼすことになっていくだろう。体系の再編成が業種や分野を超えて展開されるという底知れぬ影響力を秘めた研究ということになる。」

 厄介な事になる。祥三の目がそれを物語っていた。       

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