クロイトハゼの巣作り  
Valenciennea helsdingenii Nest building  1995年2月 水深17m
クロイトハゼにお目にかかったのはこの個体とこの個体とペアでいたもう1匹だけである。 だから確かなことは言えないが、クロイトハゼは警戒心が強くない。人馴れしているとさえ感じた。目の前で巣作り や捕食をのんびりやっていた。
このハゼは自ら巣作りをする。口を器用に使って砂利や小枝を運び出す。その様子をしばらく 見ていたところ、砂利を吐き出す所は巣穴の左右2箇所であることがわかった。そこに砂利の小山ができている。そこで、 ピントを一方の小山に置き、ハゼが来るのを待つことにした。案の定ファインダーの中にハゼが現れた。
観察を続けていたある日、穴の入り口を小枝で塞ぎ始めた。せっかく作った巣穴なのにどうした のだろうと不思議に思っていると、ハゼは巣穴から2、3m離れ捕食を始めた。まさかとは思うが、ほかの者に巣穴を占領 させないために戸締まりをしたとしか考えられない。本能の一言では納得できない行動であった。未来に起こるかもしれない 事態を予測し、その対策を取ることができるのである。
クロイトハゼは見飽きることがなかった。雄、雌交互に巣穴から出てくるものだから、つい次を 予測したり、巣穴に近付くカサゴを威嚇したり、ペアで捕食に出かけたりと、その様子は実に楽しい。しかし残念なことに、 巣穴が風化しているのを見る日がやって来た。その後何度も行ってみたのだが、二度と見かけることはなかった。急に火が 消えてしまったような寂しさを感じた。
ところでクロイトハゼの捕食の仕方はニシキハゼと同じである。唇の形もニシキハゼと似ている。 食生活が同じ鳥のくちばしの形が似るのと同じことかもしれない。
1995年4月  中部日本潜水連盟創立30周年記念水中写真コンテスト  『銀賞』受賞
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