主婦の上田亜矢子の母親は二週間前に他界。
葬儀をしてひと区切りついたところで遺産相続の手続きを取ることに。
弟・和也とは長らく疎遠で、弟は高校を中退し実家を出て工事現場で働くようになった。
以来、亜矢子は弟とは一切連絡を取っていなかった。
相続手続をする司法書士が弟に連絡を取ろうとしたが所在不明だった。
亜矢子は行方不明者捜索協会に弟の捜索を依頼する。
そして遺体で発見された身元不明者の情報を見る。
[寸評]
長く行き方知れずとなっていた親族や友人、会社の上司などを行方不明者捜索協会という民間会社に探してもらい、亡くなっていることが判明し、彼らの軌跡をたどることによって現れる“残された人が編む亡くなった人の物語”。
ドラマチックな連作5編からなる。
どの作品も似たような展開だが、さまざまな人の人生が浮かび上がってきて、残された者の喪失感、哀しみのような感情が立ち上がってくる。
残された者はそこからまた新たに一歩を踏み出す。
読後感は良い。
何の変哲もない木曜日の夕方、バイトの出勤時間を気にしながら自宅に向かっていた大学2年の森川春風はひったくりを目撃した。
斜向かいの家にひとりで暮らしている七十歳の小佐田サヨ子が、帽子とマスクで顔を隠した黒ジャンパーの男に紙袋のようなものを奪い取られた。
春風は男を追って走り出す。
ほぼ同時に真っ黒な詰襟の学生服の少年も男を追跡し横手の路地に入った。
挟み撃ちを悟った男は春風に向かって突進してくる。
[寸評]
ひったくりというみみっちい犯罪の後、一家団欒の様子が長々描かれ、この先この話はどうなるのかと思ったが、その後本格的なクライムノベルになっていく。
ただ描かれていくのが特殊詐欺という唾棄すべき犯罪で、その手口がけっこうリアルに語られ、気分が悪くなった。
話は入り組み練られているが、登場人物は比較的少ないものの、展開がごちゃごちゃと整理されていない感じで、なかなか読み進めなかった。
登場人物たちの生い立ちなど作りすぎの印象。
[寸評]
英国支配から脱した独立初期のインドが舞台のミステリー。
主人公はインドの警察史上初めての女性刑事ということで、執拗な偏見、性差別を受けるが、持ち前の勝ち気さ、正義感・使命感で事件解決に臨んでいく。
そのあたりの猪突猛進ぶりが危なっかしくも面白い。
ミステリーとしては最後に関係者を集めて謎解きをする正統派だが、無難な出来というところ。
当時のインド事情が興味深く、英国推理作家協会賞のヒストリカル・ダガー賞受賞作。
採点は少し甘め。
1941年、日本占領下の中国は福建省廈門(アモイ)。
あたしは、繊維会社経営の両親のもと上野で生まれ、広島、台湾、また広島へ戻ったところで家が傾き、大阪の松島遊郭に流れついたが、なんの因果か大日本帝国の辺境の廈門までやって来た。
抗日活動家の楊に従い、カフェーで女給をしながら諜報活動をしている。
カフェー朝日倶楽部での名前はリリー。
楊から日本軍諜報員の暗殺を指示される。
実行役はヤンファという女。
[寸評]
太平洋戦争下のスパイものサスペンスミステリーかと思ったら、主体は女性スパイ同士の結びつきを描く百合小説の趣だった。
もちろん暗殺前後の描写は緊迫感を感じさせるが、特に序盤、人物は次々に多数現れるが、これと言った出来事もないままなのが読んでいて停滞した。
四部構成で、ヤンファの少女時代を描く第三部が、彼女の辿る紆余曲折、数奇な運命の話でたいへん面白い。
中国、台湾の土地の空気感もよく表現されていると感じた。
小説すばる新人賞受賞作。
2021年6月、共同通信社大阪社会部の遊軍担当の武田記者は官報の行旅死亡人のある記事に目をとめた。
「本籍・住所・氏名不明、年齢75歳ぐらい、女性、身長約133cm、中肉、右手指全て欠損、現金34,821,350円」。
2020年4月26日に尼崎市のアパートの一室で絶命した状態で発見された、とある。
行旅死亡人の所持金ランキングではトップだ。
武田記者は死亡記事の問い合わせ先に電話してみることに。
[寸評]
2022年にウェブ配信された記事をもとに大幅加筆、再構成して書籍化した、共同通信社の記者2名によるノンフィクション。
弁護士や探偵がほとんど突き止められなかった孤独死した高齢女性の身元を、記者2人が丹念な調査・取材により明らかにしていく。
それでも結局明らかにならなかった謎もあるが、名もなく死んだ女性が確かに生きて足跡を残していったことが少しずつ解明されていき、なかなか劇的に感じる場面も。
かけがえのない人生のひとつを見る思い。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆
[導入部]
1949年12月31日。
ボンベイの犯罪捜査部マラバール署でけたたましい電話の呼び出し音が鳴った。
受話器を取ったのは、当直だったペルシス・ワディア警部。
彼女はインド初の若い女性刑事だ。
マリン・ドライブにある豪壮な邸宅のラバーナム館で、主のジェームズ・ヘリオット卿が殺されたという。
急ぎ館に出向いたペルシスは、豪奢な書斎の肘掛け椅子に、咽頭を突き刺され沈み込んで死んでいるジェームズ卿を見る。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
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