[寸評]
「その女アレックス」が衝撃的だった作者の6年前の刊行作で、当時はほとんど話題にならなかったようだが、今回文庫化されたもの。
全体は4章からなり、とりわけ長い第2章は実に忌まわしく、読み進むにつれ嫌悪感が募っていくイヤミス度100%の内容。
しかしそこでめげずに3章に進めば、あとは一気に結末まで突き進んでいく。
内容的には「その女アレックス」の原型そのもので、ここからあの衝撃作に発展したことがよく分かる。
[寸評]
作者の作家生活10周年記念作品という触れ込み。
序盤はジャンル不明な感じで、どう話が展開していくのか混乱気味で読み進めた。
中盤は”iF”の常連客たちが三梶恵という若い女性の頼まれごとに付き合うドタバタ劇が続くのだが、現実離れしていて話に乗れない。
実は伏線も張られ、終盤は作者得意の騙しのテクニックでまとめていき読ませるが、登場人物の経歴など最後はそこまで作り込まなくても、とちょっとしらけた気分にも。
[寸評]
先月亡くなった作者の最近作で、こんな採点は少々心苦しいが、なんとか最後まで読んだという感じ。
50代の無頼派作家と30歳の女性の熱愛話は現実離れした昭和の香りだが、本筋は米軍服役囚の作成したある資料を、その実娘のほか、沖縄の政治勢力や暴力組織が探し出そうとするもの。
しかし追及の手は緩く、いわゆる見せ場というものがほとんどないまま榊や里奈の資料探しがとんとんと進んでいく。
ラストシーンの必然性も疑問。
[寸評]
5年ぶりの<リーバス警部>シリーズの19作目だが、私は1冊読んだだけという悪い読者だ。
現役時代は強引な捜査手法で問題視されてきたリーバスが、お手伝いの身になってもついつい抑えられず掟破りを繰り返してしまうところが見せ所。
ボリュームのある作品だが、家族や同僚との人間関係、ウィット、皮肉に富んだ会話など十分に楽しめ、さほど長さを感じさせない。
少々強引な展開も、精力的なリーバスのやり方を思えば文句はない。
[寸評]
世に二つとない絵を描く画人、伊藤若冲の生涯を描く八編連作。
鮮やかすぎるほどの色遣い、リアルすぎるほどの描写が圧倒的な画人を、どのように作者が料理し物語るか興味津々で読んだ。
若冲が絵の先に見ていたもの、その点はしっかり描かれたが、妻との関係やあのような特異な絵がどうして生み出されたかまでは描ききれなかったようだ。
難しかろうが、各編に出てくる絵画も掲載されていれば、ぐっと感興がそそられたと思った。
[あらすじ]
ソフィーはジェルヴェ家の6歳の息子レオのベビーシッターをしている。
レオの父親は外務省の課長、母親はある監査法人に勤めており帰りは遅く不定期だ。
ソフィーは今朝もこれといった不安材料がないのに頬を涙で濡らし目を覚ました。
夫ヴァンアンの死からか、もっと前からか、頭がおかしくなってからはいつも泣いてばかりだ。
物忘れもひどく、自分の行動を逐一記した手帳もなくしてしまう。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
桐畑恭太郎は容貌はさえないが魅力的な声の持ち主で、事務方としてラジオ局に入社後ディレクターの勧めでパーソナリティとなった。
月曜から土曜の夜22時から25時の放送で、開始から丸七年、けっこうな人気番組となっている。
放送後は”iF”という店に寄ってママや馴染みの客たちと話をするのが日課のようなものだ。
三月中旬の雨の夜、全身びしょ濡れの若い女の子が店に入ってきた。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
作家の榊俊之のもとに、大城里奈という女性から、伺いたいことがあるとの手紙が。
三度目の手紙で会うことにした榊に対し里奈は本名を確認した後、フィル・トムスを知っているか尋ねてきた。
榊は激しく混乱した。
20年前、経済事件で榊は横須賀市の刑務所に収監されていたが、そこには在日米軍の犯罪者も収監されており、フィルと知り合う。
そして出所時、榊はフィルからある依頼を受ける。
[採点] ☆☆★
[あらすじ]
ジョン・リーバスは警察を定年退職し、民間人としてロウジアン&ボーターズ警察の重大犯罪事件再調査班に所属している。
警察官としての権限は今は何もない。
ニーナ・ハズリットという女性が失踪人調査依頼のため再調査班を訪れリーバスと会う。
彼女の娘が1999年の大晦日に行方不明になった。
ハズリットによれば娘が消えた幹線沿いではその後2人の女性が行方不明になっているという。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
源左衛門は京の錦高倉市場の青物問屋”枡源”の主。
しかし商いは弟たちに任せ、屋敷の二階に閉じこもってずっと絵を描き続けている。
着るものは簡素、酒も好まず絵だけに打ち込む暮らし。
家人の中では異母妹のお志乃が顔料を作って手伝うだけ。
そんな源左衛門が一日のうち何度か庭の土蔵に目を向ける。
そこは八年前、源左衛門の妻だったお三輪が首を吊って死んだ場所だった。
[採点] ☆☆☆★
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