◎13年11月


黒警の表紙画像

[あらすじ]

 沢渡は警視庁の組織犯罪対策二課に属する捜査員。 警察官になったばかりの頃はそれなりの使命感を抱いてもいたが、任官三年目にはかけらも残らず、以後は惰性で続けているような日々。 妻とも離婚、慰謝料も滞るような生活。 捜査本部の今回のオペレーションは偽ブランド商品流通の徹底取締りだ。 沢渡の属する班は「らくがきペンちゃん」という人気キャラクターのコピー商品を担当することに。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 かつて組織に追われる中国人女性を見殺しにしたことがトラウマになっている警察官と暴力団組員。 そこに中国人の新興勢力を率いる男の3人が絡みあい展開するダークな警察小説。 余分な展開もなくほぼ一直線に物語は進み、溜飲を下げるようなラストまで一気読みの娯楽作品で十分に面白いが、いかんせん短くて、これだけの設定と物語ならもう100ページは最低欲しい。 もっと書き込めば、もっと読み手も話にのめり込めるのに、と残念に思った。


こうしてお前は彼女にフラれるの表紙画像

[あらすじ]

 おれ、ユニオールは典型的なドミニカ男、悪い奴じゃない。 マグダレアがおれの彼女だった頃、八〇年代風のものすごく大きな髪型をした女の子と浮気した。 その女の子がマグダに手紙を書いた。 その手紙には細かいところまで書いてあった。 その手紙はすべてを爆破してしまった。 マグダは泣き叫び、彼女の家族はいきなりおれに殺意を抱き始めた。 それでも何とかよりを戻しキューバへの旅に出た。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 浮気男ユニオールがたくさんの女たちと繰り広げるコメディー仕立ての愛と苦悩の物語で、10〜40ページほどの9短編。 感情を内に秘めるなんてとんでもない、すべてをさらけ出して裸でぶつかり合う、陽気な中米の人たちのバイタリティー溢れる姿に圧倒される。 男女のもつれ合いだけでなく、また家族の物語でもあり、とりわけ兄のラファのキャラクターが強烈だ。 知的な笑いで包んだ、おかしくもまことに切ない愛の放浪者の物語でした。


皆勤の徒の表紙画像

[あらすじ]

 未来の地球。 人々は脳に特殊なインターフェイスを埋め込み、AR環境で暮らしていた。 ナノマシンの発達により何でも作れる夢の時代も、マシンが暴走。 軌道エレベータにより地球脱出を図った人類だが、ナノマシンの大津波(大塵禍)により軌道エレベータは崩壊し、都市は混沌の海に沈む。 生き残った人類は生身の身体を捨て生物機械に人格を転写し、再生知性として生き延びる。 (解説より抜粋)

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ふう、やっと読み終えた、と思わず安堵してしまうほどの超ハードなSFだ。 恐ろしいほどの想像力、飛躍した発想、難解な文章に度肝を抜かれたというか、なんだかさっぱり分からなかったというのが正直なところ。 巻末のSF者”大森望”氏の解説を読んで、そういう話だったのか、と何とか理解できた次第。 ただとんでもなく凄い作品であることは、冒頭読み始めてすぐに感じられる。 世界レベルのSFだろうが、他言語に翻訳することはまず無理でしょう。


雨のなまえの表紙画像

[あらすじ]

 おれは美術大学時代に出会ったちさとと、彼女が30歳になる直前に正式に結婚した。 ちさとの実家は金持ちで、とびきり高級なマンションも用意してくれたが、おれは自分の選んだ椅子の座り心地に慣れない。 結婚二年目で勤めていた建築事務所がつぶれ、格安家具メーカーに何とか転職した。 ちさとは家の仕事を手伝うという名目で、おれの給料とさして変わらない額を実家からもらっている。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 表題作ほか、4,50ページの短編5編の作品集。 表題作はいきなり露骨な性描写で始まるが、作者はこういう作風でしたかねえ。 その点を除けば、いかにも窪美澄の作品らしい、人間関係に疲れたやるせない物語が並ぶ。 いずれの作品も、重苦しく行き場のない閉塞感が感じられ、そんな救いのない状態のまま物語は終わっていく。 暗いトンネルを行くような日々が続いても、はるか遠く微かに光が見えるような、そんな結末にしてほしかったですね。


キング・オブ・クールの表紙画像

[あらすじ]

 南カリフォルニア。 ベンとチョンは大麻供給グループを作り上げていた。 平和主義者のベンと軍人のチョンは親友同士。 チョンは今夜、軍務のためアフガニスタンへ戻る。 ベンはいつもの朝と同様、いつもの店で食事をとっていると、向かいの席に男が座った。 男はここで商売するならライセンス料を支払えと詰め寄るがベンは断る。 するとグループの販売人の一人が商売敵から手ひどく痛めつけられる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 作者お得意のカリフォルニアを舞台とした麻薬絡みの娯楽クライムノヴェル。
”ボビーZ””フランク・マシアーノ”といった、以前の作品の主人公たちをちょこっと顔を出させたり、サービス精神は旺盛だ。 男と女の小粋な台詞と短い章立てで、物語はリズミカルに進んでいく。 物語は1967年から2005年まで40年近くの長きが描かれるが、時代を頻繁に行き来するし、登場人物も多いので人物関係が混乱し、話の筋を追うのにちょっと苦労しました。


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