◎09年9月


ドーンの表紙画像

[あらすじ]

 時は2033年11月6日、人類はついに火星に降り立った。 アメリカの有人火星探査船「ドーン DAWN」。 往復1年間、火星滞在1年半のミッションに参加した6人のうちひとりは、日本人医師の佐野明日人。 人類史上の英雄となった彼らだが、しかし、1兆ドルの宇宙旅行は順風満帆にはほど遠いものだった。 地球を発って3か月、クルーの一人、ノノが突然精神に変調をきたし、船内で拘束することに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 世界中に設置されたネット接続防犯カメラとか、進化したテレビ電話とか、20数年後ならあるかもと思わせる仕掛けも興味深いが、火星探査旅行の混乱、生々しい大統領選の面白さのほか、夫婦のドラマとしても読ませる。 SF部分には読みづらいところもあるかもしれないが、少々我慢しても読むに値する作品だと思う。 様々な要素が絡み合い収斂していく構成も凝っているし、救いを感じさせるラストには安心しました。


宵山万華鏡の表紙画像

[あらすじ]

 小学校3年生と4年生の姉妹が通う洲崎バレエ教室は京都の三条通に面した古風なビルにあった。 今日は宵山、練習が終わったときには5時を回っていた。 寄り道をしてはいけないと先生に言われながら、好奇心旺盛な姉は、妹の手を引き、たくさんの露店がひしめき、人でごった返す烏丸通の雑踏に踏み出した。 姉は作り物の大きなカマキリを見に行くと言う。 そのうち方角も分からなくなる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 6編の連作短編集。
「夜は短し歩けよ乙女 」に感心した作者でしたが、ファンタジー色一辺倒の本作は、気持ちの良い物語になっていないところが残念。 古道具屋勤めの男が友人を大がかりな仕掛けで騙す話も、騙すことに意味はない、というのはそれはそれでいいと思うが、あまりに意味のない仕掛けにはどうもついていけません。 その次の短編で、その仕掛けの裏側、仕掛ける側をまんま描くのも非常に興ざめ。


ハリウッド警察特務隊の表紙画像

[あらすじ]

 ハリウッド署のフロットサムとジェットサムの警官コンビは、ヤクでラリって銃剣を持って暴れ、監獄ロックを歌っていたというインディアンを逮捕した。 男は無表情で突っ立っていたが、突然キャンディ・バーを二人にねだる。 男を収監した二人に事件の顛末を聞いた夜勤の刑事チャーリーは、いかれているうちにも入らない、と切って捨てる。 ここではシュールで非現実な事態が毎夜繰り広げられるのだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 一昨年の
「ハリウッド警察25時」の続編で、前作が警察官の誇りを描く部分も併せ持っていたのに比べると、本作はドタバタコメディーの要素が強いが、美女に翻弄される警官たちの姿はジム・トンプスンばりに哀しい。 続編としても上々の出来で、今回は市民の生活環境に関する問題に対応する特務隊を主に描いているので、血腥い事件は少ない。 傑作なジョークの連発と、面白いエピソードを次々に登場させ飽きさせない。


ここに消えない会話があるの表紙画像

[あらすじ]

 ラジオテレビ欄配信社の新聞ラテ欄の部署の中に、広田の勤める「夕日テレビ班」の机の島がある。 テレビ番組表を作り新聞社に配信する。 陣容は6人で、25歳から27歳で固まっているが、正社員は3人で、広田ら3人はマイルドスタッフという会社から派遣という形になっている。 配信社の社員とほとんど同じ業務をこなし、同じ長さの時間の拘束があるが、給料はもちろん違うしボーナスもない。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 元会社員の作者だけあって、職場の中だけのつかず離れずの人間関係がリアルで、20代後半の人たちの考え方、感じ方、話し方など、うなづいたり、へぇ〜と感心したり、面白く読めた。 広田が言う「他人と気にし合いたい」にホッとし、「ほんの少しの心の交流が気持ちいい」に今の若者を感じる。 ちょっと格言めいた文章が目に付くが、なにしろ短い。 変化をつけると作り物めいてしまうからなのか、でももっと読みたい。


学問の表紙画像

[あらすじ]

 香坂仁美、7歳。 父の転勤に伴い、東京から静岡県美流間市の社宅に昨日引っ越してきた。 さっそく家の裏山へ探検に行く。 迷子になるかもしれないという不安の中、細道を進むと、服に土をたくさん付けたひとりの男の子が突然木の陰から現れる。 そのテンちゃんこと後藤心太に、隠れ家に案内される。 そこはまだ斜面に穴を掘り始めたところで、仁美も小さなシャベルを渡され、土を削ることに。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 男子2人、女子2人の仲好し4人組の、7歳から、小学校高学年、中学、高校と続いていく彼らの関係を、仁美を中心に描く青春小説。 思春期を描いていることから当然、性の目覚めも重要なテーマとなっている。 全体としては、まぁ、つまらなくはないけれど盛り上がりも少ない。 天性のリーダーシップを持っているとされる心太も中途半端な描き方に終わる。 面白いのは、各章の頭にある4人の将来の死亡記事でした。


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