[寸評]
「秋の牢獄」で摩訶不思議な世界を見せてくれた作者の最新短編集で、50ページほどが5編。
いずれも美奥という町の周辺を舞台に、登場人物も控え目に交差させている。
中では、苦しみを解くための”天化”というカードゲームが一番興味を引いたが、苦しみを解くこととの関係や結末には不満。
作者独特の奇想世界が縦横に展開するが、やや新鮮味は薄れ、これはとのめり込めるほどの面白みは感じなかった。
[寸評]
チェス界の伝説のグランドマスターで盤上の詩人と呼ばれたアリョーヒンにちなみ、リトル・アリョーヒンと呼ばれることとなる少年を描く物語。
淡々とした筆致が感動を誘う、純粋で美しい物語であることは認めたい。
チェスの師匠や、チェスクラブでのアシスタントの女性、クラブのパトロンの老婆令嬢との交流など派手な展開は無くとも心に沁みる。
しかしラストは残酷だ。
この終わり方にする必然性が私には理解できない。
[寸評]
「警察庁から来た男」に続く北海道警察シリーズ3作目。
この本単独でもそれなりに退屈せずに読めるが、前の2作から読むことを勧めたい。
クライマックスに設定されたイベントに向け、盛り上がりはあるが、結局少々拍子抜け。
登場人物にしても、事件・趣向にしても、いろいろ絡みすぎ、手を広げすぎで、なんとなく整理されないまま終わってしまった感じ。
エピローグもまるで余分で、佐々木譲作品にしては不満な出来です。
[寸評]
衝撃的な巻頭から、10時間ほどの出来事が一気呵成に進んでいく。
思わず笑ってしまうほどの強烈なアクション場面も織り込み、ジャックと女を追うことになるサブキャラの男などは、ターミネーターだったのかと勘違いするほどの不死身さ。
設定もちょっと飛びすぎているし、後味が良いような悪いような結末で、4つ星はやや甘めだが、ドタバタ喜劇的側面もあり、相当楽しませてくれる物語であることは間違いない。
[寸評]
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。
切ない家族のドラマで、かなりの長尺だがさくさくと読み進められる。
疑惑の目を向けられたまま故郷を去った主人公が、舞い戻ってくると、またまた犯罪現場に居合わせたり、不利な立場に追い込まれたりの連続は、特に序盤、ちょっと作りすぎの感じで、またかと少々うんざり。
それでもテンポの良い場面転換で、登場人物もよく整理され、読んで面白いドラマチックな物語になっている。
[あらすじ]
中学3年の初夏の夜。
同級生の椎名春の家から電話が。
春が昨日から家に帰ってこないと言う。
思い出したのは、小学5年の頃、二人で行った”けものはら”というらしい四方を崖に囲まれた場所。
そこで、ここ美奥の地に古くから住む”のらぬら”らしいお化けに追いかけられたのだ。
4年ぶりに赴くと、ひどく疲れた様子の春がいた。
そして彼の母親の死体が横たわっていた。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
朝早く家を出た少年は、プールの脇を通って教室に向かっていた時、プールの片隅に人が浮かんでいるのを見つけた。
死んでいたのはバス会社の独身寮に住む若い運転手で、夜中に泳いでいて心臓発作を起こしたらしい。
少年はある日、学校帰りにその独身寮に寄り道すると、廃車になった回送バスがあり、巨体の男が住んでいた。
少年はその男にチェスを教えてもらう。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
2日後に洞爺湖サミットのための特別警備結団式が札幌で開かれるという日、北見駅前交番の日比野巡査が事務所荒らしの確認に出掛けたまま連絡不通に。
上司がその事務所に電話するが、巡査はとうに帰ったという。
日比野の父親は道警本部の課長だったが、2年前に不祥事件絡みで自殺していた。
全国から警察官が集まる中、サミットに向け、あってはならない不祥事か。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
フィラデルフィア国際空港内のバー。
ジャックは、隣り合った女に、あなたのドリンクに毒を盛った、10時間後に死ぬ、と突然告げられる。
妻が雇った離婚専門弁護士と明朝会うことになっているジャックは、新手の詐欺の類ではないかと思い、女を振り払ってホテルの自室に入るが、強烈な嘔吐に見舞われる。
苦しみながらようやく空港へ引き返すと、女のほうから見つけてきた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
アダムは5年ぶりにノース・カロライナ州に帰ってきた。
5年前、殺人事件があり、継母のジャニスがアダムの犯行だと主張し逮捕されるが、動機がなく無罪となった。
しかし町の人々の彼を見る目は変わり、妻との板挟みとなった父からは勘当され、ニューヨークに移っていた。
昔の友人ダニー・フェイスから電話で助力を乞われ、一旦断るが、故郷への思いは断ち切れなかった。
[採点] ☆☆☆☆
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