[寸評]
失礼ながらディック・フランシスがまだ現役というのにまず驚いた。
86歳なのだそうだが、この作品の見事な完成度はどうだろう。
たしかにミステリとして極めてオーソドックスなつくりで、作者が意図するほどにはその展開にしろ犯人にしろ、意外性もあまり感じないが、十分に面白い作品と言え、安心してサスペンスの世界に浸ることができる。
インターネットなどIT関係の記述も積極的に取り入れ、かつ不自然なところがないのも立派。
[寸評]
「うたう警官」に続く道警シリーズ第2作。
前作未読の場合、津久井の置かれた状況と彼を取り巻く空気が分かりにくいが、この本単独でも四つ星クラスに近い面白さ。
監察と平行して描かれる札幌大通署の2人の捜査員の薄野での転落死捜査も、徐々に核心に近づくあたりサスペンス度高し。
不正の内容・規模などから、それが殺人に至るようなものかが疑問だし、幕切れがそれまでの物語の雰囲気とマッチしない点は気になった。
[寸評]
妻も娘もあり、有能な刑事として仕事をしていた男が一挙に辿っていく転落の構図。
その異様なのめりこみ方、終盤のラファティの姿はもはや悲劇としか言いようが無い。
この作品は、例えば「死ぬほどいい女」のように、まさにジム・トンプスンの世界に近く、そこからブラックなユーモアを取り去ったようだ。
時期的にもほぼ同じ頃か、ややこの作品のほうが前になるか。
戦後まもなくのアメリカの世相がモノトーンの雰囲気で語られていく。
[寸評]
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。
受賞した時はかなりの番狂わせと言われたらしいが、たしかに並みいる強豪を抑えての受賞作としてはちょっと弱いような。
長尺を退屈させることなく最後まで読ませてくれるし、証人保護プログラムというのも馴染みの無い者には興味深い。
しかし物語にあまり広がりがなく、全体に描ききれていない印象で、とりわけ幕切れが私としてはすっきりしない。
大統領選挙とのシンクロもなにか中途半端だ。
[寸評]
いずれも、ちょっと気弱で気力に欠けるような人が、髪型を激変し(させられ)、一挙に気分転換、気力がパワーアップして、思いがけない行動に・・・という短編6編からなる。
最初の学園庶務係のお話はかなり痛快で、これは面白いぞ、と後続の話を期待させたが、残念ながら最初のインパクトはかなり薄れ、どの話も痛快度が少々低い。
皆の性格を一変させる女理容師が一番興味深いのに、そのエピソードがないのも寂しいぞ。
[あらすじ]
元騎手で調査員のシッド・ハレーはチェルトナム競馬場に障害レースを観にきて、馬主のエンストーン卿から、自分の持ち馬が勝つはずのレースに勝てない理由について調査を依頼される。
彼は騎手と調教師が馬を抑えていると考えていた。
確かに調教師のビルには、正直なレースをしていないとの噂があった。
そして騎手のヒューが射殺死体で発見される。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
北海道警察本部に突然警察庁から特別監察が入る。
来庁したのは、警察庁監察官室のキャリア官僚、藤川警視正と事務方の種田主査。
藤川は、昨年の百条委員会で道警の不正について証言し、今は警察学校の総務係にとばされている津久井巡査部長を呼び出す。
2人は、津久井を助言・案内係として、生活安全部関連について徹底的な調査を始める。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
第2次大戦に徴兵されて長い間ニューヨークを離れていたぼくは、久しぶりに帰国し、戦前に犯罪記事を執筆していた頃に親友となったラファティという刑事と連絡を取ろうとした。
しかし警察署に電話してもまともに応対してもらえない。
彼の同僚だった刑事から手がかりをもらい、いろいろと調査し、彼の妻とも会い、彼の身に起こったこと、彼がしでかしたことを知る。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
ヴィンス・キャムデンはワシントン州の中都市スポーケンにあるドーナツ屋の雇われ店長。
真面目な稼業をしつつも偽造クレジットカードと麻薬売買にも手を染めている。
実は彼は4年前、マフィアの犯罪を裏付ける証言をする代わりに自らの罪を逃れ、まったく新しい身分を与えられる証人プログラムと呼ばれるシステムを受けた。
以来、彼は常に怯えていた。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
須川沙紀は学校法人敏南学園総務課庶務係の主任。
いつも係長らに理不尽なことで文句を言われるが、気が弱く、後輩にも強いことは言えない。
ここのワンマン理事長は理事会に諮らず学園の資産を食い物にしている。
沙紀はいつも架空の理事会議事録を作らされ、自己嫌悪に陥っていた。
思い切って髪形を変えようと、女性のやっている理容店に行く。
[採点] ☆☆☆
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