◎08年5月


狐火の家の表紙画像

[あらすじ]

 長野県の荒神村の村外れある西野家。 主人の真之は玄関の呼び鈴を鳴らすが応答がない。 一昨日から松本の親戚宅に一家で泊まりに行っていたが、長女の愛美だけは部活のため一足先に村に戻り、昼には家に帰ると言っていたが。 奥座敷の襖を開けた真之は娘の死体を発見する。 レスキュー法律事務所の青砥純子が警察に拘留された真之の弁護を引き受けることに。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 密室ものの推理4短編。
「硝子のハンマー」のコンビ、弁護士の青砥純子と防犯コンサルタント(実は現役の泥棒?)の榎本が再び密室の謎に挑む。 蜘蛛収集家やプロ棋士、アングラ劇団など趣向を凝らした作品が続くが、本格ものに弱い私はあまり楽しめなかった。 作者にしてみれば、各話のラスト、読者がはたとひざを打つ様を思い浮かべているのだろうが、それまでの盛り上がり度が低いので、どれも衝撃にならず仕舞い。


ロジャー・マーガトロイドのしわざの表紙画像

[あらすじ]

 1935年、イギリス南西部のダートムアにあるロジャー・フォークス大佐の屋敷。 クリスマス翌日の朝、銃声と悲鳴を聞き、大佐は屋根裏部屋に向かった。 部屋は内側から鍵がかかっており、ドアを破ると中ではゴシップ記者のジェントリーが射殺されていた。 屋敷には女優、作家、牧師、医者など多くの招待客が泊っていた。 猛吹雪の中、近くに住む引退した警官を呼ぶことに。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 作者がアガサ・クリスティーなどの古典的推理小説へのオマージュとして創りあげた作品。 半世紀前の作品と言われても納得してしまうほどの雰囲気を持っている。 雪に閉ざされた邸での密室殺人事件。 それぞれが殺人の動機を持つ多彩な登場人物たち。 事件が重なり、ラストにはお決まりの関係者が一堂に会しての謎解き。 比較的短い作品でテンポ良く進むが、私にとってはラストの謎解きがやや長く、衝撃度もいま一つの印象。


妙なる技の乙女たちの表紙画像

[あらすじ]

 2050年、シンガポールのリンガ島。 ここには可紡性カーボンナノチューブを使い、地球の赤道から静止衛星までを結んだ商用軌道エレベーターが設置されている。 30階層に800人の乗客を乗せ10時間で静止衛星まで到達する。 この島で、25歳、デザイン会社の京野歩は弁当箱のような雑物のデザインに追われていた。 ある日、宇宙服のデザインコンペがあることを知る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 エレベーターで宇宙へ行く時代。 赤道の街で、さまざまな職業に奮闘する女性を描く7短編。 まずは初作「天上のデザイナー」が良く、その後を期待させるが、設定は新奇だが面白さが続かない。 海上タクシー艇長の転覆寸前の連続アクションも臨場感が不足で、緊迫感が伝わらない。 着眼はいいが、開発と保全といったメッセージ性のあるものや、自らの技術をバックとした主張など、いずれも説得力に欠け、考え方など浅い印象。


聖者は口を閉ざすの表紙画像

[あらすじ]

 43歳の白人、レイ・ミッチェルは生まれ育ったニュージャージー州の低所得者の多い町に戻ってきた。 自分が卒業したハイスクールに、無償で創作講座を開くことを志願したのだ。 彼は有名なテレビドラマの脚本を書き、エミー賞にもノミネートされたほどだったが、大都会を離れ帰郷した。 生徒との交流もできてきた頃、彼は何者かに頭をひどく殴られ命を落とすところだった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 書名どおり、主人公は善きサマリア人の典型。 自分が必要とされるなら、自らすべてを差し出してしまうような人間。 相手が自分を利用しているだけと分かっても、助けになることを止められない。 キリスト教社会、またアメリカの不可解な面を見た思い。 ごく薄くミステリー色はあり、意外な展開に驚く場面もいくつかあるが、娯楽色はほとんどない。 味わい深い物語であることは認めるが、この長さを読み通すには多少の忍耐力も必要。


火ノ児の剣の表紙画像

[あらすじ]

 貞亨元年(1684年)8月、殿中で大老の堀田筑前守正俊は若年寄の稲葉石見守正休に刺され手傷を負い、急ぎ屋敷へ戻るところ、自邸の手前で刺客に殺される。 その翌月、品川宿の外れ、堀田家家臣の新井伝蔵は、主君を切った御駕籠之者(将軍家の乗物をかつぐ者)の頭である轅(ながえ)半左衛門と対峙していた。 死闘の末、半左衛門の左腕を落とすが逃げられる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 傑作
「裏切り涼山」の前作であり、作者の処女作。 明暦大火の直後に生まれたため”火ノ児”と呼ばれ、半左衛門との死闘で額に受けた傷が”火”の字に見えたという、後に徳川家宣の治世に政治改革の中心となった新井白石の剣客ぶりを活写した物語。 冒頭の半左衛門との対決は尋常でない迫力があり、その後も剣劇場面は活き活きとしているが、入り組んだ陰謀や人間関係が整理されていない。 時代小説らしい人情味もやや不足。


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