◎06年3月


センチメンタル・サバイバルの表紙画像

[あらすじ]

 24才の"るか"はディマンシュという画材屋でバイトしている。 コンピュータ会社に勤めていた父は50才を期に故郷の出雲にある祖父のそば屋を継ぐことにした。 母も父に従って出雲へ行き、るかは48才独身で社員研修のプロをしている龍子叔母と同居することになった。 喋りが商売で仕切屋の叔母に圧倒されながらも、気楽なバイト生活をるかは楽しんでいた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 フリーターでもうひとつ目標の定まらない"るか"を中心に、居心地の良いバイト先の店長や仲間との会話、そして自信たっぷりの叔母との会話、など会話が中心の日常話。 るかのぎこちない恋愛や母の反乱などの展開もあるが、全体にはあまり変化はない。 とりわけ叔母の自分勝手で強引なしゃべりはなかなかだが、それもあまり続くと食傷気味になってしまう。 全体の雰囲気はいいのだが、もう少し物語を作って欲しかった感じ。


沖で待つの表紙画像

[あらすじ]

 私と牧原太、通称"太っちゃん"は住宅設備機器メーカーの同期入社。 東京の大学を出た2人の最初の配属地は福岡営業所。 新入社員に見知らぬ土地で、2人は営業カバンを買いに外へ出て何か途方にくれた感じだった。 太っちゃんはやがて営業所のベテラン事務職の井口さんと結婚。 その後もお互い愚痴をこぼしあったり、仕事を助け合っていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 芥川賞受賞作。 この作者には
「海の仙人」という秀作があったが、これも軽い作品だがジーンときます。 男と女とかでなく、同期っていう一体感というか連帯感は確かにありますね。 職場で同じように何も分からないところから始めて、同じような失敗と成功を味わいながら成長していく。 太っちゃんと語り手の信頼に結ばれた関係が的確なセリフ回しで綴られていきます。 もうひとつの短編「勤労感謝の日」はスカッとした主人公がいい。


ストロベリーナイトの表紙画像

[あらすじ]

 姫川玲子。 ノンキャリアとしては異例の27歳で警部補に昇進。 今は警視庁捜査一課殺人犯捜査係主任。 当然、自分より年下もいるが、4人の部下とは信頼関係もある。 8月、葛飾区の外れにある溜め池の脇でビニールシートにくるまれた男の死体が発見される。 体中に無数の切創。 喉と腹は大きく切られている。 玲子は所轄署の井岡と聞き込みに回ることに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 先月読んだ快作
「ジウ −警視庁捜査犯特殊係」と同様、女性警官を主人公とした警察小説。 この作品もメインの犯罪捜査のほか、主人公の日常がホームドラマ並にさりげなく描かれており、登場人物に人間味を持たせて読者を感情移入させるところが巧い。 捜査の過程も地道なところから一転、急展開、また停滞とテンポ良く、全編一定の緊張感を保ち、飽きさせられるところはない。 終盤もたいへんスリリングで迫力があった。


虹色にランドスケープの表紙画像

[あらすじ]

 田端浩史は40台半ばにして勤めていた仙台のデパートを、閉店により解雇された。 妻と小学生の2人の子供。 6年前に求めた家のローンはまだ30年近くあるが、特殊技能もないデパートマンに再就職の道は険しい。 そんな折、生命保険の担当者から保険金目当ての自殺が多いという話を聞く。 妻には気晴らしと言って、彼は北海道へバイクで向かう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 バイクをモチーフにした連作短編7編。 バイク好きの私としてはそれだけで楽しめたが、作者の年齢ゆえか旧車がほとんどでちょっと不満。 登場人物をクロスさせての連作構成が巧みで、第1編の夫の話が第7編の妻の再生話で締めくくられる。 全体に人情話としての出来は今ひとつで、親を誤解したままの息子とか、過去を引きずる者とか、目新しいものはない。 またバイク乗りってだけでいいやつなんだ、みたいな描き方もどうかな。


ガールの表紙画像

[あらすじ]

 滝川由紀子は大手広告代理店に入社して10年。 32歳で結婚の予定もないが、社内には独身がやたらと多くて気にもならない。 仕事の打ち上げ後、同期の千恵と半年振りに訪れたディスコ。 ハンサムな若い男2人組が近づいてきたと思ったら、話しかけられたのは後輩の女子社員たちだった。 千恵は、若い女としての楽しい時期ももう潮時かなとつぶやく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 30代のキャリアウーマンを主人公にした短編5編。 課長に抜擢された女性、マンション購入を検討する独身OL等々。 特異な設定などひとつもなく、いずれも等身大の女性たちの生の感情が紙面を踊っている。 どの物語も似たような展開だし、ラストはちょっぴり元気になるところも同じパターン。 それでも全然飽きがこないのは、全編ユーモアに包まれた筆致と、共感をさそわれる嫌味のない主人公の人物設定が巧みだからだ。


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