◎98年4月



[あらすじ]

 ブランド衣料等のリサイクルショップを経営している妃美子は、2年越しの協議の末ようやく夫が離婚に同意し、家裁で最後の調停の日を迎えた。 しかし夫は姿を見せずそのまま行方不明となる。 新しい恋人との結婚のため妃美子は夫探しを始める。 その結果、ギャンル嫌いだった夫が片道3時間はかかる他県のパチンコ店に入り浸っていたことが分かり、その地域の店を訪ね歩く。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 乱歩賞を受賞した
「左手に告げるなかれ」に続く作品。 パチンコ店を主な舞台としており、業界の内幕が興味深く、店に集う人々も個性豊かに描き分けられている。 前作よりもさらに面白い部分は多くなったが、内幕話が説明調で長いところもあり、終盤に近づいてもサスペンスが盛り上がっていかない。 中途半端なドラマづくりという印象で、謎がようやく解明されてもあまり感心しない。 個人的に主人公が好きになれないのも原因かな。



[あらすじ]

 ニューヨークの泥棒ドードマンダーは休業中の宝石店に侵入し首尾よく宝石類や時計を盗み出す。 ところが戦利品の中にアメリカがトルコに返却する「ビザンチンの炎」という高価なルビーの指輪があった。 警察、FBI、各国のテロリスト果ては警察の大捜査によって仕事があがったりの泥棒仲間まで犯人探しを始める。 その頃ドートマンダーはようやくその指輪の何たるかを知り大慌てに。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 3、4年前に読んだ
「踊る黄金像」が面白かった作者の同種の泥棒コメディー。 しかし話としてはそれよりも小粒で、爆笑作とのふれこみもせいぜいクスクス程度でしょうか。 とぼけているのか、本当の単なる間抜けなのかギャグになっていないところもあるし、各国のテロリストまで登場させながら中途半端で話に広がりがない。 殺人などの血腥い場面もなく気楽に楽しめるが、本国発行が15年前の作品ということもあってやや古い印象。



[あらすじ]

 シェパードの元警察犬マサは蓮見家に飼われている。 蓮見家は父親が探偵事務所を開いており、長女の加代子は調査員として働いている。 ある日、次女の糸子が高校の作品展の準備で遅くなり蓮見家と親しい諸岡青年が学校へ迎えに行くが、2人はその夜戻ってこず朝帰りをする。 2人の話では、前夜路上駐車していた車のトランクに入り込む女の子を見て近寄ったところ誰かに殴られたと言うが。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 表題作の他、短編3編、超短編1編、中編1編からなる。 短編はどれも6〜8年前のもので気楽に楽しめる程度だが、今回書き下ろしの中編はさすがに熟練度を増した作者の力量が感じられる。 楽しく読ませながらうまく読者を惑わし、泣かせどころも心得たもので、4つ星以上の出来。 ともかく犬好きの私にとってはとても楽しめました。 我が家の犬もマサのように人間を観察しているのかと、マジマジと顔を見合わせてしまいました。



[あらすじ]

 川崎中央署の萱野は以前、オリンピック代表候補として県警射撃チームの特別訓練員だった頃、チームの第一人者が射場に女友達を招いたことを新聞社に密告したことがある。 結局代表の夢も叶わず、今はその密告で指した男矢木沢が課長をしている生活安全課でデスクワークをしていた。 ある日署長に呼ばれて部屋に戻ってきた矢木沢は、また密告などと浅ましい真似を、と萱野をなじる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者が久しぶりに以前の小役人シリーズのスタイルに戻ったような作品。 過去に密告歴を持つという心に深い傷のある人物造形が良く、主人公と彼が以前密告した男、彼が焦がれる人妻、彼に想いを寄せる娘など、人物配置も絶妙。 特に衝撃的な冒頭から前半の展開がとても面白い。 中盤、必死の調査にもかかわらず糸口すら掴めないあたりがやや長く、事件の真相も真面目な作者が殻を破ることができなかった感じで少々平凡。 でも十分楽しめる作品だ。



[あらすじ]

 海津明彦は35年前捨て子だったところを華僑の張龍全に育てられ、今では会社を一つ委されている。 ある日龍全の息子の宣波が囲っているロシア女が何者かに刺殺される。 その1か月前、中国広東省梅県の実力者羅光雲の息子の囲っていたロシア女も刺殺されていた。 龍全と光雲は中国の裏社会で三合会と勢力を2分する哥老会の大物だった。 龍全に調査を命じられた明彦は梅県に飛ぶ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 地縁、血縁、民族問題などが絡み、大きな波に翻弄される者たちの、身もだえのたうつ様を描く作者らしい大作。 中国の裏社会を牛耳る組織や民族対立、共産党国家安全部など中国の暗い部分が鋭く描かれ興味深い。 登場人物たちが結局自分の意志とは無縁に振り回されていく様子がドラマチックで800ページを感じさせない。 ただ、以前に較べドロドロしたもの、行間からしみ出すエネルギーが希薄になったような気がして残念。


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▲ 「踊る黄金像」
 盗まれたアステカの黄金像をめぐって悪党どもがハチャメチャな争奪戦を繰り広げるクライムコメディー。 走り出したら止まらないという感じの物語で、なんとこの黄金像には15体もの模造品があり大混乱が巻き起こるのだが、読み手の方もかなり混乱させられる。 しかし、その混乱を楽しめる本になっている。