「三たびの海峡」
作者 帚木 蓬生 出版社 新潮社 92年
朝鮮人の河時根は昭和18年17才で日本に強制連行され、炭坑夫として過酷な日々を送った。
何とか生き延びた彼は故国に戻り成功を収めるが、1通の手紙により40数年ぶりに三たび海峡を渡る。
現役精神科医の作者はもともと「白い夏の墓標」を代表とする医学サスペンスが多かったが、近年は作品の幅が広がりその代表が本作で実に感動的。
真面目でヒューマンな作風は好感が持てる。他に「臓器農場」「閉鎖病棟」「賞の柩」などが良い。
「私が殺した少女」
作者 原 潤@ 出版社 光文社 90年
渡辺探偵事務所の沢崎は、作家真壁修の娘の誘拐事件に巻き込まれる。
犯人におとりとして使われた沢崎は身代金引き渡しの使者に指名されるが、途中で何者かに金を奪われてしまう。
非常に寡作の作家だが、どれも私立探偵沢崎を主人公に独特の乾いた雰囲気を漂わせる正統派ハードボイルドミステリーである。
「そして夜は甦る」「天使たちの探偵」「さらば長き眠り」と常に次作が待たれる作家でもあります。
「死国」
作者 坂東 眞砂子 出版社 新潮社 93年
イラストレイターをしている明神比奈子は東京の生活に疲れ、故郷の高知県矢狗村を訪ねる。
そこでは昔あこがれていた文也が離婚して村に戻ってきていた。
2人は恋仲になるが、比奈子の友達で中学生で死んだ莎代里が亡霊となってまとわりつく。
作者はイタリアでインテリアデザインを学び帰国後児童文学を書いていたそうだが、本作から「狗神」「蛇鏡」と続く伝奇ホラー小説は
うわべだけでなく心底怖い。続く「桃色浄土」で物語世界はさらに広がり「山妣」まで手抜きなし。
「色判官絶句」
作者 藤 水名子 出版社 講談社 93年
明代中期の中国江南は寧波港の人足を束ねる家の男勝りの娘悠環。
これに海運業者の頭の呉鷹訓、中央から派遣された役人柳禎之が絡んだ騒動と恋のお話。
主に唐代から明代の中国を舞台に、カッコ良すぎる男と女があくまでもカッコ良く恋をし、
敵を倒していく活劇ロマンが作者の独壇場で、荒唐無稽な設定や登場人物も嫌みでなく、素直に楽しめてしまう。
最近は日本を舞台にしたものも出てきた。ただ、当たり外れのある作家でもある。
「赤壁の宴」「あなたの胸で眠りたい」「涼州賦」などが面白い。
「鋼鉄の騎士」
作者 藤田 宜永 出版社 新潮社 94年
第2次大戦直前のヨーロッパを舞台に、スパイ戦に巻き込まれながら名車ブガッティを駆ってグランプリレースに挑戦する華族出身の日本人青年を主人公にした大河冒険小説
比較的短めの本が多い著者の電話帳並の大作だが、長さは全然気になりません。
元エールフランス勤務という経歴からフランスを舞台としたフィルムノワールばりの作品が多いが、その他私立探偵ものや冒険小説でも冴えを見せる。
「還らざるサハラ」「ダブル・スチール」「明日なんて知らない」など佳作揃い。
「山猫の夏」
作者 船戸 与一 出版社 講談社 84年
ブラジル東北部の町エクルウを舞台に、ふらりと現れた山猫と名乗る日本人が町の抗争をさらに激化させていくさまを緊迫感たっぷりに描く。
船戸与一については超お薦めの「砂のクロニクル」でベタ褒めしましたが、褒めたりないのでこのコーナーにも登場させました。
どの作品も真実の人間の姿が凄いエネルギーとなって読む者を圧倒します。この作品は主人公の魅力が抜群。
他に「夜のオデッセイア」「伝説なき地」「猛き箱船」「炎 流れる彼方」「蝦夷地別件」と重量感あふれ、かつ読んで面白い作品が目白押し。
「火車」
作者 宮部 みゆき 出版社 新潮社 92年
クレジット会社からカードの発行を断られた女性が蒸発。
彼女の婚約者の依頼を受け休職中の刑事が調査していくと意外な事実が次々と現れてくる。
ミステリー界の職人宮部みゆきの今のところの代表作がこの作品でしょう。一気読み間違いなし。
しかし面白さではこれに匹敵する作品が目白押しなのが凄い。
「パーフェクト・ブルー」「魔術はささやく」「レベル7」「龍は眠る」その他多くの短編集もお薦め揃いなのはさすが。