◎00年1月



[あらすじ]

 警視庁刑事だった梅沢は強姦殺人犯を取り押さえた後に射殺して殺人罪に問われ、5年半の刑期を終え出所した。 その彼のもとに高校時代の同級生だった尾崎が訪ねて来る。 彼は長崎県は五島列島の龍ノ島にある龍神町の町長をしており、抱えている問題を解決するための助力を頼んでくる。 島に入った梅沢は住民たちの異様な雰囲気、人間関係に圧倒される。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 憎悪渦巻く田舎町に腕っ節の強い男が乗り込みさらに町の混迷は深まりというあたり、傑作
「山猫の夏」を連想させ大いに期待したが、どちらかというと横溝正史ものという感じ。 殺人事件が次から次へと起こり、梅沢はただ右往左往するばかり。 せめて金田一耕助ばりに推理だけでも組み立てればと思うのだが、ただ振り回されるばかりで彼のキャラが生きていない。 人間同士のドロドロした雰囲気もやや希薄で、悪役たちも迫力不足。 辰年第一弾の龍神は期待外れでした。



[あらすじ]

 遺跡の地下室から発見された白骨化した人間の手がバース警察に持ち込まれ、ダイヤモンド警視が調べることに。 やがてその地下室のある家が180年ほど昔、メアリ・シェリーがかの有名な怪奇小説「フランケンシュタイン」を執筆した所であることが判明。 それはマスコミの知れるところとなり、フランケンシュタインと地下墓地の話題がイギリス中の注目となる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「暗い迷宮」に続くダイヤモンド警視シリーズの1年振りの第6作。 遺跡、白骨、骨董、贋作そしてフランケンシュタインとサービス精神満点で最後まで楽しめる英国ミステリーだが、やや盛り上がりに欠ける。 仕掛けは満載だが、このシリーズには肝心な警視の魅力の輝きが少々薄い感じで、ジョークも少な目、補佐役の女警部ジュリーが転勤してしまい、2人のやりとりが読めないのも淋しい(警官志望の女ジャーナリストがその役柄の後釜らしいですがね)。



[あらすじ]

 前座落語家の流々亭天馬、自主映画監督の時村和也、俳優志望の三川広介そしてライター志望の高杉可奈は広介のアパートをたまり場にしている仲間。 いつものように飲んだくれてたまり場へ向かう途中、粗大ゴミの山から拾った拳銃は本物だった。 とりあえず皆で撃ってから捨てることに話は決まる。 川原で映画ロケということにして広介から撃ち始めるが。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 小説すばる新人賞受賞作。 拾った銃が巻き起こす騒動を軸に、各々の目標に向かって奮闘する青年たちの姿が爽やかな作品。 ただ全体に切り込み不足というか、薄味な印象。 落語や若手大喜利の場面はもっと笑いが欲しいし、登場人物がもっと挫折感を味わう場面があってもいい。 その銃によってよそで起こった事件の謎も解明されずじまいの気がするし、終盤のドタバタも大騒動とまではいきませんでした。



[あらすじ]

 軽部は銀行を辞め暴力団の企業舎弟として会社を任されていた。 彼は宋という中国人老人から、昭和20年の終戦間近に米軍潜水艦により台湾海峡に沈められた弥勒丸という日本の大型客船引き揚げのため、百億円の貸与話を持ちかけられる。 弥勒丸は連合国の依頼により、アジアの日本軍占領地域にいる捕虜のため連合国の用意した食料等を運ぶ任務に就いていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 連合国側から安全航行を保証されたはずの弥勒丸が潜水艦攻撃により2300人の乗船者と共に海の藻屑と消えた顛末を、引き揚げ話と交互に描く戦史ロマン。 思い入れたっぷりの感動的な物語だが、軽部と彼に協力する元恋人律子が弥勒丸に過度にのめり込んでいくあたりや、2人のロマンスが再燃し芝居めいた言葉が交わされるあたり、やや押しつけがましい"感動"に思わず引いてしまう。 情緒過多の感じで、よりドキュメンタリータッチのほうが良かったのでは。


 《未読だった過去の傑作》

[作品紹介]

 男は、妊娠し結婚を迫ってきた娘を自殺を装いビルから墜落死させる。しかし娘の姉は妹の死に疑問を持っていた。 戦後ミステリーBEST10に必ず入ると言われるこの作品は、作者が1952年に23才の誕生日に完成させたという処女作。 たいへん寡作の作家で、このあとも著作は5、6作程度。 有名なのは「ローズマリーの赤ちゃん」、「ブラジルから来た少年」の2作。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 物語は"ドロシイ"、"エレン"、"マリオン"の3姉妹の名前による3部構成。 この構成が実に巧みで、3部それぞれが異なった趣向でサスペンスを盛り上げる。 財産目当ての上昇志向の強い青年が金持ちの3姉妹を狙うというありふれた話だが、無駄なところは1ページもないのではと思わせる完璧に近いミステリー。 さすがに多少の古さは感じるものの、とても50年近くも前の作品とは思えない面白さでした。 なお採点はあくまで現時点での感想です。


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