屋敷内の煙は既に晴れている。
邸内を回る土方の元にも次々と報告が入り、状況がほぼ判明した。
屋敷の床下からは大量の発煙筒と爆発の跡が発見された。その周囲に特に被害は無く、爆発音を出すためのものだと推測された。今は屋敷内に賊が潜んではいないかと、捜索をさせている。
「チッ、まるで幽霊がいやがるようだな」
姿を見せない敵に土方も苛立ちを隠せない。
そこへ隊士から慌てた様子で無線が入る。
『副長、大変です!』
「どうした」
『屋敷内、西側の警備に当たっていた隊士が気絶して発見されました!敵は爆破の混乱に乗じて侵入、屋根裏へと上がった模様です。……副長、これは』
「……どう考えても攘夷浪士とは思えねェな。忍びがいやがる」
『どうしますか』
「そいつ自体が陽動部隊の可能性がある。とりあえず、今は動くな。また指示する」
『わかりました』
運が悪い事に土方は広間から一番離れたところにいた。
(まあ、向こうには総悟をつけてあるから大丈夫だろうが、面倒なことになってきやがった)
土方は広間へと急いだ。
* * *
大広間では爆音にすっかり動揺した安元が金切り声で文句を喚き散らし、護衛の沖田はうんざりしていた。ふと沖田が安元から離れた。
「オ、オイッ!」
安元は慌てるが取り合わず、いきなり刀を抜くと天井を突いた。
「こそこそしてないで降りてきたらどうなんでさァ!」
ガタリと天井板が外れた。長い髪をなびかせ、ひらりと舞い降りる。
「始末屋さっちゃん見参」
中の異常に気付いた隊士たちが広間へと入ろうとするが、沖田がそれを止める。
「ふうん、アンタの話は聞いたことがある。始末屋ねェ……」
「知ってるなら話が早いわ。どいてくれるかしら?用があるのはその男だけ。私、無駄な殺生は嫌いなの」
「そりゃあ気が合いそうだ。けど悪ぃがこれも俺の仕事でねィ」
沖田は静かに構える。
さっちゃんもクナイを手にする。
「そう、残念だわ」
クナイが安元目掛けて飛ぶが、沖田が弾き返す。沖田といども安元を護りつつでは、分が悪い。
今度は沖田から仕掛ける。床を蹴り、ひらめく一閃。
さっちゃんは避けた刀を横から思い切り蹴り飛ばす。体勢を崩し間合いを取る沖田。
しかし、さっちゃんの左肩からは血が流れている。
「総悟!」
土方が広間へ駆け込んできたが二人は動かない。
張り詰めた時間だけが流れる。