「さらば、貴陽!」おまけA











そこは、広大な藍州の城の一室。
彩七家の歴史の中でも類をみない並立当主の執務室。
その中に同じ顔した男が三人、顔を突き合わせて座っていた。
一切の入室を禁じて、当主達は真剣な顔で話し合っていた。もしここに他者が居たら、三人のその様子からよほど重要な懸案を想像させるだろう。

「で、報告書には何と?」
三人の内一人が問えば、紙料を手にした一人が答える。
「『進展なし。常通り。』と」
もう一人が問う。
「何の進展も?」
「ああ」
「全くの以前通り?」
「ああ」
紙料を手にした一人が答えると、三人は全く同じ顔をして考え込んだ。
「…僅かとはいえ離れた時間があったんだよ?」
「二人の距離が近くなるのが普通ではないか?」
「親密度が増すどころか、仕事に忙殺されているらしい」
少しの間、室に沈黙が訪れる。

「…駄目だな」
おもむろに口を開いた一人が、残りの二人と顔を見合わせる。二人はそれぞれ頷いた。
「ああ、駄目だ」
「駄目駄目だ」
そこで、三人は口を揃えた。
「「「やはり、我らが何とかしてやらねば」」」
その口調は不承不承といったものだったが、三人の瞳はわくわくと輝いていた。


「常とは違った一面を見せるのがいいのでは?」
「男も女も意外な一面というものに弱いからな」
「弱ったところを見ると母性本能を擽られるとか」
「楸瑛に毒でも盛ってみるか」
「しかし、相手は男だ。母性本能があるのか?」
「「「……………………」」」
「楸瑛はせっかく武官なのだ。武官らしいところを見せてはどうだ?」
「武官が活躍する場…戦争か!」
「…内乱でも起こすか」
「しかし、そんなことをしたら邵可様に嫌われてしまう」
「「「……………………」」」
「相手に妬かせてみては?」
「楸瑛のところに女性を送り込むか」
「しかし、楸瑛は妓楼どころか後宮でも遊び歩いているらしいじゃないか。今更、一人増えた位で妬くのか?」
「「「……………………」」」
「楸瑛は…本命には奥手な癖にな」
「折角気を利かせて二人にしてやったのに、接吻さえしなかったぞ」
「押しが足らないのではないか?」
「報告書によると…」
「『迷子になった李絳攸を導くこと日に平均3.5回。手を繋ぐことも多々。』」
「どれどれ…『李絳攸に「可愛い人」と言うこと日に平均5.8回。』」
「その他『愛しい人』『妬かないでおくれよ』というのもあるぞ」
「それで何故『告白回数0回』なのだ?」
「『「この常春がっ!」と罵られること日に平均7回。』」
「楸瑛はもしかして、全く相手にされていないのでは?」
「「「……………………」」」



後日、貴陽の楸瑛の元には三兄からの『恋愛指南書』と大量の贈り物が届いた。












*************

後日談・三兄編。可愛い弟の恋路の為なら内乱さえ起こしそうなお兄様達です。玉華の室から戻った楸瑛が絳攸に抱きつくところもこっそり見ていたに違いありません(笑)お兄ちゃん会議は深夜まで続きます。
07/4/10収納

戻る/おまけB(双花編)へ