世界の飲茶文化には各国独自の茶器がありますが、大小ペアの「夫婦碗」を使うのは世界中でも日本だけなのです。柄も形も同じで大きさだけが違うセットは食器の歴史をひもといても他に例がありません。専用の桐箱入りセットを想像しますが、古くからの夫唱婦随の象徴と思いきや夫婦碗の歴史は意外と新しいのです。昭和三十年代に出回り始め、昭和四十年頃に某大手結婚式場が新郎新婦に記念品とし配り、デパートが商品化して婚礼産業と結びつき結婚式の引き出物や新郎新婦への贈答品として広まりました。
夫婦碗は有田焼(伊万里焼)が有名ですが、いわゆる磁器製の高級食器です。磁器は高温で焼くため生地がガラス化して吸水性が無くなり、たたくと澄んだ音がします。艶やかで滑らかな感触・手触りで口触りもよく、他に九谷焼・清水焼も知られています。特に白磁(素地が白)無垢で清潔感があり絵付けも映えてお茶の水色も美しく見えます。
磁器製煎茶碗の主流は丸腰碗です。これは江戸時代ヨーロッパに輸出された紅茶碗から把手をとったモノが原型とされます。しかし夫婦碗の形状のほとんどは筒胴型です。これは筒胴型の方が大小のセットにした時にバランスがとりやすかった事と筒胴型の発祥に由来すると思われます。戦前の嫁入り道具の箱膳に収納するのに筒胴型はうまく収まりました。戦後に箱膳を使う風習が消え行く中、箱膳に込められた嫁ぐ子への両親の思いを受け継ぐ意味で夫婦碗は登場したのでしょうか。
結婚祝いに陶磁器は「夫婦が割れる」と避けられますが、「一碗欠ければ同じ碗ですする」と夫婦円満の縁起を担いだのかもしれません。
ちなみに女性用は男性用の七割の容量が一般的だそうです。
どうぞ美味しい白銀屋銘茶で家庭円満によいお年をお迎え下さい。
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