わらべはみたり 2

 その日、志摩は昼休みを知らせるチャイムが聞こえるが早いか、急いであらかじめ用意してあった昼食のコンビニ袋を掴み、いそいそと教室を抜け出した。

「全く、勘弁して欲しいわあ」

 ここ数日勝呂と子猫丸が冷戦中で、おかげで空気が悪いことこの上ない。それでも何となく付かず離れずいつも3人で行動していることに変わりはなく、志摩は毎度毎度2人の間に入って元々ない神経をさらにすり減らしていた。

 そこで「昼休みくらいは」と逃げ出してきたのである。2人きりにすれば話が進展するかもしれない・・・というのは希望的観測に過ぎないのだが。

「ん?」

 2人が予想できない場所に行こうと見慣れない方へ脚を向けているうちに、ふと気付くと周りに人影はほとんどなくなっていた。人が隠れるほどの低木が規則的に並び、まるで迷路のようだ。

(ここ、どこやろ?教会の裏の方かいな)

 虫の気配に怯えつつ、誰かに道を聞こうかと人影を探すが不思議なほど見当たらない。しばらく歩くうちに志摩は視界が開けた場所に出た。そこは小振りな広場ほど大きさで、眩しいほどの温かい陽だまりに包まれていた。足元には何種類もの草が種類ごとにまとまって生えていて、庭というよりはハーブか何かの畑のようだった。

 中央に大きな木が生えている。眼をこらすと、木漏れ日の下、木のうろにもたれかかって誰かが眠っているのが見て取れた。制服からするとどうやら高等部の男子学生らしい。ずいぶん大柄である。

「あの〜」

 寝ているところを起こしてしまうのも気が引けて、遠慮がちに声をかけるが目覚める気配はない。

 近寄るにつれ、彼の整った容姿が目に留まる。白い肌に長いまつげ、柔らかそうな黒髪。

(わあ、なんて綺麗なお人や・・・)

 男女問わず美人に弱い志摩である。ふいに心臓が高鳴った。

 一瞬が永遠にも思われた間の後、ふと、彼のまつげが揺れ、澄んだ瞳が姿を見せた。黒目がちな潤んだ瞳がこちらに向く。が、どこか焦点が合わない様が、よりいっそう幻想的に志摩には思われた。

 彼はしばらく不思議そうにそのままこちらの方へ視線を向けていたが、身体を起こし、何か探す仕草をして見つけた眼鏡をおもむろにかけた。

「志摩くん?」

 ふいに名前を呼ばれドキッとする。驚いて相手を見返すと、そこには見慣れた祓魔塾の若年教師がいた。

「せ、せんせ。お疲れですね」

 息が詰まるほどの動揺を隠すように志摩はひくついた作り笑いをして言った。

 雪男は何か考えるように眉間にシワを寄せ、その大きな楢の木の幹に手を当ててちらとその木を見上げた。

「お昼、まだですやろか。ご一緒してもええですか?」

「どうぞ」

 微笑みながら雪男は楢の木に寄りかかると、自分の隣のスペースを示した。




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