わらべはみたり 1

「どこ行ったんや、あいつは」

 イライラと貧乏ゆすりをしながら勝呂はつぶやいた。もうすぐ昼休みも終わろうというのに、まだ志摩の姿が見えないのだ。

「そもそも逃げよってからに、胸くそ悪い」

 ちらと子猫丸の方に視線を送る。親しくない者からはいつもどうりの涼しい顔をに見えるだろうが、相変わらず硬い表情でわずかに眉間にしわが寄っているのが勝呂には分かった。実は現在冷戦中で、志摩が何故逃げたかといえば、2人の間の微妙な空気に耐えられなかったからである。ケンカの原因はおそらく些細なことで、今となってはおぼろげにしか思い出せないのであるが、お互いに意固地になったままでまだ打ち解けるには遠い雰囲気である。

 イライラする勝呂の視野をふとピンクの頭が横切った。何だかいつにも増してふわふわと雲のように落ち着きなく、席に着くなり上を向いて脱力しぽかんと口を開けている。

「おい、志摩!」

 何事かと呼んでも返事はなく、心ここにあらずという風情である。

「志摩!」

 目の前の机にバンッと両手をついて名前を呼ぶと、やっと志摩の目がこちらを向いた。

「あ、坊。どないしはりました?」

「どないしはりました?はお前の方や!」

「あー、あれですわ。天使ってホンマにおるんやなあ、思て」

 志摩の瞳はまるで白昼夢でも見ているかのようだった。

「は?」

「坊。俺、天使に会いましたわ。さっき庭にいててん」

「はあ???」



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