the Radio Shack

サンヨーSS−58 5球スーパーラジオの修復体験記録

(画像をクリックすると拡大して見ることができます。)

今回は神社の境内で開かれていた骨董市で見つけた真空管ラジオの修復の記録です。私にとっては久々のラジオいじりで,しかも古いラジオの修復は初体験です。

外観としては,ダイヤルパネル少しくすんだ感じで金の縁取りも色が所々で剥げています。
ツマミネジ(2箇所)を外して裏ブタ(厚紙製)を外します。上部表裏に黒色斑点様のシミがあります。上部の固定金具(2箇所)は赤錆が発生しています。
電源コード(茶色のビニル被覆)は約2.3mありますが,被覆が硬化しており(非常に硬い),ACプラグの根元で芯線が露出しています。ACコードは要交換。ACプラクは日立製です。
内部の様子を見てみます。シャーシに貼られた紙製の製造ラベルからは製造番号が『8815』と読めます。

真空管(5本)はいずれもナショナル製であり、5本のうち本来の6BD6は6BA6に替えられています。ひょっとするとは修理のために後から差し替えられたものかもしれません。
ケース左内側には配置図(寸法100×68)と定格表(97×55)が貼付されています。これらには劣化及び若干の破れがあります。
また,回路図(115×88)はケース下側に貼付されていて,外側にあることも災いしてか,ひどく破れていますが,なんとか回路図を写すことはできます。
シャーシ上面に所々綿ボコリがあります。特に出力トランスが汚れています。バリコンもほこりをかぶっています。IFTのシールドケース上部は汚れ及び表面の腐食があります。シャーシ内部も綿ボコリが少しあります。線材はビニル被覆が硬くなっています。

音量ツマミのスイッチ付バリオームは多少動きが硬く,回転時にすれるような音がします。(分解後、テスターによるチェックでガリオームになっていることが判明。)同調ツマミは回転しますが多少硬くキーキー音がします。バリコンは180度回ります。プーリにあるテンションをかけるバネが錆びています。

スピーカ(SPD−50)の外観は正常。ただし,ケースに密着している周りの緩衝材は所々はげています。これについては手芸店でグレーのフェルトを購入して修復することにしました。
電源コードのシャーシ出口にあるはずのゴムブッシュはなくなっています。アンテナコード(青)は約1.3mのビニル線で被覆が硬化しています。この後,解体作業中にシャーシからの出口のところで断線してしまいました。

バリコン(MODEL SY−220 12〜430pF,2連トリマ付き),IFT(455KC TYPE G−1,TYPE G−2:μ同調型)はサンヨー製です。電源トランス,ケミコン,ペーパコン,抵抗器の一部も自社製を使用しています。
紙コンデンサは泡が吹いたような状態のものやパラフィンがなくなってしまったものもあり,古さが感じられます。
ケース底面内側に白色捺印による“29.1.141”の表示があります。おそらくケースのロット番号で昭和29年1月製造のものかと思われます。製品としてのラジオの完成時期は不明です。(ラジオの製造番号は別に表示されています。)

同調ダイヤルは背面のアクリル板の塗装がはげている箇所があります。この塗装は透明のアクリル板の裏側に塗られた金色でダイヤル面の背景となるデザイン上大事な箇所です。そのため,この塗装をすべて剥がして再塗装とします。塗装の剥がしを試したところ,これにはGSIクレオス社(だいぶ前に買ったときはグンゼ産業だった)の「Mr.カラーうすめ液」が有効とわかりました。
タミヤカラーのエナメルシンナーでは落ちません。模型店で同社の「Mr.カラー<金>」(スプレーとハケ塗り用の両方)を購入,念のためダイヤル指針用に銀色も購入しました。(これは模型店主の勧めで同じ製造元の「ガンダムメッキシルバー」を購入しました。昔ならパクトラの銀と相場が決まっていましたが,今では“ガンダム”だそうです。)

ケースは水洗いし,その後ピカールで表面を磨きます。今回は表面にスリキズがあったため,1000番の耐水サンドペーパも併用しました。水洗いすると貼り付けてあるラベル類はだめになってしまうので,パソコンでラベルを作成して復元することにしました。
回路図を参照しながら配線の状態を確認します。写真は上から周波数変換段,中間周波増幅〜検波段,低周波出力及び電源の順です

回路図からするとこのラジオはフローティングアース式です。配線構造を見るとバリコンはベーク板と絶縁紙でシャーシから浮かせてあり,回路上のすべての0Vラインはコンデンサを介して一点でシャーシに落としています。電源スイッチ兼用のバリオームも絶縁紙をはさんで固定してあります。ただし、周波数変換から検波までの真空管はセンターピンを直接シャーシにアースしています。
電源トランスは5M−K9のヒータ回路を除いてオートトランス方式になっています。

なお、中間周波増幅段のカソードにセルフバイアス抵抗として150オームが入っています。この抵抗は貼付されている回路図にはないので、最初から入っていたのかは不明ですが、外観(形状,色)は他の抵抗器とそろっています。

他にも3箇所に回路図との相違があります。
1つはフローティングアースをシャーシに落とすコンデンサで回路図の0.005μFが実機では0.05μFになっています。
2番目は6AV6三極部の入力のカップリングコンデンサで回路図の0.005μFが実機では0.01μFになっています。
最後の1箇所は6BE6の局発G1に接続されたグリッド抵抗で,貼付されている回路図ではG1とアース(0V)の間に結線されていますが,実機ではG1とカソードの間に接続されています。

上記の回路図との相違点については,現状の実機どおりとして修復を進めることとします。
部品の点検結果

抵抗器は周波数変換及び中間周波増幅の各スクリーングリッドへ電圧供給する共用部品を除いて正常値です。この抵抗器(5kオーム)は8kオーム以上に変化し,テスターの指示値も落ち着かない状態です。

バリオーム(500kオームA型スイッチ付き)は軸の回転に伴い異音が生ずる箇所があって、テスターで測っても抵抗値がスムーズに変化しません。交換することにしました。

電解コンおよび固定コンデンサをデジタル容量計とケミコンテスターでチェックしました。
電解コンは25μF25Vを除いて他のものは漏洩電流が2〜4mAでした。紙コンデンサも一部に漏れ電流が5mA〜7mAのものがありました。チタコンは容量,絶縁とも問題なし。

ケミコンテスターはケミコンだけではなく,他のコンデンサのチェックにも有用であることがわかりました。
ちなみに漏洩電流の大きなコンデンサをデジタルCメータで測るとメータの測定レンジによって表示される値が整合しないという現象が確認されました。これは今回使用したデジタルCメータがコンデンサの充電時間をデジタルカウンタで測って表示する仕組みであり,測定レンジによって切り替わる充電の時定数に漏洩電量が誤差を与えるためではないかと思います。(ケミコンテスターとデジタルCメータについては測定器のページをご覧ください)

スピーカと出力トランスのチェックを行いました。
スピーカはテスターでのチェックにより、ボイスコイルの断線はなく、ガリ音が出たので,正常と判断しました。出力トランスは二次側は導通がありましたが,一次側は導通がありません。端子タイプではないのでリード線(ビニル被覆は硬化)を切り詰めてみましたが,変化はありません。内部のプレート負荷側コイルが断線している模様。ピカピカに磨いたのに残念!
しかたなく汎用の出力トランスを買って間に合わせることにします。スピーカのボイスコイルは2.5オームとなっており,汎用のトランスでは4オームとなるのですが,今までの経験から問題ないと思います。"

電源トランスを単体でチェックしました。各巻線共導通,絶縁をテスターでチェックし正常。また,無負荷での端子電圧を測定した結果も異常なし。(絶縁抵抗,絶縁耐圧は不明)
電源トランスも端子タイプではなく専用のリード線タイプですが、絶縁のエンパイヤチューブが劣化しており,交換が必要です。現代のエンパイヤチューブは表面のコーティング材が昔と変わっているそうで,取り扱い上硬い感じがします。

なお,この過程で交換を予定していた汎用の出力トランス(東栄変成器製の1.5W型で893円のもの)は取り付け穴ピッチはちょうど合うのですが,大きすぎてIFTと干渉してしまうことが判明しました。急遽,より小型の出力トランス(これも東栄変成器製の1W型で650円のもの)を追加購入し,変更することにしました。このため,いったんIFTや電解コンを外して取り付け穴(3.3mm径)を1つ追加工するはめになってしまいました。
今回は,固定抵抗器は1つを除いてそのまま使いますが,コンデンサ類はチタコンを除いてすべて新品に交換しました。ただし,交換用の抵抗器やコンデンサは現代のものであり,このラジオの製造当時とはだいぶ趣が異なります。なお,交換する5kオームは本来1WのL型ですが,手持ち部品の関係からとりあえず酸金5W型としました。現代の抵抗器は形がだいぶ小さくなっており,その大きさを当時のものに合わせるとすれば酸金3Wが近いと思います。
(→ その後,3W型に交換しました。)

また,ケミコンも交換することにし,そのための電解コンを用意しましたが,ブロック型ではなくチューブラ型であるため,小型の平行4Pラグ板でコンデンサユニットを作り,シャーシ内に実装することにしました。そのためにシャーシに取り付け穴を1箇所追加し10mmのスペーサで保持することにしました。元のブロックケミコンは実装しているだけで,(−)共通端子だけを中継に使っています。

この作業中に,突如近くのチタコン(6AV6プレート回路の100pF)のリード線がコンデンサの根元で断線しているのを発見,急遽手持ちのマイカコン(昔のキャラメル型で貴重な1個,これでもう手持ち在庫はない)と交換しました。
配線作業完了後,各部,特にB電圧回路の絶縁をテスターで確認後,真空管を実装しない状態で電源を投入。電源トランスの出力電圧を測定し,異常ないことを確認しました。
次に真空管を実装して各部の電圧を測定し,異常なきことを確認しました。ただし,B電圧は標準的な回路と比べて多少低めです。実測値は回路図を参照のこと。なお,中間周波増幅の真空管は本来の6BD6に戻すこととし,手持ちのものを使いました。
真空管が暖まってくるとザーッというノイズ入聞こえてきました。この感覚は久しぶりです。

さて,周波数の高いほうは正常に受信できますが,ときどき周波数がジャンプすることがあり,また,周波数の低いほうは受信できません。(受信ノイズも消えます。)試しにデジタルテスターで局部発振周波数を測ると1000kHz以下では発振できなくなっているようです。
この現象はOSCのパディングコンデンサ(440pF±4%)があやしいとにらみ,先日たまたま購入したものと交換したところ正常になりました。このコンデンサは450pF±3%のコンデンサで秋葉原で見つけて買っておいたものです。

中波放送用目盛板(分度器型の自作簡易治具)をバリコンにテープで止め,バリコンの角度を近くの放送局の周波数になるように合わせて受信しながら,OSCの発振周波数をデジタルテスターで測定しながら,約455kHz上側になるようOSC側バリコンのトリマを調整します。
私の近くの放送局は882kHzですから,局部発振周波数は1337kHz付近に合わせます。
このデシタルテスターは秋月電子で2000円で売っている「ポケットDMM P−10」というもので,一応10MHzまで測れるそうです。ただし,入力インピーダンスが低いのか,この場合の発振周波数はOSCコイルのカソードタップでないと測れません。また,その影響で発振周波数自体もずれるので,正確な調整は望めません。大体のところで良しとしました。(ポケットDMMについては測定器のページをご覧ください。)
続いて,ANT側バリコンのトリマとIFTのコアネジを調整して感度が最大になるようにします。
テストオシレータなどがないため,変則的な調整手順です。
この状態で動作させ様子を見ます。バリオームを絞りきったところでも少しハムが残っていますが,深夜に音量を極端に下げて聴くのでない限り実用に耐えないレベルではありません。
なお,6AR5のプレート負荷である出力トランス一次側に0.01μFを追加し0.02μFとしました。これにより「ザー」というバックグラウンドノイズ(外部ノイズあるいはコンバータノイズなのでしょうか)が軽減されました。これにより,音質も影響を受けますが,気になるほどではありません。

ただ,時々忘れた頃に「ビーッ」という凄まじいノイズが発生します。調査のため,交換しなかったチタコン(ANTコイル一次側の200pFと6AV6ダイオード検波出力の200pFパスコン)を手持ちのモールドマイカ300pFに交換してみましたが,効果はなく元に戻しました。
"ケースの内外に貼り付けてあったラベル類(配置図,定格表,回路図)は私のパソコンに積んであるあらゆるアプリケーションソフト(Jw−CAD,Bsch3,Word,ペイントなど)を駆使して作成し,粘着ラベル用紙に印刷してほぼ同じように再現しました。これらをケースの元に位置に貼り付けます。
今回の粘着ラベル用紙は紙のような仕上がりになるものを選びましたが,白色であるため古びた感じは出せません。保管してあった製造ラベルもシャーシの元の位置に接着剤で貼り付けます。
以上でSS−58の修復が完了しました。前述のノイズは解決していませんが,その状態も監視しながら,しばらく放送を受信して楽しむことにします。

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