皆さん、TVや雑誌で人間ドックという言葉を聞いたことはありませんか?
人間ドックとは簡単に言うと車の車検のようなものです。特に以上がない人が年に1回くらいのペースで身体に異常がないかどうか?また異常があったとしても早期で発見して、手遅れにならないうちに対策を取れるようにチェックするための検査です。
人間ドックは血液検査、レントゲン、身体機能、等々、首から下に異常がないかどうかを調べることが出来ますが、頭の中は硬い頭蓋骨に包まれているので、簡単にチェックすることが出来ません。
そこでMRI装置という強力な磁石を利用した装置を利用して、首から上を隅々までチェックする検査を追加で行います。つまり人間ドック検査+頭部MRI検査のことを脳ドック検査と呼びます。
検査の費用は健康診断になるので保険が使えません。おおまかな費用としては脳のMRI検査のみで20000~25000円程度、人間ドック+脳のMRI検査で40000~60000円、胃カメラや腹部エコーを追加すると70000~以上は費用がかかります。皆さんの加入している健康保険の種類、及び自治体によっては脳ドックに30000円程度の補助が出る場合もあります。いずれにしても高額なので、きちんと会社で健康診断を受けている方であれば脳のMRI検査のみ(20000~25000円)の簡易脳ドックで充分です
脳ドック検査では、MRIとMRAを撮影します。MRIというのは脳に異常がないかどうか、MRA検査は脳血管に異常がないかどうかを調べる検査です。この2つは同時に検査することが出来ます。
検査を行うことでどのような異常が分かるのでしょうか?MRI検査では脳の腫瘍や、過去に起こした脳梗塞の跡、脳出血の跡などが分かります。脳の腫瘍、特に良性腫瘍の場合大きくなるまでに年単位の長い時間がかかります。良性であっても大きくなって脳の神経を圧迫すれば耳が聞こえ難くなったり、顔の神経が麻痺したりと日常生活に大きな支障をきたします。また大きくなってしまうと手術で取れなかったり、手術で神経を傷つける可能性もあります。早期で腫瘍を見つけてしまえば、大きくならないかどうか定期的なMRI検査でチェックし続ければ、無理に手術をする必要もなく、大きくなるようなら手術を行うといった、治療の選択が広がります。脳梗塞と脳出血の既往を調べることで、脳血管の病気になりやすいのかどうかを知ることが出来ます。もしリスクが高いようなら、血が固まりにくくなる薬を服用することでリスクを低くすることが出来ます。ただし血が固まりにくくなる薬は血が止まらなくなる副作用があるので、MRIで脳の状態をチェックしながら使用することで、副作用の発生を注意深くチェックします。
脳ドック検査で最も発見が期待されるのが、未破裂脳動脈瘤です。動脈瘤というのは血管に出来たコブのようなものです。高血圧や、糖尿病が原因で血管の壁が薄くなり、そこが膨らんで風船状になるのが特徴です。この病気を診断するためには脳の血管を観察しなくてはなりません。MRI検査以外で血管を観察するためには、造影剤というお薬を腕に注射しながら撮影する必要があるので、MRIは唯一造影剤を使わずに血管を見ることが出来る装置になります。
脳動脈瘤の恐ろしいところは、多くの場合コブが破裂しなければ症状が出ないが、破裂したらクモ膜下出血となり、死亡率も高いというところにあります。ではどのくらいの確率で動脈瘤は破裂してしまうのでしょうか?
日本人を対象とした研究結果(UCAS JAPAN 2012)によると全ての未破裂脳動脈瘤が1年以内に破裂する確率は0.95%/年と決して高くはありません。しかし脳動脈瘤の大きさによって大きく危険性は異なります。
3~4mmの動脈瘤の破裂する確率は0.34%/年
5~6mmの動脈瘤の破裂する確率は0.50%/年
7~9mmの動脈瘤の破裂する確率は1.69%/年
10~24mmの動脈瘤の破裂する確率は4.37%/年
25mm~の動脈瘤の破裂する確率は33.4%/年
の確率で破裂してしまいます。大きくなるにつれリスクが加速度的に大きくなるのが分かると思います。
また出来る場所によっても確率が異なり、図の@中大脳動脈の脳動脈瘤を基準にすると、図のA前交通動脈部の動脈瘤は2.02倍、図のB後交通動脈部では1.92倍の破裂リスクがあります。
さらに喫煙、飲酒、高血圧、は大きな破裂リスクになります。別の研究では10mm以上の大きさの動脈瘤は10年以内に55.9%の確率(10mm以下は13.4%)で破裂を起こすと言われています。
以上のように理由から10mmを越えた脳動脈瘤は積極的な治療対象となります。治療方法は手術で動脈瘤の付け根をクリップする方法や、足の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を脳の動脈瘤まで進めて動脈瘤にゼラチンフォームやエンボリゼーションコイルを詰めて血流を遮断する方法などがあります。
大きな動脈瘤の場合は破裂の確率が高いので治療を進めますが、問題は10mm以下の小さな動脈瘤の場合です。手術はどうしても身体に負担がかかり、脳血管に対する手術なので術中に死亡するリスクもゼロではありません。そのため動脈瘤の大きさ、場所、家族歴、リスク要因等考慮しつつ、経過観察となるケースが多いです。この場合半年に1回位のペースでMRIを撮像して動脈瘤が大きくなっていないかをチェックしていきます。もし大きくなるようなら治療を行い、変化ないようならば定期的なチェックを続けます。
一般的に100人に2人~6人の確率で脳動脈瘤があると言われています。動脈瘤があっても破裂しなければ生活に支障はありませんし、死ぬまで気付かない人も大勢います。しかし運悪く脳動脈瘤が大きくなって破裂してしまうと生命にかかわることになります。何年かに1度脳ドック検査を受けることでこのリスクを大きく減らせるので、定期的な脳ドック検査を受けることをお勧めします。
脳ドック検査では、MRI検査では様々な種類の画像を撮像します、当院の脳ドック検査で実施する代表的なものを説明致します。
@T1強調画像
AT2強調画像
BFLAIR
CT2*
D拡散強調画像
EMRA
FVSRAD
G頸動脈プラークイメージング
@T1強調画像とは脳の実際の形態に最も近い画像です。脂肪を含むものが見えるのが特徴です。
AT2強調画像とはMRIで最も基本的な画像です。水が白く見えるのが特徴で、脳梗塞、脳出血、膿瘍など様々な種類の炎症が白く見えます。
BFLAIRとは、T2強調画像と基本的には同じですが、脳のMRIの場合、脳を満たしている脳脊髄液が白く見えるので、炎症が見難くなることがあります。FLAIRを撮像すると脳脊髄液の部分の信号が無くなるので異常な部位を見つけやすくなります。
CT2*(T2スター)といいます、この撮像法を使用すると出血したところが黒く見えます。過去から現在の出血の有無を確認します
D拡散強調画像とは、急性期の脳梗塞を発見できる画像です。発症1時間程度でも見つけることが出来るので、脳梗塞を疑う場合必ず撮像します
EMRAとは脳の動脈を見る撮像法です。造影剤を使用せずに動脈の走行が分かるので、負担なく動脈瘤や血管の狭窄を見つけることが出来ます。
FVSRADとはT1強調画像を薄く何枚も撮像することで3D画像を作り、認知症ではない正常な3DMRI画像と比較することで、認知症で特異的に萎縮する部分が萎縮していないかどうかを調べる検査です。
G頚動脈プラークイメージングとは、脳梗塞の原因となる血管壁のプラーク(脂肪)が頚の血管に出来ていないかを調べる検査です。プラークが付いていると、プラークが剥がれて、その先にある脳の血管に詰まって脳梗塞を起こす可能性があります。当院のMRIではプラークが剥がれやすいかそうでないかを評価することが出来ます。
ここで紹介した撮像方法を組み合わせて、一人あたり20分〜30分の検査時間で撮像していきます。
当院で撮影したMRIの症例をいくつか紹介します。
60台女性、脳底動脈ー後交通動脈分岐部に3mm経の脳動脈瘤
50台女性、脳底動脈ー後交通動脈分岐部に3.8mm経の動脈瘤
50台男性、急性期脳梗塞
拡散強調画像
FLAIR画像
白く光っているのが梗塞部位、急性期のため拡散強調画像ではっきりと高信号でもFLAIRではまだ淡いため、発症後数時間の脳梗塞と考えられる。
参考URL:日本脳ドック学会ガイドライン
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