| 解 字 |
白川静 著『字 通』による新解釈 |
藤堂明保 編 『漢和大字典』(学研)の解字 |
文字 |
| ≪参考≫ (宗教起源説) | ≪参考≫ |
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T 人の誕生と成長 |
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親 シン |
形声。 意符の《見》(見る)と音符《<辛/木>》とからなる。 《<辛/木>》を《 》とするのはその省略形。
<辛の下に木がある文字形は,パソコンで出力できないため,やむを得ず/印で繋ぎ<辛/木>のように記すことにする。 人の横に有が並ぶ侑は<人+有>のように記す。 以下同じ> |
会意。 辛+木+見。 神事に用いる木を えらぶために辛(針)をうち,切り出した木を新という。 その木で新しく神位を作り,拝することを親という。 金文には親を寴<宀/親>に造る ことがある。 父母の意に用いるのは新しい位牌が父母であることが多いからであろう。 |
辛は肌身を刺す鋭いナイフを描いた象形文字。 は薪の原字で,木をナイフで切ったなま木。 親は意符の「見+音符 」の会意兼形声文字で,ナイフで身を切るように身近に接して見ていること。 |
男 ダン ・ナン |
会意。 田(たんぼ)と力(ちから)から「たんぼで力仕事に従事する者」の意を表す。 男は古代文字資料では「男爵」に相当する地位を表すことが多い。 |
会意。 田+力。 力は耒(すき)の象徴。 田と農具の耒(力)とを組み合わせて耕作のことを示す。 男はもとその管理者という語で,のち五等の爵号となった。 男女を連称することは列国記に至ってみえる。 金文では男を一夫,二夫のように数え,これが農夫の称で,これを統括するものを大夫という。 |
田(はたけ,狩り)+力(ちから)の会意文字。 耕作や狩りに力を出すおとこを示す。 |
女 ジョ ・ニョ |
象形。 手を胸の前に組み,ひざまずいた人の形にかたどる。 身体のしなやかさを強調した形で女性の意をあらわす。 |
象形。 女子が跪いて坐する形。 手を前に交え,裾をおさえるように跪く形。 動詞として妻とすること,また代名詞として二人称に用いる。 代名詞には,のち汝を用いる。 |
なよなよとしたからだつきの女性を描いた象形文字。 |
婚 コン |
会意。 「昏」が原字。 《日》と《氏》(「低」の原字で「ひくい」意。 太陽が低くなることから「夕暮れ」の意を表す)とからなる。 「婚」は会意形声。 意符の「女」と意符と音符を兼ねる「昏」(夕暮れ)とからなる。 古代の結婚式は日没前後の時間から行われた。 |
形声。 声符は昏。 昏は昏夕(ゆうべ)。 その時刻より婚儀が行われた。 金文の字は象形。 爵をもって酒を酌む形で,その儀礼のしかたを示す。 婚儀には三飯三酳<いん>の礼が行われ,三酳はいわゆる三三九度にあたる。 |
昬は《日》と音符《民》(目が見えない)の会意兼形声文字で暗い夜の意。 唐の天子李世民の名を忌んで字体を「昏」と改めた。 古代では夜暗くなってから結婚式を挙げた。 |
母 ボ ・ム ・モ |
「女」の中央部に点を二つ加えた形。 二つの点は乳房を表す。 |
女に両乳を加えた形。 金文では母と「毌(なか)れ」とは同じ字形を用いている。 |
「女+━印」からなり,女性を犯してはならないと差止めることを━印で示した指事文字。 |
棄 キ |
象形。 新生児を頭を下にしてチリトリに入れて捨てようとしている形。 そこから後に「ものをすてる」ことを表すようになった。 古代中国では,生まれたばかりの子どもをいったん道路や森林の中に捨て,それをすぐ拾い上げて育てる習慣があった。 ちなみにチリトリを使わず,手で直接子どもを持って捨てる形を示すのが「棄」の異体字である「弃」。 |
<亠/厶>(とつ)+ (はん)+廾(きょう)。 <亠/厶>は逆子であるから,これを悪(にく)んで棄てる意とする。 <亠/厶>は子の出生のときの姿で,育,流はその形に従う。 生子を捨てることは古俗として行われたことがあり,周の始祖后稷がはじめ棄てられ棄と名づけられたとされ,他にも類話が多い。 (はん)はもっこ。 |
「 (子の逆形→生まれたばかりの赤子)+両手」の会意文字で,赤子をごみとりにのせて捨てるさまを表す。
廾<キョウ>は両手をそろえて物をささげるさまを描いた象形文字。 |
保 ホ ・ホウ |
象形。 幼児を背負い,片手を幼児の背中に回している形にかたどる。 もとは子どもを養育すること。 そこから「守る」「大切にする」意に使われるようになった。 |
会意。 人+子+褓(むつき)をかけた形。 金文の字形はときに保の呆の上に玉を加える。 玉は魂振り,褓も霊を包むものとして加えるもので,受霊,魂振りの呪具。 生まれた子の儀礼を示す字である。 保の諸羲は,新生の受霊とその保持の意から演釈されたものである。 |
保の古文は呆で,子どもをおむつで取り巻いて大切に守るさま。 甲骨文字は,子どもを守る人を表す。 保は「人+音符呆」の会意兼形声文字で,保護する,保護する人の意を表す。 |
歯 シ |
象形。 本来は「齒」と書く。 人が大きく口を開けた口から,何本かの歯が見えている形にかたどる。 ちなみに,虫歯は専門的には「う歯」といい,漢字で「齲歯」と書く。 但し,齲の音は“ウ”ではなく“ク”が正しい。 齲は 齒+虫 の会意文字。 |
形声。 声符は止。 卜文には声符を加えず象形。 歯によって獣畜の年を知りうるので<齒+令>(齢)といい,老いて徳を成就することを齒コ(歯徳)という。 |
甲骨文は口の中を描いた象形文字。 篆文以下はこれに音符止を加えてある。 「前歯の形+音符止(とめる)」の会意兼形声文字。 物を噛みとめる前歯。 |
鼻 ビ ・ヒ |
はじめは「自」と書いた。 「自」は象形。 人の鼻の頭を正面から見た形にかたどる。 もと「人の鼻」の意。 人が身振り手振りで自分を表す時に,右手の人差指で鼻の頭を指すしぐさをすることから,やがて「自分」という意味を表すようになった。 「自」を「自分」の意味で使うのが主流になったので《自》に発音を表す《畀》<ヒ>を加えた「鼻」で「はな」の意味を表すようになった。 ただし,ヨーロッパ人が自分のことを指す時は,掌で胸を押さえる。 |
旧字は に作り,畀声。 自は鼻の象形。 畀を声とするのは,その鼻息の擬声語とみてよい。 顔面で最も突出するところであり,わが国でははな(端)といい,中国では鼻祖という語がある。 |
鼻は《自》+音符《畀》の形声文字。 |
朋 ホウ |
象形。 古代社会で財宝のシンボルとされた貝や玉を,ひもでいくつも連ねた形にかたどる。 もとは「宝物」の意。 「鳳」に通じて鳥の王者である鳳に付き従う者の意から,「とも」の意味に用いられる。 |
象形。 貝を綴った形。 一連二系。 金文の図象にこれを荷う形のものがあり,一朋一荷の量で宝貨とされた。 金文の朋友の字は<人+朋>友に作る。 貝の一連二系の関係を人に及ぼした字形で,同族間で年齢の相近いものをいう。 |
数個の貝をひもでつらぬいて二すじ並べたさまを描いた象形文字。 同等のものが並んだ並んだ意を含み,のち肩を並べた友のこと。 並や併と縁が近い。 |
愛 アイ |
会意形声。 夊(あし)と意符と音符を兼ねる《<旡/心>》<アイ>(後ろを振り返る気持ち)とからなる。 後ろを振り返りつつ歩くことから,「心にかける」意。 のち字形が変わり,「愛」と書かれるようになった。 |
会意。 <旡/夂>+心。 <旡/夂>(あい)は後ろを顧みて立つ人の形。 それに心を加え,後顧の意を示す。 <旡/心>と愛は同じ字である。 |
旡<カイ・キ>とは,人が胸を詰まらせて後ろにのけぞったさま。 愛は,「心+夂(足をひきずる)+音符旡」の会意兼形声文字。 心がせつなく詰まって足もそぞろに進まないさま。 |
涙 ルイ |
形声。 本字は「 」。 《水》(みず)と音符《 》レイ→ルイからなる。 涙(付点なし)はその省略形。異体字として使われる「泪」は会意。 《水》と《目》とからなり,「なみだ」を表す。 涙は比較的新しい時代に作られた漢字のようだ。 中国の古典文献で「なみだ」を表す主な漢字は「泣」と「涕」だった。 |
形声。 旧字は に作り, (れい)音。古くは涕(てい)といい,象形字は眔(とう)。 涙は漢以後に用いられる字である。 |
「水+ (はねる,はらはらとちる)」の会意文字。 |
戻 レイ |
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旧字は に作り,戸+犬。 戸下に犬牲を埋めて呪禁とする意。 ここを犯すことは違戻のこととされた。 |
「戸(とじこめる)+犬」の会意文字で,暴犬が戸内にとじこめられてあばれるさまを示す。 逆らう意から,「もとる」という訓を派生した。 |
戸 コ・ グ・ゴ |
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象形。 一扇の戸。 両扇あるものは門。 啓・肇などに含まれている戸は神戸棚の戸。 門戸は内外を分つ神聖なところ。 |
門は二枚とびらのもんを描いた象形文字,戸は,その左半部をとり,一枚とびらの入り口を描いた象形文字。 |
犬 ケン |
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象形。 犬の形。 卜文の犬の形は,犠牲として殺された形にみえるものがあり,犬牲を示すものとみられる。 |
いぬを描いた象形文字。 ケンという音はクエン,クエンという鳴声をまねた擬声語。 狗は,子犬。 |
士 シ |
象形。 鉞(まさかり)の歯の部分を下にして立て掛けた形にかたどる。 一説に,男性の性器が勃起した形にかたどり,「一人前の男」の意を表すという。 古代中国で「女」と対になる漢字として一般的に使われたのは「男」ではなく「士」だった。 |
象形。 鉞(まさかり)の刃部を下にしておく形。 その大なるものは王。 王・士ともにその身分を示す儀器。 士は戦士階級,卿は廷礼の執行者,大夫は農夫の管理者。 この三者が古代の治者階級を構成した。 |
男の陰茎の突き立ったさまをを描いた象形文字で,牡(おす)の字の右側にも含まれる。 成人として自立するおとこ。 |
妻 サイ ・セイ |
象形。 髪に美しい飾りをつけた女性の姿にかたどる。 古代の結婚式で花嫁が髪飾りをつけた盛装の姿にかたどり,そこから「つま」の意を表す。 |
象形。 髪飾りを整えた婦人の形。 髪に三本の簪(かんざし)を加えて盛装した姿で,婚儀のときの儀容をいう。 夫は冠して笄(けい)を加えた人の形。 夫妻は結婚するときの儀容を示す字である。 |
「 」(て)は家事を処理することを示す。 「又(て)+かんざしをつけた女」の会意文字で,家事を扱う成人女性をしめすが,サイ・セイということばは夫と肩をそろえる相手をあらわす。 斉(ととのう,そろえる)と同系のことば。 また,淒(雨足がそろう)とも同系のことば。 |
婦 フ |
本字は 。 帚は家の中で最も神聖な場所である祭壇を清めるためのもの。 甲骨文では王妃の名前に冠せられる文字として使われる。
【読者注】 日本語字体では ホウキは旧字(本字)も新字も「帚」であるが,旧字「歸」,「 」 にたいして新字は「帰」,「婦」と,右側上部がカタカナの「ヨ」のようになっている。 一方新中国の方では,ホウキも上部がカタカナの「ヨ」になっており,「帰」,「婦」の簡体字は,右側がカタカナの「ヨ」のみに簡略化されている。 台湾は日本の旧字と同一の字体を使用している。 |
形声。 旧字は に作り,帚声。 帚は の初文で卜辞には帚好・帚妌(ふけい)のように帚を の字に用いる。 帚は掃除の道具ではなく,これに鬯酒(ちょうしゅ)<香り酒>をそそいで宗廟の内を清めるための「玉はばき」であり,一家の主婦としてそのことにあたるものを という。 [爾雅,釈親]に「其の妻をと と爲す」とあるのは,子の ,よめをいう。 金文の[令<皀+殳>]に「 子後人」の語があり,宗廟に仕えるべきものをいう。 殷代の はその出自の氏族を代表する者として極めて重要な地位にあり, 好の卜辞には外征を卜するものがある。・・・・ ※ 好は殷王帝丁の妃。 |
「女+帚(ほうきをもつさま)」の会意文字で,掃除などの家庭の仕事をして,主人にぴったりと寄り添うつまやよめのこと。 付(つき添う)_服(ぴたりとくっつく)_副(主たる者にぴたりと寄り添う添え人)_備(添え人)などと同系のことば |
労 ロウ |
会意。 本来の字形は「勞」。 《力》(ちから)と《冖》(家の屋根)と二つの《火》から成り,「屋根が火で燃える時に人が出す力」の意。 そこから「大きな力を出して働く」意を表す。 |
会意。
<焚の火が乂になったもの>(えい)+力。 は庭燎,かがり火を組んだ形。 力は耒(すき)の象形。 は聖火で,これを以って耒を祓ってから農耕がはじまる。 農耕のはじめと終りに農具を清める儀礼があり,それで害虫を避けうると考えられた。 のち転じて,ひろく事功・勤労の意となり,労苦・労役の意となる。 |
<(火+火)/冖>は熒の原字で火を周囲に激しく燃やすこと。 勞は会意文字で,火を燃やし尽くすように力を出し尽くすこと。 激しくエネルギーを消耗する仕事やその疲れの意。 |
老 ロウ |
象形。 頭髪を長くのばした人が,腰を曲げて,杖をついている形にかたどる。 |
会意。
+匕(か)。 (老)は長髪の人の側身形。 その長髪の垂れている形。 匕は化の初文。 化は人が死して相臥する形。 衰殘の意を以って加える。 |
年寄りが腰を曲げてつえをついたさまを描いた象形文字で,からだがかたくこわばった年寄り。 |
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U 食をめぐる漢字 |
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米 ベイ ・マイ |
象形。 穀物が実って,穀粒が付着しているさまにかたどる。 穀物は必ずしもイネとは限らず,広く穀物一般を指して使われる。 |
象形。 禾(か)の穂に穀実がついている形。 [説文]に「粟の實なり。 禾實の形に象る」とある。 粟は五穀の総称。 卜文の字形は穂の上下に小点三,四を加える形。 |
╋ 印の四方に点々と小さなこめつぶの散った形を描いた象形文字。 小さい意を含み眯(ほそ目)-迷(小さくて見えない)と同系のことば。 |
来 ライ |
象形。 本来は「來」と書く。 麦が左右にのぎを張った形にかたどる。 もとは麦を指したが,「来る」という意味の動詞がむぎと同音だったため,仮借(当て字)という方法で「やって来る」という意味に使われた。のちに「むぎ」を表すために《夊》(あしあとの形。 麦踏みをすること)を加えた「麥」(麦)が作られた。 ムギは地中海東部が原産地で,西から中国に伝わって来た。 だから「遠いところからやって来た」という意味で,ムギを「來」という字で表した可能性は大いに考えられる。 |
象形。 麦の形に象る。 [説文]に「周,受くる所の瑞麥・來麰(らいぼう)なり。 一來に二縫あり。 芒朿(ぼうし)の形に象る。 天の來(もたら)す所なり」とし,・・・・往來・來甸,また賚賜(らいし)などの用語はすでに卜辞にもみえるが,みな仮借羲である。 |
來は穂が垂れて実った小麦を描いた象形文字で麦(むぎ)のこと。 麦(=麥)の原字はそれに夊(足を引きずる姿)を添えた形声文字で,「くる」の意をあらわした。 のち「麥」をむぎに,「來」をくるの意に誤用して今日に至った。 |
豊 ホウ |
象形。 本来は「豐」(音読みはホウ)と書く。 「豆」(足のついた台=たかつき)の上に,実ったキビなどの穀物の穂を置いた形にかたどる。 農作物の豊作を神に感謝するために,たわわに実った穀物をたかつきに載せている字形であり,そこから「物がたくさんある」,或いは「大きい」という意味を表すようになった。 この形がやがて「豐」と「豊」という微妙にことなる二つの文字に分化した。 「豊」(音読みはレイ)は「一晩でできる甘い酒」を示す字となった。 この酒が振舞われる宴会を「饗醴」といい,この宴会から「禮」(=礼)という字ができた。 「豐」と「豊」は本来別々の漢字。 |
象形。 旧字は豐に作り,食器である豆に,多くの禾穀を加える形。 供えものの豊盛であることをいう。 粱,荼,盛に限らず,すべて豊満盛大なるさまをいう。 豊(れい)の字は,もと醴酒の醴の字であるが,いま常用字に用いる。
豊も象形。 豆の禾穀を盛れる形。 [説文]に「禮を行ふの器なり」とあり,禮(礼)と同声の字。 |
「丰」は△型に実った穂を描いた象形文字。 「豐」は「山+豆(たかつき)+音符丰二つ」の会意兼形声文字で,たかつきの上に,山盛りに△型をなすよう穀物を盛ったことを示す。のち,上部を略して豊と書く。 豊<レイ>はたかつき(豆)に形よくお供え物を盛ったさま。禮は「示(祭壇)+音符豊」の会意兼形声文字で,形よく整えた祭礼を示す。 }(=礼)は,もと古文の字体で,今日の略字に採用された。 |
年 ネン |
象形。 実った穀物の穂を,人が背中にかついでいる形にかたどる。 本来は「農作物の豊かな収穫」,すなわち「みのり」を意味する文字だった。 農作物の収穫が年に一度だけのことから,のちに「一年」という時間の単位を表すようになった。 |
会意。 禾(か)+人。 禾は禾形の被りもので稲魂。 これを被って舞う人の姿で祈年(としごい)の舞をいう。 男女相偶して舞い,女には委という。 低い姿勢で舞う。 子どもの舞う姿は季。 農耕の儀礼に男女が舞うのは,その性的な模擬行為が生産力を刺戟すると信じられたからである。 豊年を予祝する舞であるから,「みのり」の意となり,一年一熟の禾であるので一歳の意となる。 夏には歳,殷には祀,周には年という。 歳,祀はともに祭祀の名。 その時期や期間の関係から年歳の意となった。 年は稔(ねん)。 |
「禾(いね)+人」の会意兼形声文字。 下部は千の原字だが,ここでは人のこと。人はねっとりとくっついて親しみ合う意を含む。年は,作物がねっとりと実って,人に収穫される期間をあらわす。捏(ねばる)-涅(ねばる)と同系のことば。 |
辛 シン |
象形。 罪人に刑罰として入れ墨を施すときに使う針の形にかたどる。 そこから意味が広がり,「つらい」,また「味がからい」意に使う。 唐の時代に作られた『酉陽雑俎』<ユウヨウザツソ>という随筆集には,胡椒の味について「至って辛辣」と記している。
≪後述の「文」の項目を参照のこと≫ |
象形。 把手のある大きな直針の形。 これを入墨の器に用いるので,言・章・童・妾・辠(ざい)・辜(こ)・商などの字はもと辛に従う形に作る。 辛はまた に作り,辥(せつ)・辟(へき)などの字はもとその形に従い,曲刀の象,刳剔(こてき)するのに用いる。 辛に墨だまりをつけた形が章,入墨によって文身を施すことを文章,その美しさを彣彰という。 |
鋭い刃物を描いた象形文字で,刃物でぴりっと刺すことを示す。 転じて,刺すような痛い感じの意。 また,新(切りたて,なま)-薪(切りたてのまき)と同系のことばで,刃物で切り刺すの意を含む。
※ 章:金文は「辛+ (模様)」の会意文字で,刃物で刺して入れ墨の模様を作ること。 篆文は「音++印(まとめる)」の会意文字。 |
塩 エン |
形声。 本来の字形は「鹽」。 《鹵》<ロ>(塩が壺に入っている形)と音符《監》カン→エンとからなる。 海水中にある塩分の意から,「しお」の意を表す。 「塩」は11世紀南北朝時代からすでに使われている略字形。 現代中国語で塩味を表す「咸」<xian>は本来「全,みんな」という意味の字である。 これは繁体字(本字)の「鹹」に対する簡体字で,本字の右辺のみを採用したもの。 「鹵」はもともと「塩」という字にも使われていた。 |
形声。 旧字は鹽に作り,鹵に従い監(かん)声。 籃・濫(らん)の声がある。 鹽はその声の転じたものであろう。 鹵は天生の塩の象形。
[説文]に「鹹なり」とあり,また「古者(いにしへ),宿沙,初めて煮海鹽を作る」という事物起源説を記している。 |
鹽は「鹵(地上に点々と結晶したアルカリ土)+監」の形声文字。 鹹<カン>(からい)と同系のことば。 また,感(強い刺激を与える)とも縁が深く,もとは強く舌を感じさせる味のこと。 |
肉 ニク ・ジク |
象形。 すじのある肉の切り身の形にかたどる。 これを部首として,肉の性質や状態に関する意味を表すが,ヘン(偏)になると「月」の形に書かれる。 「祭」という漢字は上半分に《月》(=肉)と《又》(=手)があり,下に《示》があるが,《示》は空から下りてきた神が,地上にとどまる時によりどころにする小さな机の形である。 だから「祭」は,地上に降りて来た神様に対して,手に持った肉をお供えしようとしている形と解釈され,,このことから古代の祭りでは必ず肉が供えられていたことがわかる。 この肉を二つ重ねると「多」という漢字になる。 「多」は祭りで肉が二つ供えられていることを表す文字である。 |
象形。 切りとった肉塊の形。 [説文]に「胾肉(しにく)なり」とあり,大きな一臠(れん)の肉をいう。
[釈名,釈形体]に「肉は柔なり」とあり,その古音は相近い声であった。 旧字は 。 |
筋肉の線が見える,動物のにくのひときれを描いた象形文字。 柔(やわらかい)-<月+柔>(やわらかいにく)と同系のことば。 祭,然の字に含まれる斜めの「月」は肉の字の変形である。
※≪読者注≫ 現代中国語では肉も柔も発音は同じrouである。 |
有 ユウ ・ウ |
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会意。
(又)(ゆう)+ (肉)。 肉を持って神に侑薦する意。 |
又<ユウ>は手でわくを構えたさま。 有は「肉+音符又」の会意兼形声文字で,わくを構えた手に肉をかかえこむさま。 空間中に一定の形を画することから,事物が形をなしてあることや,わくの中にかかえこむことを意味する。 佑(かかえこむ)-囿(わくを構えた区画)-域(わくを構えた領分)と同系のことば。 |
即 ソク |
象形。 本来は<皀+卩>(即)と書く。 足のついた容器に食物が盛り上げられた形を示す《皀》に向って,ひざまずいた人が口を大きく開け,今にもその食物に食らいつこうとしている形にかたどる。 もともと「(食事の席に)つく」意味を表し,そこから,「今すぐ,これから間もなく」という意味を示す。 さらにその人が顔を反対側に向けると「既」(=皀+旡)という字になる。 《旡》はひざまずいた人が大きく開けた口を食物と反対の方向にそむけた形を示している。 つまりこの字はもうお腹いっぱいで,これ以上食事する気がなく,食物から顔をそむることを表しており,このことから「事柄がすでに終了した」という意味で使われるようになった。 《皀》の上に蓋をした形が《食》である。 さらに,「郷」「卿」「饗」はもともと同じ形に書かれていた。 《皀》すなわち盛り上げられたご馳走の両側にひざまずいて口を開けた人が食らいつこうとしているさまを示している。 何人かで一緒におこなう食事はおそらく宮廷で王から与えられた饗宴であって,そのような場に出席できる身分の者を「卿」といい,また人と人が向かい合って坐ることを「郷」といった。 |
会意。 旧字は<皀+卩>に作り,皀(きゅう)+卩(せつ)。 皀は<皀+殳>(き)の初文。 <皀+殳>は文献に簋に作り盛食の器。 皀の上に蓋を加えると,食の字となる。 卩は人の跪坐する形。 食膳の前に人が坐る形は<皀+卩>,すわち席に即く意。 左右に人が坐するときは郷<中央は皀字>(郷),饗・<郷/向>の初文。 すべてその位置に即き,その任に即くことをいう。 遅滞なくそのあとで行動するので即時の意となる。 |
人がすわって食物を盛った食卓の側にくっついたさまを示す会意文字。則(そばにくっつく)-側(そば)と同系のことば。のち,副詞や接続詞に転じ,口語では便・就などの語にとってかわられた。
※ 「既」(=<皀+旡>)の《旡》は,腹いっぱいになっておくびの出るさま。 既は,「ごちそう+音符旡」の会意兼形声文字で,ごちそうを食べて腹いっぱいになること。 限度まで行ってしまう意から,「すでに」という意味を派生する。 漑(田畑に水をいっぱい満たす)-概(ますに米をいっぱい満たす,ますかき棒)-慨(胸いっぱいになる)などは同系のことば。
※ 「食」は,「Α(集めてふたをする)+穀物を盛ったさま」をあわせた会意文字。 容器に入れて手を加え,柔らかくして食べることを意味し,飴(穀物に加工して柔らかくしたあめ)-飼(柔らかくしたえさ)-式<ショク>(作為を加える)などど同系のことば。 |
酒 シュ |
会意。 《水》と《酉》からなる。 穀物や果実から醸した「さけ」の意。 《酉》は酒を入れた壺の形をかたどっている。 殷の滅亡の原因は上下をあげて飲酒に耽ったことにあったとされるが,祭祀を重んじた古代国家では神事に酒が必要であり,殷人の飲酒は必ずしも享楽のためではなかった。 前漢末期,王莽が,当時国家の統制販売品であった塩・鉄・酒について,官吏と大商人が結託して値段を吊り上げる情況を見て,改善の命令を発した。 その中に「其れ塩は食肴の将なり。 酒は百薬の長にして,嘉き会のよろしきものなり。 鉄は田農の本なり。・・・・」という文句がある。 |
形声。 声符は酉(ゆう), の省文。 酉は酒樽の形。 酒樽より酒気の発するとことを といい, をもつことを尊(樽)という。 禹のとき儀狄が酒を作り,また杜康が酒を作ったという起源説話がある。 |
<シュウ>は酒つぼから発酵した香りの出るさまを描いた象形文字で,酒の原字。 酒は「水+酉(酒つぼ)」の会意文字で,もと,絞り出した液体の意を含む。 酉は口の細い酒壺を描いた象形文字。 |
香 コウ ・キョウ |
会意。 《黍》(穀物のキビ)の省略形である《禾》と《甘》(あまい。《曰》はその省略形)とからなる。 キビから作った酒が発する芳香の意で,そこから一般的にいい香りを表す。 |
会意。 正字は黍に従い,黍(しょ)+曰(えつ)。 [説文]に「芳なり」とあり,黍と甘との会意文字とするが,甘はもと甘美の字でなく,嵌入の形であるから,甘美の意を以って会意に用いることはない。 字の初形がなくて確かめがたいが,黍をすすめて祈る意で,曰は祝詞の象であろう。 黍は芳香のあるものとされ,[左伝,<人+喜>五年]「黍稷の馨(かんば)しきに非らず。 明徳惟れ馨し」「明徳を以って馨香を薦む」とは黍稷の馨香を以って神に薦めるもので,甘美の意味ではない。 |
篆文は 「黍(きび)+甘(あまい)」 の会意文字で,きびを煮たときに漂ってくるよいにおいをあらわす。 空気の動きによって伝わる意を含む。 向(空気の通る換気口)-響(空気に乗って伝わる音)と同系のことば。 |
梅 バイ |
会意。 《木》と音符《毎》バイとからなる。 ウメの実はたくさん実り,悪阻(つわり)の症状にきくことから,安産や結婚に関するめでたいシンボルとされる。 「某」という字はもともと「ウメ」という植物を意味することばだった。 しかしやがて「なにがし」「だれそれ」という意味で使うのがふつうとなり,《某》に改めて木ヘンを加えた《楳》を作りウメの意味を表すようになった。 だからこの字にはヘンとツクリの下部の二ヶ所に「木」があるという妙なことになっている。 この《楳》の異字体として使われたのが《梅》である。 六月頃の長雨を「梅雨」と書くのは,ちょうど梅の果実が実る頃に降るからだと説明される。 異説があって,その頃はジメジメして衣服によくカビが生えるので,最初は「黴雨」と書いたが,のちに美称の「梅雨」に変わったというもの。 |
形声。 声符は (毎)。 [説文]に「<木+冄>(くすのき)なり。 食らふべし。 木に従い毎聲」とし,また楳を録して某声とする。 前条に「<木+冄>(ぜん)は梅なり」とあって,互訓。 荊州では梅,揚州では<木+冄>という。 また,某字条に「酸果なり」とあり,某を楳の初文とする。 某は金文では曰(えつ)と木に従い,木の枝に願文をかけ神に謀り禱(いの)る意で,謀の初文である。 |
(=毎)は,まげ+音符母の会意兼形声文字で母親がどんどん子をうむことを示す。 梅は「木+音符 」 の会意兼形声文字で,多くの実をならせ,女の安産をたすける木。 莓(どんどん子株をふやすいちご)-媒(男女に子をうませる仲介をする)と同系のことば。
※ 「某」は「木+甘(口に含む)」の会意文字で,梅の本字。 なにがしの意味に用いるのは当て字で,明確でないとの意を含む。 |
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V 社会と国家 |
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家 カ ・ケ |
会意。 《宀》(屋根の象形)と《豕》(神に供えられる犠牲としてのブタ)とからなり,動物を犠牲として供えてお祭りをする,先祖の位牌を安置してある廟(たまや)を指す。 もとは家屋の中で最も神聖な建物を指した。 この「家」と同様の作り方をする文字に「宮」がある。 《宀》の下に《囗》が二つ並んでいるが,この《囗》は祭りを行う部屋を平面的に描いたものである。 だから「宮」も最初から宮殿の意味を持っていたのではなく,本来は祖先の位牌を安置した廟であった。 神聖な「家」や「宮」には,祭祀の時に家族の主要な構成員が集まった。 そこから意味が拡大して,人間が居住する空間,さらにそこに暮らす人間をも「家」で表すようになった。(ex..一家,平家,音楽家,儒家) |
会意。 宀(べん)と豕(し)。 金文の豕の字形は<豕+丶><豕の中央に斜め横棒>(<豕+殳>殺(たくさつ)した犬牲)に従う形。 犠牲を埋めて地鎮を行った建物の意。 卜辞では「上甲の家」のように,その廟所の意に用いる。
※ <豕(し):象形。 豕(ぶた,いのこ)の形。 [説文]に「彘(てい)なり。 其の尾を竭(つく)す。 故に之を豕と謂ふ」とするが「尾を竭す」とは尾までを加えた意であろう。 彘は矢に従い,卜文では豕を矢が貫く形にしるされている。 ※ 屋:尸+至。 至は矢の至り止まるところ。 地を卜するのに,矢を放ってその達するところよって占地をした。 廟所として祀るところを室,しばらく屍体を置いて風化を待つところを屋という。 |
「《宀》(やね)+《豕》(ぶた)」の会意文字で,大切な家畜に屋根をかぶせたさま。 廈(大屋根をかぶせたいえ)ともっとも近い。 仮(仮面をかぶせる)-胡(上からかぶさってたれるにく)と同系のことば。
※ 胡は「肉+音符古」の形声文字で,大きく表面を覆い隠す意。
※ 房は両わきのへや, ※ 舎は体をゆるめて休む所, ※ 屋は上からたれるおおい・屋根, ※ 宅はじっと定着する住居, ※ 室は行き詰まりの奥べや。 |
国 コク |
会意形声。 本来の字形は「國」。 《囗》(城壁で囲まれた地域)と,音符と意符を兼ねる《或》ワク→コク(くに)とからなる。 《或》は「國」の原字で,会意,《囗》と《戈》(ほこ)と《一》(土地の境界線)とからる。 中国の歴代王朝の皇帝の中で自分専用の漢字を作った唯一の皇帝が則天武后(武照)である。 「則天文字」の中でよく知られた字は「天・地・日・月・星・戴・年・照・聖・授・戴・国」など。 この時「国」に代わる文字として作られたのが「圀」である。 これは《八》と《方》を《囗》で囲んだ形で,広く世界の四方八方を自分の領土に囲い込もうとする強欲な意識の産物である。 この字は何故か水戸のご老公こと「水戸光圀」の名前に採り入れられた。 |
会意。 旧字は國に作り, 囗(い)+或(わく)。 或は囗と戈(ほこ)とに従い,囗は都邑の城郭,戈を以ってこれを守るので,或は國の初文。 國は或にさらに外郭を加えた形である。 もと国都をいう。 ・・・・国は軍事的,邦は宗教的な性格をもつ字である。 金文に,古くは或を用い,また国家のことは邦家というのが例であった。 |
或<ワク>は「弋(くい)+囗(四角い区域)」の会意文字。 金文の或の字は,囗印を上下両線で区切り,そこに標識のくいを立てることを示す。 弋はのち戈(ほこ)の形となり,ほこで守る領域を示す。 國は「囗(かこい)+音符或」の会意兼形声文字で,わくで境界を限る意を含む。 或-域-國はもと同系のことばであったが,のち,或は有(ある,あるいは)に当てられ,域は地域の意に用いられる。 国,圀は國の異体字。 |
王 オウ |
象形。 幅の広い刃に長い柄を取り付けた,大きな鉞(まさかり)を支柱に立てかけた形にかたどる。 古代中国では大きな鉞が,王者の実力と権威の象徴とされ,王が座る位置に大きな鉞が置かれていた。 |
象形。 鉞(まさかり)の刃部を下におく形。 王位を象徴する儀器。 卜文・金文の下画は強く彎曲して,鉞刃の形をなしている。 皇は鉞頭に玉飾りを加えてかがやく意。 王・皇とも王の儀器である。 |
「大+━ 印(天)+━ 印(地)」の会意文字で,手足を広げた人が天と地の間に立つさまを示す。 あるいは,下が大きく広がった,おのの形を描いた象形文字ともいう。 もと偉大な人の意。 旺(さかん)-汪(ひろく大きい)などと同系のことば。 |
道 ドウ ・トウ |
《 》(道路)と《首》(くび)とからなり,異民族の首を手に持って歩くことを示す。 首を魔よけとして荒野を跋扈する悪霊を祓いながら作っていく道,の意。 【白川静氏が初めて唱えた説】 |
会意。 首(しゅ)+辵(ちゃく)。 古文は首と寸に従い,首を携える形。 異族の首を携えて除道を行う意で,導く意。 祓祭を終えたところを道という。 |
「辵(彡/疋<但し疋から一を省いたもの>)+音符首」の会意兼形声文字で,首(あたま)を向けて進みゆくみち。 また迪<テキ>(みち)と同系と考えると,一点から出てのびていくみち。 |
武 ブ ・ム |
会意。 《戈》カ(ほこ=武器)と《止》(人の足跡)とからなり,武器を持って進軍することを示す。 もとは「戦争」の意。 そこから「勇気」の意味に使われる。 古くは武器の使用を止めるのが真の「武」(勇気)とする説(『春秋左氏伝』宣公十二年による)があったが,それは《止》の意味を取り違えた誤りである。 《止》は人の足跡が前後に並んださまをかたどった象形文字で,本来は「人間の足」を意味し,そこから「進む」ことを表す漢字だった。 |
会意。 止(し)+戈(か)。 止は趾の形で, (歩)の略形。 戈(ほこ)を執って前進することを歩武という。 歩武の堂々たることをいう。 |
「戈(ほこ)+止(あし)」の会意文字で,戈を持って足で堂々と前進するさま。 ない物を求めてがむしゃらに進む意味を含む。 賦(求める)-慕(求める)-摸(さぐる)-驀(馬がむやみに前進する)-罵(むやみにつきかかる,ののしる)と同系のことば。
※ 慕=心+音符莫。 莫は草むらに日が没して見えなくなるさま,ない意を表す。 慕で身近にないものを得たいと求める心のこと。 ※ 罵=网(あみ)+音符馬。 馬が突進するように,相手かまわず押しかぶせる悪口のこと。 |
正 セイ ・ショウ |
会意。 《囗》(城壁に囲まれた集落)と《止》(人の足跡)とからなり,集落に向って攻撃を仕掛けることを表す。 他者に戦争をしかけることで勝者が自分を正当化することから,やがて「ただしい」という意味に使われるようにった。 戦争をしかける意味として,改めて「道路・行進」を示す《彳》をつけた「征」が作られた。 「正」と「征」はこのように親子の関係にある文字なので,「古今字」という。 「正」の一番上にある横線の画は,古くは《□》か《○》という形に書かれていたのが変わったもの。 |
会意。 一+止。 卜文・金文の字形は一の部分を囗(い)の形に作り,囗は都邑・城郭の象。 これに向って進む意であるから,正は征の初文。 征服者の行為は正当とされ,その地から貢献を徴することを征といい,強制を加えてそれを治めることを政という。 征服・征取・政治の意より正義・中正へ,また純正・正気の意となる。 |
「一+止(あし)」の会意文字で,足が目標の線めがけてまっすぐに進むさまを示す。 征(まっすぐに進む)の原字。 |
旅 リョ |
会意。 《<方+人>》(意味:上に吹き流しをつけた旗)と《人》からなる。 「旅」は旗を持った人の後ろに,何人かがつき従って歩くさまを示す。 「旗」や「族」,「旋」などと同類で,氏族のシンボルである旗を立てて行進するのは戦争のため。 「旅」は軍団の編成単位を示す文字で,古い文献には「軍の五百人を旅となす」とある。 のち広く「人が移動する」ことをいうようになった。 |
会意。 <方+人>(えん)+从(じゅう)。 从は從(従)の初文で,前後相従う人。 氏族旗を奉じて,一団の人が進む意で,その軍団をいい,また遠行することをいう。 軍旅のことに限らず,別宮に赴いて祭ることを旅祭といい,その祭器を旅彝(りょい)という。
※ 彝:@宗廟に供える重要な器の総称。 Aつね 一定の格式 |
「<方+人><《方》と「旗」や「旅」の右半分の上とを組み合わせた形>(はた)+人二人」の会意文字で,人々が旗の下に隊列を組むことを示す。 いくつもならんで連なる意を含む。 軍旅の旅がその原義に近い。 侶<リョ>(ともがら)-呂<リョ>(ならんだ背骨)などと同系のことば。 |
寺 ジ |
形声。 《寸》(はかる)と音符《之》シ(《土》はその変わった形)とからなる。 本来は「持」の原字で,「もつこと」。 また「侍」の原字で「接待すること」も表した。 転じて,諸般の雑務をつかさどる役所のこと。 漢代に西域から来た僧を鴻臚寺という接待所に泊めたため,のち寺を仏教寺院の意に用いるようになった。 《寸》は右手をかたどった象形文字で,ここでも「ものを手にもつ」ことを意味する要素として使われている。 実際に「寺」を「もつ」とか「保持する」という意味で使った用例が,西周時代の鐘に記録された銘文や,中国最古の石刻として知られる「石鼓文」などに残っている。 のち寺院の意で用いられることが多くなったので,本来の意味を表すためにあらためて《手》をつけ加えた「持」が作られた。 つまり「寺」は「持」の原字である。 サンスクリット語で「寺院」にあたる建物をサンガーラーマという。 中国では仏典の翻訳にあたってこれを音訳して「伽藍」と書き,また修行に精励する僧尼の住む舎という意味で「精舎」と訳された。 今でいう「寺院」は,最初は「寺」とは訳されなかったのである。 |
形声。 声符は之(し)。 寸は手にものをもった形。 寺は持の初文。 ある状態をしばらく持ち続けること。 官府の意をもって解するのは漢以後の用羲である。 外交の役所であった鴻臚寺を,のち浮屠(僧)の居舎としたので,のち仏寺の意になった。 |
「寸(て)+音符 (=之(足で進む))」の会意兼形声文字。 手足を動かして働くこと。 侍(はべる)や接待の待の原字。 転じて雑用をつかさどる役所のこと。 また漢代に西域から来た僧を鴻臚寺という接待所に泊めたため,のち寺を仏寺の意に用いるようになった。 |
貝 バイ |
象形。 子安貝(こやすがい)の貝殻の形にかたどる。 そこから「かい」の意を表す。 古代中国では南海に産する子安貝が貴重視され,貨幣としての役目も果たしたことから,広く「財産」また「宝物」の意を表す。 子安貝は黄河中流域にあった殷王朝が,遥か東南沿岸地方の国から入手したもので,貴人が没した後は,大量の子安貝が遺骸とともに墓に埋葬された。 |
象形。 子安貝の形。 子安貝は古くは呪器とされ,また宝貝とされた。 子安貝の原産地は沖縄であったと考えられ,これを入手することはかなり困難であったらしく,殷・周期の装飾品には,玉石を以ってその形に模したものが多い。 のちの財宝関係の字は多く貝に従う。 |
われめのある子安貝,または二枚貝を描いた象形文字。 古代には貝を交易の貨幣に用いたので,貨・財・費などの字に貝印を含む。 敗(二つにやぶれる)-廃(われてだめになる)-肺(左右二つにわれたはい)と同系のことば。 |
芸 ゲイ |
象形。 本来は藝と書く。 植物の苗を土に植えようとしている形にかたどる。 もとは「人間の精神に何かを芽生えさせるもの」の意。 心の中に豊かに実り,やがて大きな収穫を得させてくれるものが「藝」であり,その代表は学問であった。 そこから「芸術」「芸能」の意味に使われる。 日本で使われる「芸」はもと別字で音はウン,《艸=草》と音符《云》ウンからなる。 形声。 防虫剤として使われる香り草の名前。 日本では早くから「藝」の略字として使われた。 |
会意。 旧字は藝に作り蓺(げい)音。 芸は藝の常用字体であるが,別に耕耘除草をいう芸(うん)がある。 正字は蓺に作り,坴(りく)と (げき)に従うとする。 土塊を持ち種芸する形と解するものであろう。 卜文の字形は苗木を奉ずる形であり,金文にはこれを土に植える形に作る。 土は<示+土>(社)の初文ともみられ,特定の目的で植樹を行う意であろう。 すなわち神事的,政治的意味をもつ行為である。 |
原字は執で,「木+土+ (人が両手を差し伸べたさま)」の会意文字。 人が植物を土に植え育てることを示す。 不要な部分や枝葉を刈り捨ててよい形に育てること。 刈と同系のことば。 芸は本来ウンと読み,田畑を耕して,草をとることだが,形が似ているため藝と混同されたもの。 |
文 ブン ・モン |
象形。 胸の中央に「文身」(=入れ墨)を施した人を正面から見た形にかたどる。 古代には成人した若者や死者などの身体に一定の図案を入れ墨として施す習慣があり,そこから「文」が「きらびやかな模様=あや」という意味を表すようになった。 「文章」も本来はきらびやかな世界を文字で表現したもののことである。 入れ墨とは,特定の部族や集団の構成メンバーが必ず通過しければらい社会的慣習(これを「通過儀礼」という)として身体に加える装飾のことである。
≪前述の「辛」の項目を参照のこと≫ |
象形。 文身の形。 卜文・金文の字形は,人の正胸形の胸部に文身の文様を加えた形。 文様には×や心字形を用いる。 凶礼のときには×形を胸郭に加えるので,凶・兇・匈・胸(きょう)は一連の字。 婦人を葬るときなどに両乳をモチーフとして加え,爽・爾(じ)奭(せき)はその象。 みな美しい意がある。 元服を示す彦は旧字は に作り,産は に作る。 その文は,厂(かん)(額)に文身を加える意で,産は生子の額にアヤッコ(綾子)をしるす意。 額に文身を加えたものを (顔)という。 |
もと,土器につけた縄文の模様のひとこまを描いた象形文字で,こまごまと飾りたてた模様のこと。 紋の原字。 のち,模様式に描いた文字や,生活のかざりである文化などの意となる。 |
義 ギ |
会意形声。 《羊》(ひつじ)と《我》(のこぎり)からなり,《我》ガ→ギは音符を兼ねる。 神の前で犠牲のひつじを切るときの敬虔な気持ちを表す。 そこから,「ただしい」,また「人としてふみおこなうべきみち」の意を表す。 《羊》の文字はヒツジの特徴である角の形にかたどったもの。 『説文解字』の羊部には「羔」(こヒツジ),「<羊+宁>」(生後五ヶ月のヒツジ),「<(矛+攵)/羊>」(生後六ヶ月のヒツジ),「<羊+兆>」(一歳未満のヒツジ)など,大きさや年齢によって細分化した意味を表す漢字が収められている。 「美」は《羊》と《大》からなる会意文字で,神様に供えられるヒツジが大きければ大きいほど神様に喜ばれるので,「りっぱなもの」「すばらしいもの」という意味を表した。 《我》を人称代名詞として使うのは,当て字として使われた結果である。 |
会意。 羊+我。 我は鋸(のこぎり)の象形。 羊に鋸を加えて截り,犠牲とする。 その牲体に何らの欠陥もなく,神意にかなうことを「義(ただ)し」という。 羲はその下体が截られて下に垂れている形。 金文に「義(よろ)しく〜すべし」という語法がみえ,宜と通用する。 宜は且(そ)(俎)上に肉をおく形。 神に供薦し,神意にかなう意で,義と声義が通ずる。 |
我は,ぎざぎざとかどめのたったほこを描いた象形文字。 義は,「羊(かたちのよいひつじ)と音符我」の会意兼形声文字で,もと,かどめがたってかっこうのよいこと。 きちんとしてかっこうがよいと認められるやり方を羲(宜)という。
※ 宜は「宀(やね)+多(肉を盛ったさま)」の会意文字で,肉をたくさん盛って,形よくお供えするさまを示す。 転じて,形がよい,適切であるなどの意となる。 羲(よい)-儀(形のよい姿)などと同系のことば。 |
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W 自然と生物 |
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山 サン ・セン |
象形。 地表からやまがそびえる形にかたどる。 やまの意。 非常に古い時代,中国では山をかたどったフォルムとしてやまを「△△△」と書いた。 |
象形。 山の突出する形に象る。 山は古代の信仰の中心をなすものであった。 山には霊力を蔵する力があると考えられていたようである。
※ 岡は鋸型の型である网(もう)に火を加え焼成によって剛くなる意で,剛はその鋳型を裂く意。 ※ 密は宀(べん)と戈(か)と火に従い,神刀に火を入れる意で,山の部分はもと火の形である。 |
△型のやまを描いた象形文字で,△型の分水嶺のこと。 嶺は高く切りたったやま,丘は盆地をかこむ外輪のやま。
※ 岡は「山+网(つな)」の会意文字。 网は網の原字であるが,ここでは綱を示すと考えたほうがよい。 かたく,まっすぐな意を含む。 丘は低くて上がくぼんだ台地。 |
莫 ボ・モ ・バク ・マク |
会意。 上下二つずつの《艸》(=草)と《日》(=太陽)とからなり,草むらの中に太陽が沈む時間,すなわち「夕暮れ」の意味わ表す。 のち借りて「・・・・なし」という意味で使われるようになったので,,本来の夕暮れの意味を示す文字として,さらに《日》をつけ加えた「暮」が作られた。 |
会意。 <艸/艸>(ぼう)+日。 草間に日が沈むときの意で,暮の初文。 莫が否定詞などに使われ,さらに日を加えて暮となった。 金文には専ら否定詞に用いられ旦暮の意の例がなく,亞(亜)中に莫をしるして,墓の意を示したかとみえる例がある。 |
草原のくさむらに日が隠れるさまを示す会意文字。 暮の原字。 隠れて見えない,ないの意。 幕(見えなくする布)-墓-無-亡と同系のことば。 |
月 ゲツ ・ガツ |
象形。 つきがかけた形にかたどる。 天体としての月の意。 そこから月が地球を一周する時間を表す。 「肉」という字が他の字を構成する要素として使われる時には《月》と書く。 「胴」や「肌」という字の部首になっている「月」がそれで,日本では「ニクヅキ」と呼ぶ。 『康煕字典』によれば,ニクヅキと天体のツキはもともと字形が微妙に異なっており,ニクヅキは中央の二本線を左右にくっつけて書き,ツキは二本線を左にくっつけ,右にはつけないのが正しいとされる。 |
象形。 月の形に象る。 卜文の字形は時期によって異なり,月と夕とが互易することがあるが,要するに三日月の形である。 |
三日月を描いた象形文字で,まるくえぐったように,中が欠けていく月。 刖(まるく中をえぐる)-外(まるくえぐって残ったそとがわ)と同系のことば。 |
夕 セキ |
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象形。 夕の月の形。 殷・周期には古く朝夕の礼があり,金文に「夙夕(しゅくせき)を敬(つつし)む」という語がみえ,夙夕に政務が行われた。 また大采・小采といい,その時会食し,同時に政務をとった。 その大采の礼を朝といい,朝政という。 ※ 朝:会意。 艸(そう)+日+月。 艸は上下に分書,その間に日があらわれ,右になお月が残るさまで,早朝の意。 |
三日月の姿を描いた象形文字。 夜(ヤ)と同系で月の出る夜のこと。
※ 朝:金文は「草+日+水」の会意文字で,草の間から太陽がのぼり,潮が満ちてくる時を示す。 篆文は「幹(はたが上るように日がのぼる)+音符舟」からなる形声文字で,東方から太陽の抜け出るあさ。 |
雷 ライ |
古代文字は象形。 稲光が空中を回転しながら光る形にかたどる。 「雷」は形声。 《雨》(あめ)と音符《畾》ライ(《田》はその省略形)とからなる。 「震」という漢字は本来は急に激しく鳴る雷のことであった。 それが「ふるえる」という意味で使われるようになったのは,雷鳴にともなう激しい空気の振動から連想された結果である。 |
形声。 正字は靁に作り畾(らい)声。 金文に に作り,電光の放射する形で,もと象形字である。 |
畾<ライ・ルイ>は,ごろごろと積み重なったさまを描いた象形文字。 雷はもと「雨+音符畾」の会意兼形声文字で,雨雲の中に陰陽の気が積み重なって,ごろごろと音を出すこと。 壘(=塁。積み重なった土)と同系のことば。 |
申 シン |
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象形。 電光の走る形に象り,~(神)の初文。 電の下部は,その電光の屈折して走る形。 金文には申を神の意に用いる。 [詩,小雅,采菽]に「やR之を申(かさ)ぬ」のように申重の意に用い,また上申・申張のように用いる。 伸はその派生字である。 |
甲骨文字と金文とは,いなづま(電光)を描いた象形文字で電の原字。 篆文は「臼(両手)+h印(まっすぐ)」の会意文字で,手でまっすぐ伸ばすこと。 伸(のばす)の原字。
【注記】臼はここでは最下線が中央線同様に不連続な文字(キク)の代用として使用。 |
北 ホク |
象形。 たがいに背を向けあっている人の形にかたどる。 たがいにそむきあうことで,「背中」あるいは「そむく」の意。 方角の「きた」は,太陽に向った時に背中がある方向。 戦いに負け,敵に背中を見せて逃げることを「敗北」というのはそのためである。 ちなみに「背」はこれに身体を表す意符の《肉=月》を加えた形。 |
会意。 二人相背く形に従い,もと背を意味する字。 [説文]に「乖(そむ)くなり。 二人相ひ背くに従ふ」とあり,また日に向って背く方向の意より,北方をいい,背を向けて逃げることを敗北という。 |
左と右の両人が,背を向けてそむいたさまを示す象形文字で,背を向けてそむく意。 また背を向けて逃げる,背を向ける寒い方角(北)などの意を含む。 |
春 シュン |
形声。 《日》(太陽)と音符《艸/屯》トン・チュン→シュンとからなる。 草が芽生える春の意。 『詩経』の「七月」という詩に「女の心傷み悲しむ」という句があり,それに対して後漢の学者が「春には女は陽の気に感じて男を想い,秋には男は陰の気に感じて女を想う」と注釈をつけている。 「春」に「エッチ」という意味があるのは,女が春に男を求めることから派生した結果のである。 であるなら「秋」にも当然「エッチ」という意味があるべきだ。 |
形声。 正字は<草かんむり/屯/日>に作り,屯(ちゅん)声。 [説文]に「日と艸と屯とに従ひ屯の亦聲」とする。 屯の声義をとるとれば,屯を屯蒙の象として,草木初生の時とするものであるが,屯はもと屯頓の意ではなく,衣の縁飾(へりぬい)の象である。 ただ金文の春の字に, 若の初形に従うらしい形があり,草木の初生を以って春とする考え方はあったものと思われる。 |
屯<トン・チュン>は,生気が中にこもって,芽がおい出るさま。 春はもと「草かんむり+日+音符屯」の会意兼形声文字で,地中に陽気がこもり,草木がはえ出る季節を示す。 頓(ずっしりと頭を下げる)-純(ずっしりとたれた縁どり)-蠢(中にこもってうごめく)などと同系のことばで,ずっしりと重く,中に力がこもる意を含む。 |
屯 トン・ チュン |
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象形。 織物の縁飾(へりかざり)の形で,純の初文。 屯は縁の糸を房飾りのように結んだ形。 織物では織糸を集め束ねて作るので,屯束・屯集の意がある。 屯難(ちゅんなん)の義は引伸,字形は草の初生とは関係ない。 |
「―+屮(草の芽)」または「屮+・印」の会意文字で,ずっしりと生気をこめて地上に芽を出そうとして,出悩むさま。
【注記】屮はここでは中央線が直線である古文字の代用として使用。 |
夏 カ・ゲ |
象形。 人が大きな仮面をかぶって舞っているさまにかたどる。 もとは舞の名。 借りて,季節の意に用いる。 古代中国に「大夏」という楽曲があったとされる。 やがてこの優美な舞に象徴される優れた文化をも「夏」という文字で表すようになった。 「夏」は世界の中心にある国,すわち中国という意味で使われ,周辺の未開で野蛮な「夷」と対比される。 この文字が季節の意味で使われるようになったのは,単にその舞と季節の名称が同じ発音だったからにすぎない。 |
象形。 舞冠を被り儀容を整えて舞う人の形。 [説文]に「中国の人なり。 夊(すい)に従ひ,頁(けつ)に従ひ,臼(きく)に従ふ。 臼は両手,夊は両足なり」とし,古文一字を録する。 金文の字形は舞冠を着け,両袖を舞わし,足を高く前に挙げる形になり,廟前の舞容を示す。 古く九夏・三夏とよばれる舞楽があり,[周礼]にみえる。 夏を中国の意に用いることは春秋期の金文に至ってみえ,[秦公<皀+殳>(き)]に「蠻夏」の語がある。 また季節名に用いることも,春秋期以後にその例がみえる。
【注記】臼はここでは最下線が中央線同様に不連続な文字(キク)の代用として使用。 |
頭上に飾りをつけた大きな面をかぶり,足をずらせて舞う人を描いた象形文字。 仮面をつけるシャーマン(みこ)の姿であろう。 大きなおおいで下の物をカバーするとの意を含む。 転じて,大きいの意となり,大民族を意味し,また草木が盛んに茂って大地をおおう季節を表す。 廈(大きい家)と同系のことば。 |
秋 シュウ |
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会意。 正字は龝<但し龜の下に四点の火灬>に作り,禾(か)+龜+火。 龜は穀につく虫の形。 卜文に秋に虫害をなすものを焚く形の字があり,おそらく秋と関係ある字であろう。 卜文に四季の名を確かめうる資料はない。 秋は龝<但し龜の下に灬>の字形から螟螣(めいとう)などの形を除いた字形であろう。 |
もと,「禾(作物)+束(たばねる)」の会意文字で,作物を集めてたばねおさめること。 第二字は「禾(作物)+龜+火」の会意文字で,龜を火にかわかすと収縮するように,作物を火や太陽でかわかして収縮させるもとを示す。 収縮する意を含む。 揪(引き縮める)-愁(心が縮む)と同系のことば。 また縮(ちぢむ)とも縁が近い。 |
冬 トウ |
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象形。 糸を結びとめた形。 末端を終結する形で,終の初文。 [説文]に「冬聲として終・螽など四字を収める。 のち秋冬の字に用いて,別に終が作られた。 |
もと,食物をぶらさげて貯蔵したさまを描いた象形文字。 のち,冫印(氷)を加えて,氷結する季節の意を加えた。 物を収蔵する時節のこと。 音トウは蓄(たくわえる)の語尾がのびたもの。 終(糸を最後まで巻いてたくわえた糸巻きの玉)と同系のことば。 |
馬 バ ・メ・マ |
象形。 うまを横から見た形にかたどり,うまの意を表す。 長いたてがみと,先が細く分れた尾が,字形にみごとに描かれている。 「南船北馬」という語が示すように,特に中国北方の地域では,馬は重要な交通手段であった。 「天高く馬肥ゆる秋」という句は,万里の長城の北側にいる外敵が,肥え太った馬に乗って中国国内に侵入して来ることに対する警戒を呼び掛ける詩の一節から出典である(詩の作者は杜甫の祖父にあたる人物)。 |
象形。 卜文・金文の字形は鬣(たてがみ)のある馬の形。 |
うまを描いた象形文字。 古代中国で馬の最も大切な用途は戦車を引くことであった。 向こう見ずに突き進むとの意を含み,武(危険をおかし,何かを求めて進む)-驀(あたりかまわず進む)-罵(相手かまわずののしる)と同系のことば。 |
羊 ヨウ |
象形。 ヒツジのつのの形にかたどる。 「十二支」という考え方のルーツはおそらく西アジアあたりと考えられ,中国にはまずそれを表す音声だけが伝わった。 そのことばを文字で表す時に,同じ音の漢字があてられた。 つまり当て字として使われたのが「子丑寅・・・・」だったのだろう,と私は推測する。 エトでヒツジを表す「未」はもともと樹木がうっそうと茂っているさまをかたどった文字であった。 しかし「未」をその意味で使った例はまったくなく,ほとんどの場合,「いまだに・・・・でない」という否定詞で使われている。 中国に豚肉をたべない回族が増えてくると,さまざまな羊料理が開発された。 そんな中に羊の血を原料として作ったスープがあり,それを「羊羹」と呼んだ。 それを日本人が植物性のベニで代用して菓子としたものが,日本の「羊羹」なのである。 |
象形。 羊を前からみた形で,牛と同じかきかたである。 羊は羊神判に用い,・善の字は羊に従う。 卜辞に羌人を犠牲とするものが多いが,かれらが牧羊族であったことと関連があるかもしれない。 |
羊を描いた象形文字。 おいしくて,よい姿をしたものの代表と意識され,養・善・義・美などの字に含まれる。
「未」は木のまだのびきらない部分を描いた象形文字で,まだ・・・・していないの意をあらわす。
「子」は,小さいこども描いた象形文字。 もう一種類の象形文字は,こどもの頭髪がどんどん伸びるさまを示し,主に十二支の子<シ>の場合に用いた。 のち両者は混同して子と書く。
「丑」は扭<チュウ>(つかむ)の原字。 手の先を曲げてつかむ形を描いた象形文字。 すぼめ引き締める意を含み,紐<ジュウ・ニュウ>(締めひも)-扭(締めてひねる)-鈕(締め金具)などの字の音符となる。。 殷代から十二支の二番目の数字に当て,漢代以後,動物・時間・方角などに当てて原義を失った。
「寅」の原字は「矢+両手」の会意文字で,矢をまっすぐのばす意を示す。 寅はそれに宀(いえ)を添えた会意兼形声文字で,家の中で身体を伸ばして,いずまいを正すこと。 引(のばしひく)-伸(のばす)と同系のことば。 |
象 ショウ ・ゾウ |
象形。 ゾウの全身の形にかたどる。 借りて,「すがた」の意に用いる。 象は青銅器の表面を飾る紋様としてもしばしば描かれている。 象の魅力は単にその大きさに由来する神秘的なイメージだけでなく,「象牙」という貴重な物資を産することにもあった。 伝説によれば,「酒池肉林」の故事で有名な殷の紂王がある時象牙で箸を作らせた。 一族の箕子が諫言した。 象牙の箸で食事をすれば玉の食器が欲しくなるであろう,そうすれば食事も贅沢なものを食べたくなるであろう,服装も,宮殿も豪奢なものが欲しくなり,莫大な浪費をすれば国家の破滅につながる,諸悪の根源であると考えたのである。
※為(爲)は人間の手が象の鼻をつかんでいる形を示すもので,本来は象を使役することを意味する文字だった。 |
象形。 長鼻の獣である象の形。 [説文]に「南越の大獣なり。 長鼻,牙あり。 三年にして一たび乳す。 耳牙四足尾の形に象る」という。 卜辞に「象を獲んか」と卜するものがあり,当時は江北に象が棲息しており,捕獲して土木工事に使役していたようである。 象を象徴の意に用いるのは,(祥)との通用義であろう。
※ (祥):形声。 声符は羊。 羊に痒・詳(しょう)の声がある。 おおむねは吉祥の意に用いる。 羊神判によって吉凶を判ずることから,その意となったものであろう。 ※ 爲:「象+手」。 手で象を使役する形。 |
ぞうの姿を描いた象形文字。 ぞうは最も目だった大きいかたちをしているところから,かたちという意味になった。
爲の甲骨文字は「手+象」の会意文字で,象に手を加えて手なづけ,調教するさま,人手を加えてうまく仕上げる意。 転じて,作為を加える→するの意。 |
鳥 チョウ |
象形。 とりがとまっている形にかたどる。 さまざまな事物の起源を集めた『事物紀源』という本の中に,「卵を食べるようになった由来」という話がある。 むかし聖人が国を統治していた時代には鳳凰がいたるところにいた。 鳳凰は地上が最高に平和な状態に治まっている時に,天がそれを愛でて地上に遣わす「瑞鳥」のだが,ある時一人の人間がその卵を食べてしまった。 人間社会に愛想を尽かした鳳凰は地上から姿を消し,それとともに地上から平和は消えてしまつた。 それで後の人は,しかたなく,ニワトリやアヒルの卵を食べるようになった,という。
中国で鳥の肉を使った料理を総称する時に「鳥」という漢字をほとんど使わない。 日本で「鳥料理」といえばニワトリを使った料理と決まっているが,中国の料理では単に「鳥」といっても何の鳥か分らないというのがその主な理由なのだが,もうひとつ過去の中国語での「鳥」はあまり穏やかな文字ではなかったからだ。 この字はniaoという発音が,男のモノを意味するdiaoということばとよく似ているので,「鳥」がやがて男のモノを指して使われるようになり,さらに,「このチ○ポコ野郎」という品のない罵倒語としても使われた。 |
象形。 鳥の全形。 その省形は隹(すい)。 卜文では神聖鳥のとき,鳥の象徴字を用いることが多い。 鳥と通用し,またその音で人畜の牡器をいい,賤しめ罵る語に用いる。 |
尾のぶらさがった鳥を描いた象形文字。 蔦<チョウ>(ぶらさがるつた)-吊<チョウ>(ぶらさがる)と同系のことば。
隹<スイ>は,ずんぐりとしたとり,禽<キン>はあみでとらえて飼うとり。
北京語のniauは,ぶらりとたれた男性性器( diao=吊)と同音であるのを避けた忌みことば。 |
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その他<本書以外から> |
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白 ハク ・ビャク |
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象形。 頭顱(とうろ)の形で,その白骨化したもの,されこうべ。 雨露にさらされて白くなるので,白色の意となる。 偉大な指導者や強敵の首の髑髏として保管された。
覇者を示す霸(覇)はもと<雨/革>に作り,雨にさらされた獣皮の意。 その生気を失った白色は月色に似ていることから,月色を霸という。 |
どんぐり状の実を描いた象形文字で,下の部分は実の台座,上半はその実。 柏科の木の実のしろい中みを示す。 柏<ハク>(このてがしわ)の原字。 帛<ハク>(白い布)_粕<ハク>(色のないかす)_皅<ハ>(白い)_覇<ハ>(月のほのしろい輪郭)などと同系のことば。
※霸<ハ>:「雨(空の現象)+革(ぴんと張った全形)+月」を組みあわせて,残月や新月のときの,ほんのり白い月の全形を示した会意文字。 白(しろい)と同系のことば。 ただしその意味は多くは魄の字であらわし,覇はむしろ伯(男の長老)や父(おやじ分)に当て,諸侯のボスや長老の意に用いる。 |
告 コク ・コウ |
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象形。 旧字では<牛/口>に作り,木の小枝に,祝禱を収める器の (さい)を著けた形。 分析していえば,木の省形と口( )に従う字である。 牛+口は俗説。 卜辞に「貞(と)ふ。 疾又(あ)るに,羌甲(祖王の名)に告(いの)らんか」のように祈る意に用いる。 告はその祈りかたを示す字。 祝告の器である口をもつ形は史,史は内祭として祖廟を祀るのが原義。 その字形は申し文をつけた小枝をもつのにひとしい。 外祭のときには,その枝に吹き流しなどをつけるので,使・事(もと同形)の字となる。 使は祭りの使者で外祭,その祭りを事・大事という。 告・史・使・事はその字形において系列をなす字である。 |
牛+囗(わく)の会意文字。 梏(しばったかせ)の原字。 これを,上位者につげる意に用いるのは,号や叫と同系のことばに当てた仮借字。 「説文解字」では,つのにつけた棒が,人に危険を告知することから,ことばで告知する意を生じたとする。 |
首 シュ |
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象形。 頭髪のある首の形。 古文は に作り,[説文]に「 同じ。 古文 なり。 巛は髮に象る。 これを<髟/春>(しゅん)と謂ふ。 <髟/春>はすなわち巛なり」とする。 巛を含めて象形の字である。 字形からいえば, は髪を整えた首の形であろう。 首を倒懸する形は<目//巛>(きょう),懸繋することを縣(県)という。 |
頭髪の生えた頭部全体を描いた象形文字。 抽<チュウ>(ぬけでる)と同系のことばで,胴体から抜け出た首。また,道(頭を向けて進む)の字の音符となる。 |
妾 ショウ |
会意。 妾は,《女》の上に《辛》すなわち入れ墨が加わった形で,本来,罪を犯したり,戦争で捕虜として拉致された結果,奴隷として使役される女性を意味する字だった。 「入れ墨」とは古代で何らかの宗教的儀礼や,或いは刑罰を受けたことを示すために他者から身体に加えられる装飾であって,「遠山の金さん」のしている「彫り物」とは違う。 妾は,のちに,女性の謙称とか愛人の意味に転用された。 <同じ著者の『漢字の字源』より> |
会意。 辛+女。 辛は入墨に用いる針。 罪あるものにはこれで入墨を加える。 女には妾,男には童という。 立形の部分はもと辛であった。 本来は神に接するために,神に捧げられたもので,犠牲であろう。 のち,神殿,宮殿につかえるものとなり,また隷属のものとなった。 |
辛は,入れ墨をする刃物で,捕虜や罪人に入れ墨のしるしをつけることを示す。 妾は「辛+女」の会意文字で,入れ墨をした女どれい。 のち,妾は女性を卑しめていうことばとなった。 |
童 ドウ |
形声。 上部に《辛》が含まれるのも「妾」と同じ理由による。 「妾」や「童」は一般の成人のように髪を結うことが許されなかったため,いくつになってもザンバラ髪であった。 そのため「童」は後に未成年者,「子供」という意味で使われるようになり,そこで本来の意味を表わすために「僮」という字が作られた。 <同じ著者の『漢字の字源』より> |
形声。 金文の形は東(橐(ふくろ))に従い,東声。 のち重に従う字形があり,重声。 里はその省略形。 上部の立の部分は,古くは辛と目とに従い,目の上に入墨する意で,受刑者をいう。 |
東<トウ>(心棒をつきぬいた袋,太陽がつきぬけて出る方向)はつきぬく意を含む。 童の下部の「東+土」は重や動の左側の部分と同じで,土(地面)をつきぬくように↓型に動作や重みがかかること。 童は「辛(鋭い刃物)+目+音符東+土」の会意兼形声文字で,刃物で目をつき抜いて見えなくした男のこと。 棟(つきぬくむねの木)_通(つきぬく)などと同系のことば。 |
色 シキ・ ショク |
象形。 ひざまずいた女性の後ろから男性がおおいかぶさっているさまをかたどった字で,「後背位」というラーゲでの性交を描いた文字である。 ここから「色」は異性関係の総称として使われるようになり,さらに美しい女性を意味する字ともなった。 <同じ著者の『漢字の字源』より> |
会意。 人+卩(せつ)。 人の後から抱いて相交わる形。 [説文]に,「顔气なり。 人に從ひ,卩に從ふ」とし,人の儀節(卩)が自然に顔にあらわれる意とするが,男女のことをいう字。 尼も字形が近く,親昵の状を示す。 |
かがんだ女性と,かがんでその上に乗った男性とが体をすりよせて性交するさまを描いた象形文字。 セックスには容色が関係することから,顔や姿,いろどりなどの意となる。 |
乏 ボウ ・ホウ |
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象形。 仰向けの屍体の型。 水に浮ぶのを泛,土中に埋めるのを窆といい,・・・・字は正の反形ではなく,むしろ亡の反文に近い。
※ 亡:死者の屈肢の形。 乏・荒<但し,艸のない形>と同じく死者の象。 荒<但し,艸のない形>はなおその頭髪を存する形である。 无は乏の異体字。 |
正の字の反対の形で会意文字。 正(征の原字で,まっすぐ進むこと)とは反対の,動きがとれないの意をあらわした。 乏は貶(おとす,退ける)に含まれる。 |