第4節 妖艶! デスラーを惑わす危険な微笑み

(画面)宇宙空間。星が点々としている。
(ナレーション)・・・大宇宙の人類たちがその文明を繁栄させることにおいて,必要不可欠なのは科学力の進歩である。そして科学力の進歩は宇宙人類たちにとっての歴史のバロメーターにもなっている。どの文明にも例外無く,前世の科学力よりは後世の科学力の方が優れているのだ・・・。もちろん,科学力の暴走によりその文明自体が失われることもあるが・・・。

(画面)大マゼラン星雲の全景。
(ナレーション)・・・科学力の進歩の原動力は,実は戦いの中から生まれる。地球も例外ではない。相手を出し抜くために相手よりも優位に立とうとする闘争本能と競争心がさらなる科学力の進歩を生む。悲しい歴史の現実である。通信,ナビゲーションなどの情報収集手段はもとより,陸海空・・・さらに宇宙空間への,より高度な乗り物の開発,そしてあのコンピューターでさえ相手に優越する目的から出発しているのだ。

(画面)大マゼラン星雲の全景。クローズアップ。(%のエリアを表示)
(ナレーション)・・・古(いにしえ)より戦乱の続いていた大マゼラン星雲の科学力は群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の星々の闘争心と競争心の統合が進むにつれ,目ざましい発展を遂げてきた。兵器はもちろん,ワープ技術の向上や羅針技術の確立・・・エネルギーの開発などは,他の島宇宙と比べても例がないほどの進歩を見せている。それも全て戦いが成せた結果なのだ。・・・今でこそ,星雲全体の37%をガトランティス連邦,34%をウーム連邦が統治しており,サンザー系を含む未統治エリアが29%と膠着(こうちゃく)状態にあって,戦いそのものは落ち着いてしまってはいるが,彼らの闘争本能と競争心はいささかも衰えてはいない・・・。

(画面)宇宙空間を航行している艦隊。駆逐艦,戦艦,空母,イージス艦・・・潜宙艦の姿も見える。
(効果音)艦隊の機械音,エンジン音。
(字幕)ガトランティス第1遊動機動艦隊(画面下部横文字)
(画面)大型の宇宙戦艦の全景。
(字幕)宇宙戦艦ファスターゼ(画面下部横文字)

(画面)戦艦ブリッジ内。艦長席に座っている一人の軍人。軍帽を目深にかぶり,青い髭(ひげ)を顔の下半分になみなみと湛えている。年齢は地球時間で40代半ば。帽子の下からは鋭い目が光る。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(字幕)第1遊動機動隊司令官ファスト(画面下部横文字)
(画面)ファストの右手の描写。ペンを持っている。それを人差し指に乗せて器用に回転させている。親指と人差し指でペンを支えて再び回転させる繰り返し。・・・ペンを握りそこねて,それをとりこぼす右手。
(画面)艦長席のボックスをローアングル。無表情のファスト。ボックスから落下してくるペン。画面から退場。
(効果音)ペンが床に落ちる音。
(画面)画面右端にファストの後ろ姿。左側に歩み寄ってくる副官らしき軍人。・・・身をかがめてペンを拾う様子。再び直立して,拾ったペンを差し出す。
(画面)副官の差し出すペンを受け取るファスト。笑みを浮かべる。青い髭が動く。

(画面)宇宙空間を航行している第1遊動機動艦隊。
(効果音)艦隊の機械音,エンジン音。
(これからのナレーションは,宇宙戦艦ファスターゼの図解と共に連動)
(ナレーション)・・・大マゼランの科学力の中で,最も際立って画期的なのは”人工重力機構”であろう。恐らくこれがなければ,宇宙艦隊戦争など到底不可能だったからだ。無重力の宇宙では,たとえ全ての生命維持機能が万全だったとしても人間は長い期間にわたり健康でい続けることはできない。血流が変化し,骨がぼろぼろになってしまう。重力は人間にとって酸素と同じくらい大切なものなのだ。・・・人工重力機構の原理は意外と単純である。ある特定の元素の金属を決められた割合で融合させ,それに電流を流すだけでいい。それほどの大きさは必要無く,艦底の中央に設置するだけである。電流の強さに比例してその合金の質量も変化する。衛星なみの質量になれば,マグネットシューズ無しで艦内を歩行できる。重力は放射線状に働くので厳密にいえば艦首と艦尾では真下に重力は働いていないが,宇宙艦程度のエリアではそれほど問題にはならない。なお,重力は艦内方向にしか作用しないので他の宇宙艦には影響を及ぼさない。わずかな大きさなので艦自体の質量も増えず,操艦にも支障は出ない。急激な宇宙艦の加速,方向転換などのGや遠心力からも乗組員への影響を軽減することができる。それに何といっても重要なのは,その宇宙艦が被弾,爆発してもその恐るべき破片を他にまき散らかすのをある程度防いでくれるということだ。これによってこのような宇宙艦隊の編成も実現させることができる。まさにこの宇宙時代には無くてはならない科学の成果なのだ。・・・地球では西暦2195年に拿捕(だほ)したガミラスデストロイヤー艦からこの原理を見つけ出して,それ以後の宇宙艦に応用している。もちろん,宇宙戦艦ヤマトも例外ではない・・・。まさに戦いが地球の科学力をも進歩させた一例である・・・。

(画面)戦艦ブリッジ内。副官が正面にある艦長席ボックスへ歩み寄る後ろ姿。座っているファストが正面を向いている。表情は不明。
副官「(右手を上げる)・・・提督。まもなくガトラン系宙域へ入ります。帝星ガトランティスまで36ガトランティスアワーです」
ファスト「・・・(わずかにうなずく)」

(画面)通信要員らしき軍服の後ろ姿。ヘッドホンを左手で押さえている。
通信要員「(振り返る)・・・提督。我が艦隊よりNE方向,16万宇宙キロに第3遊動機動艦隊・・・。コーテク提督より通信が入っております。メインパネルに切り替えます」

(画面)見上げるファストのローアングル。

(画面)天井のメインパネルにノイズが走り,甘いマスクのやさ男が映し出される。髭もメガネも何もしていない。どうやらファストと同年代であるが,思いのほか若く見える。
(効果音)パネルの電子音。
(字幕)第3遊動機動隊司令官コーテク(画面下部横文字)
コーテク「(笑み)・・・よう! 久しぶりだな,ファスト。元気だったか? 相変わらず早いな」

(画面)見上げているファスト。
ファスト「・・・貴官もな。貴官にしては珍しいな。一番遅れてくると思っていたが・・・」

(画面)人なつっこい笑顔のコーテク。
コーテク「ははは。当然だろう! 連邦全域に徴収命令が下ったんだぞ。久々にどでかい戦争が始まりそうなんだ。同盟成立で緊張感のなくなったウーム防衛線なんかにいつまでもいられるものか! しかも今度の相手は銀河系だそうじゃないか。先代を打ち破った国だと聞いたぞ。あの先代を倒したんだ。さぞかし手ごたえのある国に違いない」

(画面)苦みばしった表情のファスト。
ファスト「・・・貴官は戦争を楽しみにしているように見えるな。今度の戦いは先の大帝閣下のご無念を晴らすためにレック・アルド閣下がお決めになったことだ。貴官のその振る舞いは不謹慎に映るぞ」

(画面)気にも留めない様子のコーテク。
コーテク「相変わらず,かたいな。まあ,気にするな。貴官と俺とでは捉え方が違っていても利害は一致している。同じ目的のためにお互いに協力し合おうじゃないか,ははは・・・」

(画面)宇宙空間を航行している艦隊。
(効果音)艦隊の機械音,エンジン音。
(字幕)ガトランティス第2遊動機動艦隊(画面下部横文字)
(画面)華やかな桃色の宇宙戦艦。
(字幕)宇宙戦艦エルディーノ(画面下部横文字)

(画面)戦艦ブリッジ内。艦長席ボックスに座っている赤い髪の女性戦士。軍帽の下のきりりとした表情。年齢は地球時間で30代半ば。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(字幕)第2遊動機動隊司令官エルダ(画面下部横文字)

(画面)年配の副官参謀が右手を上げる。
(字幕)副官参謀カントレムール(画面下部横文字)
カントレムール「・・・提督。第1,第3遊動機動艦隊がガトラン系に入りましたぞ。我が艦隊も0.5ガトランティスアワー後には追いつけると思いますじゃ」

(画面)きっと顔を向けるエルダ。ショートカットの髪が軍帽と程よくマッチしている。
エルダ「ファストはともかく,コーテクが一番乗りとはな。あの戦争好き,よほど張り切っているものと見える」

(画面)頭をゆっくりと下げるカントレムール。
カントレムール「(頭を上げながら)・・・しかしながら提督。最前線専門の遊動機動艦隊,全256個艦隊だけではなく防衛艦隊も半数以上徴収なされていますぞ。連邦内に残されるのは防衛艦隊数個艦隊と各惑星,陸海空軍・・・監視艦隊のみ。いかにウーム連邦の脅威が薄れているとはいえ,これでは少し本国の防衛に支障をきたすのは明白だと思いますじゃ。銀河系の地球という国はそれほどに強いのか・・・」

(画面)正面へ向き直るエルダ。
エルダ「弱くはないだろうな。ガミラスとの戦争に勝利し,大御所(おおごしょ)の彗星要塞を消滅させた。あのバルゼーでさえ手痛い目にあっているのだ・・・。聞けばあの国はイスカンダルの兵器を駆使するという。一個惑星国家とはいえ油断は禁物だ」

(画面)首を横に振るカントレムール。
カントレムール「提督は,いつもバルゼー提督を基準にお考えのようですがじゃ,バルゼー提督もかつての武勇の全盛期をとうに過ぎてしまったとのもっぱらの噂ですじゃ」
(画面)にらみつけるエルダ。
エルダ「黙れ。カントレムール。バルゼーを軽んじる発言は許さぬ。そのような戯言(ざれごと)を言う時間があったら帝星到着予定をにわかに算出せよ」

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついているレック・アルドズォーダー。
(画面)部屋の出入り口の描写。・・・ドアがスライドしてゲーニッツが入室してくる。
ゲーニッツ「(軽く頭を下げる)・・・大帝閣下。各艦隊の指揮官が全員そろいました」

(画面)頬杖からわずかに顔を上げてふりむくレック。
レック「(笑み)ふふ。意外と早かったな。さすがだな,ゲーニッツ。(立ち上がる)」
(画面)左側を向いているゲーニッツ。うれしそうに頭を深々と下げる。
ゲーニッツ「ありがとうございます。大帝閣下・・・」(言葉の途中でレックが左から右へと通り過ぎる)

(画面)広大なホール。正面からの全景。300人以上はいると思われる上級軍服たちが規則正しく整列している。全員が軍帽を左手に抱えて直立。これだけの人数がそろっているにもかかわらず,物音ひとつ聞こえない。照明は少し弱めに設定されているようだ。

(画面)ファストのアップ。軍帽を取った頭は禿げ上がっている。表情は険しい。

(画面)コーテクのアップ。額にわずかに前髪がかかっている。口には少し笑みが浮かんでいるようだ。

(画面)エルダのアップ。精悍な表情。形の良いショートカットである。

(画面)バルゼーのアップ。無表情。

(画面)上級軍服たちの中央からの視線。高くなっているステージには複数の拡声機マイクが置かれた大きなデスクが置かれている。ひときわ明るい複数の照明がデスクへ照射されている。ステージのバックには帝星ガトランティス国旗。全兵士,全国民向けの中継用であろう,実況中継カメラが数台脇を固めている。・・・やがてステージの左側からレックが姿を現す。視線は手前に向けず,歩く方向に固定されている。ゆっくりとした足取りでデスクの後ろに立ち止まると身体と共に視線を手前へ向ける。歓声は聞こえない。ガトランティスには歓声で元首を迎える習慣はないようだ。・・・手のひらを向けて中ほどまで右手を上げるレック。ここで初めて軍服たちがそれに応えるように一斉に右手を振りかざす。
(効果音)一斉に右足を踏み鳴らす足音,一回。

(画面)右手を下ろすレック。

(画面)直後に一斉に右手を下ろす軍服たちの全景。
(効果音)衣擦れの音。

(画面)デスクに両腕をつくレック。視線を振りまいて正面へ戻す。
レック「・・・今,私は圧倒されているぞ! 屈強の戦士たちよ! 只中(ただなか)にいる貴官らには実感はできぬであろう,この壮観な眺めは。私は幸せ者である。宇宙一の軍隊はまさしくガトランティスの誉れ(ほまれ)であることを。我が父,ゾッド・アルド・ズォーダーは,貴官らのような最強の盾(たて)と矛(ほこ)を私に残された。かつてガトランティス建国の折に示された破竹の精神は,世代を替えても今まだ健在であること,このレック・アルド・ズォーダー確かに感じた! 私はここに宣言する。貴官らが私に忠誠を誓うがごとく,私も貴官らに全幅の信頼を寄せるであろうことを!」

(画面)左側にレックの右斜め後ろ姿。段下の整列している軍服たち。
レック「・・・貴官らも知っていよう。我が父ゾッド・アルド・ズォーダーはガトランティス暦00026年,14万8千光年かなたの銀河系の辺境において我々の前から永遠にお隠れになった。貴官らと同様,この私でさえ感情が全身を支配し悲しみが先走ってしまったものだ。しかし,今となってはそれは父の望むものではなかったとはっきり分かる! 父は私にこのガトランティスの未来を託すにあたり,最後の試練をお与えになった! 父の死を乗り越え,さらなる強固な国民たちの結束を,この私に試されているのだ! 私は必ずやこの試練を打破し,国民たちの未来を確立し,皆とともに永遠なるガトランティスを繁栄させていかなければならない。しかしそれを達成するにはまだ私の力は非なるもの。父を偉大な存在に押し上げた貴官らの力が是が否(ぜがひ)とも必要なのである! 親愛なる戦士たちよ! この私にも力を貸してくれ!」

(軍服たちの歓声)・・・おおお!

(画面)コーテクのアップ。周囲は右手を振りかざし歓声をあげ続ける上級軍服たち。
コーテク「(笑み)・・・(小声)役者だねえ。審査員でもいるのかね」

(画面)ステージ上のレック。手前には歓声をあげながら右手を振りかざす軍服たちの後ろ姿。しばらく彼らの歓声を聞いた後,静かに両手を伏せる仕草をするレック。歓声が収まり,軍服たちが元の整列に戻る。
レック「(再びデスクに両腕をつく)・・・心強い限りだ。素晴らしき士気の高揚である。あの仇敵であるウーム連邦が同盟を求めたのもうなずける。私がかの元首であったとしても貴官らと戦火を交えるのは愚の骨頂(ぐのこっちょう)と感じたことであろう。ウーム連邦は賢明であった。・・・しかしながら,この宇宙には今まだ我々の恐ろしさを過小評価し,無知なる抵抗を試みている愚かな国が存在している! そいつらは偶然なる幸運にも気がつかず我が父を倒したことに,あごを上げてつかの間の優越感に浸っているのだ。ガトランティスなど大したことはないと。父が血と汗と涙で築き上げたこの聖なる国を唾棄(だき)し,愚弄(ぐろう)しているのだ! 新たなるガトランティス連邦を提唱するにあたって,あの国を殲滅することはけして避けられない! あの国だけは必ず撃ち滅ぼさねばならない。あの宙域にはまだ我が父の魂がさまよっているのだ! 父の安らかなる眠りを得るためにも我々は行かねばならぬ! 父,ゾッド・アルド・ズォーダーの名にかけて,父の見ている前で,我が軍団の恐ろしさを銀河系全体に響き轟かせよ! 父の仇,太陽系地球をこの宇宙から消滅させるのだ!」

(軍服たちの歓声)・・・おおお!

(画面)バルゼーのアップ。周囲は右手を振りかざし歓声をあげ続ける上級軍服たち。
バルゼー「・・・(険しい表情)」

(画面)振り向いているエルダ。

(画面)歓喜する軍服たちに応えるように両腕を上げているレック。

(画面)惑星ビーメラの全景。

(画面)惑星ビーメラ地表。夜である。衛星の光に照らされている小屋の正面。木の枝で格子状に組まれた牢屋。両側にビーメラ先住民族の姿が見える。二匹とも槍を持って地に立てている。
(効果音)静寂。虫の鳴き声。

(画面)牢屋の中。差し込む衛星の光を足元に座っている人影。・・・暗順応により少しずつ,その姿が見えてくる。

(画面)つまらなさそうに,両膝を支点に両手であごを支えているフロールの正面。
フロール「つまらないな・・・。(後ろを見る)・・・デスラー,お前はよほど牢屋に縁があるんだなあ。おかげで私まで巻き込まれてしまったぞ」
(画面)右足の膝を立てて左足を投げ出し,腕を組んで壁に寄りかかっているデスラー。
デスラー「(微笑)・・・オルカバーンよりは粗末だと思うがね。今度は助けてくれないのかな。お嬢さん」
(画面)ふくれ面で向き直るフロール。
フロール「二度と助けないと言ったはずだ」

(画面)牢屋の中からの視線。外で何やら複数の影がうごめいている。炎はたいまつのようだ。先住民たちが牢屋の前に集まって何やら話している気配。
(効果音)先住民の声。意味不明。

(画面)左側にフロール。右側からデスラーが顔を出す。
デスラー「どうやら彼らには何か目的がありそうだ。私たちを殺さずにここに閉じ込めている理由があるのだろうね」
フロール「・・・(はっと後ろを向く)」
(画面)デスラーとフロールの右斜め後ろからの描写。画面右上には牢屋の格子。外でたいまつの炎が揺らめいている。・・・後ろを振り向いているフロールが背中のサックを下ろす。それを眺めるデスラー。
デスラー「よく没収されなかったものだね」
フロール「このサックを取られそうになった時に痛がったのだ。身体の一部と思ったらしい。(サックを開ける)」

(画面)開いているサックの上からの描写。フロールの手が中から何やら四角い機械を取り出す。

(画面)左側にデスラー。右側にフロールの横顔。中央にフロールが取り出している四角い機械がある。彼らの背後にはたいまつの光。
デスラー「色々入っているんだね」
フロール「機械が好きなのだ。(機械のスイッチを入れる)・・・自動翻訳機だ。やつらの会話が聞き取れるかも知れない。もちろんガトランティス語バージョンだ」
(画面)翻訳機の描写。操作するフロールの右手。
(翻訳機からの声)・・・とじち・・・。ていく・・・。あの・・・ガトランティス人,人質・・・。取り引き・・・。ここの・・・ランティス人,この星から・・・出て行く・・・。全員・・・出て行く。・・・人質・・・返す・・・。

(画面)翻訳機のわずかな光に下から照らされているデスラーとフロールのアップ。
フロール「・・・人質? 取り引きって何だ?」
デスラー「ほう。どうやら彼らは私たちをガトランティス人だと思い込んでいるらしいね」
フロール「(顔を向ける)・・・ていうか,思い込みじゃないって。バリバリのガトランティス人だ,私は」
(画面)身体を起こしたデスラー。
デスラー「つまり,私たちを返す代わりに今常駐しているガトランティス人たちの退去を求めるつもりのようだ」
(画面)あきれはてた表情のフロール。
フロール「あうああ。私たちが人質になりうるわけがないのに・・・。追われている身の上だってぇのに。それにパメラたちが取り引きに応ずるわけないじゃないかぁ。どうせ,”はいどうぞ。殺してください”と言われるのが関の山だぞ」

(画面)首を傾けるデスラー。
デスラー「ちなみにお嬢さん。この翻訳機はどういう時に使用するんだい?」
(画面)まゆをひそめるフロール。
フロール「お? 知らないのか,デスラー。これはガトランティス人とそれ以外の言語を話す民族とのコミュニケーションを図るためのものだぞ」
(画面)人差し指であごを叩くデスラー。
デスラー「ということは,これで会話ができるということだね?」
(画面)目を細めるフロール。
フロール「おいおい。しっかりしてくれよ,デスラー。大ガミラスの総統ともあろう者が。当たり前じゃないか。なんだい,ガミラスには翻訳機がないのか? 意外と科学力が遅れているんだな」
(画面)何ともいえない表情のデスラー。
デスラー「私たちが,今話した会話はどうなるのかね?」
(画面)両目を硬くつむり,右手首を下へ折り曲げるフロール。
フロール「そんなもん,ビーメラ語に変換されて,全部やつらにつつぬけ・・・(振り返る)・・・あうあああ!」
(画面)右側にフロール左斜め後ろのアップ。左側にデスラー右斜め後ろアップ。正面の格子の外にはたいまつを持ったビーメラ先住民たちが,じぃとこちらを見ている。

(画面)惑星ビーメラ地表。森林が辺りに広がっている。
(効果音)わずかに遠方から響くエンジン音。
(画面)生い茂っている森林の中。暗闇のかなたに複数の光が見える。それは次第に近づいてくる。それが人工的な光と認識できる距離まで接近してきたときにそれが複数のエアバイクだと分かる。単式らしい。それぞれ各ひとりずつエアバイクに騎乗。赤いコスチュームに身をまとっている戦士たちの姿。明らかにガトランティス人たち。・・・猛烈な速度で画面を通り過ぎていく。1台,2台,3台・・・数十台はある。
(BGM)M−29
(効果音)エアバイクの複数のエンジン音。ドップラー効果。

(画面)バイク騎乗の戦士のアップ。頭を保護するヘルメットと両目を保護する赤いゴーグルのみ。無表情。・・・ビリュー・ルーだ。

(画面)さらにひとりの戦士のアップ。黒いヘルメットに黒いゴーグル。笑みを浮かべているジューイ。
(効果音)エンジン音。

(画面)ジューイの視界。前方には赤いコスチュームのビリュー・ルーの後ろ姿。森林の木々が脇を通り抜けていく。正面から大木が接近。左へ避けるビリュー・ルー。その後ろを同じコースで回避。

(画面)ビリュー・ルーのアップ。赤いゴーグルにクロスゲージが表示。・・・鋭く右方に顔を向ける。自動的に照準を合わせるクロスゲージ。ゴーグルの表面に燃え盛る炎が映る。

(画面)正面へエアバイク隊が迫る。先頭はビリュー・ルー。右へ進路を変える。それにならって次々と進路を右へきっていくエアバイク隊。

(画面)走行中のエアバイク騎乗のビリュー・ルー。後続には他のエアバイクの羅列。アングルはビリュー・ルーに固定。猛烈な速度で後方へ流れていく森林の木々。・・・ビリュー・ルーのエアバイクの左側面のハッチが開いてロケットランチャー砲口が出現。上部にはレバーが突き出している。右手はバイクのハンドルへ,左手をロケットランチャーのレバーに添えるビリュー・ルー。

(画面)炎をあげている牢屋の小屋。周りにはたいまつを持ったビーメラ先住民たちがさらに小屋にたいまつを押し付けている。
(効果音)炎。
(BGM)M−29

(画面)走行中のエアバイク騎乗のビリュー・ルー。後続には他のエアバイクの羅列。アングルはビリュー・ルーに固定。猛烈な速度で後方へ流れていく森林の木々。ロケットランチャーのレバーに添えられている左手を手前に引くビリュー・ルー。砲口から眩い光と煙と共に爆撃ロケットが発射される。一瞬,煙にまみれるビリュー・ルー。瞬時に煙は後方かなたへ消えゆく。
(効果音)ロケット発射音。エンジン音。
(BGM)M−29

(画面)左端にエアバイクに乗るビリュー・ルーの右斜め後方。左側面からはロケットランチャー。・・・発射されたロケットが一度上に舞い上がり,緩やかなカーブを描きながら正面かなたに見える炎をあげている小屋の手前に向かって猛烈なスピードで遠ざかっていく。そして目標に命中。吹き飛ぶ小屋の格子部分。ビーメラ先住民たちも宙に舞う。
(効果音)かなたの爆発音。破壊音。

(画面)炎と煙の中からフロールが,顔を出す。すすで黒く汚れている。
フロール「助かった! (立ち上がる)」
デスラー「(傍らで立ち上がる)・・・あれも味方じゃないよ,お嬢さん。(走り出す)」
フロール「おっと,そうだった。(走り出す)」
(BGM)M−29

(画面)鋭く首を向けるビリュー・ルーのアップ。赤いゴーグルにクロスゲージが表示される。自動的に照準を合わせるクロスゲージ。ゴーグルの表面にデスラーとフロールの走る後ろ姿が映る。
(BGM)M−29
(効果音)エンジン音。

(画面)エアバイクに乗るビリュー・ルーの左斜め正面。後方へ流れている木々。右側から後ろを見やるビリュー・ルー。・・・ジューイを指差して右方向へ指示。さらに後ろを指差して正面へ向き直り,前方を指差す。後続から外れるジューイ。数台がジューイにならって画面左側へ退場していく。加速して画面右側へ退場するビリュー・ルー。後続が続く。

(画面)並んで森林の中を右方向へ走っているデスラーとフロール。手前にフロール,向こう側にデスラー。
(BGM)M−29
デスラー「(フロールを見て)・・・その背中のサックを預かるが? 走りにくそうだ」
フロール「(いの字)いらぬ心配は無用だ! これは命から4番目に大切なものだからな!」
デスラー「(正面を向く)・・・2番目と3番目は何かね?」

(画面)森林の中を疾走するエアバイク隊。先頭はジューイ。・・・左方向へ視線を向けている。おもむろに腰のホルダーから片手式の銃を右手で取り,左手に持ち替えて左方に銃を連射。
(効果音)連続の銃声。エンジン音。
(BGM)M−29

(画面)森林の中を走っていたフロールとデスラーの手前の木々に銃弾が立て続けに命中。思わず足を止め,体勢を低くするふたり。銃弾は止まない。再び低い体勢のまま走り出す。追いかける銃弾。
(効果音)銃弾の跳ね返る音。
(BGM)M−29

(画面)左手前にジューイの後方。アングルはジューイに固定。中央には遠く森林を駆けるデスラーとフロール。ジューイの伸ばされた左腕がふたりを狙う。跳ね返っている銃弾の煙が無数。ジューイの速度が上回り,デスラーとフロールは画面から退場。・・・銃を持ったままハンドルを握るジューイ。左へハンドルをきる。左方向の木々が迫る。
(効果音)銃声。エンジン音。
(BGM)M−29

(画面)ジューイのアップ。
(ビリュー・ルーの通信音声)・・・発砲は威嚇のみにせよ! お前はプリンセス・フロールを追え。デスラーは私が追う。
ジューイ「(目を細める)・・・え? 僕,デスラーを追いたいなぁ。仲間の仇なんだよ」
(ビリュー・ルーの通信音声)・・・ふたりとも殺すなとのパメラ様の命令だ。
ジューイ「(口を尖らす)・・・ケースバイケースで事故も起こりうるだろう? パメラ様をデスラーに取られたくないんだ」
(ビリュー・ルーの通信音声)・・・故意なる事故ならばパメラ様は見破る。パメラ様を失望させることは許さぬ。
ジューイ「・・・つまんないな」

(画面)左方向から方向転換して,正面を向くジューイ。後続が続く。銃をホルダーに差し,そして加速。画面に迫って来る。ここでアングルがジューイに固定。両側の木々が後方へ流れ始める。・・・ジューイのエアバイクの左側面からロケットランチャー砲口が出現。ランチャーのレバーに左手を添えるジューイ。間髪いれずにレバーを引くジューイ。砲口からロケットが発射される。光と煙。煙から瞬時に姿を現すジューイ。
(効果音)ロケット発射音。

(画面)森林の中。立ち止まって同じ方向を見上げるデスラーとフロール。右側はデスラー。左側には,いの字のフロール。
(効果音)甲高く近づいてくる空気音。
(BGM)M−29

(画面)デスラーとフロールの後ろ姿。わずかな角度で上から彼らに迫って来るロケット。右左各方向へ別々に跳ぶふたり。・・・地面にロケットが着弾。至近距離での爆発。飛び散る地面。白くなる画面。
(効果音)爆発音。

(画面)右方向から左方向へ跳んでくるフロール。地上に顔からべちゃっと倒れこむ。土が彼女の背中に降り注ぐ。

(画面)左方向から右方向へ跳んでくるデスラー。地上に一回転して右ひざをつく体勢。フロールの跳んだ方向へ視線を向ける。右腕上腕で土から目を保護。・・・おもむろに左方向へ走りかける。
(画面)デスラーの足元。付近の地面に銃弾が数弾跳ねる。
(効果音)銃弾の跳ね返る音。

(画面)振り向くデスラーのアップ。

(画面)迫って来るビリュー・ルー率いるバイク隊。銃を構えているビリュー・ルー。
(効果音)複数のエンジン音。
(画面)ビリュー・ルーのアップ。
ビリュー「お前の相手は私だ! デスラー! (銃を連射)」
(効果音)銃声。

(画面)デスラーのアップ。かすめる複数の弾道。
デスラー「それは知らなかったな。(走り出す)」

(画面)全身土だらけで起き上がるフロール。顔は泥で真っ黒。嵐の影響で地盤がゆるくなっているようだ。
フロール「(土を吐き出す)ぺっぺっ! ぐじょう! 悩みはつきない! (振り向く)」
(BGM)M−29

(画面)遠方からエアバイクを加速させて接近して来るジューイと後続のバイク隊。

(画面)笑みを浮かべているジューイのアップ。

(画面)目を丸くするフロール。
フロール「(指差す)・・・あ。お前,知っているぞ! マゼランフォース隊の,えーと・・・」
(画面)ジューイ率いるバイク隊が迫って来る。
(効果音)エンジン音。
(画面)立ち上がっているフロールに向かうジューイ。・・・フロールを小脇にかかえてそのままバイクで走って行く。抵抗するフロール。
フロール「(あおむけ)なんなんだあ!」

(画面)手前方向へ走ってくるデスラー。後ろからはビリュー・ルー率いるバイク隊が迫って来る。デスラーの足を狙う銃弾が地面に無数跳ね返っている。
(効果音)銃声。銃弾の跳ね返る音。
(BGM)M−29

(画面)デスラーの右斜め正面の描写。

(フロールの声)・・・デスラ〜。(遠く)

(画面)銃を連射するビリュー・ルー。

(画面)走るデスラーの後ろ姿。・・・その前方に真横に張り出している一本の木の枝。その枝に跳び上がって両手で身体をぶら下げるデスラー。勢いをつけて両足を天空に投げ出して,蹴上がる。銃弾がマントに数個の穴をあける。枝の上に低い体勢でバランスをとりながら両足で踏みしめるデスラー。・・・ここでアングルはデスラーに固定。デスラーのいる枝の下を通過していくバイク隊。
(効果音)エンジン音。

(画面)枝に乗っているデスラーのさらに上からの描写。エアバイク隊が次々と彼の下を通過している。・・・タイミングを見計らって飛び降りるデスラー。

(画面)エアバイクに乗っている赤いコスチュームの戦士を右側面から。アングル固定。右方向へ進行中。木々が右から左へ猛速度で流れている。その戦士のハンドルを握っている右腕と左腕の間にすっぽりと飛び降りてくるデスラー。背中で戦士を後方へ押し出す。ハンドルを握っていた戦士の手がハンドルから引き剥がされる。代わりにバイクのハンドルを握るデスラー。デスラーが正規のシートに腰かけて両足も正規の位置に置く。エアバイクを完全に自分のものにする。後方に押し出された戦士が,思わずデスラーの身体にしがみつく。

(画面)エアバイクに乗っているデスラーを正面からの描写。彼にしがみついている戦士の顔が左側から見える。
デスラー「(後ろを見やる)おやおや。女性だったのかい。それならばしっかり私につかまっていることだ」

(画面)スロットルをぐっと回すデスラーの右手。

(画面)バイク隊の隊列から離脱する二人乗りのデスラーのエアバイク。遠ざかっていくバイク隊。
(効果音)加速するエンジン音。

(画面)振り向くビリュー・ルー。

(画面)デスラーにしがみついている戦士の顔のアップ。歯を食いしばっている。・・・右下へ視線を向ける。
(画面)デスラーにしがみついている戦士の右腰部分。・・・ゆっくりと右手が腰の銃ホルダーに近づいている。

(画面)デスラーの乗るエアバイク。後方からの描写。急激に右回転で方向転換。画面に正面を向けてノンストップで加速。手前に向かって来る。左側には,はるかにバイク隊の羅列。

(画面)デスラーの身体をつかんでいる戦士の左手が反動でデスラーから離れる。
(画面)エアバイクに乗るデスラーの左斜め正面。・・・後ろの戦士がバイクから振り落とされる。
戦士「うわああ! ・・・(次第に遠く)」

(画面)デスラーの正面。・・・振り落とされた戦士の姿が後方へ遠ざかっていく。
(画面)デスラーのアップ。
デスラー「だから,しっかりつかまっていろと言ったのだがね」
(BGM消える)

(BGM)M−34
(画面)半身の体勢で振り向いているビリュー・ルー。右後方へ指を差してユーターン。急加速で画面左側へ退場。同じ経路で後続が続く。
(効果音)複数のエンジン音。

(画面)歯を食いしばる表情を見せているビリュー・ルーのアップ。

(画面)ビリュー・ルーの正面の固定アングル。両手をハンドルから離して両腕を真横から正面へ投げ出す動作。・・・後続のバイク隊がビリュー・ルーを中心にして横一列に広がっていく。ハンドルを握りなおすビリュー・ルー。腰のホルダーから銃を抜いて銃口を向ける。

(画面)ビリュー・ルーの視界。森林の木々がエアバイクと同速度でランダムに目前に迫っては左右へハンドルを切りやりすごす連続。はるか前方を疾走しているデスラーのエアバイクの後ろ姿。デスラーもまた木々を巧みにかわしながら加速している。木々の陰に見え隠れするデスラーのエアバイク。・・・デスラー目視の瞬間に発砲されるビリュー・ルーの銃。銃の効果は得られないが,徐々にデスラーとの距離が縮まっていく。近づいてくるデスラーのエアバイク。
(効果音)銃声。エンジン音。

(画面)森林の中を疾走するデスラーのエアバイク左側面アングル。後方から追っ手のエアバイク隊が追いついてくる。デスラーへ向けて続けざまに発砲してくる。無数の銃弾が地表に跳ね返る。
(効果音)銃声。エンジン音。
(BGM)M−34

(画面)デスラーの左方向のアップ。
デスラー「(笑み)・・・威嚇射撃とはね。私も甘く見られたものだな」
(画面)デスラーの左方向のアップ。視線はわずかに下。

(画面)エアバイクのハンドル下部のフロント部の描写。・・・何やらガトランティス語で記載されている。
(字幕)MSO規格(マゼラン標準化機構)(画面下部横文字)

(画面)エアバイクの左側面を操作するデスラーの左手。・・・側面のハッチが開いてロケットランチャー砲口が現れる。
(画面)エアバイクを操縦するデスラーの正面。後方から接近してくるバイク隊。・・・ロケットランチャーのレバーに手を添えるデスラー。
(画面)後方へ,ちらりと視線を向けるデスラーの左アップ。

(画面)ビリュー・ルーの乗るエアバイクの正面にアングルが固定。後方へ猛烈な速度で流れていく森林の木々。進路のさえぎる木を巧みにかわすハンドルさばき。後続の数十台のエアバイクも同様。
(効果音)複数のエンジン音。空気を切る音。
(BGM)M−34

(画面)ビリュー・ルーのアップ。表情にゆとりが戻ってきている。
ビリュー「・・・間もなく森林をぬけるぞ,デスラー。ぬければ広大な砂漠が広がるのみ。障害と防御をあわせ持つ木々も,もはやあてにはできなくなる。こちらは数十台。ロケットランチャーは3発しか搭載していないはずだ。しかも正面にしか発射できない。我らに背を向けているお前が,向きを変えて発射する距離の余裕もない。お前は結局,数十丁の銃に周りから狙われて両手を挙げる運命しか残されてはいないのだ」
(BGM一時停止)

(画面)惑星ビーメラ監視センター建物前。うっそうと茂る森林をバックに大きな建物がアンバランスなコントラストを見せている。その建物をさえぎるように画面中央に現れるパメラ。背後には銃装備している女戦士たちの集団。

(画面)軽く笑みを浮かべているパメラ。風に髪がなびく。やはり恐怖を感じるほどの美貌。
(効果音)接近してくるエアバイクのエンジン音。複数。

(画面)規則正しく整列を始めるエアバイク集団。先頭にはジューイの姿。後方には後ろ手に腕を縛られているフロール。ふくれ面。
(効果音)エンジン音停まる。

(画面)ジューイに追い立てられるようにバイクから降ろされるフロール。
フロール「一人で降りる。触れるな」

(画面)きっと顔を上げるフロール。
フロール「なぜここにマゼランフォース隊がいるか,パメラ。たぶらかしたのか。この男狂い」
(画面)微笑をたたえているパメラ。
パメラ「ふふ。たぶらかすなんて・・・。そんな努力はしたことないのよ,お姫様」
(画面)肩に手を置くジューイのそれを身体で払いのけるフロール。
フロール「お前を追放した連邦政府の命令か。レック・アルドの口車に乗って見せた目的はやはり男か。それなりに努力はしているじゃないか。かわいそうな女だ」
(画面)相変わらず表情を変えないパメラ。
パメラ「いきがって見せても駄目駄目。どのみちあなた方ふたりは,私がこれから思う通りの運命をたどることになるのよ」
(画面)フロール。
フロール「デスラーは,人に腕引かれて歩む男ではない。今まで予想に易い行動をとってこなかった男だ。お前ごときに不覚などとらぬ」
(画面)目をぱちりとさせるパメラ。
パメラ「まあ,驚いた。大した信頼感だこと。しかも男を信頼するなんて。勇気があるわね,お姫様。ま,その言葉が本当だったとしてもデスラーは結局,私の前に現れるしかないってことかしら? これほど信頼している仲間を見殺しにはしないでしょうからね」
(画面)不敵な笑みのフロール。
フロール「来るものか。甘いな,パメラ。デスラーは集団に媚びる男ではない。それに私もこんなところで簡単に命は落とさぬ」
(画面)フロールのこめかみに銃を突きつけるジューイ。
ジューイ「さっきから聞いていれば・・・。その無礼な口を永久にふさいでやろうか!」
(画面)一転して厳しい表情のパメラ。
パメラ「私の思うこと以外の行動は許さないよ! この愚か者! フロール・レイムから離れなさい! 馬鹿男!」
(画面)ぴくりとも反応を見せずに厳しく顔を上げているフロールとは対照的に,そそくさと退場するジューイ。
(画面)元の穏やかな表情に戻るパメラ。
パメラ「あなたとは大切な約束があるものね,お姫様。宇宙一の妾(めかけ)にしてあげるってねぇ」
(画面)厳しい表情のフロール。
(画面)パメラ。
パメラ「まず,その汚れた顔と身体をすみずみまできれいにしてあげる。きれいな服も用意してあるわ。まだ若いから化粧は薄めがいいかも知れないわね。優秀なスタッフにやらせるから心配しないでね。どうせ男と付き合ったことなんてないんでしょ? 男を喜ばせるテクニックは私が一から教えてあげるわ。・・・(あごに手)でも,もしかしたらジャグローは初々しい女の子の方が好みかも知れないわねえ」
(画面)厳しい表情のフロール。
フロール「・・・ジャグローだと・・・?」
(画面)薄笑いのパメラ。
(画面)厳しい表情のフロール。
フロール「・・・ウーム連邦,皇太子のジャグロー・グ・ラディーのことか」
(画面)くすくす笑うパメラ。
パメラ「そ。マゼラン・ネットであなたの姿を見かけて,ひとめぼれしたんですって。ガトランティスとウームの同盟調印の条件のひとつよ。レックも承知しているわ。もしあなたが生きていたら私が責任を持ってウーム連邦へ引き渡すことになっているの。そして私はあのガミラス人を手に入れるってわけ。大マゼラン星雲への帰郷も約束してくれたわ。どお? いい結末でしょ? みんな幸せになれるのよ」
(画面)厳しい表情のフロール。
フロール「あの皇帝の一人息子の薄らハゲのデブのおぼっちゃんか。汗っかきで汗疹(あせも)だらけの風呂嫌いで口が臭いという,あのジャグロー・グ・ラディーか」
(画面)微笑するパメラ。
(画面)厳しい表情のフロール。
フロール「パメラ!」
(画面)微笑するパメラ。
パメラ「なあに?」
(画面)厳しい表情のフロール。
フロール「死んだ方がましだ」

(画面)エアバイクにまたがっているデスラーの左側面。アングルはデスラーに固定。猛スピードで左から右方向へ流れていく木々。
(効果音)エンジン音。
(BGM)M−34

(画面)エアバイクにまたがっているビリュー・ルー初め数十台のエアバイク集団の左側面。やはりアングルは固定。猛スピードで左から右方向へ流れていく木々。

(画面)デスラーのアップ。左後方へわずかに視線を傾ける。

(画面)少し後方から迫って来るビリュー・ルーの正面の描写。

(画面)目を細めるデスラー。
デスラー「・・・確か,私の相手をしてくれると言ってたな」

(画面)上空からの全景。東側には,うっそうと茂る森林。西側には,果てしなく続く砂漠。デスラーのエアバイクが西へ向かう。それを追うエアバイク隊。デスラーが森林から砂漠へ抜けようとしている。

(画面)ビリュー・ルーのアップ。
ビリュー「(メットマイクに)デスラーが森林をぬけたら全機一斉にデスラーの行く手にロケットランチャーを発射せよ!」

(画面)右手を上げて左右へ振るビリュー・ルー。後方のバイク隊が左右へ展開していく。

(画面)ひとりの戦士の描写。ロケットランチャーのレバーへ手をかける。
(画面)さらにひとりの戦士。レバーに手をかける。

(画面)ビリュー・ルーの視界。前方にエアバイクにまたがるデスラーの後ろ姿。マントが風でなびいている。木々の密度が薄れていく。木々の間から見える砂漠の情景が次第に大きくなってくる。そして最後の木の間をすり抜け,一気に景色が一変。砂風の舞う灼熱の砂漠に突入していくデスラー。ビリュー・ルーも同様。

(画面)ビリュー・ルーのアップ。
ビリュー「(メットマイクに)全機,発射!」

(画面)ひとりの戦士の描写。ロケットランチャーのレバーを引く。
(画面)さらにひとりの戦士。レバーを引く。
(効果音)レバーを引く金属音。エンジン音。

(画面)ロケットランチャー砲口のアップ。画面いっぱいの光。煙。
(効果音)発射音。

(画面)ビリュー・ルーの正面。背後にはエアバイク隊。一斉に発射されたロケットが弾道の煙を伴いながら上空手前に迫る。

(画面)エアバイクに乗っているデスラーの背後の描写。彼の頭上から数十発のロケットが行く手に向かって追い抜いていく。全てがデスラーの行く手の地面に着弾する軌道。

(画面)ビリュー・ルーのアップ。
ビリュー「・・・全弾,予定コース。(表情がわずかに緩む)」

(画面)デスラーのアップ。
(効果音)エンジン音。
(BGM)M−34

(画面)デスラーの右手のアップ。右手が握っているハンドルのスロットを向こう側へひねる。
(効果音)エンジン音が小さくなる。推進力がなくなったようだ。

(画面)デスラーの左手のアップ。左手が握っているロケットランチャーのレバーを手前側へ引く。
(効果音)レバーを引く金属音。

(画面)エアバイクにまたがるデスラーの右ななめ正面の描写。バイクの左端のロケットランチャー発射口から,たて続けにロケットが3発発射される。画面を覆う煙。・・・その煙を残して,推進力の失われたエアバイクがウイリー状態でデスラーを乗せたまま,進行方向逆の後方へ向けて,すさまじいバック推進。バック機能のないエアバイクのトリッキーな動きを画面のアングルが追う。
(効果音)ロケットランチャー発射音3回。空気の流れ。

(画面)驚愕するビリュー・ルーのアップ。
(効果音)エンジン音。

(BGM)M−34
(画面)後方を振り返ってバイクにまたがっているデスラーが手前に迫って来る。はるか前方にはロケット発射時の煙が取り残されている。エアバイク隊の発射したロケットが,このタイミングでさらにはるかかなたで地表に着弾。爆光とともに爆風を伴う。
(効果音)複数の融合による爆発音。全てに優先。

(画面)後ろを振り向いているデスラーの後頭部のアップ。彼の視線の先にあるエアバイク隊が手前に迫って来る。

(画面)後ろを向いているデスラーの横顔。

(画面)驚きの表情のビリュー・ルーの横顔。

(画面)エアバイクのビリュー・ルー。反射的にハンドルを右方向へきる。左側面を見せるバイク。他の隊員たちが彼女へ視線を向ける。・・・間髪いれずにそこへデスラーのエアバイクの後部がビリュー・ルーのエアバイクの側面に激突。
(効果音)激突音。

(画面)宙へ投げ出されるビリュー・ルーの身体。

(BGM消える)
(画面)地表へ転がるビリュー・ルー。衝撃で外れるヘルメット。

(画面)エアバイク隊。画面の全員がバイクを停め,一斉に銃を手前に構える。
(画面)エアバイク隊の別のアングル。やはり,バイクが停まり,同時に銃を手前に向けている。
(効果音)銃の安全装置の外れる複数の金属音。

(画面)エアバイクにまたがっているデスラーの右半身後ろ姿。。左右前方から銃を構えているエアバイク隊に取り囲まれ,銃口を向けられているデスラー。

(画面)デスラーの右半身正面。左半身は画面の外で見えない。右手には彼女たちが持っているものと同じ銃が握られている。ここで画面が右へ移動。・・・デスラーの全体像。彼の左腕に捕らわれているビリュー・ルー。首をデスラーの左腕に回されている。デスラーの右手の銃口は彼女のこめかみに突きつけられている。デスラーの左腕を両手で掴んでいるビリュー・ルーは苦痛と屈辱の表情。

(画面)銃口をむけているエアバイク隊。彼女たちに動きはない。だが,それぞれのバイザーの奥の目は迷いの影がうかがえる。

(画面)デスラーとビリュー・ルーのアップ。
デスラー「(正面を向いたまま)少しばかり,銃をお借りしているよ,ご婦人」
ビリュー「(苦悶)・・・殺せ,デスラー」
デスラー「そうだね。私の願いを先にきいてもらえるならば,その願いは考えてみよう」
ビリュー「私は人質にはならないぞ」
デスラー「それは謙虚(けんきょ)なことだ。大丈夫。謙遜(けんそん)には及ばない」
ビリュー「お前の思い通りにはならぬ・・・」
デスラー「(微笑)充分,助かっているよ,ご婦人。(耳元へ)ついでにもう一役願いたいね。この私をセンターに案内していただこう」
ビリュー「(正面を向いたまま,目を見開く)・・・愚かな。(瞳のみデスラーへ)せっかく掴(つか)んだ優位を自ら放棄するつもりか。パメラ様と相対(あいたい)するのならば,状況は違っていても結果は同じだぞ」
デスラー「(正面を向いて微笑)確かに結果は変わらないね。同感だよ,ご婦人」
ビリュー「(しばらく沈黙してから笑み)ふふ・・・。面白い。デスラー。パメラ様の下僕(げぼく)と成り果てるか。(両手を下ろす)・・・まあ,いいだろう。案内してやる。(片手を上げる)」

(画面)一斉に銃を降ろすエアバイク隊。

(画面)惑星ビーメラ監視施設司令室内部。ボックスにすわっているパメラ。
(効果音)センター内機械音。高いピーという音。

(画面)ジューイの傍らで立っているフロール。

(画面)背中を向けて座っている女性スタッフ。ヘッドマイクをつけている。
女性スタッフ「(振り向く)・・・パメラ様。バイク隊通信班から連絡が入ってきました。・・・不覚にもルー参謀がデスラーに捕らえられ人質になったとのことです。現状,デスラーはルー参謀に銃を突きつけてバイク隊を牽制しながら,このセンターへ向かっている途上とのことです」

(画面)ジューイの傍らで立っているフロール。右方向へ視線を向ける。

(画面)パメラ。
パメラ「(首を傾げる)ふう〜ん。(微笑)・・・ふふふ。通信班に,お手柄よと返信してちょうだい。楽しみに待ってるって。ふふふ」

(画面)息を呑むフロールのアップ。

(画面)宇宙空間に浮かぶ白い惑星。惑星ガトランティス。

(画面)宇宙艦発射ドック内の全景。手前には宇宙戦艦バルゼミアの雄姿。その向こう側のさらに高い位置に手すりのある通路。・・・その手すりに両腕の肘を乗せ,軽く上体をまかせている男を遠方からの描写。
(効果音)慌しい人声,機械音。アイドリング音。

(画面)手すりから至近距離。手すりに寄りかかっている男はバルゼー。
(画面)手すりに寄りかかっているバルゼーの横半身。
(画面)バルゼーのアップ。表情は暗い。
(女性の声)・・・バルゼー。
バルゼー「・・・(瞳が右方向へ)」

(画面)画面右端にうつむいているバルゼー。その後ろに立っている第2遊動機動艦隊司令官エルダ。帽子を小脇に抱えている。
バルゼー「(瞳を正面へ。無反応)」
エルダ「なぜ,ふさいでいる? (前へ)・・・もうすぐ発進するというのに。ゾッド・アルド閣下の無念を晴らしに行くのだぞ。もっと高揚していると思ったのだが」
(画面)目を閉じているバルゼー。

(画面)右端バルゼーのアップ。左後方にはエルダ。
エルダ「会わなくなって久しいが,昔に比べ少し冴えないのではないか? あの時のお前は・・・」
バルゼー「・・・(静かな口調)・・・覚えているか,エルダ。もう10年も前だ・・・」
エルダ「(わずかに首を傾げる)」
(画面)振り返るバルゼー。右手前にはエルダの左半身。
バルゼー「(手すりに寄りかかる)・・・連邦がまだ不安定だった頃だ。反乱分子や,テロ,ゲリラ・・・ウーム連邦の台頭・・・。若君や姫君もまだ子供で,大帝閣下が若く輝きを放っていた頃だ。私たちはくる日も戦いに明け暮れていたな」
エルダ「もちろん覚えている。よく一緒に戦っていたものだ。明日の我が命の保障さえもなかった」
(画面)バルゼー。
バルゼー「(顔を上げる)・・・あの時の大帝閣下の言葉も覚えているか,エルダ」
(画面)わずかに思案する素振りのエルダ。

(画面)右から左へ歩を進めるバルゼー。それを顔で追うエルダの後ろ姿。アングルはバルゼーに固定。エルダは画面左から右へ。
バルゼー「(立ち止まる)・・・大帝閣下は,こう言われた。・・・「国家は人間の集まりである。戦いに勝利するも,そこに人間が残っていなければ国家は成り立たぬ。無益な殺戮(さつりく)は避けよ。生きている人間を屈服させてこそ本来の勝利である」と・・・」
(画面)エルダ。
(画面)顔を向けるバルゼー。
バルゼー「その大帝閣下もすでに亡く,今は連邦も安定している。成長し,権力を掌握した若君は,今度は我々に何を求めているのか」

(画面)宇宙戦艦バルゼミアの全景。
(バルゼーの声)・・・地球人を一人残らず抹殺せよとは,どういうことか。ただ目に見えぬ国民の支持率を上げる手段としてだけの理由で,ひとつの民族を消滅させてしまおうとしているのだ・・・。

(画面)まゆをひそめるエルダ。

(画面)バルゼー。
バルゼー「勝利は疑いようもない。しかし,我らにも犠牲者が出ることは必至だ。それに報いる本来の成果である得られるべく資源,領地,そして人材全てを無にしてガトランティスへ帰国してもそれは果たして凱旋(がいせん)となるのかどうか・・・」
(画面)険しい表情のエルダ。
エルダ「・・・バルゼー! そこまでにしておけ! お前は疲れているようだ」

(画面)無表情のバルゼー。・・・やがて軽く苦笑。
バルゼー「・・・許せ。本音ではない。ひとつの建前(たてまえ)を論じただけだ。誰にでも話すわけではない」

(画面)宇宙空間。左下には白い惑星,ガトランティス。・・・やがてその惑星の雲を抜けるように多数の光が惑星から離れるように上昇してくる。・・・光ひとつひとつが次第にその像を明らかにしていく。それはまさに圧巻。何とその全てが宇宙艦である。空母,戦艦,イージス艦,駆逐艦,潜宙艦・・・。数をここで表現するのは避ける。これを読んでいるあなたがたが想像できる最大限の数を頭に浮かべるべし。そしてそれはその想像した数の数十倍である。
(効果音)艦隊機械音。エンジンの複数音。

(画面)ある宇宙艦のブリッジ内。奥の高くなっているボックスに座っている若者を左斜め正面からの描写。・・・レック・アルド・ズォーダーである。ゆっくりとクローズアップ。
(BGM)M−1A
(効果音)艦内機械音。
(画面)レックの上半身アップ。
レック「(左へ視線)・・・セレモニーの様子はどうかね。国民たちの反応は?」
(画面)右手を胸に頭を下げるゲーニッツ。
ゲーニッツ「(頭を上げる)大変な盛り上がりを見せております。大帝閣下」

(画面)都市の上空からの全景。すさまじい数の色とりどりの紙吹雪。レーザー光線。光また光。
(BGM)M−1A
(効果音)人々の歓声,音楽,音響。
(画面)都市の様子・・・。老若男女が諸手を挙げて歓声をあげている。・・・見上げる空には紙吹雪と無数の宇宙艦隊が航行している情景。

(画面)ブリッジ内。ゲーニッツのアップ。
ゲーニッツ「もはや大帝閣下の支持率は磐石(ばんじゃく)です」
(効果音)艦内機械音。
(BGM)M−1A
(画面)不快感をあらわにするレック。
レック「ふん。報告は私の知らない事のみにしてもらおうか,ゲーニッツ」
(画面)頭を下げているゲーニッツ。
(画面)レックのアップ。
レック「(笑み)・・・さて,そろそろ本当のセレモニーへ繰り出すとしようかね。(視線を左に)・・・全艦隊,速度を第2宇宙速度から第3宇宙速度へ加速。各艦隊間隔確保。ガトラン系を抜ける。発進命令伝達」
(BGM消える)

(画面)第1遊動機動艦隊旗艦ファスターゼ艦内。司令官ファストのアップ。
ファスト「第1遊動機動艦隊,発進」
(画面)加速を始める第1遊動機動艦隊。
(効果音)複数のエンジン音。

(画面)第2遊動機動艦隊旗艦エルディーノ艦内。司令官エルダのアップ。
エルダ「第2遊動機動艦隊,発進」
(画面)加速を始める第2遊動機動艦隊。
(効果音)複数のエンジン音。

(画面)第3遊動機動艦隊旗艦コタック艦内。司令官コーテクのアップ。
コーテク「(笑み)第3遊動機動艦隊,発進だ。行くぞ」
(画面)加速を始める第3遊動機動艦隊。
(効果音)複数のエンジン音。

(画面)第6遊動機動艦隊旗艦バルゼミア艦内。司令官バルゼーのアップ。
バルゼー「第6遊動機動艦隊,発進」
(画面)加速を始める第6遊動機動艦隊。
(効果音)複数のエンジン音。

(画面)惑星ガトランティスを背にしているガトランティス大艦隊。各艦が加速を開始し,アングルは大艦隊に固定。次第に後方へ遠ざかっていく惑星ガトランティス。
(効果音)すさまじい融合エンジン音。
(画面)大艦隊を真横からの描写。もはや画面には収まりきれない。

(画面)ある宇宙艦のブリッジ内。大きな天井パネルには大艦隊の後方からの様子が映し出されている。それを見上げているレックの後頭部が画面手前下。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(画面)見上げているレックのアップ。満足げな微笑み。
レック「(視線を左へ)・・・ゲーニッツ」
(画面)足をそろえて右手を胸にあてるゲーニッツ。
ゲーニッツ「はっ。大帝閣下」
(画面)レックのアップ。
レック「・・・この当艦のモデルになった地球の戦艦の名前は何と言ったかな?」
(画面)ゲーニッツのアップ。
ゲーニッツ「・・・はい。宇宙戦艦ヤマトです」
(画面)少しおどけた表情のレック。
レック「ふふ。ヤマトね。地球ではどういう意味を持つ名前だったのかね」
(画面)ゲーニッツ。
(画面)こちらを見据えるレック。
レック「・・・(嘲笑)・・・ならば,この艦もその名でいくことにしよう。ふふふ。面白いじゃないか。宇宙戦艦ヤマトをこよなく愛する地球人がどのような反応を見せるか。所詮は夢のまた夢。偶然を奇跡と勘違いしている地球人たちの心も命と共に葬りさってやろう」
(画面)ゲーニッツ。

(画面)艦長席に座っているレック・アルド・ズォーダー。・・・アングルが引かれていく。右側に立っているゲーニッツ。・・・両側の独立ボックス・・・。正面の3つのボックス。・・・さらに引かれるアングル。ついに宇宙空間まで引かれる。5つのブリッジ窓と4つのリブ。さらに引かれるアングル。第一艦橋正面。下には第二艦橋。上には巨大なツインのレーダーウイング。その上には展望窓のある艦長室。さらに引かれるアングル。・・・甲板が見え始め,一段高いところに三連の副砲塔,手前に縦並びに巨大な三連主砲塔がふたつ。艦橋を挟み込むようにリブウイングが左右斜め上方に伸び,左右舷手前に監視用展望窓が各ひとつ。さらに引かれるアングル。そして,真正面に・・・数々の好敵手たちを震え上がらせてきた巨大な砲口が艦首に圧倒的な存在感を見せる。・・・その姿は,それを知る者にとっては身体を震わせる程に愛おしく,涙が流れる程に懐かしく,そして・・・もう二度と見ることができないと諦めて(あきらめて)いた艦影・・・。
(効果音)巨大な金属反響音ひとつ。

(画面)ブリッジ内。レックのアップ。
(効果音)ブリッジ内機械音。
レック「・・・(頬杖をつく)ふふ。・・・ヤマト・・・発進」

(画面)宇宙空間。下部に2基のサブエンジン口があり,3等分に放射状に伸びるリブウイングの中央に見える巨大な波動エンジン口のアップの描写。・・・両方のエンジン口の奥へ集中していくタキオンの光。そこから浮き上がるように光がエンジン口に満ちていく。・・・そして溜め込まれた光が眩く(まばゆく)飽和(ほうわ)。次の瞬間,突然一気に一方方向へ光の帯が出現。ほとばしる光の塵。
(効果音)次第に大きくなる充填音から大きなエンジン咆哮(ほうこう)音。・・・徐々に機械音が高まっていく。

(画面)全長263地球メートルの巨大戦艦の右斜め前方の全景。ゆっくりと画面右へ移動。同時にアングルが右まわりに引かれていく。・・・画面にはその戦艦の右側面の全体像の描写。これを読むあなたがたに激しい賛否両論が起こるかも知れない,しかしあなたがたの意に沿うか沿わぬかに関わらず,その姿は紛れも無く・・・宇宙戦艦ヤマト・・・。
(字幕)宇宙戦艦ヤマト(画面下部横文字)

(画面)さらに右まわりに移動するアングル。ヤマトの後部の描写。加速し,遠ざかって行く艦影。その前方には星と見誤るほどの莫大な数の大艦隊の光が遠ざかる赤色のドップラー効果で広がっている。・・・やがてヤマトの艦影もその赤色の光に同化していく。

(画面)惑星ビーメラ。

(画面)惑星ビーメラ監視施設司令室内部。ボックスにすわっているパメラ。
(効果音)センター内機械音。
(画面)背中を向けて座っている女性スタッフ。
女性スタッフ「(振り向く)・・・パメラ様。バイク隊がセンター付近に到着した模様です。映像通信が入っています」
(画面)パメラのアップ。わずかに左上方へ視線を向ける。

(画面)正面パネルの映像。・・・何も映っていない。やがて一筋の光が横に走り,唐突に映像が映し出される。・・・そこにはビリュー・ルーに銃を突きつけているデスラーの上半身。
デスラー「(微笑)度重(たびかさ)なる拝謁(はいえつ),恐れ入る。ご婦人」

(画面)微笑むパメラ。
パメラ「気にすることはなくってよ。また会えてうれしいわ,デスラー」

(画面)デスラーの映像。
デスラー「早速だが,貴女に嘆願する失礼をお許し願いたい」

(画面)パメラ。
パメラ「何かしら?」

(画面)ジューイの傍らに立っているフロール。

(画面)デスラーの映像。
デスラー「そうだね。まず,宇宙船の修理機材の提供,それとセンター施設の使用許可・・・」

(画面)ジューイの傍らに立っているフロール。

(画面)微笑むパメラ。
パメラ「それだけでいいのかしら?」

(画面)デスラーの映像。
デスラー「ついでに私の同乗者の返還もお願いしたいのだが,あつかましいかね?」

(画面)フロールのアップ。
フロール「(かちん)・・・ついでだと? お前ほどあつかましい奴はいないだろうが」

(画面)くすくす笑うパメラ。
パメラ「・・・そうねえ。直接会って,お話を伺いたいものだわ。デスラー。お返事はその時でよろしいかしら?」

(画面)首を右方向へ振るフロール。
フロール「(首を左方向へ)駄目だ! デスラー! (ジューイの肘が後頭部に)あうあ!(つんのめる)」

(画面)デスラーの映像。
デスラー「(笑み)承知した」

(画面)妖艶に微笑むパメラ。

(画面)両側へ引かれていくセンターのエントランスドア。手前にはデスラーとビリュー・ルーの後ろ姿。
(効果音)ドアの開閉音。
(画面)センターエントランス内部側からのアングル。正面を向いているデスラーとビリュー・ルー。後方にはバイク隊。
ビリュー「(後方を見やる)・・・お前たちはここで待機だ」
部下「(頭を下げる)」
(画面)ビリュー・ルーを手前に並んで歩いているデスラー。銃は下に下ろされている。ドアが閉まったらしく,外部の光が遮断されて両者の背中に当たっていた光が消え,内部灯のみがふたりを照らす。
(効果音)ドアの開閉音。
ビリュー「(前方を見たまま)・・・パメラ様のことは承知しているはずだが? デスラー」
デスラー「そうだね」
ビリュー「・・・ならばなぜ,何の抵抗も無く会うのだ」
デスラー「抵抗はしているつもりだが」
ビリュー「お前は,もしかして男として不能なのか?」
デスラー「(目を伏せて笑み)・・・ふふふ。こう見えても私には娘がいるのだがね。極めてノーマルだと思うよ」
ビリュー「それならば,お前の運命は決まりだ。パメラ様の魅力に打ち勝つことは不可能だ」
デスラー「そうかな。むしろ私には,貴女の方が魅力的に映るがね」
ビリュー「ふざけるな」

(画面)惑星ビーメラ監視施設司令室内部。出入り口スライドドアの描写。
(画面)ボックスから離れて立っているパメラ。穏やかな笑顔。背後にはスタッフたちが銃を構えている。左後方にはジューイとフロール。

(画面)惑星ビーメラ監視施設司令室内部。出入り口スライドドアの描写。
(画面)微笑んでいるパメラ。

(画面)惑星ビーメラ監視施設司令室内部。出入り口スライドドアの描写。・・・両側に引き放たれるドア。
(効果音)ドアの開閉音。

(画面)息を呑むフロールのアップ。

(画面)ビリュー・ルーに銃を突きつけているデスラーが室内へ入って来る様子。
(画面)立ち止まったデスラーとビリュー・ルーのアップ。

(画面)微笑むパメラ。
パメラ「(前へ)・・・やっと会えたわね。デスラー。会いたかったわ。ゆっくりお話しましょ」

(画面)デスラーとビリュー・ルーのアップ。

(画面)パメラのアップ。

(画面)デスラーとビリュー・ルーのアップ。

(画面)パメラのアップ。霞(かすみ)がかかっている。

(画面)目を見開いているデスラーのアップ。瞳がわずかに揺れ動いている。

(画面)あどけなく,にこりと微笑んで首を傾けるパメラ。
パメラ「(さらに前へ)・・・さあ,こちらへいらっしゃい。(両手をわずかに広げる)・・・ふたりで夢のような時間をすごしましょうね」

(画面)ジューイに捕まえられているフロール。

(画面)顔を伏せ,前髪が垂れているデスラー。

(画面)ビリュー・ルーの首元の描写。突きつけられているデスラーの銃が震え始める。・・・画面から銃が下方へ退場。

(画面)ジューイに捕まえられているフロール。
フロール「デスラー!」

(画面)下に下ろされたデスラーの右手。銃を握っている。突然,銃が回転して右手からずり落ちる。
(効果音)銃が床に落ちる音。

(画面)意気消沈のフロール。
フロール「あうああ。(いの字)・・・やられた・・・」

(画面)並んで立っているデスラーとビリュー・ルー。向かって左に立っているデスラーは両手をだらりと下げ,頭をたれている。右側のビリュー・ルーは,その様子を見ている。・・・そのままゆっくりと前に歩き出すデスラー。

(画面)優越の表情のパメラ。

(画面)うつむいて歩いているデスラーのアップ。アングルはデスラーに固定。後方のビリュー・ルーはピントがぼやけて後方へ遠ざかる。

(画面)歩いているデスラーの後ろ姿。向こう側にはこちら向きにパメラ。・・・やがてデスラーの両腕が上がり,パメラの上半身に回される。パメラの両腕はデスラーの両脇の下へ回され,両手はデスラーの背中へ。パメラのあごがデスラーの左肩へ乗せられる。デスラーは少し半身をかがめて,パメラの右肩へ顔をうずめていく。

(画面)片目をつむり,しかめ面のフロール。

(画面)ビリュー・ルーのアップ。

(画面)パメラの背中からのアングル。彼女の首元へ顔をうずめているデスラー。さらに強くパメラを抱きしめる。

(画面)デスラーの左肩越しのパメラのアップ。まばたきしてあごを少し上げるパメラ。

(画面)前髪が垂れている間で,うすく目を開け左へ視線を流すデスラー。

(画面)パメラの右腰部分の描写。デスラーの左腰部分。パメラの右腰にぶらさがっている銃にデスラーの左手が伸びる。

(画面)銃をつかむデスラーの左手。

(画面)デスラーの右横顔が画面中央から左へ移動。きょとんとしているパメラの顔が現れる。

(画面)銃を持っているデスラーの左手。すばやく銃が右手に持ち替えられる。

(画面)パメラの首元。デスラーの左腕が彼女の背中からまわされる。

(画面)全体像。デスラーが背後から左腕でパメラの首を押さえ込み,彼の右手の銃は彼女の右あごの付け根辺りに突きつけられている。

(画面)向かって左にデスラー。右にパメラ。両者のアップ。パメラには銃口が向けられている。デスラーの右手の親指が跳ね上がり,銃の安全装置が外れる。
(効果音)小さな金属音。
デスラー「(微笑)・・・さて,直接お返事をいただけるんだったね。ご婦人。私の願いは聞き届けていただけるのかな?」
パメラ「・・・! (驚愕)・・・(絞り出す声)・・・な・・・なんで・・・?」

(画面)唖然と固まっている女性スタッフたち。構える銃口が垂れている。

(画面)大きな口をあんぐりと開けて,顔全体で激驚を表現しているフロールとジューイ。

(画面)目を見開いているビリュー・ルーのアップ。

(画面)デスラーとパメラのアップ。・・・逃れようとするパメラを力強く引き寄せるデスラー。しゃがめないように腕をあごの下に入れる。
パメラ「・・・(冷や汗)・・・(ようやく事態を把握し始めた様子)・・・(瞳を右へ)」
デスラー「(笑み)・・・恐縮だ。乱暴な振る舞い,お許し願いたい。本当はこのような出会いは避けたかったのだがね。おとなしくしていただきたい。本来,女性に銃を突きつけるような行為は私の性分では耐え難いことなのだよ,ご婦人」

(画面)目を細めて腕を組み,にらみつけるフロール。
(画面)目を細めて腕を組み,にらみつけるビリュー・ルー。

(画面)デスラーとパメラのアップ。
パメラ「(首を少し右へ)・・・何で・・・何で,平気でいられるの? デ,デスラー?」
デスラー「平気ではないがね。申し訳なく思っているよ,ご婦人。だからあまりこの状態を長引かせるのは心が痛む。直ちに私の願いを聞き届けていただきたい。いかがかな」

(画面)デスラーとパメラの上半身後ろ姿。
(ジューイの声)・・・ふざけるな!

(画面)デスラーとパメラの上半身後ろ姿。・・・振り向くデスラー。パメラも同様。

(画面)フロールに銃を突きつけているジューイ。

(画面)目を細めるデスラー。

(画面)ジューイのアップ。フロールに銃口をさらに突きつける。
ジューイ「パメラ様から離れろ! この野蛮人め! お前みたいなやつが僕たちと対等に取り引きなって,なまいきなんだよ! 身の程を知れ! 低俗人種!」

(画面)動じない表情のデスラー。
デスラー「(嘲笑)・・・一途(いちず)で大変結構なことだ。心配しなくてもこのご婦人は後で自由になる。それよりも断っておくが,私は男に対しては少し寛大さに欠ける傾向がある。せいぜい気をつけた方がいい。人質をとっている不埒者(ふらちもの)の撃ち方は心得ている」

(画面)ジューイに捕まえられているフロール。口がいの字。
フロール「(小声)・・・不埒者が不埒者に不埒者と言ってる・・・」
(画面)画面が左へ移動。ジューイのアップに変わる。
ジューイ「(汗)・・・ふ,ふん! そんな薄っぺらな野蛮人のはったりなんか見え透いてるんだよ! 所詮,自分の国を滅ぼした無能な指導者じゃないか! 大国ガトランティスの足元にも及ばない小国ガミラスのぶんざいで!」

(画面)パメラの耳元へ顔を近づけるデスラー。パメラがその人生において初めて男に対してわずかに顔をそむける。
デスラー「(ささやくように)とりあえず,私の連れを解放してもらおうかな?」
パメラ「(消沈)・・・(顔を上げる)・・・ジューイ。プリンセス・フロールをお放しなさい」

(画面)ジューイとフロール。その言葉を聞いたジューイが一瞬とまどうように瞳を揺らす。わずかに屈辱の表情を浮かべるが,どうしても逆らうことができず,フロールを横へ突き放す。

(画面)開放されたフロール。右前方をにらみつけている。今までつかまれていた右腕を左手で払って,右手をぐるぐる回す。
フロール「運がいいやつだ! 開放するのがもう少し遅れたら,お前の(ピー!)を握りつぶしてやってたぞ!」

(画面)屈辱のジューイ。
ジューイ「(震える声)・・・さあ,パメラ様を解放してくれ」

(画面)嘲笑するデスラー。
デスラー「ふふ。あいにく私はお前と話すつもりは毛頭ない。命だけは助けてやる。直ちにここから立ち去ることだ。私はこれからこのご婦人と大事な話をしなければいけないのでね」
パメラ「(覇気なく)・・・向こうへ行きなさい・・・。ジューイ」

(画面)くやしそうに歯をくいしばるジューイ。それでもなすすべなく銃を下に下ろし,去りかける。
ジューイ「(振り返る)・・・僕の要望はパメラ様の解放だけだぞ! お前はそれと引き換えにさらに無理難題を言うつもりか,総統さん! お前さんも,”そうとう”図々しいやつだな!」

(画面)笑みが消え,真顔になるデスラー。次第に視線が鋭くなる。
(BGM)U−3

(画面)何気に振り向くフロール。

(画面)デスラーの両目のアップ。瞳が赤く輝く。
デスラー「(目のみ)下品な男だ・・・」

(画面)銃を強く握るデスラーの右手。
(画面)デスラーとパメラのツーショット。デスラーの銃がパメラから離れ,正面へ構えられる。次の瞬間,引き金が引かれて火を噴く銃。
(効果音)一発の銃声。

(画面)立っているジューイのアップ。・・・徐々にクローズダウン。アングルが引かれて全体像が見えてくる。・・・彼の左胸には小さな穴が開いており,そこから一筋の煙が立ち昇っている。不思議そうに自分の胸を見るジューイ。それから正面を向く。状況を把握したと同時に苦痛に顔をゆがめる。
ジューイ「・・・! (震えながら銃を構える)」

(画面)赤い瞳のデスラーのアップ。画面左にはデスラーの持っている銃の銃口。何のためらいもなく,たて続けに発砲。
(効果音)複数の銃声。

(画面)後方へ吹っ飛ぶジューイ。おさまらない弾光。
(効果音)倒れる音。鳴り止まない銃声。

(画面)撃ち続けるデスラーのアップ。無表情。
(効果音)複数の銃声。

(画面)目をつむり耳をおさえているパメラ。
(効果音)複数の銃声。

(画面)まゆをひそめるフロール。
(効果音)複数の銃声。

(画面)唖然としているビリュー・ルー。
(効果音)複数の銃声。

(画面)倒れているジューイ。すでに絶命している。しかしその身体は,続く銃弾のプレッシャーで絶えず床を跳ね回っている。
(BGM消える)
(効果音)複数の銃声。

(画面)デスラーの銃を持っている右手。引き金は引きっ放し。そこへ他者の左手が重なる。
(効果音)複数の銃声。

(画面)デスラーの右手を左手で押さえているフロール。
フロール「(見上げる)デスラー! もうやめろ! もう死んでいる!」
(効果音)複数の銃声。

(画面)目を細めるデスラー。少し頭を傾け,右を向いてフロールを確認する様子。
デスラー「(我に返る)」
(効果音)銃声が治まる。
(画面)正面を向くデスラー。

(画面)見るも無残なジューイの遺骸。

(画面)正面を向いているデスラー。・・・目を伏せ,さすがに苦笑する様子。
デスラー「・・・失礼した。柄にも無く,取り乱してしまったようだ。(視線を右へ)・・・しばらく忘れていたようだが,どうやら疲れていたらしい。彼には悪いことをしてしまったね。反省しなければいけないな」
(画面)見上げているフロール。・・・ふと顔を右へ曲げる。
(画面)連動。振り向くフロールのアップ。

(画面)見るも無残なジューイの遺骸。

(画面)フロールのアップ。視線そのまま。
フロール「・・・(汗)・・・謝っても,多分もう許してくれないと思うぞ。デスラー・・・」

(画面)鉄格子越しにパメラ。ビリュー・ルー。他,女戦士たちが狭い部屋に立ち尽くしている全景。全員こちらを見ているが,彼女たちの目には覇気が感じられない。例外はビリュー・ルーのみ。
(効果音)ピーという機械音。

(画面)鉄格子越しにデスラーとフロールが広い廊下に並んで立っている。
デスラー「ご婦人方には,むさ苦しい部屋で恐縮の極み。(右手を胸にあてて会釈)・・・スイートルームならよかったのだがね」
フロール「・・・(横で見ている)」
(画面)顔を上げるデスラー。鉄格子越しではない。
デスラー「しばしご辛抱願いたい。まもなくご婦人方にはご自由になって頂く。もちろん今までの業務はそのままで結構。私たちは用事が済めば早々にここを立ち去るつもりなのでね」

(画面)パメラの横のビリュー・ルー。
ビリュー「その言葉に偽り(いつわり)はあるまいな,デスラー!」

(画面)微笑むデスラー。少しローアングル気味。
デスラー「ふふ。今まで私の言葉通りにならなかったことがあったかな?」

(画面)パメラとビリュー・ルー。少しハイアングル気味。

(画面)流し目を残しながら右方向へ背中を向け始めるデスラー。マントが大きくたなびき,完全に背を向け歩き始める。横には振り向きながらデスラーと共に歩いているフロール。・・・少しずつ遠ざかって行く両者。
(効果音)靴音。

(画面)鉄格子越しのパメラとビリュー・ルーの全体。
パメラ「・・・!(倒れこむ)」
ビリュー「(パメラを支える)」

(画面)ディスプレイ前の計器類を操作している両手。白い手袋をしている。
(効果音)機械音。操作音。
(画面)ディスプレイの光に照らされているデスラーの顔。左斜め。どうやらここはパメラの部屋のようだ。後ろではフロールが立って見上げている様子。
フロール「・・・しっかし趣味の悪い部屋だな。何だ,このピンクの壁は。目がシパシパする。(しぱしぱ)」
デスラー「(操作している)・・・私は別に不快には感じないがね。それになかなかいい香りがする」
フロール「(げっ!)・・・やっぱりデスラー。お前,パメラの影響を受けているのか・・・!」
デスラー「ふふ。時代と場所に関わらず,女性とは常に男たちに影響を与え続ける絶大なる存在なんだよ。気をつけることだ。お嬢さん」
フロール「私にそれを警告するな」
(画面)デスラーのアップ。
デスラー「(微笑)そしてこれから私が連絡を入れようとしているあの女性もね」

(画面)宇宙空間。そこに眩く(まばゆく)赤みがかった黄色い光を放つ高齢期に入った恒星。
(字幕)恒星サンザー(画面下部横文字)
(BGM)イスカンダル。

(画面)恒星サンザーを抜け,画面が移動。クレーターだらけの惑星に接近。さらにその惑星を抜け,画面が移動。・・・やがて並び立つ2連惑星が見えてくる。・・・さらにゆっくりとその2連惑星に近づく画面。近づくにつれ,その2つの惑星の外観が明らかになってくる。・・・お互いに周回軌道を共有する双子星だが,全く対照的な景色が並び立っている。・・・その片方の惑星へクローズアップ。・・・薄い大気のすぐ内部に荒れ果てた緑の大地。海洋は見受けられない。しかし,そのところどころに巨大な開口部がぱっくりと口を開けて点在している。恒星の恵みを受けにくいその地下空洞内部はやはり薄暗く,かつてそこに居住区があったとは到底信じがたい様相を見せる。・・・かつて宇宙戦艦ヤマトが全人類の存亡をかけて戦った激戦の地となった惑星・・・。人類が初めて着陸した知的生命体先進惑星国家,ガミラス帝星。
(字幕)惑星ガミラス(画面下部横文字)

(画面)・・・惑星ガミラスより画面が左へ移動。双子の片割れとは思えない惑星へクローズアップ。・・・窒素の大気を持つ青い惑星。広い海洋も広がっている。しかし晩年の惑星らしく,地殻変動により陸地のほとんどが海洋に没しており現在はわずかに細長い陸地が北極から南極方向へ伸びているだけである。宇宙戦艦ヤマトが14万8千光年を経て,その目的地とした終着点。全てはこの星へ向かうことから始まったのだ。人類にとってけして忘れることのできない星,これを読むみなさんには万感の想いをこめてその名を思い出すであろう。地球人類の最大の恩人,イスカンダル帝星。
(字幕)惑星イスカンダル(画面下部横文字)
(BGM消える)

(画面)青い空に高くそびえたつ外観の建物。鋭く天空に伸びる城。城下には街並み。サンザーの恒星光が照らされ,傍らに傍観できる青い海がきらきら輝いている。
(字幕)イスカンダルセントラルシティ(画面下部横文字)

(画面)広い室内。照明は明るい。正面にある巨大なメインパネルがその広い部屋の中でも圧倒的な存在感を見せている。・・・そのパネルには固定表示で多重円が中央に表示されており,その円の中に無数の点滅する青い光の点が円の外へ向けてゆっくり動いている様子が映し出されている。・・・そしてそのパネルに向かうように,こちらに背を向けて座っている女性。髪の毛は長く,椅子の背もたれの外に投げ出されるようにかぶせられている。髪は薄い栗色に明るい黄色が混合したような色。細い肩がスレンダーなスタイルを象徴している。画面下に小さく見えるその女性に対して,いかに正面のメインパネルが巨大かを思わせる対比。
(効果音)小さな機械音。光の点滅音。

(画面)フラットなキーボードの上を触る風もなく,躍らせる細く長い両手の指。

(画面)小さな液晶画面。・・・そこに打ち込まれるイスカンダル文字。これからの字幕は全てこの液晶画面に打ち込まれ続けるイスカンダル文字の翻訳を示す。全て画面下部横文字。
(字幕)クエスチョン。・・・コンピューター。・・・星雲の内部に見える多数のエネルギー反応は何か?
(字幕)アンサー。・・・ジンコウ ケンゾウ ブツ。スイシン キノウ アリ。ウチュウ セン ノ シュウダン ノ カノウセイ。
(字幕)クエスチョン。・・・宇宙船の集団? 数は?
(字幕)アンサー。・・・カクニン デキル ダケ デモ 3マン 1セン 4ヒャク 8。
(字幕)クエスチョン。・・・確認できるだけでも,とはどういうことか?
(字幕)アンサー。・・・クウカン ドウカ キノウ ノ アル ジンコウ ケンゾウブツ モ ソンザイ スル カノウセイ アリ。・・・ソレ ハ コノ パネル デハ カクニンサレマセン。
(字幕)クエスチョン。・・・潜宙艦か? すると,あれは宇宙艦隊なのか?
(字幕)アンサー。・・・シツモン ニ タイスル イエス ノ カノウセイ・・・99・99パーセント。
(字幕)クエスチョン。・・・あの宇宙艦隊の国籍は?
(字幕)アンサー。・・・エラー。・・・カノウセイ ニ タイスル カノウセイ ノ カイトウ ハ デキマセン。

(画面)座っている女性の上半身の描写。気品のある絶世の美人。とがったあごに形の良い鼻。長いまつげの瞳が不満そうに細められる。しかしそんな表情でも少しもその美しさを損なうことはない。胸の大きくあいた服が,この惑星の温暖さを表している。
(字幕)イスカンダル帝星女王スターシア(画面下部横文字)
スターシア「・・・(小さなため息)・・・」
(画面)フラットキーボードを操作するスターシアの両手。

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)クエスチョン。・・・質問を変える。・・・あの艦隊の出発した宙域はどこか?
(字幕)アンサー。・・・ダイマゼラン セイウン チュウシン フキン。コウセイ ガトラン ケイ ニ チカイ チュウイキ。

(画面)さらに細められるスターシアの瞳。

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)クエスチョン。・・・ガトランティス連邦か?
(字幕)アンサー。・・・シツモン ニ タイスル イエス ノ カノウセイ・・・99・99パーセント。
(字幕)クエスチョン。・・・あの艦隊の目的は?
(字幕)アンサー。・・・フメイ。
(字幕)クエスチョン。・・・あの艦隊の目的地は?
(字幕)アンサー。・・・フメイ。

(画面)腕を組んで,首を傾げるスターシア。
スターシア「・・・ただごとじゃないわね。第26次マゼラン大戦以来の軍備勢力だわ。でも進行方向がウームとは違う」

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)クエスチョン。・・・可能性の質問。・・・艦隊の目的地は星雲内か?
(字幕)アンサー。・・・カノウセイ ハ ゼロ。・・・ゲンザイ シュウダン ノ シンコウ ソクド ハ コウソク ノ 3パーセント。・・・スデニ ダイ5ウチュウソクド ノ 900パーセント ヲ トッパ シテイマス。・・・サラ ニ ソトウチュウ ヘ カソク チュウ。
(字幕)クエスチョン。・・・艦隊の通信は傍受できるか?
(字幕)アンサー。・・・スグ ニハ デキマセン。・・・ケンゾウブツ タイ ケンゾウブツ ヘノ ヒカリ ツウシン ノミ。・・・ナイヨウ ヲ ジュシン スル マデ アト 2834ネン ホド オマチ クダサイ。

(画面)右手の中指で眉間を押さえるスターシア。
スターシア「・・・そんなに長生きできないわ」

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)クエスチョン。・・・ワープ通信は使用していないのか?
(字幕)アンサー。・・・ワープ ツウシン ハ ツカワレテ イマセン。ツウジョウ ノ ヒカリ ツウシン ダケ デス。
(字幕)クエスチョン。・・・ではこの艦隊は,帝星ガトランティスとはまだ一度も連絡を取り合っていないということか?
(字幕)アンサー。・・・コノ システム ニ カンチ サレテカラ イライ。

(画面)あごに触れるスターシア。
スターシア「・・・ガトランティスの元首が艦隊にいるわね・・・」

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)クエスチョン。・・・可能性の質問。艦隊の進行方向を予想。影響を受ける島宇宙は?
(BGM)M−8
(字幕)アンサー。・・・14マン 8セン コウネン サキ ノ ギンガケイ ニ オケル カノウセイ・・・99.999パーセント。

(画面)硬直するスターシアの両手。・・・再び動き出す。

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)クエスチョン。・・・イスカンダル自転408回前に星雲から離脱した人工彗星に対する再質問。その彗星と今回の艦隊との星雲離脱コースの比較。
(字幕)アンサー。・・・イッチ。

(画面)目を細めるスターシア。

(画面)再び液晶画面。・・・表示されるイスカンダル文字。
(字幕)・・・ありがとう。
(字幕)・・・ドウ イタシ マシテ。
(画面)液晶画面ブランク。

(画面)下唇に右人差し指第2関節をあてて思案する様子のスターシア。
(画面)椅子をくるりと回転させてこちらへ向き直るスターシア。・・・立ち上がり手前に歩き始める。画面に迫って来るスターシアの上半身。
(画面)連動。遠ざかる方向へ歩いて行くスターシア。

(画面)先ほどとは別の液晶画面の乗っているデスクに椅子。・・・その手前に腰かけるスターシアの右斜め後ろ姿。・・・フラットキーボードへ両手を伸ばすスターシア。

(画面)フラットキーボード上で操作を始めるスターシアの両手。

(画面)液晶画面。画面左側にはスターシアの右肩が見える。・・・イスカンダル文字が表示される。
(字幕)マゼラン・ネット(画面下部横文字)

(画面)スターシアを正面から。液晶画面の光が淡く彼女を照らしている。

(画面)液晶画面。下部に打ち込まれるイスカンダル文字。
(字幕)ガトランティス チャンネル(画面下部横文字)

(画面)スターシアの両目。

(画面)液晶画面に映し出される映像。映像の下にはイスカンダル文字のコメントが連なっている。・・・最初に白色彗星の映像とコメント。・・・悲しみに暮れるガトランティス国民の様子。・・・国民に向けて演説をしている銀髪の青年。・・・艦隊の出陣パレード。・・・。

(画面)スターシアの両目
スターシア「・・・田舎惑星・・・?」

(効果音)ピーという甲高い機械音。
(BGM消える)
(画面)反応するスターシア。右下へ視線。
(画面)液晶画面の右隅に通信マーク。
(画面)スターシア。
(画面)操作するスターシアの両手。
(画面)液晶画面の右隅にイスカンダル文字。
(字幕)・・・ジュシン ハ ライブ デス。メール デハ アリマセン。・・・シュベツ ハ ワープ ツウシン。・・・ソウシン モト ハ ワクセイ ビーメラ・・・。フザイ ガゾウ ハッシン マデ アト 18カウント・・・。(画面下部横文字)
(画面)怪訝な(けげんな)表情で首を傾げるスターシア。

(画面)液晶画面。真横にノイズラインが走り,スクリーンにスターシアの上半身が映し出される。
スターシア「(目を細める)・・・生きていたのですか。デスラー」

(画面)画面に向かっているデスラーとフロール。
デスラー「(微笑)・・・久しぶりだというのに,ご挨拶だね。スターシア」

(画面)スクリーンのスターシア。
スターシア「(視線を左へ)・・・隣にいるのはガトランティス人ですね」

(画面)フロールのアップ。
フロール「(目をみはる)・・・! (小声)美人・・・!」

(画面)デスラー。
デスラー「・・・まずは,私の国民たちを助けてもらった礼を申し上げる。私の人生の中で最も感謝しているよ。スターシア」

(画面)スクリーンのスターシア。
スターシア「(無表情)・・・まだ,そんなことを言っているのですか。デスラー。私の国民などと,よくもぬけぬけと言えるものです。それよりも早くこちらへ戻ってくるのです。・・・ビーメラにいるのなら程なく戻って来れるはず。・・・よもや遠ざかろうとしているのではないでしょうね」

(画面)デスラーとフロール。・・・ためらい気にデスラーを見るフロール。
デスラー「ふふ・・・。もちろん,戻らせていただく。ガミラスの国民は私の人生そのものだからね。この連絡も,貴女への感謝の意と,私の健在ぶりをスターシアに伝えたかっただけでね」

(画面)しばらく黙るスターシア。
スターシア「・・・ガトランティスの大艦隊が,銀河系へ向かっています。デスラー。あなた,今度は何をしようとしているのですか? あなたが向かうところ,いつもろくなことがありません」

(画面)苦笑するデスラー。
デスラー「相変わらず,手厳しいね。スターシア」

(画面)スクリーンのスターシア。
スターシア「ヤマトのみなさんとは会ったのですか。私のメッセージを聞いたのでしょう?」

(画面)さすがに少しタイミングが遅れるデスラー。
デスラー「・・・スターシア。ヤマトは沈没したよ」

(画面)表情が厳しくなるスターシア。
スターシア「それは,どういうことです。デスラー」

(画面)デスラー。
デスラー「あれから地球はガトランティスの攻撃を受けてね。ヤマトはズォーダーと刺し違えたらしい」

(画面)驚きをかくせないスターシア。
スターシア「あの時の軍事彗星・・・。向かったのは地球だったのですか。(苦痛の表情)・・・何という不運でしょう。あの惑星は,あなたにぼろぼろにされてからまだ復興の途中だったはず。・・・マモルの弟さんは無事なのですか」

(画面)下を向くデスラー。それを見ているフロール。
デスラー「・・・コダイか。残念だが,どうなったかは見ていない。だが恐らく生きてはいないだろうね」

(画面)にらみつけるスターシア。
スターシア「あなたは何をしていたのですか」

(画面)戦慄(せんりつ)の表情のフロール。
(画面)顔を上げるデスラー。
デスラー「話せば長くなるね。スターシア」

(画面)さらに厳しいスターシアの表情。左へ向く。
スターシア「ガトランティス人の貴女。・・・ガトランティスの艦隊は地球へ向かっているのですね。マゼラン・ネットのガトランティス チャンネルにあった”田舎惑星”とは地球のことなのですね」

(画面)突然の振りに飛び上がるフロール。
フロール「(いの字)あう! も,申し遅れた・・・。(胸に手)私の名はフロール・レイム・ズォーダー。このようなかたちでの挨拶で失礼する。・・・確かに艦隊は太陽系地球へ向かっている。しかし私は反対派で・・・」

(画面)スクリーンのスターシア。
スターシア「プリンセスなの? 貴女。レック・アルド・ズォーダー大帝とはどういう関係なのです」

(画面)硬くなっているフロール。
フロール「レック・アルドとは同じ父を持っている」

(画面)スクリーンのスターシア。
スターシア「なぜ,デスラーと行動を共にしているのですか」

(画面)冷や汗のフロール。
フロール「話せば,長くなってしまう」

(画面)ため息をつくスターシア。
スターシア「長くなる話ばかりのようで,今これ以上は何を話してもあまり意味はなさそうですね。・・・(両者へ目配せ)ただ・・・あなたがたがこれから何をしようとしているかは判りませんが,これだけは,はっきり言っておきます。地球は私の夫の故郷です。いいですか。地球に何か不慮の事態が起こった暁(あかつき)には,イスカンダルの全軍事力を開放してでもガトランティスを許しませんから,そのつもりで」

(画面)息を呑むフロール。
(画面)微笑するデスラー。
デスラー「また会おう。スターシア」

(画面)スクリーンのスターシア。
スターシア「複雑な心境にさせる申し出ですね。デスラー」
(通信が切れてスクリーンがブランクになる)

(画面)液晶画面に向かっているデスラーとフロールの左斜め後ろ姿。
フロール「(息を吐く)・・・すごいオーラだ。あれがイスカンダルの女王・・・」

(画面)ビーメラ地表。エアバイクにまたがっているデスラーの右側面。こちらを向いているデスラー。別のエアバイクにはフロールが乗っている。それぞれの後部座席には機材が詰め込まれている。恒星バームが地表に傾き,夕日の色が辺りを染めている様子。
(効果音)バイクのアイドリング音。
デスラー「(笑み)お邪魔した。ご協力感謝する。数々のご無礼はどうかお許し願いたい」

(画面)立ちすくんでいるパメラをビリュー・ルーが支えている。後ろには女戦士たちがいるが,もはや抗戦的な態度は見受けられない。

(画面)微笑しているデスラーのアップ。

(画面)元気無く,ビリュー・ルーに支えられながらも視線を上げているパメラ。

(画面)微笑しているデスラーのアップ。・・・ふっと下を向くデスラー。

(画面)エアバイクから降りるデスラー。こちらへ向けて歩いてくる。横ではバイクの上で目を丸くしているフロール。

(画面)パメラとビリュー・ルー。後ろの女戦士たちが銃を構える。・・・銃を下げさせるビリュー・ルー。

(画面)画面左端には手前のビリュー・ルーと並んで立っているパメラ。右端から歩いてくるデスラー。・・・パメラの前で立ち止まり,跪く(ひざまずく)デスラー。顔を上げて右手を伸ばし,パメラの左手をそっと握る。抵抗しないパメラ。パメラの手の甲に軽く口をつけると,そのまま後ろへ退がり立ち上がるデスラー。

(画面)胸に手をあてて頭を下げるデスラー。
デスラー「(顔を上げる)・・・元気がないご婦人を見るのは辛いものだ。貴女はとても魅力的だよ。自信を持った方がいいね」

(画面)惑星ビーメラ監視施設司令室内部。司令ボックスに座っているパメラ。横にはビリュー・ルーが立っている。
(効果音)小さな機械音。
(画面)パメラのアップ。
パメラ「(顔を上へ)・・・ビリュー・ルー」
(画面)見上げるビリュー・ルー。
ビリュー「はい。パメラ様」
(画面)パメラのアップ。
パメラ「(顔は上のまま)・・・あれが・・・男というものなの?」
(画面)見上げたままのビリュー・ルー。
(画面)パメラのアップ。
パメラ「・・・すごい腕の力だったわ。私がどんなに動こうとしても,どんなに抵抗してもけして力を抜かなかった・・・。私の思う通りにならなかった。ものすごく憎らしい。今まで男に対して怒りはあっても憎いと思ったことなんてなかった・・・」
(画面)見上げたままのビリュー・ルー。
(画面)パメラのアップ。
パメラ「困ったわ。私,今ものすごく困っているのよ,ビリュー・ルー。どうしてこんなに困っているのかしら。本当に困ったわ。ビリュー・ルー」
(画面)見上げているビリュー・ルー。視線を左後方へ向ける。

(画面)連動。こちらを向くビリュー・ルー。
(画面)司令室のメインスクリーンの映像。・・・夜空へ遠ざかる宇宙艇レネイドブーリーの小さな光が映し出されている。

(画面)宇宙空間に浮かぶ惑星イスカンダル。

(画面)建物内の廊下を手前に歩いてくる一人の男。半袖のラフな服装。・・・徐々に近づいてくる。手には書類らしきものを持って,それに時折目を走らせる様子。
(効果音)靴音。

(画面)その男のアップ。年齢は地球時間で25歳前後。少し長いもみ上げに淡い茶色の髪。涼しげな瞳。すっと高い鼻。しかしあまり細かい描写は不要であろう。それはあの偉大な宇宙戦艦ヤマト3代目艦長の面影に重なる容姿である。明らかに地球人。
(字幕)古代 守(画面下部横文字)

(画面)デスクに向かって座っているスターシアの正面が画面右端。・・・左端後方から姿を現す古代。
守「・・・スターシア」
スターシア「(後方へ向く)」
(画面)座っているスターシアへ近づく古代の後ろ姿からの描写。
(画面)立ち止まる古代。
守「(書類に目を配る)・・・ようやくガミラスのひとたちの生活レベルが安定したよ。けが人の数も減少傾向にある。疫病の心配もなくなった。ガミラスの人たちも友好的だ。治安も含めて,もう自力で復興し始めている。心配はなさそうだ」
(画面)微笑むスターシア。
スターシア「・・・あなたの人柄のおかげよ。マモル。ガミラスの人たちはあなたには心を許しているわ。戦線にいたガミラス艦隊も全て集結したし,これで何とか落ち着いてきたわね」
(画面)苦笑する古代。
守「でも,デストロイヤー艦が飛来してきた時はさすがに驚いたよ。・・・これは現在のガミラスの総人口リストだ。(書類を差し出す)」

(画面)書類を受け取るスターシア。書類に目を通す。
スターシア「・・・(目を細める)・・・男女の比率がアンバランスね。男性の数が圧倒的に少ないわ。それに年齢の格差が激しい」
(画面)画面右端で書類を見ているスターシア。右端で立っている古代。
守「・・・仕方ないよ。戦災だからね」

(画面)書類を持って顔を上げるスターシア。
スターシア「マモル。ガミラス人の男性はね,一度特定の女性を愛してしまうと,その女性から拒否の意思表示をされるか,あるいはその女性が何らかの理由で消滅してしまわない限り,他の女性を愛することができないの。気持ちの問題ではなく,生物学的な見地からよ。だからガミラスの社会では一妻多夫制は当たり前。今現状の男女の比率では,どう考えても劇的な人口の増加は望めないわ」
(画面)目を丸くする古代。
守「それは知らなかった。宇宙というのは色々な人種がいるものだね,スターシア」
(画面)微笑するスターシア。
スターシア「地球人は違うのね? マモル」
(画面)笑顔がこわばる古代。
守「あ・・・そういえば,この間,君が出したメッセージの返事みたいなものはヤマトから来たのかな? 進のやつ,メッセージの受け渡し役に返事を渡してないのかな。それにしても遅いね,スターシア」
(画面)はっとして目を伏せるスターシア。
スターシア「・・・そうね。遅いわね。マモル。そうね・・・」

(画面)宇宙空間を航行する宇宙艇レネイドブーリー。

(画面)レネイドブーリー内。船内の床にあぐらをかいて腕を組み,首を傾げているフロール。
フロール「しっかし,どう考えても解せないな。(逆方向へ首)・・・どうしてパメラのフェロモンがデスラーには通用しなかったのか。全く不思議な話だ」

(画面)コクピットで操縦管を握っているデスラーの左からの描写。

(画面)あぐらをかいて腕を組み,しっかり首を傾げているフロール。
フロール「(首を立てる)・・・判ったぞ! デスラー!」

(画面)コクピットで操縦管を握っているデスラーの左からの描写。・・・こちらを振り返るデスラー。

(画面)右腕を上げているフロール。
フロール「やっぱりお前は・・・(右腕を振り下ろし指差す)・・・アブノーマルだぁ!」

(画面)宇宙空間。星が点々としている。
(ナレーション)・・・無限に広がる大宇宙・・・。そこに散らばる様々な歴史の数もまた,無限である。そしてその無限の歴史のなかの小さな存在である地球に今,その歴史を終焉させるべく巨大なる脅威が迫っている。
(画面)太陽系の情景の描写。巨大な木星,土星。はるかかなたの太陽の光。
(ナレーション)・・・しかし,地球はまだこの事実を知らなかった。

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第5節 未知への発進! 宇宙戦艦アンドロメダ