第2節 大脱出! 難攻不落オルカバーン要塞

(画面)夜。ふたつの衛星が夜空を照らしている。

(画面)岩肌のアップ。画面が上へ移動する。しばらく続く岩肌。・・・そして唐突に現れる巨大な壁。画面はそこでストップ。今度は画面が引き始める。巨大な壁が遠ざかっていく。やがて,その壁がそびえ立つ塀として描写。塀に囲まれた要塞のような大きな建築物があからさまに出現する。その建築物は独立している何百メートルも上空の巨大な断崖絶壁の山の山頂にあり,光の帯が塀の敷地内から数本空に向けて照射されている。
(字幕)帝星立オルカバーン刑務所(画面下部横文字)

(画面)刑務所内の監視センターらしき部屋。監視モニターが一方の壁に数十基並んでいる。その手前にはデスク状の大きな操作パネルが場所を占めており,座席ボックスに制服を着ている職員が数人。しかし全員操作パネルに突っ伏して両手を前に投げ出している。気を失っているのか,死んでいるのか。・・・ガスマスクをしている同じ制服を着ている者がふたり,意識のない職員を乱暴にボックスから払いのける。

(画面)操作パネルをいじる両手。
(効果音)機械音。

(画面)操作パネルのレーダースクリーン。突然その表示灯が消え,沈黙する。

(画面)手前に操作パネル前に座っているガスマスクの左側半身。向こう側に立っているもうひとりのガスマスクへ視線を向ける。後頭部が見える。うなずく両者。向こう側に立っているガスマスクが壁にあるスイッチ類を操作する。

(画面)数十基ある監視モニターの全容。次々とモニターが消えていく。

(画面)監視モニターに映っている映像。(廊下にある出入り口。警備兵がふたり,扉の両側に立っている。)・・・その映像も消える。
(画面)ガスマスクのひとりが小さな機械を取り出す。
(画面)四角く黒い小さな通信装置。それを持っている右手。親指が通信装置の表面に三つ並んでいるボタンの一番右端のそれを押す。通信装置のランプが青く点る。
(効果音)小さな機械音。

(画面)夜。ふたつの衛星が夜空を照らしている。画面が下方へ移動・・・。衛星光の下で,さびれた工場の廃墟が描写される。どう見ても人の気配が感じられない。

(画面)様々な機械類が並んでいる部屋。それほど広くない。照明は淡いオレンジ色。薄暗さは否めない。しかしその部屋の中には不釣合いなほどの数の人影が確認できる。服装は一様に皆,黒装束スタイル。
(効果音)人の気配。機械音。

(画面)こちらに背中を見せて座っている黒装束の男。
黒装束の男「・・・オルカバーン刑務所内よりブルーをキャッチしました。刑務所内監視センターの占拠(せんきょ)に成功したもようです」

(画面)影がかかっている男の表情のアップ。無言でうなずく。おもむろに視線を右下へ向ける。
男「・・・姫君(ひめぎみ)。もはや後には引けませんぞ」
(画面)語りかけた男から少し低いポジションでの黒装束の描写。影で表情は垣間見れない。姫君と呼ばれているところから女性のようである。しかしその声は低く,しっかりした口調で若者と呼ばれても遜色(そんしょく)がない。
姫君「(視線を左上へ)・・・悩みはつきないな。サトラル」
(画面)サトラルと呼ばれた男。
(字幕)サトラル(画面下部横文字)
サトラル「(首を傾ける)それは間違いないでしょうな,姫君」

(画面)頭から黒いマスクをかぶり瞳だけをのぞかせる姫君。
姫君「デムデスバデーター隊,発進準備だ。各自,各任務役割を再確認。しくじれないぞ」

(画面)姫君の方向へ全ての黒装束たちが向き直り,右手を上げる敬礼。

(画面)建物内部。黒いデスバデーター型戦闘機が十数機,待機している様子。しかし滑走路にしては狭く,飛び立つはずの空も屋根に阻まれている。つまりここは,それの専用ではなく,この戦闘機隊は明らかに正規軍ではなさそうである。
(効果音)戦闘機隊のエンジンのアイドリング。
(字幕)デムデスバデーター隊(画面下部横文字)
(画面)黒いデスバデーター戦闘機隊の中に一艘の白い流線型の小型宇宙艇が停まっている。
(字幕)高速宇宙艇レネイドブーリー(画面下部横文字)

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの内部。コクピットの描写を正面から。照明はやはり暗く,フロントパネルのオレンジ色の光がボックスに腰かけている姫君の黒いマスクを淡く照らしている。計器類を操作している様子の姫君。
(効果音)内部機械音。大きくなるアイドリング。

(画面)フルフェイスメットをマスクの上からかぶる姫君。口に辺りに小さな小型マイクが確認される。
姫君「(視線を左右に動かしながら)全機発進準備完了確認。・・・発進口確保の爆破作業前,0.01ガトランティスアワー」

(画面)黒いデスバデーター戦闘機のコクピットフロントガラスを外部から描写。中で親指を立てるサトラルと思われる黒装束。
サトラル「・・・了解。カウントダウンに入る。全機爆破衝撃に備えよ」

(画面)見事な夜景を見せているガトランティスセンターシティの全景。

(画面)先程のさびれた工場の廃墟。

(画面)先程のさびれた工場の廃墟。・・・突然の閃光,大爆発する工場の外壁。画面いっぱいに建物の破片,鉄骨等。
(効果音)爆発音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの内部。コクピットの描写を正面から。姫君のフルフェイスメットのバイザーに閃光防御のフィルムがかかっている。爆発光がバイザーに照りかかる。爆風に揺れる小柄な身体。
姫君「全機,発進!」

(画面)さびれた工場の廃墟。・・・大きく穴のあいた建物から次々と黒いデスバデーター戦闘機が飛び出してくる。最初は羅列がばらばらだったが,次第に隊列が整う様子をローアングルから。
(効果音)爆風の余韻(よいん)。空気を切り裂く音。エンジン音。瓦礫(がれき)の落下する音。

(画面)ふたつの衛星が輝く夜空。
(効果音)遠くから聞こえ始める轟音。次第に大きくなってくる。

(画面)ふたつの衛星が輝く夜空。・・・突然猛スピードで現れる徒党を組んだ戦闘機の集団。形がカブトガニに似て半円盤型の機体に後方へ伸びる一筋の突起物をもつデスバデーター型の戦闘機。デムデスバデーター隊。数は20機余り。画面手前に直進してくる。
(BGM)M−46
(効果音)轟音が最高潮。
(画面)手前に向かってくる戦闘機隊を避けるようにアングルが向かって左側へ移動。戦闘機隊の右側面が一秒間に6機の速度で画面を通り過ぎる。通り過ぎた戦闘機隊の後方を追うようにアングルが変化。戦闘機隊の向かう前方には,絶壁の山の頂上にそびえ立ち光の帯を数本夜空へ照射しているオルカバーン刑務所の全景。

(画面)一機のデスバデーター戦闘機正面のアップ。フロントガラス越しに操縦席のサトラルが親指を立てる。
(サトラルの通信音声)・・・2号機,3号機はサーチライトを破壊せよ。他の者たちは刑務所の戦闘機発射口と対空砲塔を攻撃。ドームハッチの進入有効開口の確保を確認次第,ポートへ進入する。それまでは刑務所の注意をこちらへひきつける。内部潜入の仲間たちへブルーサインを送る。展開!

(画面)散開してオルカバーン刑務所上空へ到達した戦闘機隊。
(効果音)戦闘機のエンジン音。

(画面)刑務所監視センター室内。ガスマスクのふたりが,ガスマスクを取り去り制服を脱ぐ。二人とも黒装束に身をまとっている。
(BGM)M−46
(画面)黒装束のひとりが操作パネルに向かう。もうひとりは銃を持つ。
(画面)操作パネルの液晶スクリーン。そこにはオルカバーン刑務所の平面図のグラフィックが映し出されている。刑務所の西側にあるドーム状の部分が赤く点滅し始める。画面の下方では操作している黒装束の両手。

(画面)オルカバーン刑務所の上空からの描写。
(BGM)M−46
(画面)オルカバーン刑務所の上空からの描写。西側のドームが,中央頂点部分から蓮の花びら状に円周下部方向へ向けて放射線状にゆっくりと開き始める。
(効果音)静かな機械音。

(画面)隊列を組んで飛行する黒いデスバデーター戦闘機隊を上部手前からの描写。向かって左方向へ角度をつけて急降下するように画面左隅へ次々に退場していく。
(BGM)M−46
(効果音)エンジン加速音。空気を切り裂く音。連続。

(画面)急降下する黒いデスバデーター戦闘機から対のミサイルが双方から発射される。
(BGM)M−46
(効果音)エンジン音。ミサイル発射音。

(画面)白い宇宙艇レネイドブーリーの正面。
(画面)コクピットの姫君。バイザーの中の黒いマスクで未だ素顔は垣間(かいま)見えず。
(BGM)M−46
(効果音)エンジン音。

(画面)超高層ビル最上階の部屋。左方より歩を進めるレック・アルド・ズォーダーの上半身の描写。自分のボックスにたどり着くと,ゆっくりと腰掛けて頬杖をつく。ボックスの向かって右側に直立しているゲーニッツ。
(BGM)M−46
ゲーニッツ「(頭を下げる)・・・こんな夜中にお呼び立ていたしまして申し訳ありません」
レック「ふん。何の騒ぎかね。スクリーン投影は出来るのか」
ゲーニッツ「オルカバーン刑務所の監視塔からの映像がライブで入電しております。(視線を正面へ)」
(画面)正面の大型スクリーンの全景。真横にラインがはしり,オルカバーン刑務所の西側の今まさに開かれている途中のドームハッチの映像が投影される。
(効果音)映像投影時の電子音。
(画面)無表情のレック。
レック「・・・ほう」
(画面)スクリーンの映像。オルカバーン刑務所のドームハッチ付近で散開しているデスバデーター型戦闘機隊。対空砲が各所より弾光を連続発射している様子。一機の戦闘機が被弾して急降下していく。戦闘機からのミサイルで爆光を放つオルカバーン構内。
(効果音)戦闘機の飛び交う轟音。各発射音。爆発音。(映像)
(画面)やや左寄りに頬杖をついてボックスに腰掛け笑みを浮かべているレック。右後方には驚きを隠さず立ちすくんでいるゲーニッツ。彼らの正面に映像の光があたっている。
ゲーニッツ「・・・何なんだあれは。あのような武装勢力,どこから湧いてきたのだ・・・」
(画面)笑みが嘲笑に変わるレックのアップ。爆光が照らす。
レック「(頬杖の手を変える)・・・ふふ。フロールか。・・・浅はかな」

(画面)オルカバーン刑務所上空。開き続けているポートハッチ。まだ全開には至っていない。しかしその隙間へ向かって数機の黒いデスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリーが割り込むようにポート内部へ突入していく。
(効果音)機銃の音。爆音。エンジンの加速音。空気を切り裂く。
(BGM)M−46

(画面)薄暗いポート内部。暗いゆえにその広大なエリアは,はっきりとは実感できない。画面手前からアングルを追い抜くように数機の黒いデスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリーが遠ざかるように加速していく。

(画面)ポート内滑走路。サイド面からの描写。次々と着地してくる数機の黒いデスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリー。それらを阻む勢力はまだいないようだ。

(画面)黒いデスバデーターと宇宙艇レネイドブーリーからそれぞれ黒装束が降りてくる。
(画面)集まる黒装束集団。お互いにアイコンタクト。それぞれ銃を持って走り始める。総勢12名。
(BGM消える)

(画面)建物内部。大きな廊下を足音もなく駆ける黒装束集団。何人かが途中で別れ廊下を曲がって行く。
(画面)大きな廊下の途中に部屋の入り口らしき扉。今度も両脇に警備兵が立っている。手前に廊下の曲がり角。そこに隠れるようにしゃがみこむ5人の黒装束。

(画面)手前に先程の警備兵。向こう側に廊下の曲がり角。・・・突然曲がり角から飛び出す黒装束5人。4人が銃を構え,小柄な姫君は足がもつれてバランスを崩す。気配に気づく警備兵。とっさに銃を構えるが,黒装束ふたりの方が早い。黒装束の放つ消音銃の弾光が警備兵たちを貫く。小さなうめき声を発して倒れる警備兵。黒装束のサトラルが倒れた姫君の腕を支えて起こす。

(画面)先程の出入り口の扉の前。銃を持っている黒装束が扉の両側に立つ。サックを背負っている姫君が扉の正面に立って,両側のふたりに目配せしてうなずく。扉の両側のふたりはそれぞれの壁にある小さなハッチを開けて,その中にあるレバーを同時に引きおろす。両側に引き放たれる扉。姫君が出入り口から部屋の中へ駆け込んで行く。扉の両側のふたりがレバーに消音銃を放つ。焼け焦げる両側壁のハッチ。あとのふたりは銃を構えながらそれぞれの廊下の反対方向へ視線を配る。扉は開け放たれたまま。

(画面)暗闇。しかし,廊下の明かりがわずかに小柄の黒装束のシルエットを浮かび上がらせている。
(姫君の声)・・・どこだ・・・。確かここだったはず・・・。
(画面)突然,明るくなる室内。扉の左横に立つサックを背負った姫君。右手が電気スイッチ盤らしきものにかかっている。手を離し手前に駆けて来る。
(効果音)電気の震える音。

(画面)明るい室内。上からのアングル。画面右下から中央へ向けて斜めに見えている男の上半身。男は寝台に仰向けに寝ているようだ。男は目をつむっている。少なくとも上半身は裸。肌の色は黄色みがかった肌色。筋肉質である。髪の色はダークイエロー。鉤鼻に四角いあご,口はしっかり閉じられている。・・・その頭へ近づく黒装束姿の姫君。

(画面)右側に男の右側面頭部。男の右耳が見える。画面中央には黒装束に表情を隠した姫君のアップ。頭には黒いずきんをかぶり,鼻と口を黒いマスクで覆っている。目だけがみえており,瞳は緑がかった黒。
姫君「(声をひそめる)・・・おきろ,デスラー。ガトランティス語は判るか?」
(画面)寝台の下部側面。姫君の右手が伸びて操作盤に触れる。

(画面)男の右手首にかかっていたリングが外れる。
(画面)同様に両足首のリングも外れる。
(効果音)小さな金属音。

(画面)目をつむっている男のアップ。

(画面)目をつむっている男のアップ。・・・口元に笑みが浮かぶ。
デスラー「・・・やれやれ。今日は客人が多い。(目を開ける)しかも翻訳(ほんやく)マイク無しで話しかけてくるとはね」
(画面)寝台の上で上半身を起こすデスラー。右手首を押さえる左手。

(画面)床に膝をつき背中のサックを下ろして,中から衣類を取り出す姫君。それを差し出す。
姫君「まず,服を着ろ。お前が着ていた軍服だ。ほつれたところは全部なおしてある」
(画面)衣類を寝台の上に置く,低い体勢の姫君。画面手前に寝台から降りて立ち上がるデスラーの下半身の後ろ姿。どうやらデスラーは全裸だったようだ。ほんのわずかに視線をそらす姫君。
デスラー「感謝の極み」
姫君「(うつむいたまま)・・・普通に”ありがとう”と言ったらどうだ」

(画面)見上げる姫君のアップ。
姫君「・・・しかしイメージが違うな。ガミラス人は紺碧(こんぺき)の肌と聞いていたが・・・」
(画面)軍服の上着のボタンをしめていたデスラーの上半身。改めて自分の手の色を見るデスラー。
(姫君の声)・・・ズボンから履け。
デスラー「ふふ。あの坊やは,私を殺そうとしていた割には私の健康には充分配慮していたらしい」
(画面)目をひそめる姫君。
姫君「・・・坊や?」

(画面)デスラーの軍服の詰襟部分のアップ。両手で襟を閉める。
(画面)デスラーの軍服のズボンのベルト部分。ベルトを締める。
(画面)デスラーの足元。磨かれたシューズで互いのかかとをぶつけあう。
(画面)マントを大きく肩にかけ,完璧な軍服姿で直立するデスラーの全体像。右手のひらを胸にあてて微笑。
(BGM)U−3
デスラー「(頭を下げる)・・・申し遅れた。私がガミラス総統デスラーだ」
(字幕)デスラー総統(画面下部横文字)
デスラー「(顔を上げる)この私に用件があると推察(すいさつ)するが。お客人」

(画面)予想外の迫力に少し圧倒され気味に後方へゆらぐ姫君。
姫君「お,お前をここから連れ出しに来た」
(画面)微笑するデスラー。
デスラー「そこまでは私も想像がつく。どう見てもこの刑務所の職員ではなさそうだ」
(BGM消える)

(画面)オルカバーン刑務所上空。対空砲に撃墜されるデスバデーター。
(効果音)爆発音。

(画面)特別独房内。立ち上がってサックを背負う姫君。
姫君「(視線を向ける)我々の存在をどう見る・・・? デスラー」
(画面)笑みを崩さないデスラー。
デスラー「見極め(みきわめ)はできているつもりだ。・・・ただ,何の条件も無しに私を連れ出しに来たとも思えぬ」
(画面)鋭く見つめる瞳の黒装束。
姫君「当然だ。(小型の機械を右手に持ち,スイッチを入れる)」

(画面)部屋の出入り口の扉の外から仲間の黒装束ふたりが姿を現す。画面中央に小柄の姫君の正面。右端にデスラーの左斜め後ろ姿。右後方へ顔を向ける姫君。
姫君「デスラーを確保した。作戦を継続する。仲間たちへブルーサインを送るぞ。撤収(てっしゅう)準備」
ふたりの黒装束「・・・(うなずく)」

(画面)刑務所内の監視センター室内。黒装束のふたりが通信装置の音に気づいて視線を操作パネル上に置かれた通信装置へ向ける。
(画面)黒い通信装置。ランプが青く点る。
(画面)お互いに見合ってうなずく黒装束。立ち去ろうと身体の向きを変える。

(効果音)けたたましくドアを叩く音。
(画面)硬直するふたりの黒装束。

(画面)監視センター室内から見た出入り口ドア。叩く音はドアの外・・・廊下側からのもののようだ。
(ドアの外の声)・・・おい! ここを開けろ! 何をしている!
(効果音)けたたましくドアを叩く音。
(画面)見合う黒装束。ひとりが通信装置に手を伸ばす。
(画面)通信装置を持つ右手。親指が通信装置の表面に三つ並んでいるボタンの一番左端のそれを押す。通信装置のランプが赤く点る。

(画面)特別独房内。通信装置の音に気づき,それを見る小柄の黒装束。
(画面)赤く点っている通信装置を持っている右手。
(画面)目を細める姫君。
姫君「・・・刑務所内の警備が間に合い始めている。いくらなんでも早すぎるな,サトラル。(後方のふたりを見やる)」
サトラル「・・・もはや侵入ルートからの脱出は難航を極めるでしょうな」
姫君「・・・悩みはつきないが,仕方がない。急ぐしかあるまいな」
(画面)通信装置を持つ右手。親指が通信装置の表面に三つ並んでいるボタンの中央のそれを押す。通信装置のランプが黄色く点る。

(画面)姫君の後ろにいるふたりの黒装束が銃を構えながら独房内入り口付近へ退がる。

(画面)首をわずかに傾けるデスラー。
(画面)振り返る姫君。
姫君「デスラー,どうやらまともにはここから出られなくなったようだ。・・・この刑務所には飛行艇発着用のポートがある。そこに私の宇宙艇が停泊している。ここからポートまで誘導するからついて来てくれ。安心しろ,この事態も既に想定済みだ」
(画面)微笑するデスラー。
デスラー「ほう・・・。頼もしい限りだ。まともにここから出ようとしていたとはね」

(画面)刑務所内廊下。その途中にある出入り口ドアの前に5人の警備兵が群がっている。4人が銃を構え,ひとりがドアを叩いている。
(BGM)M−38
警備兵「誰かそこにいるのか! 何をしているんだ! とにかくここを開けろ!」

(画面)5人の警備兵たちが手前。・・・突然,向こう側の通路から姿を現す7人の黒装束。全員既に銃を構えている。気づいた警備兵たちが銃口を向けるが,たちまち黒装束たちの弾光に見舞われる。叫び声もあげる間もなく倒れる警備兵たち。

(画面)特別独房内。通信装置を確認する姫君。
(画面)右手に握られている通信装置。ランプが青く点る。
(画面)通信装置から視線を手前に移す姫君。
姫君「・・・ポートのドームハッチが間もなく全開する。デスラー,私について来い」

(画面)微笑が消えるデスラーの上半身の描写。視線は相手を抜き,遠方を見ている。首の角度が若干変化。
デスラー「・・・。(手前方向に鋭く踏み込む)」
(BGM)M−38

(画面)デスラーの視線。特別独房内から見た廊下への開け放たれた出入り口の全景。

(画面)特別独房内から見た廊下への開け放たれた出入り口の全景。・・・左右別の方向から飛び交う銃の弾光の残像が十数本,廊下側を通過。・・・廊下から黒装束ふたりが室内に倒れこんで絶命の様子。室内で待機していた残りふたりの黒装束が銃を構え,わずかに後ろへ退がる。
(効果音)消音銃ではない銃の発射音多数。複数の足音。

(画面)振り返る姫君の黒マスクのアップ。

(BGM)M−38
(画面)後ろを振り返っている姫君の全体が画面の向こう側。そこへ駆け寄るデスラーの後ろ姿。すぐさま小柄な黒装束の姫君を小脇に抱えてターン。画面手前へ駆け去る。
姫君「あうあ!」

(画面)先程まで自分自身が拘束されていた寝台を踏み越え,その影に飛び込むデスラー。小脇の姫君の両足が天空を舞う。それが影に隠れきった瞬間,銃の弾光が寝台に雨のごとく降り注ぐ。
(効果音)銃の発射音。弾が寝台や床に跳ね返る音。

(BGM)M−38
(画面)特別独房内から見た廊下への開け放たれた出入り口の全景。銃を構えていたふたりの黒装束が室内に飛び込んできた刑務所の警備兵数人に発砲するが,隠れる場所がなくたちまちふたりとも撃ち倒される。その際,サトラルの放った弾光が警備兵二名を射殺。
(複数の断末魔の声)
(効果音)銃声および人の倒れる音。

(画面)やや左寄りに寝台。右側にその影に身をひそめるデスラーが手前。向こう側に姫君。警備兵たちの放つ銃弾が彼らの隠れている反対側の寝台面に無数に跳ね返っている。姫君が片手用の銃を取り出し,寝台の上から銃を乱射。弾切れの心配はないらしい。
姫君「サトラル! 無事か!」
デスラー「返事はないようだね」

(画面)姫君の反撃に身構える警備兵たち。この段階では6人。室内から廊下へ退避する。姫君の放つ銃弾が彼らの足元や傍らの壁に命中。廊下側へ身を隠し,出入り口から応戦する警備兵たち。跳ね返る銃弾。
(効果音)銃弾の跳ね返る音。警備兵の足音。
(BGM)M−38

(画面)廊下で出入り口の横にあるレバーを操作しようとするひとりの警備兵。ドアを閉めようと考えたようだ。しかしすでにレバーは先程破壊されており,動かない。くやしそうに壁に拳を叩きつける警備兵。

(画面)寝台の影の姫君とデスラー。目線の高さを通過する弾光に身体を沈める姫君。
(BGM)M−38
姫君「(再び銃を構える)・・・くそ。警備兵が集まるのが早すぎる! セキュリティシステムは切ったはずなんだが・・・!(身を沈める)」
デスラー「刑務所には複数のセキュリティがある。そのうちのひとつを切っただけでは駄目だ。セキュリティが切られたことに反応するセキュリティもある。私も以前,何人も刑務所送りにしたから想像はつく。それに,わざわざそんな目立つ格好で所内を駆け回れば自分はあやしい者ですと宣伝しているようなものだ。どうやら刑務所に忍び込むのは今回が初めてのようだね」
姫君「(向き直る)そんなもん当たり前だ! どこの宇宙に,何の得にもならない刑務所に好き好んで忍び込む物好きがいるものか! お前がたまたま刑務所にいたのだ!(寝台の上から銃を放つ)」
デスラー「ははは。それは悪いことをした。今度は銀行にでも閉じ込められることにしよう」
姫君「(振り向く)もう二度と助けてなんかやるものか!」
デスラー「(微笑)まだ助けてもらっていないような気がするが?」
姫君「うっく!(身をかがめる)」
(効果音)銃弾の跳ね返る音。

(画面)先程の超高層ビルとは形状が異なるビルの全景。周辺には他のビルの夜景が広がっている。
(BGM)M−38
(画面)高層ビルの一室。手前に腰掛けうつむいて何かを操作している様子のナスカの上半身の正面。背後には慌しく行き来している数人。
(字幕)第6遊動機動隊本部(画面下部横文字)
(画面)手前に腰掛けうつむいて何かを操作している様子のナスカの上半身の正面。背後からバルゼーが近づく。
バルゼー「どうだ,ナスカ」
(画面)左手前にはバルゼーの直立している斜め後ろ姿。右寄り中央の腰掛けているナスカの背後。椅子を右回転させて右ひじをつきながら正面を向くナスカ。
ナスカ「オルカバーン刑務所内部の混乱箇所は2ヶ所です。54ブロックにある第3監視センターと,165ブロックの3652特別独房にイレギュラーの熱源が確認できました。ここはデスラーの拘留されていた独房です」
バルゼー「(右手をあごにあてる)・・・なぜこのような事態になったのだ。オルカバーンは難攻不落(なんこうふらく)ではなかったのか」
ナスカ「どうやら内通者がいた模様です」
(画面)バルゼー。
バルゼー「・・・刑務所に内通者だと・・・。そこまで乱れているのか,ガトランティスの治安は・・・」

(BGM)M−38
(画面)再び椅子を回転させて,もとの方向に向き直るナスカ。画面正面に前面。
ナスカ「3階の第3監視センターと36階の特別独房の平面レイアウトをマルチでスクリーンに投影いたします」
(画面)何も映っていないスクリーン。・・・その左半分と右半分にそれぞれの建物内部のディティールが映し出される。
(効果音)映像投影時の電子音。
(画面)スクリーン映像。まっすぐな廊下の左側に隣接している複数の部屋のディティール。そのうちのひとつの部屋にふたつの赤い点が表示されている。廊下には7つの赤い点が動き回っている。
(ナスカの声)・・・第3監視センター内にはふたり,その外には7人の不穏分子(ふおんぶんし)がいます。今こちらには刑務所の警備部隊が向かっています。どうも彼らの目的はセキュリティの混乱と,ポートのドームハッチの開放のようです。刑務所上空で戦闘状態の未確認戦闘機部隊を内部に迎え入れたものと思われます。この第3監視センターはポートハッチ管理の最優先システムを保有しています。

(画面)映像の光が当たっているバルゼー。

(画面)スクリーン映像。上にはしる廊下の下側に隣接している部屋。出入り口付近の廊下には6つの赤い点。部屋内部には寝台を示す方形の反対側にふたつの赤い点。
(ナスカの声)・・・3652特別独房の熱源は8つです。動きはあまり見られません。寝台の上に熱源がないところを見ますと,デスラーはすでに束縛(そくばく)から開放されているものと思われます。寝台の影にふたつの熱源が確認されます。恐らくデスラーはこのふたつの熱源のうちどちらか一方でしょう。廊下側の6つの熱源との距離にあまり変化がないところから,銃撃戦が発生しているかも知れません。

(画面)まゆをひそめているバルゼー。
(BGM)M−38
バルゼー「・・・しかし解せん(げせん)な。我々がデスラーを捕獲したことはごく一部の上層部しか知らぬトップシークレットだったはずだ。ましてオルカバーンに隔離(かくり)されていることが外部に漏れるなど到底考えられぬ」
(画面)再び振り返るナスカ。
ナスカ「私が思いますに,この不穏分子たちは単なるならず者の集団ではないようです。刑務所の職員をたぶらかすことが可能で,仲間を刑務所の職員として潜入させることができ,しかも刑務所の計器類を操作できる。さらにデスバデーター戦闘機を複数保有しています。経済的にかなり恵まれている集団です。メンバーの中にガトランティス上層部と通じている者がいるか,あるいはガトランティス政府の情報を容易に取得できるシステムを持っているか・・・いずれにしても反政府主義のテロリストであることは間違いないでしょうが」
(画面)右方向に2,3歩,立ち止まり正面を向くバルゼー。
バルゼー「・・・場合によっては上層部に裏切り者がいるということか。ナスカ,やつらの目的は何だと思うか」
(画面)ナスカ。
ナスカ「通常テロリストというのは無計画に殺人や破壊を行うものですが,この場合少し様子が変わっています。今回彼らは相当のリスクを負ってでも,デスラーを刑務所から脱走させようとする明確な計画を持っているようです。しかしそれ以降の行動も含めまして彼らの真の目的は私も図りかねます」
(画面)デスクに右手を置き,体重を支えるバルゼーの上半身が左側。右側にはそれを見つめるナスカの斜め後ろ姿のアップ。
バルゼー「デスラーを脱走させるなどと・・・とにかくこのままにはしておけぬ。ナスカ,我が第6遊動機動隊もいつでも出動できるように準備をしておけ」
ナスカ「すでに別の治安部隊がオルカバーンに向かっています。恐らく我々の出番はないものと思われますが・・・」
バルゼー「(直立する)・・・準備だけだ,ナスカ。確かにあの程度の勢力ではそんなに心配することもないとは思うが一応念のためだ。(あごをおさえる)・・・しかしそれにしても,今デスラーといっしょにいるのは一体何者なのだ・・・?」

(画面)スクリーンの映像。特別独房の寝台の影にあるふたつの赤い点。

(画面)刑務所の特別独房内。寝台の影には姫君とデスラー。向こう側で寝台の上から覗き込むように銃を乱射している姫君。手前にはそんな様子を見ているデスラー。
(BGM)M−38
(効果音)銃声と銃弾の跳ね返る音。

(画面)独房の出入り口付近の6人の警備兵たち。姫君の放つ弾光を避けて廊下側へ身を隠しながら銃で応戦している。しかし,姫君の弾光は床や壁に命中するだけの様子でまとまりがない。・・・見極めた警備兵のひとりが独房室内へゆっくりと入ってくる。

(画面)寝台の上面に警備兵の放った弾光が跳ね返り,身をひそめる姫君。手前にデスラー。
(効果音)銃弾の跳ね返る音。
姫君「・・・!(つむっていた目を開ける)」
デスラー「射撃は得意なのかね」
姫君「・・・見て分からないか?!(寝台の上から銃を放つ)」
(効果音)銃弾の跳ね返る音。
姫君「うっく!(身をかがめる)」

(画面)独房内へ,ひとりまたひとりと警備兵が入って来る。姫君の威嚇射撃に効果がなくなってきた様子。

(画面)黒い通信装置を操作する姫君。

(画面)第3監視センター前の廊下。7人の黒装束集団が通信装置の発信音に気づく。
(BGM)M−38
(画面)通信装置のランプが赤く点っている。
(画面)黒装束たちが顔を見合わせる。
黒装束A「・・・姫君たちはまだポートへ向かっていないぞ!」
黒装束B「サトラルたちは何をしているのだ!」
黒装束C「とにかく援護に向かうぞ。5人だ。ここはふたりでしのいでくれ」
(画面)うなずきあう黒装束集団。ふたりが監視センター出入り口にはりつき,5人が行動を起こそうと銃を持って駆け出したその時,7人の視線が同じ方向で固まる。

(BGM)M−38
(画面)廊下を駆けながら手前に向かって来る刑務所の警備兵たち多数。一斉に銃を乱射してくる。
(効果音)複数の銃の発射音。

(画面)銃で応戦する黒装束集団。ふたりが銃弾に倒れる。残りが反対方向へ退がろうとする。
(画面)立ち止まる黒装束集団5人。背後には迫って来る警備兵たち。

(画面)廊下で一斉に銃を発射する警備兵たち。
(効果音)複数の銃の発射音。

(画面)黒装束5人全員が銃弾に倒れる。

(画面)第3監視センター内。出入り口ドアを溶接しているひとりの黒装束。
(BGM)M−38
(効果音)火花の散る音。
(画面)操作パネル付近にいるもうひとりの黒装束。銃を片手に通信装置を操作している。彼の右下にはオルカバーン刑務所の平面が映っているスクリーン。・・・スクリーンへクローズアップ。刑務所のドーム部分が青く点滅していてガトランティス文字が表示非表示を繰り返している。
(字幕)”ポートハッチ全開完了”(画面下部横文字)

(画面)オルカバーン刑務所上空。星空にふたつの衛星。黒いデスバデーター戦闘機隊が刑務所の対空砲火をかわしながら刑務所へ攻撃をしかけている。
(BGM)M−38
(効果音)戦闘時の爆撃音。戦闘機のエンジン音。対空砲火の連続発射音。
(画面)一機のデスバデーター戦闘機のアップ。次の瞬間,対空砲火の直撃を受けて火を噴く。バランスを崩し,画面から下方へ退場。その影から数機のデスバデーター戦闘機。クローズアップ。

(画面)別の方向の夜空から飛来する戦闘機隊。パラノイアタイプの戦闘機が数十機。画面上部へ高速で通過していく。デムデスバデータ隊ではなさそうだ。
(効果音)複数のエンジン音。

(画面)空への光の照射が消えているオルカバーン刑務所の上空からの描写。完全に開放されているドームハッチからポート内へ,数機のデスバデーター戦闘機が進入していく。それを覆い隠すように別のデスバデーター戦闘機が画面手前に数機飛来。・・・ここで画面が一気に引かれる。遠くなる戦闘機隊とオルカバーン刑務所。画面の引きが止まり,左方向へ移動。左側からパラノイア戦闘機隊が各右側面を見せながら,画面をアップで左方向からさらに左へ方向転換。急激に遠ざかっていく。向かっている方向はオルカバーン刑務所。画面がパラノイア戦闘機隊を追いかけるようにオルカバーン刑務所のドームハッチへ再び接近していく。パラノイア戦闘機隊に画面が追いつく。手前のパラノイア戦闘機が向こう正面のデスバデーター戦闘機隊へ機銃掃射を開始する。攻撃を避けるようにデスバデーター戦闘機数機が画面左右へ展開。上昇する画面。回転する星空。
(効果音)戦闘時の爆撃音。複数の戦闘機のエンジン音。空気を裂く音。ドップラー効果。

(画面)広い部屋。大勢の軍服の職員たちがそれぞれの操作ボックスに座っている。慌しい雰囲気。壁には大きなスクリーンパネルがいくつも並んでいる。
(字幕)オルカバーン刑務所司令センター(画面下部横文字)
(BGM)M−38
(効果音)ざわめき。機械音。
(画面)司令センターの中でいらいらしている様子のひとりの男。職員とは違う軍服を着ている。かなりの肥満体の巨漢。
(字幕)オルカバーン刑務所所長タリマン(画面下部横文字)

(画面)タリマン所長の後ろに座っていたスタッフのひとりが顔を上げる。
スタッフ「所長! 政府治安部隊の戦闘機隊が到着しました!」
(画面)振り返るタリマン所長。
タリマン「遅い! 遅すぎる! あのズォーダーのこせがれめ! どうせまた女遊びでもしていたのだろう! 敵戦闘機がすでにポートへ侵入しているのだ! ポート内で空中戦でもやらかすつもりか! 冗談ではない!」

(画面)特別独房内。寝台の影で銃を乱射している姫君。通信装置の音に気づき,視線をそらす。
(BGM)M−38
(画面)右手に握られている通信装置。ランプが赤く点っている。
(画面)射撃を忘れて通信装置を見やる姫君。黒いマスクから見える目が落胆に曇る。
姫君「・・・何ということだ。くそ! 悩みはつきない」

(画面)この瞬間,6人の警備兵たちが一斉に動き始める。

(画面)はっと顔を上げる姫君。
姫君「し,しまっ・・・!(銃を構える)」

(BGM)M−38
(画面)寝台の上から銃を構えている姫君。手前にデスラー。おもむろにデスラーが姫君の背後で身体を床に一回転させる。

(画面)寝台の正面。上から顔を出し,右手で銃を構える姫君が画面右中央。・・・姫君の右隣にデスラーが低い体勢で現れ,銃を持っている姫君の右腕の肘の部分を左手で握る。目をつむり必死で引き金を引く姫君。デスラーが姫君の右腕を右36度,上18度へ動かす。・・・右14度,上16度へ動かす。・・・左3度,上15度へ動かす。・・・左12度,上16度へ動かす。・・・左26度,上14度へ動かす。・・・左32度,上20度へ動かす。
(効果音)銃声6発。

(画面)目を開ける姫君の黒装束のアップ。
(BGM)M−38

(画面)警備兵6人全員が倒れている。

(画面)寝台の上から少し顔を上げて銃を前方に向けたまま,目を丸くしている姫君の右斜め正面。デスラーがその耳元へ体勢を低くする。
デスラー「(微笑)お見事。(前方へ歩み去る)」
姫君「・・・(銃を見てまばたき)」

(画面)倒れている警備兵のひとりから長身の銃を拾い上げるデスラーの斜め後ろ姿。銃身を左手で支え,右手でトリガーを引く。
(効果音)トリガーの引かれる金属音。
デスラー「(振り向く)ポートへ行く道は分かるかな?」
(画面)我に返り,手前に歩いてくる姫君。
姫君「・・・携帯ナビゲーションを持っている。ここは36階だ。ポートへ行くには3階まで降りなければならない。私についてきてくれ」
(画面)微笑するデスラーの上半身のアップ。肌の色が少し青みがかってきている。
デスラー「それでは,お言葉に甘えて案内していただくとしようか。お嬢さん」

(BGM)
(画面)ぴくりと反応する姫君。鋭く上目遣いでにらみつける。・・・おもむろに頭にかぶっていた黒い布を取り去る。ダークブラウンの前髪が軽く眉間の部分までかかる。鼻から下を覆っていたマスクも右手で下ろす。そこに現れたのは桃色がかった肌色で瓜実顔の合点のいかない表情。小さめのうすい唇がきっと閉じられている。再び緑がかった黒い瞳でにらみつける。年齢は地球時間で18歳前後。
(字幕)フロール・レイム・ズォーダー(画面下部横文字)
フロール「・・・なぜ,分かった?」

(画面)微笑を崩さないデスラー。
デスラー「私が何年,男をやっていると思っているのかね」
(BGM消える)

(画面)第6遊動機動隊本部。目をひそめるナスカの表情のアップ。
(BGM)H−1
(画面)見上げているバルゼーの上半身のローアングル。
(画面)振り返るナスカ。
ナスカ「一瞬で・・・6つの熱源が消えました。寝台のふたつの熱源が動き始めます」
(画面)バルゼーのアップ。徐々に表情が険しくなる。
バルゼー「・・・デスラー・・・」
(画面)3652特別独房のレイアウトを映しているスクリーン。赤いふたつの点が廊下へ出て行く。

(画面)オルカバーン刑務所司令センター。タリマン所長が落ち着き無く歩き回っている。
(BGM)H−1
(画面)立ち止まるタリマン所長。
タリマン「・・・なぜ,ここからポートハッチが閉められんのだ! 治安部隊の戦闘機までポート内に入ってきているではないか! このままではオルカバーンはぼろぼろになってしまうぞ!」
(画面)操作ボックスのスタッフが顔を上げる。
スタッフ「第3監視センターにて操作プロテクトがかかっています! メインコンピューターが修復中ですが即急の改善は望めません!」
(画面)歯を食いしばるタリマン所長。
タリマン「オルカバーンのメインコンピューターはガトランティス連邦随一ではなかったのか! 第3監視センターから操作するしかあるまい! まだ第3監視センターへは入れんのか!」
(画面)操作ボックスのスタッフ。
スタッフ「不穏分子が強固にたてこもっています! 今入り口を破壊しているところです」
(画面)タリマン所長。
タリマン「・・・ええい! 歯がゆい!」
(画面)別の操作ボックスのスタッフ。
スタッフ「3652特別独房から囚人が脱走した模様です! 恐らくポートへ向かっているものと思われます! いかがいたしましょうか!」
(画面)振り返るタリマン所長。
タリマン「放っておけ! そんな細かいものと追いかけっこしている余裕などない! ポートに向かっているのならその周辺に警備兵を集中させよ! どのみちここからはどこからも出られん! ポートを閉鎖すればやつらは完全に袋のねずみだ! それよりも第3監視センターへの打開を急げ! ポートハッチ閉鎖が最優先だ!」

(画面)第3監視センター前の廊下。多数の警備兵が出入り口前に集まっている。警備兵のひとりが保護マスクを頭からかぶり,ホースに繋がれた酸素切断機の青白い炎をを出入り口ドアに向けて掃射している。飛び散る火花。
(BGM)H−1
(効果音)金属を切断する鋭い周波。

(画面)第3監視センター内。ふたりの黒装束が銃を構えている。
(BGM)H−1
(画面)第3監視センター室内側から見た出入り口ドア。左上から火花が鋭く噴射している。次第にゆっくりと火花が下の方へ下がっていく。
(効果音)金属を切断する鋭い周波。

(画面)オルカバーン刑務所ポート内部。先程とは打って変わって眩い照明に照らし出されている。完全に開かれたハッチからは星空と衛星ふたつが見えている。ポート内はかなり広大なエリア。画面が回転して下方へ描写。はるか下に見える滑走路の入り口。画面と滑走路をはさむ空域でデスバデーター戦闘機隊とパラノイア戦闘機隊の戦闘が行われている。撃墜されるパラノイア戦闘機一機。墜落してポートの底へ激突。遠く火柱が上がる。
(効果音)時間差で小さく聞こえる爆発音。戦闘機のエンジン音。機銃掃射音。
(BGM)H−1

(BGM消える)
(画面)第6遊動機動隊本部。椅子を回転させ正面を向くナスカの全景。
ナスカ「どうやらタリマン所長はデスラー捕獲に積極的ではないようです。ポート閉鎖を第一に考えているのでしょう。ポート内で治安部隊とテロリストとの空中戦が行われている模様です。ポート内で火災も発生しています。未だにポートが閉鎖されないところを見ますと,第3監視センターは未だテロリストから奪還できていないものと思われます」
(BGM)M−34(イントロ部分)

(画面)真顔になっているバルゼー。無表情になっている。
バルゼー「気に入らんな。なぜか知らぬが,妙な胸騒ぎがする。治安部隊の戦闘機隊の存在がデスラーにとって都合のいい状況をつくりだしているような気がする。やつは,これまで3度死んで3度生き返っている。私の知る限り,やつは宇宙で最も強運を身につけている男だ。(顔を上げる)・・・ナスカ,出動するぞ。準備は完了しているか」
(画面)命令を受けて立ち上がるナスカ。
ナスカ「提督,我々第6遊動機動隊はまだ正式に出動の命令を受けていませんが」
(BGM)M−34(序盤サビ部分)

(画面)バルゼー。
バルゼー「事後報告でよい。バルゼミアを稼動させよ。(後ろを向く)」
(画面)けげんな表情のナスカ。
ナスカ「・・・囚人の脱走騒ぎにバルゼミアを発進させるのですか?」
(BGM)M−34(サビ直前部分)

(画面)振り返るバルゼー。険しい表情。
バルゼー「急げよ,ナスカ! まだ間に合うのだ! いいか,どんなことがあっても絶対にあの男を解き放ってはならぬ!」

(BGM)M−34(サビ部分)
(画面)広い廊下を並んで走っているデスラーとフロールの右斜め前方。フロールが手前側。銃を両手で支えている向こう側のデスラーはその肌の色がすっかり元の青色に戻っている。・・・ちらりとデスラーを見るフロール。一度前を向くが,驚いたようにデスラーを再び凝視。
(効果音)ふたりの響く足音。

(画面)廊下の曲がり角から5人の警備兵たちが現れる。全員が銃を構える。
警備兵「とまれ! とまらないと撃つぞ!」

(画面)走りながら銃を構えるデスラーとフロール。フロールの背負っているサックが背中で揺れる。

(画面)銃を構えている警備兵たち。

(画面)デスラーとフロールが並んで銃を撃つ。1発。2発。3発。4発。5発。
(効果音)重複した銃声5回。

(画面)倒れる5人の警備兵たちを右側からすり抜けて走るデスラーとフロール。

(画面)デスラーとフロールのツーショット。
フロール「(正面を向いたまま)私の弾が当たったんだよな,デスラー!」
デスラー「(正面を向いたまま)お見事。・・・人を撃つのは初めてかね? お嬢さん」
フロール「(正面を向いたまま)・・・さっき,独房で6人撃ったばかりだろう。見ていなかったのか」

(画面)オルカバーン刑務所ポート内部。手前正面に一機のデスバデーター戦闘機前面。その後ろには数機のデスバデーター戦闘機。画面が回転してデスバデーター戦闘機の視線と一致。向かう正面には横長のトンネル状の滑走路入り口。両側の壁には並べられた照明。滑走路入り口から内部へ侵入。向こう側から発射される破壊ビームが右上部,左中央をすり抜けていく。両側の壁が高速で後ろへ流れる。
(BGM)M−34
(効果音)エンジン音。ビーム発射音。
(画面)画面左側からデスバデーター戦闘機が着地。減速が充分ではなかったのか,タイヤから白い煙が立ち上る。さらに数機のデスバデーターが後に続いて着地する。
(効果音)着地時のタイヤの摩擦音。

(画面)第3監視センター内。銃を構えている黒装束ふたり。身を隠す場所はない。
(画面)室内側からの出入り口ドアの描写。ドア切断している火花がドアの上部の右から左へ動いている。切断された線は左辺,底辺,右辺。最初に切断されている左辺の出発点に火花が接近。つまりドアに四角い穴が開けられる瞬間が近づいているのだ。
(BGM)M−34
(効果音)空気を切り裂く音。火花の噴射音。

(画面)黒装束ふたりが銃を構えている両手に力をこめ始める。

(BGM)M−34
(画面)出入り口ドアの表面に四角い切り跡が完成して,火花の噴射がおさまる。廊下側からドアを蹴り上げる音が聞こえ始める。
(効果音)金属が打たれている音。

(画面)銃を構えながら体勢を低くする黒装束ふたり。

(BGM)M−34
(画面)鉄製ドアの中央が切断されたラインに沿って,手前に倒れる。蹴り上げている体勢の警備兵の姿が開口に現れる。
(効果音)金属の倒れる音。

(画面)低い体勢のふたりの黒装束が一斉に発砲する。
(効果音)連続する銃声。

(BGM)M−34
(画面)第3監視センター前の廊下。蹴り上げた警備兵が室内からの銃弾により廊下側へ吹っ飛ぶ。他の警備兵たちが銃身だけを室内へ向けて続けざまに発砲。
(室内側の声)ぐわ!

(画面)第3監視センター側からの出入り口。・・・ドアの開口から警備兵たちが覗き込む。

(BGM)M−34
(画面)出入り口から覗いた監視センター内。・・・黒装束ふたりが血まみれで倒れている。すでに絶命しているようだ。

(画面)第3監視センター内。警備兵のひとりが操作パネルに向かう。
(BGM)M−34
(画面)操作パネルの液晶スクリーン。そこにはオルカバーン刑務所の平面図のグラフィックが映し出されている。刑務所の西側にあるドーム状の部分が青く点滅している。画面の下方では操作している警備兵の両手。・・・やがてドームの部分が赤く点滅し始める。ガトランティス文字が変化して表示非表示を繰り返す。
(字幕)”ポートハッチ閉鎖開始”(画面下部横文字)

(画面)オルカバーン刑務所上空。パラノイア戦闘機コクピット内のパイロットの斜め後ろ姿。パイロットの視線の先にあるドームハッチがゆっくりと閉まり始める。
(BGM)M−34
(効果音)ハッチの動く音。

(画面)オルカバーン刑務所内部の3階エレベーター前。警備兵が14人,銃を構えている。
(BGM)M−34
(画面)エレベータードアのアップ。ドアの右側にある縦に並んでいる白いランプが,上から順番にひとつずつ下へ点灯していく。下から3番目のランプは赤くなっている。赤いランプへ近づく光。

(画面)思い思いの体勢で銃を構える警備兵たち。

(画面)エレベータドアのアップ。ドアの右側の下から3番目の赤いランプが点り,ドアがゆっくりと開かれる。
(エレベーター内からの声)・・・待て! 撃たないでくれ!

(画面)一瞬,硬直する警備兵たち。

(画面)開かれたエレベーター内に人影。その人影から銃が続けざまに発砲される。
(効果音)連続する銃声。

(画面)銃弾に倒れる警備兵数人。その他の警備兵がエレベーターへ向けて銃撃を始める。
(効果音)連続する銃声。

(BGM)M−34
(画面)開かれたエレベーター。その中の人影に雨のごとく降り注ぐ無数の銃弾。エレベーター周辺の壁や内部にまで銃弾が見舞われ,飛び散る破片。湧き上がる煙。
(エレベーター内からの声)・・・ぐわ! ぐえ! がああ!

(BGM)M−34
(画面)開かれたエレベーターからは,それでも外へ向けて銃が発砲され続ける。
(画面)エレベーター内部からのアングル。次々と銃弾の弾光に見舞われて倒れていく警備兵たち。他の警備兵たちが銃撃を続けるも,警備兵たちを見舞う銃弾は緩まない。やがて警備兵たちの応戦もむなしく,14人全員が床面に血まみれとなり倒れる。

(BGM)M−34
(画面)煙にまとわれているエレベーター。・・・やがて煙が晴れる。そこに立っていたのは地球単位で体重120キロはあろうかと思われる警備兵。軍服はぼろぼろになっており,身体のあちこちに無数の銃弾の跡。目立たない首の上の表情は,もはやこの世のものではない。目はうつろに虚空を見上げ,だらしなく開けられた口からは血がしたたり落ちて舌も同じ方向に垂れ下がっている。・・・やがて唐突にその警備兵は前のめりにバランスを崩して,すさまじい衝撃で床に倒れこむ。その後ろには笑みを浮かべているデスラーの姿。
デスラー「(嘲笑)ふふふ・・・。太っている人間はこういう時には役に立つ」

(画面)エレベーター入り口の右側の袖壁部分に隠れていたフロールが顔を出す。口が,いの字。
フロール「あうああ。・・・(見上げる)デスラー。お前,もしかしてものすごく悪いやつだろ?」
(画面)フロールの視線からのデスラー。視線を合わせる。
デスラー「(軽い驚きの表情から微笑)ふふ・・・。私もまだまだ努力が足りないということか」

(画面)オルカバーン刑務所ポート内部。空を見上げるアングル。徐々に星空の面積がせまくなっていく。まだふたつの衛星は見えている。
(BGM)M−34
(効果音)ハッチの動く音。

(画面)オルカバーン刑務所ポート内滑走路。宇宙艇レネイドブーリーの周辺に着地しているデスバデーター戦闘機数機。滑走路内の砲撃に機銃で応戦している。・・・やがてそのうちの一機が砲撃の直撃を受けて爆発。
(BGM)M−34
(効果音)銃撃戦。爆発音。

(画面)画面右端の通路の曲がり角で立ち止まるデスラーとフロール。画面中央には少し距離をおいてデスバデーター隊と滑走路側の砲撃戦が行われている様子。その手前には警備兵が数十人,銃を構えて周囲を警戒している。
(BGM)M−34
(効果音)銃撃戦。爆発音。
(画面)曲がり角からデスラーとフロールの正面のアングル。手前にフロール。フロールがしゃがみこみ,画面もそれを追う。背中のサックを下ろして中を探るフロール。・・・サックの中から棒状のものを取り出す。柄の部分は細く,残り半分は約二倍の太さ。細い部分の端には何か丸い輪がぶら下がっている。
フロール「・・・デスラー。あの滑走路にある白い宇宙艇が私の船だ」

(画面)通路の先にある滑走路の少し離れた場所に小さく見える宇宙艇レネイドブーリー。少しだけクローズアップする。

(BGM)M−34
(画面)サックを背負って立ち上がるフロール。右手には先程の棒状のもの。それに視線を送るデスラー。
フロール「・・・(振り向く)この手榴弾であの警備兵たちを混乱させる。爆発に紛れて一気にあそこまで走るんだ。その爆発が仲間たちへの合図にもなる。いいか。遅れるなよ」
デスラー「(見上げる)・・・ここのフロアーの通路はやけに広いが。あの程度の宇宙艇ならば,ここまで入ってこられるのではないかね?」
フロール「(デスラーを見上げる)・・・この3階フロアーには,この刑務所の機械設備が集中している。ポートから機械を搬入搬出するメンテナンスに対応するために通路を拡張している。だが,広いとはいえあのレネイドブーリーが方向転換する程の余裕はない。このフロアーはバックヤードだから通路は迷路と言っていい。一度入り込んでしまえば,ポートへ戻るのは容易じゃない。どの道,ここから出るにはポートに出なければならない。私たちがポートへ行くしかないんだ」
(画面)微笑するデスラー。
デスラー「あの宇宙艇の名かね」

(画面)画面中央に警備兵たちが集まっている。
(BGM)M−34

(画面)画面中央に警備兵たちが集まっている。・・・手前右側の曲がり角からフロールの後ろ姿が飛び出して,右手で棒状の手榴弾を警備兵たちへ投げ込む。すぐに曲がり角へ身を隠すフロール。

(画面)床へ落下して転がっていく手榴弾。やがて警備兵の足元へぶつかり,停止。
(効果音)手榴弾の床にぶつかり転がる音。

(画面)気がつき,下を見る警備兵のローアングル。

(画面)足元に転がっている手榴弾。

(画面)下を見ている警備兵のローアングル。たちまち顔色が変わる。
警備兵「しゅ手榴弾だ! 逃げろ!」

(画面)蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げる警備兵たち。

(画面)オルカバーン刑務所ポート内部。空を見上げるアングル。蓮の花状に半分以上ハッチが閉まってきている。ふたつの衛星のうちのひとつがハッチの影に隠れている。
(BGM)M−34
(効果音)ハッチの動く音。

(画面)壁に背をつけて両手で耳をふさいでいるフロール。
(BGM)M−34
(画面)壁に背をつけて両手で耳をふさいでいるフロール。・・・デスラーの右手が彼女の左肩に二回触れる。
(画面)曲がり角斜めからのアングル。手前にフロール,向こう正面にはデスラー。気がついたフロールが両手を下ろしてデスラーを見る。フロールの後頭部が手前。
デスラー「お嬢さん。ピンは抜いたのかな」
フロール「ピンとは何だ」

(画面)通路に転がっている手榴弾。警備兵たちがその周辺に戻って来る。ひとりの警備兵が足のつま先で手榴弾をつつく。わずかに動く手榴弾。・・・その警備兵が手榴弾を手に取る。

(画面)手榴弾を手に取っている警備兵の上半身のアップ。彼の周りに他の警備兵たちが集まっている。手榴弾を逆さまに持ち替える警備兵。細い柄の端に丸い金属の輪がついている。・・・警備兵たちの表情に安堵感が広がる。

(画面)警備兵の持っている手榴弾のアップ。次の瞬間,小さな火花とわずかな煙を伴って細い柄の端の丸い輪が消滅する。
(効果音)銃声。小さな金属音。

(画面)曲がり角から銃口を向けていたデスラー。曲がり角の裏へ姿を隠す。・・・曲がり角から顔を出すフロール。曲がり角の裏へ引き込まれる。

(BGM一時停止)
(画面)手榴弾を持っている警備兵と周辺の警備兵たちが,唖然として丸い輪の消えた細い柄を見ている。・・・我にかえる警備兵たち。大きく目と口を開ける面々。
警備兵たち「わあああああ!」

(画面)曲がり角に隠れているデスラーとフロールが画面右端。中央の通路が一瞬眩く光を放つ。強烈な爆発が起こり,爆光と爆風が画面を支配する。デスラーとフロールの姿がかすむほどのすさまじい爆発。
(効果音)爆発音。瓦礫のぶつかる音。突風音。

(画面)ポート滑走路内。デスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリーが停まっている上方からのアングル。右上方向にある通路入り口から爆光と爆風がすさまじい煙と共に噴き出してくる。
(効果音)爆発直後のガラスが割れたような音。

(画面)デスバデーター戦闘機のフロントガラス越しのコクピットの描写。フルフェイスメットをかぶっているパイロットの姿。フロントガラスには爆発の残り火が映っている。
(パイロットの音声通信)・・・姫君たちが戻ってきた! 援護しろ! レネイドブーリーへ収容次第,脱出準備を開始する!
(別のパイロットの音声通信)・・・急げよ! ドームハッチが閉まり始めている! 閉じ込められれば我々は破滅だ!
(さらに別のパイロットの音声通信)・・・治安部隊の戦闘機が滑走路へ進入してきている! どうやらポート内の仲間は我々だけになったぞ! 応戦準備をしろ!

(画面)滑走路内部方向から見た滑走路入り口付近。パラノイア戦闘機が次々と着地してくる。
(効果音)タイヤの摩擦音。エンジン音。連続。

(画面)パラノイア戦闘機パイロットの視線。滑走路内部を滑走している。小さく見えていたデスバデーター戦闘機隊がみるみる近づいてくる。両側の照明が後方へ流れていく。正面方向からデスバデーター戦闘機の発射した機銃の弾光が右へ左へとかすめていく。弾光が正面からまっすぐに向かって来る。接近し,大きくなる弾光。パイロットの両腕が自身をかばうように上げられる。弾光が直撃。爆光。画面が白くなる。
(効果音)爆発音。

(画面)曲がり角に隠れているデスラーとフロールが画面右端。中央の通路が煙に見えなくなっている。おもむろにデスラーとフロールが曲がり角を飛び出して,画面中央にある通路の煙へ向けて走りこんで行く。
(BGM)M−34

(画面)煙にかすんでいる通路の横からのアングル。・・・煙の中から並んで左へ飛び出してくるデスラーとフロールの姿。

(画面)滑走路終点のバルコニータイプの通路にいる警備兵たちが視線を下方へ向ける。すぐさま銃を構えて発砲を繰り返す。
(効果音)連続する銃声。

(画面)走っているデスラーとフロールを追いかけるように警備兵たちの放った弾光が次々に床に炸裂。間一髪で彼らには命中しない。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの正面。宇宙艇下部のハッチが手前方向へ降りてくる。完全に開放されたハッチからフルフェイスメットをかぶっているパイロットが出てくる。
パイロット「こちらです! 急いでください!(右手を下から上へ)」

(画面)正面手前へ向かって並んで走ってくるデスラーとフロール。はるか後方には発砲している警備兵たち。すぐ後ろでは床に跳ね返って火花を散らしている弾光無数。
(効果音)床に炸裂する金属音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの正面。ハッチにたどり着くデスラーとフロール。正面を見ながらやりすごし,フロールをかえりみるパイロット。
パイロット「他のひとたちは?」
フロール「(立ち止まり,パイロットに向き直る)」
デスラー「立ち止まるな!(フロールの腕をつかんで宇宙艇の内部へ連れ去る)」
パイロット「・・・!(銃弾を背中全身に浴びて蜂の巣になり,吹っ飛ぶ)ぐあ!」

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの内部。奥から上がってくるデスラーとフロール。内部はそれほど広くはない。コクピットには座席がひとつ。後方にもうひとつの座席がある。内部壁の装飾はいたってシンプル。サックを投げ捨てて,画面手前のコクピットにつくフロール。デスラーがその座席の後ろの席に座る。
(BGM)M−34
フロール「・・・カムラ・・・。ちくしょう!(上を見上げ,スイッチ類を操作)」

(画面)ハッチを上げる宇宙艇レネイドブーリー。ハッチが閉まりきらないうちに前輪を左方向へ転回する。絶命しているパイロットの身体が路面へ投げ出される。反転を開始。雨のように機体に降り注いでいる弾光の嵐。
(BGM)M−34
(効果音)静かなエンジン音。弾光の跳ね返る音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。コクピットに座っているフロールの後ろ姿。前方のフロントガラスの外の景色が左から右へ動いている。マイク付の防護メットをかぶるフロール。ゴーグルの中の前髪が下がる。
(BGM)M−34
(効果音)艇内機械音。
フロール「(操縦管を握る)デスラー確保! デムデスバデーター隊撤収する! 脱出だあ!」

(画面)オルカバーン刑務所ポート内部。空を見上げるアングル。蓮の花状のハッチがほとんど閉まってきている。もはや星空のふたつの衛星は見えない。
(BGM)M−34
(効果音)ハッチの動く音。

(画面)滑走路内。爆発する一機のデスバデーター戦闘機。動き始める残り5機のデスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリー。レネイドブーリーの前に3機。後ろに2機のデスバデーター戦闘機。画面左方向へ向かって一気に滑走し始める。もはや滑走路内部の攻撃は熾烈を極めている。
(BGM)M−34
(効果音)砲撃,砲火,直撃,エンジン音。
(画面)デスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリーが滑走路内を画面左方向へ加速していく。

(画面)先頭のデスバデーターコクピットからの視線。行く手に徒党を組んでいるパラノイア戦闘機隊が機銃を撃ちつづけている。こちら側から応戦の機銃攻撃。弾光が数発遠ざかっていく。路上や壁に命中。

(画面)画面左方向へ滑走する6機のうち,宇宙艇レネイドブーリーの左前方と右後方のデスバデーター戦闘機が直撃を受けて火を噴く。双方ともバランスを崩し画面から退場。画面右端から爆光。
(効果音)複数の爆発音。

(BGM)M−34
(画面)先頭を滑走するデスバデーター戦闘機の正面。滑走しているにもかかわらず両側下部よりミサイルを発射する。
(画面)アングルがミサイルを発射したデスバデーターコクピットからの視線。ロケットを噴射し,路上を火花を散らしながらすべっていく6基のミサイル。みるみる遠ざかっていく。前方のパラノイア戦闘機隊の中央に全基突っ込んでいく。大きな爆発が起こる。避ける間もなくその爆発のさなかへ突入していく画面。真っ白になる。フロントガラスを突き破り,爆発の炎が画面いっぱいに支配。
(効果音)ミサイル発射音。爆発音。

(画面)画面右側に滑走路出口。そこから脱出してくるデスバデーター戦闘機と宇宙艇レネイドブーリー。すでにデスバデーター戦闘機は宇宙艇レネイドブーリーの前後に各一機しかない。脱出直後に滑走路出口より爆風と煙,炎が噴出す。画面左上に飛び去る3機。
(BGM)M−34
(効果音)爆風音。エンジン音。

(BGM)M−34
(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。手前に操縦管を握っているフロール。後ろの座席にデスラー。
デスラー「(いぶかしげに)お嬢さん,何者かな? あまりにも周りの者たちがお嬢さんに命をかけすぎるが」
フロール「(歯をくいしばる)・・・」

(画面)ほとんど閉まりかけているポートハッチを背にパラノイア戦闘機4機が画面手前に急降下してくる。
(BGM)M−34

(画面)宇宙艇レネイドブーリーをかばうように2機のデスバデーター戦闘機が前面に並ぶ。
(通信音声)・・・我々が引き付けます! 間隙をぬってポートハッチへ向かってください! 必ず脱出してください! 我々の悲願を・・・! 新しいガトランティス連邦を・・・!

(画面)パラノイア戦闘機4機に急上昇で襲い掛かるデスバデーター戦闘機2機。左右に展開する。パラノイア戦闘機の陣形の中央に隙間が開く。

(BGM)M−34
(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。操縦席に座っているフロールの左半身。左足でペダルを踏み,左手に握られているレバーを上に押し上げる。左足を緩めて右足で別のペダルを思い切り踏み込む。
(画面)フロールのアップ。
フロール「任せておけ! 命に代えてもやりとげてみせる! お前たちのことはけして忘れぬ!」

(画面)宇宙艇レネイドブーリーのエンジン部分のアップ。大きな火柱が噴き出す。
(画面)パラノイア戦闘機隊の中央を突破していく宇宙艇レネイドブーリー。さらに急上昇。
(効果音)ひときわ大きなエンジン音。

(画面)ほとんど閉まりかけているポートハッチのアップ。

(BGM)M−34
(画面)上方より見下げるアングル。画面右上より撃墜されていくパラノイア戦闘機3機がきりもみ状態。追従して墜落していくデスバデーター戦闘機一機。画面のアングルが見上げる方向へ転回。閉まりかけるポートハッチの隙間へ急上昇していく宇宙艇レネイドブーリー。それを追うパラノイア戦闘機。さらにそれを追いかけるデスバデーター戦闘機。一直線上に宇宙艇レネイドブーリーがあるため,デスバデーター戦闘機側から機銃攻撃ができない。

(画面)機銃掃射を開始するパラノイア戦闘機。正面の大きなフロントガラスにパイロットの姿。。
(効果音)機銃発射音。
(画面)宇宙艇レネイドブーリーの脇をわずかな差ですり抜ける弾光。

(画面)ほとんど閉まりかけているポートハッチのアップ。

(BGM)M−34
(画面)機銃掃射しているパラノイア戦闘機の背後から迫るデスバデーター戦闘機。さらに接近。パラノイア戦闘機の大きなフロントガラスに見えるパイロットが後ろを振り返る。機銃掃射が止まる。次の瞬間,後ろからデスバデーター戦闘機がパラノイア戦闘機に激突。双方がバランスを崩して急激に減速。画面から小さくなっていく。やがて爆発。墜落していく。
(効果音)衝突,エンジンの変調音。爆発音。

(BGM)M−34
(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。操縦席に座っているフロールの左半身。鎮痛な顔で後方を見やっていたが,目をつむり前方を見据える。
(画面)前方を見やるフロールのアップ。歯をくいしばっている。
(画面)けげんな表情のデスラー。

(画面)ほとんど閉まりかけているポートハッチのアップ。

(BGM)M−34
(画面)ポートハッチへ向かう宇宙艇レネイドブーリーの急上昇する左側面。
(効果音)エンジン音。
(画面)フロントガラス越しのフロールのアップ。フロントガラスには閉まっていくポートハッチが映っている。
フロール「わああ! いっけええ!」

(画面)閉まっていくポートハッチが迫ってくる。今まさに閉まろうとしている。

(BGM消える)
(画面)操縦管を握っているフロールの両手のアップ。その左手にデスラーの右手がかかる。操縦管ごと握りしめ,左方向へ引っ張るデスラーの右手。
(画面)手前側にバランスを崩すフロールの左半身。

(画面)ポートハッチの内部を左斜めからの描写。ハッチが閉まり,宇宙艇レネイドブーリーがその内壁手前で左方向へターン。宇宙艇の底部分が上を向くかたちでその底部分がハッチの内壁に接触。火花を散らしながらハッチの内壁を上下逆さまに滑走する宇宙艇レネイドブーリー。そのまま画面から退場。
(効果音)ハッチの閉まる音。金属同士が激しく擦れる音。

(画面)振り返るアングル。はるか小さく,体勢を整えている宇宙艇レネイドブーリーの描写。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの内部コクピット。フロールの左横顔。唖然とフロントガラスを見つめている。やがて我に返り,画面正面に向き直る。怒りの表情。
フロール「何をするんだ! デスラー!」
(画面)涼しい表情のデスラー。
デスラー「お嬢さん。全然間に合ってなかったよ」
(画面)歯を食いしばるフロール。

(画面)オルカバーン刑務所司令センター。タリマン所長がスクリーンを見上げている。
(スタッフの声)・・・ポート閉鎖完了! 囚人は中です!
タリマン「よし!(ガッツポーズ)」

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついて笑みを浮かべているレック。後ろにはゲーニッツが控えている。
ゲーニッツ「反乱分子はほぼ鎮圧されたようです」
レック「ふふ・・・。タリマンも首がつながったな。それにしても随分と手間がかかったものだな」
ゲーニッツ「(書類を手に持ち)バルゼーが第6遊動機動隊を出動させています。戦艦バルゼミアが大気圏内を航行している模様ですが。オルカバーンへ向かっています。いかがいたしましょう? 引き返させましょうか」
(画面)頬杖の手を替えるレック。
レック「ははは。放っておけ。好きにさせればいいだろう。今回のこの一件には間違いなくフロールが絡んでいる。バルゼーがどういう反応を示すかを見てみたい。・・・しかしバルゼミアとはね。たかが忘却の帝国の落ちぶれた独裁者ひとりになぜそこまで力を入れられるかね」

(画面)夜空をバックに航行している宇宙戦艦バルゼミアの左前方からの全景。
(効果音)エンジン音。

(画面)戦艦内部ブリッジ。腕を組み,立っているバルゼーの上半身の描写。
(効果音)内部ブリッジの機械音。
(画面)画面左端にバルゼーの右斜め後ろ姿。中央にナスカが書類ボードを手に歩み寄って来て会釈。
ナスカ「(頭を上げて)ポートは閉鎖されました。デスラーは脱出していません。その他のテロリストも壊滅しました。事態は終息へ向かっています」」
(画面)視線を中央に合わせるバルゼー。
バルゼー「まだデスラーは生きている。たとえ刑務所内であっても,自分の意思で行動できる状態にある。それならばまだ問題は解決してはおらぬ」
(画面)ナスカ。
ナスカ「もはやデスラーは捕らわれの身同然です,提督。ポートハッチは内部から破壊することはできません」
(画面)わずかにあごを上げるバルゼー。
バルゼー「ナスカ。お前はデスラーを知ってはおらぬ。意に反しているあの男を捕らえることなど不可能だ。なぜか今のあの男は潔さ(いさぎよさ)を忘れている。何らかの目的を見つけたのかも知れぬ。そういう時は物事をそう簡単にはあきらめぬ男だ。捕らえようと考えれば出し抜かれる。この私がやつの息の根を止める」

(画面)回想シーン。面会室のガラススクリーンの前で立ち上がるレック・アルド・ズォーダー。
レック「・・・地球をこの宇宙から消滅させた後は,次はイスカンダルだ。かつての宇宙の元凶を粉々に粉砕させてもらうことにするよ,デスラー!」

(画面)ポートハッチの最上部で浮遊している宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)静かなエンジン音。
(画面)宇宙艇内部。静かに見下ろしているデスラー。
デスラー「さて,どうしたものかね。お嬢さん」
(画面)コクピットに座っているフロール。メットの上部を見せてうつむいている様子。
(画面)デスラー。
デスラー「この事態も想定済みだったのかな」
(画面)ゆっくりと顔を上げるフロール。
(画面)微笑するデスラー。
デスラー「次はどうすればいいかね。ご指示いただけるかな?」
(画面)わずかに口を開けるフロール。
(画面)首を傾けるデスラー。
デスラー「もしかして・・・この私に全て任せていただけるということかな」
(画面)一度目をつむり,再び目を開けるフロール。
(画面)少し顔を近づけるデスラー。
デスラー「もしそうならば・・・(微笑)・・・それはなかなかいい作戦だよ,お嬢さん」
(BGM)M−34(イントロ部分)
(画面)一歩引いて,右手を自分の胸へあてるデスラー。
デスラー「(頭を下げる)もしよろしければ,私と席を替わっていただけるとありがたいが」
(画面)メットを脱ぐコクピットのフロール。
フロール「・・・操縦できるのか? デスラー」
(画面)顔を上げるデスラー。
デスラー「先程,覚えさせていただいた」
(画面)目を丸くするフロール。
(画面)微笑しているデスラー。
(画面)息を軽く吐いて席を立つフロール。
フロール「(横向きにうつむきながら)・・・悩みはつきない・・・。(コクピットへ手を振る)」
(画面)再び頭を下げるデスラー。
デスラー「感謝の極み」
(画面)口を尖らすフロール。
フロール「・・・普通にありがとうと言え・・・」

(画面)ポートハッチ内上空で浮かんでいる宇宙艇レネイドブーリーが小さく見える位置からの見上げるアングル。画面手前からパラノイア戦闘機隊が次々と宇宙艇レネイドブーリーへ向けて上昇していく。
(BGM)M−34(序盤サビ部分)
(効果音)複数のエンジン音。空気を切る音。

(画面)宇宙艇内部。コクピットに座っているデスラーが正面。彼の右肩の上からフロールが顔を出して操縦席の背もたれに右手をかけている。
(BGM)M−34(サビ部分)
デスラー「武器はどれかな」
フロール「・・・(操縦管の右の管の上部を指差す)」

(画面)操縦管を握っているデスラーの手袋をしている右手のアップ。親指が管の上部をはじく。キャップが向こう側へ開いて丸いスイッチが現れる。スイッチへ親指を添える。

(画面)デスラーの座っている下半身部分の左方向からの描写。手前の左足がペダルを踏み込み,左手がすぐ横にあるレバーにかかる。レバーを自分自身の側に力強く引き,さらに手前へ倒す。左足を上げて右足の別のペダルを思い切り踏み込む。

(画面)コクピット左方向からの描写。デスラーが左後方へ視線を送る。後ろには彼の座っている背もたれにつかまっているフロール。強烈なGが前方にかかる。宇宙艇レネイドブーリーが急激にバックしたのだ。フロールの右頬がデスラーの背もたれに押し付けられる。
(BGM)M−34
(効果音)甲高い噴射音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーを後方から描写。手前へバックしてくる。左方向へ転回し,前方へ向き直る宇宙艇レネイドブーリー。フロントガラスのコクピットに笑みを浮かべているデスラー。右後方には,口が”いの字”のフロール。

(画面)デスラーの座っている下半身部分の左方向からの描写。手前の左足がペダルを踏み込み,左手が逆シングルで横にあるレバーにかかる。レバーを前方へ軽く押し,左前方へ押し出す。左足を上げて右足でペダルを思い切り踏み込む。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーのエンジン噴射口のアップ。怒涛の噴射で画面が一色。急速に画面から遠ざかっていく形で急降下していく宇宙艇レネイドブーリー。前方には広大なポート内部の景色。襲い掛かってくるパラノイア戦闘機隊。
(効果音)エンジン音。飛来する戦闘機隊の音。
(BGM)M−34

(画面)操縦管を握っているデスラーの手袋をしている右手のアップ。親指が管の上部のスイッチを押す。

(BGM)M−34
(画面)宇宙艇レネイドブーリー正面。全部両側の機銃口より続けざまに弾光が発射される。
(効果音)機銃発射音。加速エンジン音。

(画面)機銃攻撃を受けて火を噴くパラノイア戦闘機数機。その間隙を突き中央を突破していく宇宙艇レネイドブーリー。急降下していく。後を追いかけるパラノイア戦闘機隊。
(効果音)爆発音。エンジン音。

(画面)広大なポート内を上から見下ろすアングル。デスラーからの視線と一致の画面。高度は恐らく1000地球メートル以上はあるかと思われる,はるか下方に広がる地表と画面の上方に小さく見える滑走路入り口。急降下中。急降下中。ぐんぐんと迫って来る地表。心臓が喉まで上がってきそうなスピードで落下していく視線。急降下中。自由落下速度をはるかに超えている。急降下中。地表が迫って来る。
(BGM)M−34

(画面)フロントガラスのコクピットに笑みを浮かべているデスラー。右後方には,相変わらず口が”いの字”のフロール。
フロール「(声がふるえる)おちるぅぅう!」

(BGM)M−34
(画面)迫って来る地表。急降下中。速度は落ちない。目の前まで迫っていた地表が突然画面下方へ流れ始める。すさまじいスピード。やがて画面が起き上がり,地表すれすれを飛行する視線。正面かなたには滑走路入り口がどんどん大きくなってくる。滑走路入り口が迫る。そして滑走路へ進入。両側の照明が通過線として後方へ流れる。滑走路真正面から発射される数条の弾光がけして避けきれない相対速度で視線をかすめていく。
(効果音)通路内のこもった空気の裂ける音。エンジンの爆音。

(画面)フロントガラスのコクピットのデスラー。笑みは消えている。後ろのフロールは気丈にもまだ前方を直視して歯を食いしばっている。彼らの両側からは滑走路の照明の反射が猛スピードで通り過ぎる。

(BGM)M−34
(画面)デスラーの視線。今度は滑走路の終点が迫って来る。猛烈な圧迫感で向かって来る壁。壁の向かって右側には先程デスラーとフロールが走り出してきた通路への入り口が見える。手榴弾の爆発によりまだ若干の煙が残っている。開閉装置は壊れている様子。通路の入り口はぽっかり開いている。やがて右へ傾く視線。通路の入り口へ向かっていく。迫って来る壁。直撃まで2秒。・・・画面が突然デスラーの視線から外れる。画面いっぱいに宇宙艇レネイドブーリーの後部エンジン噴射口。画面は壁手前で停止。遠ざかり,通路入り口へ突入していく宇宙艇レネイドブーリー。通路を速度そのままに右折していく。その後を次々と追跡していくパラノイア戦闘機隊。次々と通路を右折していく。一機のパラノイア戦闘機が曲がりきれず通路の壁に激突。爆発炎上。後続の戦闘機も巻き込まれて爆発が連鎖。
(効果音)エンジン音。ドップラー効果。激突音。爆発音。

(BGM)M−34
(画面)再びデスラーの視線。上下左右の通路の壁,天井,床が猛スピードで後方へ飛ぶ。はるか先には壁。T字路になっている通路。T字路を右折する視線。

(BGM)M−34
(画面)コクピットのデスラーの正面。後ろにはフロール。
デスラー「ナビゲーションシステムはどれかな?」
フロール「・・・(懸命に身を乗り出し,レバーの下のスイッチを押す)」
(画面)フロントガラスの上部にあるスクリーンの右側半分にオルカバーン刑務所3階の通路のレイアウトが映し出される。その中を動いている赤い点。これがレネイドブーリーであろう。左側半分には追跡してくるパラノイア戦闘機隊が映っている。
(画面)コクピットのデスラーの正面。わずかに見上げて自分の位置を確認。後ろにはフロール。
デスラー「(正面を向く)左に曲がればよかったかな」
フロール「うっく」

(BGM)M−34
(画面)疾走する宇宙艇レネイドブーリーの左斜め正面。左右の壁,天井,床が猛スピードで後方へ流れる。後方には追跡してくるパラノイア戦闘機隊。機銃を発射してくるパラノイア戦闘機。弾光が宇宙艇レネイドブーリーをかすめる。通路の幅はそれほど余裕があるわけではない。その中で微妙な操作で弾光をかわす。
(効果音)エンジン音。銃撃音。
(画面)コクピットのデスラー。後ろのフロール。
デスラー「操作性のいい船だね。気に入ったよ」
フロール「(声がふるえる)私の船だからな。壊すなよ」
(画面)手前から通路を飛行し遠ざかる宇宙艇レネイドブーリー。追跡するパラノイア戦闘機隊も次々と遠ざかっていく。
(効果音)エンジン音。銃撃音。

(画面)オルカバーン刑務所司令センター。顔色が変わっているタリマン所長。
(BGM)M−34
タリマン「(呆然)・・・冗談ではない・・・。一体どう考えたらポートから建物内へ戻れるのだ。このままでは本当にオルカバーンはぼろぼろになってしまうぞ。通路内では迎撃も出来んではないか・・・」
(スタッフの叫び声)・・・所長! いかがいたしましょうか!
タリマン「(後ろを向く)待っていろ! 今,考えているところだ!」
(画面)冷や汗でびっしょりのタリマン所長のアップ。
タリマン「脱出する術(すべ)を失い,やけになっているのか。デスラー」

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。腕を組んで立っているバルゼー。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(BGM)M−34
(画面)ナビゲーションスクリーンを見上げているナスカの後ろ姿。
(画面)見上げているナスカのアップ。
ナスカ「・・・速すぎる」
(画面)ナビゲーションスクリーンの全景。オルカバーン刑務所の3階のレイアウト図。ふたつの赤い点が並んで通路を移動している。その後を赤い点が5つ追跡している様子。
(画面)画面左手前に右斜め後ろ姿のバルゼーのアップ。中央にナスカが歩み寄ってくる。
ナスカ「デスラーは,刑務所内を何らかの乗り物に乗って移動しています。にわかには信じがたいのですが,この速度は他に説明が出来ません。目的は不明です」
(画面)バルゼー。
バルゼー「目的は分かっておる。やつは脱出口を模索(もさく)しているのだ」
(画面)首をわずかに傾けるナスカ。
ナスカ「オルカバーンの3階にはポート以外に外部と通じている箇所はありません,提督。窓もないのです」
(画面)あごを引くバルゼー。視線を正面に。
バルゼー「やつがオルカバーンの事情など考慮するわけはない。ナスカ,オルカバーンへはあとどのくらいだ」
(画面)ナスカ。
ナスカ「0.3ガトランティスアワーです。大気圏内ではこれが限界速度です」
(画面)表情をくもらせるバルゼー。
バルゼー「オルカバーンへホットラインをつなげ。タリマンと話をする」

(画面)刑務所内通路を猛速度で飛行する宇宙艇レネイドブーリーの左前部。後方のパラノイア戦闘機が機銃を発射し続けている。弾光がかすめる。
(BGM)M−34
(効果音)エンジン音。飛行音。機銃発射音。
(画面)コクピットのデスラー。後部座席にはフロール。
フロール「この船には後ろに機銃砲塔がある。(シートベルトを外し始める)私が後ろの戦闘機を迎撃する」
デスラー「無理はしないほうがいい,お嬢さん」
(ここで画面がぐらりと動く)
フロール「あうあ! (宇宙艇内の後部へ転がっていく)」
デスラー「(正面を向いたまま微笑)今は手が離せない。エスコートはしかねる。お許し願いたい」

(画面)一直線にのびている刑務所内通路。そこにふたりの警備兵。

(BGM)M−34
(画面)一直線にのびている刑務所内通路。そこにふたりの警備兵。向こう側に小さく現れる宇宙艇レネイドブーリー。こちらへ向かって来る。慌てる様子の警備兵ふたり。迫って来る宇宙艇レネイドブーリー。ひとりの警備兵が通路の左側のドアを押し開けて中に飛び込む。それを見ていたもうひとりの警備兵が通路の右側のドアのハンドルに手をかける。しかし鍵がかかっているらしく開かない。全身を屈伸させて必死で開けようとする警備兵。宇宙艇レネイドブーリーが眼前に迫る。かばうように右腕を上げる警備兵。
警備兵「わあああ!(吹っ飛ぶ)」
(画面)通路を遠ざかっていく宇宙艇レネイドブーリーの後部。パラノイア戦闘機が次々と後を追っていく。
(効果音)エンジン音。飛行音。ドップラー効果。

(画面)通路を右折する宇宙艇レネイドブーリー。その際,通路の壁と接触。壁が崩れて破片が飛び散る。後続のパラノイア戦闘機も右折。
(効果音)壁の崩れる音。エンジン音。
(BGM)M−34
(画面)宇宙艇レネイドブーリーのコクピットのデスラー。
デスラー「・・・それぞれの部屋の壁は超合金だと聞いたが,どうやらこの建物自体の壁はそれほど強固ではなさそうだな」

(画面)右端にはデスラーのアップ。左側には宇宙艇の後部で両足を上に投げ出して壁に激突し,ひっくり返っているフロール。
デスラー「(正面を向いたまま微笑)乗り心地の悪い船で恐れ入る」
フロール「(体勢そのままで顔を向ける)私の船だ!」

(画面)通路の天井の描写。・・・天井に小さな穴が開く。そこから何か丸い物体が突起してくる。丸い物体には小さな穴が横一列にいくつか並んでいる。・・・そして唐突に小さな穴から水が噴射される。水の噴射と同時に丸い物体が回転し始める。
(BGM消える)
(効果音)水の噴射音。壁や床に水が跳ね返る音。

(画面)通路全体。天井中央に等間隔で小さな丸い物体が一直線に並んでいる。それぞれが回転し,水を噴射し続ける。通路はたちまち水浸し。宇宙艇レネイドブーリーがそのシャワーの中を飛行。通り過ぎていく。後続のパラノイア戦闘機隊も同様。
(効果音)エンジン音。水をはじく音。

(画面)コクピットでのデスラーの右斜め後ろ姿。フロントガラスには水しぶきが滝のように流れている。前方が視界不能。すぐさま自動でワイパーが動き始める。水をかきとるワイパー。ワイパーの範囲の視界が確保。

(画面)真横になっているフロールのアップ。はっと何かを感じる表情。
フロール「・・・デスラー! 気をつけろ! スプリンクラーだ! 防火システムが作動している! 防火シャッターが閉まるかも知れない!」
(画面)コクピットでわずかに視線を上に向けるデスラー。
デスラー「・・・む」

(画面)通路の天井の描写。両側の壁をつなぐように細長い開口が開く。すぐさまそこから金属製のシャッターがつきぬけるように落下。

(画面)コクピットのデスラー。
(画面)ペダルを踏み込むデスラーの右足のアップ。

(画面)正面へ向かって来る宇宙艇レネイドブーリー。手前に落下してくるシャッター。わずかな差でシャッターの下を潜り抜けて通過。そこで急ブレーキ。船体が左方向を向けて画面へ迫って来る。
(効果音)シャッターの落下音。逆噴射音。

(画面)通路で閉まっているシャッターに激突するパラノイア戦闘機。
(画面)シャッターの反対側。向こう側からの衝撃で変形するシャッター。
(画面)通路で閉まっているシャッターに次々と激突するパラノイア戦闘機隊。爆発炎上。全機が例外なくシャッターに激突。残骸と化した戦闘機隊の火災を消火しているスプリンクラーの水。
(効果音)激突音。爆発音。水が蒸発する音。

(画面)閉まっているシャッターの手前で船体を真横に向けている宇宙艇レネイドブーリー。相変わらずスプリンクラーの水は止まない。

(画面)オルカバーン刑務所司令センター。薄ら笑いを浮かべるタリマン所長。
タリマン「ははは。武勇伝(ぶゆうでん)を演じようとしたみたいだがな,デスラー。物事はそんな映画やドラマのようなわけにはいかないのだ。お前がエンジンを噴射するたびに火災と感知して,防火システムが作動するぞ。次はどうする? デスラーよ」

(画面)エンジンの噴射を停めて通路内で胴体停船している宇宙艇レネイドブーリー。スプリンクラーの水は止む気配はない。
(画面)シャッターがゆっくりと天井へ向けて開いていく。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーが浮遊噴射をかけてタイヤを出す。すぐさま画面手前で閉まる防火シャッター。画面はシャッターで一面。

(画面)コクピットのデスラー。フロントガラスに流れる水の反射が顔にあたっている。
デスラー「ふふ。なるほど。コンピューターセンサーにこの船のエンジン噴射を火災と感知させるプログラムを組ませたのか・・・。どうやらここにも,それなりに頭を使う人間がいるようだな。・・・ま,おかげで邪魔な戦闘機は全滅してくれたようだが」
(画面)フロールが,ふらふらと手前に歩いてくる。
フロール「酔っちまった。やっと停まったか・・・。よかったのか,悪かったのか複雑な気分だぞ,デスラー。(口を手で押さえる)・・・ここの所長タリマンは,それほど頭はきれない男だ。恐らくどこからか,いらぬ入れ知恵があったのだ。まあ,今回色々と予定外なことがあったから別に驚かないけどな。うえっぷ」

(画面)手前にデスラー。向こう側にフロールがフロントパネルに向き直る姿。
(画面)フロール。
フロール「ふう。コンピューターシステムでの勝負ならば私に任せろ,デスラー」
(画面)流暢(りゅうちょう)にキーボードをたたくフロールの両手。

(画面)パネルの光がフロールの顔にあたる。
フロール「もともとこのオルカバーンのコンピューターにハッキングしたのは私だからな。政府のコンピューターのプログラムにも入り込んで,お前がここに拘留(こうりゅう)されているのを突き止めたのも私だ。私に言わせればガトランティスのコンピューターシステムなど,まだまだ隙だらけだ。げえ」
(画面)面白そうに微笑するデスラー。
デスラー「ここからこの刑務所のシステムに入り込むのかね,そのコンピューターで? 防火システムでも停めるつもりなのかな?」

(画面)操作しているフロールの横顔。
フロール「・・・防火システムは基本的な防衛システムだ。だからそれ自体を停止させることは不可能だ。しかもどうやらこのレネイドブーリーは火災対象としてロックされてしまっている。火災対象にとっての”利”の命令は,オルカバーンにとっての”害”と判断されてしまう。ここから命令の取り消しを指示することはできない」
(画面)流暢にキーボードをたたくフロールの両手。

(画面)デスラーの興味深げな表情。
デスラー「ならば,シャッターをひとつひとつ破壊して進むしかないかな」
(画面)顔を向けるフロール。
フロール「後ろのシャッターを見ろ。敵戦闘機が何機も激突しても変形するだけで穴ひとつ開いてない。ここのシャッターの強度はそれなりのものだ。破壊するには相当の時間がかかる。しかもこの3階フロアーには少なくとも100以上の防火区画がある。10のシャッターを破壊するにも夜が明けてしまう」

(画面)微笑するデスラー。
デスラー「なるほど。ならばどのような命令をコンピューターに下すのかな。コンピューターウイルスでも感染させるつもりかね? お嬢さんのお手並みをぜひ拝見したいものだ」
(画面)操作しているフロールの横顔。
フロール「オルカバーンのメインコンピューターのウイルスバスターはガトランティス随一だ。私の持っているウイルスでは歯が立たない。管理上の通常命令では,遠隔操作よりも直接操作が優先する。ポートハッチ開閉をハッキングではなく,潜入させた仲間に直接操作させたのはそのためだ。ここからいかなる命令を出しても,ここのオペレーターにすぐ解除されてしまう。・・・となると,今回利害関係の発生する命令はいっさい役に立たないということだ。この場合,敵味方にとって全く無意味な命令を出すしかない」
(画面)流暢にキーボードをたたくフロールの両手。

(画面)操作しているフロールの横顔。
フロール「・・・コンピューターには決定的な弱点がある。恐らくガミラスのコンピューターも同じ弱点を持っているはずだ。・・・コンピューターは一度にふたつ以上の動作をすることができない。多くの処理をいっぺんにこなしているように見えるのはその処理が天文学的に早いからだ。このオルカバーンはマルチコンピューターシステムをとっていない。建物全体をひとつのコンピューターで処理しているんだ。ここのコンピューターが優秀ゆえの油断だ。だから私のセキュリティシステムの誤解もそこから生まれたんだがな。・・・本当だぞ」

(画面)首を傾けるデスラー。

(画面)視線を向けて再びキーボードへ顔を向けるフロール。
フロール「・・・人間はミルクを飲みながら本を読める。しかしコンピューターはそうはいかない。ミルクを飲み干してしまわないと本を読むことができない。処理はいつでも優先順位に基づいて順番に忠実に行われる。今回はその弱点を突く。・・・できたぞ」
(画面)感心した表情のデスラー。
デスラー「ほう」

(画面)会心の表情のフロール。
フロール「ここのコンピューターのメイン回路,バイパスシステムなどの最上位エリア全てに利害の絡まない最優先の命令を出した。この命令を果たさないうちは次の命令を遂行することはできない。つまり次の命令には防火システムも含まれている。これでスプリンクラーもシャッターも作動しないはずだ」
(画面)発進準備をするデスラー。
デスラー「敵味方の利害に関係ない最優先の命令とは何かな,お嬢さん」
(画面)後ろの座席に座ってシートベルトを締めるフロール。
フロール「・・・簡単な計算問題だ。今度は敵がいないんだから安全運転で頼むぞ,デスラー。うっく」

(画面)オルカバーン刑務所司令センター。にわかに騒がしくなっている室内。スクリーン表示が全て消えている。タリマン所長が落ち着き無くきょろきょろしている。
タリマン「どうしたのだ! 防火システムが作動していないぞ! それどころか他のシステムも動かないではないか! 何があったのだ!」
(効果音)混乱。ざわめき。

(画面)座っているスタッフが振り返る。
スタッフ「メインコンピューターにハッキングがあった模様です! 何者かがオルカバーンのコンピューターに最優先の命令を指示したようです! これがクリアされませんと他のシステムが作動しません!」

(画面)けげんな表情のタリマン所長。
タリマン「最優先の命令だと? 何なんだそれは? ここから解除できんのか?」
(画面)再び振り返る先程のスタッフ。
スタッフ「・・・どうやら計算問題のようです。通常命令ではありません」
(画面)タリマン所長。
タリマン「・・・計算問題だと? オルカバーンのコンピューターは連邦一だぞ。それがこれほど手間取っているとは,どれほど難解な問題なのだ?」

(画面)しばらく操作しているスタッフ。おもむろに振り返る。複雑な表情。
スタッフ「・・・それが・・・。円周率の完全数値を求めよという問題です」

(画面)目を大きくするタリマン所長のアップ。
タリマン「・・・え・・・えんしゅうりつうう?」

(画面)メインスクリーンに表示される数字の羅列。ただし,ガトランティス数字。
(字幕)3・141592653558209749448214808651481117450244288109754564856692・・・(画面下部横文字)

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。ナスカがボードを持ってバルゼーの前に歩み寄る。
ナスカ「オルカバーンのメインコンピューターがハッカーによる妨害を受けている模様です。デスラーの追跡をリンクできなくなりました。今のところ行動状態を把握できません」
(効果音)ブリッジ内の機械音。
(画面)不機嫌そうに表情をゆがめるバルゼー。
バルゼー「タリマンが豪語するほどのものではないな。オルカバーンのコンピューターは。もはや当てにはならぬな。・・・ナスカ,デスラーが最後に検知できた地点をスクリーンに映し出せ」
(画面)スクリーンにオルカバーン刑務所の3階のレイアウトが映し出される。
(効果音)スクリーンの電子音。

(画面)目を細めるバルゼーのアップ。
(画面)スクリーンの映像。迷路のような通路の中に赤い点がふたつ表示されている。

(画面)通路内を飛行する宇宙艇レネイドブーリー。
(BGM)M−34
(画面)コクピットのデスラー。後ろから覗き込んでいるフロール。
フロール「デスラー! 急げよ! ここのコンピューターも馬鹿じゃない。いつまでも延々と続く数字を算出などしていないはずだ。ある程度の時間で自己制御をかけるに違いない。つまり”我に返る”というやつだ。一度自己制御がかかれば,もはや同じ手は通用しない。今度こそシャッターに閉じ込められるぞ!」
デスラー「ご安心を。お嬢さん。もう旅は終わりに近づいている」
(画面)T字路を右折する宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)エンジン音。

(BGM)M−34
(画面)まゆをひそめるフロールのアップ。
(画面)船内ナビゲーションの映像。長い通路を移動している赤い点。その先は行き止まりになっている。
(フロールの声)・・・デスラー! その先は行き止まりだぞ! どうする気だ?
(画面)笑みが消えているコクピットのデスラー。

(画面)操縦管の先端をはじくデスラーの親指。機銃発射スイッチに親指をそえる。

(画面)コクピット内から進行方向の描写。デスラーとフロールの後ろ姿。フロントガラスの向こうでは後方へ移動する壁,床,天井。そのはるか先には小さく行き止まりの壁が見える。少しずつ近づいてくる壁。
(BGM)M−34
(画面)コクピットのデスラー。後ろから覗き込んでいるフロール。
デスラー「あの壁が外壁との厚みが一番薄いのだよ。お嬢さん」
フロール「(げげ)・・・ま,まさか・・・」

(画面)操縦管の機銃発射スイッチを押すデスラーの親指。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの正面。前部から続けざまに発射される機銃の弾光。
(効果音)機銃発射音。エンジン音。

(画面)コクピット内から進行方向の描写。フロントガラスの下から前方へ発射され続ける機銃の弾光の羅列。
(効果音)機銃発射音。エンジン音。

(画面)行き止まりの壁を右斜め方向のアングル。弾光が命中して小さな破片が飛び散り始める。
(効果音)命中する破壊音。

(BGM)M−34
(画面)通路の天井の描写。・・・天井に小さな穴が開く。そこから何か丸い物体が突起してくる。丸い物体には小さな穴が横一列にいくつか並んでいる。・・・そして唐突に小さな穴から水が噴射される。水の噴射と同時に丸い物体が回転し始める。
(効果音)水の噴射音。壁や床に水が跳ね返る音。

(画面)口が”いの字”で仰ぎ見るフロールのアップ。
フロール「・・・我に返ったぞ! デスラー!」

(画面)通路の天井の描写。両側の壁をつなぐように細長い開口が開く。すぐさまそこから金属製のシャッターがつきぬけるように落下。防火システムが復旧したのだ。

(BGM)M−34
(画面)通路を爆走する宇宙艇レネイドブーリーの正面。防火シャッターが追いかけるように次々と下りていく。それをたくみにかわしながら加速していく。機銃発射は止めない。通路は水浸し。一面シャワー。
(効果音)シャッターの落下音。(連続)水の噴射音。壁や床に水が跳ね返る音。機銃発射音。エンジン音。

(画面)行き止まりの壁を右斜め方向のアングル。飛び散る破片が次第に大きくなっていく。
(効果音)命中する破壊音。

(BGM)M−34
(画面)コクピットからの描写。後ろ姿のデスラー。後ろから覗き込んでいるフロールの後ろ姿。ワイパーの動くフロントガラスの外には猛速度で通過する天井,側壁,床面,閉まりかけるシャッター。そして急速に接近してくる行き止まりの壁。
フロール「(後ろ姿)速すぎる! 壊れる前にあの壁に激突するぞ! デスラー! 船の速度を落とせ!」
デスラー「(後ろ姿)シャッターに追いつかれる。速度を落とすわけにはいかん」

(BGM)M−34
(画面)一面水浸しの通路。機銃を発射し続けている宇宙艇レネイドブーリーが加速しながら画面に迫って来る。その後ろでは次々と閉まっていく防火シャッター。アングルが左へ移動。宇宙艇レネイドブーリーが通り過ぎる。画面の手前で閉まる防火シャッター。画面ブランク。
(効果音)シャッターの落下音。(連続)水の噴射音。壁や床に水が跳ね返る音。機銃発射音。エンジン音。

(画面)行き止まりの壁を右斜め方向のアングル。かなり大きな破片が下へ崩れ始める。壁には亀裂が入っている。命中している弾光は止まない。

(BGM)M−34
(画面)コクピット内から進行方向の描写。フロントガラスに覆いかぶさるようにシャッターが迫る。寸前で後方へ流れていく。ワイパー全開。まさしく豪雨。行き止まりの壁が目前に迫って来る。発射され続ける弾光。

(画面)崩れかけている行き止まりの壁が目前に迫って来る。

(画面)視線を下に落とすデスラー。

(画面)崩れかけている行き止まりの壁が目前に迫って来る。

(BGM)M−34
(画面)コクピットの前面パネルを操作するデスラーの左手。宇宙艇レネイドブーリーのレイアウトがパネルに映し出される。その中に青く点滅している6基のミサイルの表示。・・・さらに操作。そのうちの1基が赤く点滅する。
(画面)笑みを浮かべるデスラー。
デスラー「いいものを装備しているじゃないか,お嬢さん」

(画面)崩れかけている行き止まりの壁が目前に迫って来る。

(画面)ひきつった表情のフロールのアップ。
フロール「・・・ま,間に合わないぞ・・・」

(画面)崩れかけている行き止まりの壁が目前に迫って来る。

(画面)目を細めているデスラー。

(画面)崩れかけている行き止まりの壁が目前に迫って来る。

(BGM消える)
(画面)フロールのテンぱっている表情。口が開いてくる。
フロール「あうああ・・・ぶつか・・・(口が”での字”)デ〜(口が”すの字”)ス〜(口が”らの字”)ラアアア・・・!」

(画面)左端から宇宙艇レネイドブーリーが猛速度で遠ざかっていく。追いかけていくシャッター。
(フロールの声)アアアアアアアアアアアア・・・!

(画面)行き止まりの壁を右斜め方向のアングル。崩れて穴が開き始める。弾光の雨に混じって,スプリンクラーの水もかかり始める。
(フロールの声)アアアアアアアアアアアア・・・!

(画面)崩れかけている行き止まりの壁が目前に迫って来る。

(画面)通路真正面。宇宙艇レネイドブーリーが接近してくる。次第に大きくなる。フロントガラスのデスラーとフロールの姿が見え始める。大きくなるデスラーとフロール。大きく口を開けているフロール。フロールの,のどちんこまでクローズアップ。
(フロールの声)アアアアアアアアアアアア・・・!

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの正面の描写。・・・1基のミサイルが発射される。

(画面)外部。夜の闇。オルカバーン刑務所の外壁が左端。一部が崩れ落ちようとしている。次の瞬間,爆発とともに外部へ瓦礫が飛び散り夜の空間に光の帯が出現。煙と水しぶきを伴いながら宇宙艇レネイドブーリーが飛び出してくる。
(効果音)破壊音。エンジン音。
(フロールの声)でたあああ!

(画面)夜空へ向けて上昇し,遠ざかっていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)エンジン音。遠ざかる。

(画面)夜空へ向けて上昇し,遠ざかっていく宇宙艇レネイドブーリー。小さくなっていく。・・・その行く手をさえぎるように,夜の闇に唐突に浮かび上がる巨大な物体。宇宙艇レネイドブーリーにとっては正に壁。わずかな光の中で金属製の重厚感があるその物体はすさまじい金属音とエンジン音を放っている。その金属の壁を避けるように急上昇する宇宙艇レネイドブーリー。・・・わずかに間に合わず,火花を散らして接触。それでも辛うじて上昇していく宇宙艇レネイドブーリー。・・・画面が小さな宇宙艇レネイドブーリーを追う。やがて巨大な金属の壁の上に壮大な宇宙戦艦の艦橋部分。極端な大きさの対比。必死で体勢を立て直そうとする宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)接触音。エンジン音。さらに大きなエンジン音。

(画面)見下ろすようにバルゼーの厳しい表情のアップ。
バルゼー「行かさんぞ! デスラー!」

(画面)見上げるようにフロールの驚愕する表情のアップ。画面が激しく揺れる。
フロール「バ,バルゼミアあ!」

(画面)操縦管を激しく操作するデスラー。揺れる画面。まだ体勢は立て直っていない。完全に予定外の表情。

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ。腕を組んで立っているバルゼー。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(砲術士の声)・・・飛行物体,照準ロック完了しました!
バルゼー「(右拳を上げる)ここまでだ,デスラー! 第8区画対空砲,全基・・・(腕を前方へ)発射!」
(画面)ナスカのアップ。
ナスカ「待ってください! 提督! 発射を中止してください!」
(画面)振り返っているバルゼーと砲術士。

(画面)沈黙している対空砲塔。
(効果音)トーンダウンする機械音。

(画面)いぶかしげな面持ちのバルゼー。
バルゼー「何事だ! ナスカ! デスラーの意表を突いているのだ! 今が絶好機なのだぞ!」
(画面)振り返っているナスカ。操作盤に両手をついている。顔色が変わっている。
ナスカ「あの飛行物体の検索結果が出ました! あれは,レネイドブーリー号です!」
(画面)まゆをひそめているバルゼー。
(画面)ナスカ。さすがに驚きを隠せない。
ナスカ「・・・レネイドブーリー号は確か,プリンセス・フロールの専用艇ではありませんか?」
(画面)目を大きくするバルゼー。
(画面)ナスカ。
ナスカ「ということは,あの時デスラーと一緒にあったあの熱源は・・・」
(画面)あっという表情のバルゼー。後ろを振り向き,大きく指をさす。
バルゼー「あの飛行物体へ通信回路を開け! 全チャンネルだ! 急げ!」 

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついているレック。後ろにはゲーニッツが控えている。
(通信音声)・・・こちら第6遊動機動隊,バルゼーだ! デスラー! 応答しろ!
(画面)少し前へ進み出るゲーニッツ。
ゲーニッツ「絶好のタイミングではないか! なぜ撃たんのだ?」
(画面)無表情のレック。

(画面)夜空にそびえる宇宙戦艦バルゼミアの艦橋。その付近に浮遊する宇宙艇レネイドブーリー。すっかり体勢が直っている。
(効果音)双方のエンジン音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの内部。フロントガラス上部のスクリーン。横にノイズが走り,バルゼーの上半身が映し出される。厳しい表情のバルゼー。
(効果音)スクリーンの電子音。
バルゼー「・・・デスラー・・・!」

(画面)見上げるデスラーのローアングル。
デスラー「(微笑)・・・さすがだな,バルゼー。まさかここで待ち構えているとはね。わざわざ戦艦でお出迎えとは祝着至極(しゅうちゃくしごく)だよ。しかしその後は随分とお前らしくないじゃないか。撃つならば,とっくに撃っていたはずだ」

(画面)スクリーンのバルゼー。口の中で歯を食いしばる様子。
バルゼー「・・・動くなよ,デスラー。バルゼミアの対空砲の照準はすでにお前にロックしている。少しでも妙な動きを見せたら容赦なく撃つ!」

(画面)笑みを絶やさないデスラー。
デスラー「ご忠告,真摯(しんし)にうけたまわっておこう」

(画面)スクリーンのバルゼーの視線が少しずれる。
バルゼー「・・・おい! 後ろの女!」

(画面)デスラーの座席の後ろから顔を出すフロール。口を”いの字”にする。

(画面)わずかに表情を痙攣させるバルゼー。
バルゼー「そこで何をしていたのだ!」

(画面)気の強そうな表情になるフロール。
フロール「済んだことだ!」

(画面)目を細めるバルゼー。
バルゼー「それならば,質問を変えよう。そこで何をするつもりだ!」

(画面)フロールの表情変わらず。
フロール「これからのことだ! この通信はフルオープンじゃないのか,バルゼー! レネイドブーリーの専用周波も忘れたか! この会話はレック・アルドも聞いているぞ! 質問に答えてほしくば,私の質問に答えよ! なぜ,このレネイドブーリーを撃つのをためらうか!」

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついているレックが笑みを浮かべる。
レック「ふふふ。面白い。このやりとりは見ものだ。・・・バルゼーよ,私への忠誠心に少しの陰り(かげり)も見せたら貴官の命はない・・・」

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。スクリーンに立ち上がっているフロールの全体が映っている。
(効果音)ブリッジ内の機械音。
(画面)厳しい表情のバルゼー。
(画面)見上げているナスカ。
(ナスカの心の声)・・・提督がプリンセスを撃てるわけがない。プリンセスはそれを見越して,提督に揺さぶりをかけているのだ。フルオープン通信であることも計算にいれている。これからの発言によっては提督の立場が危うくなる。いや,むしろ撃たなかった事ですでに反逆の疑いをかけられているかも知れない。今,プリンセスは指名手配中なのだ。発射命令を止めるべきではなかったのか・・・しかし・・・。

(画面)スクリーン映像のフロール。視線をまっすぐに向けている。

(画面)厳しい表情のバルゼー。
バルゼー「・・・撃てるわけはなかろう!」
(画面)硬直するナスカの表情。

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついているレック。無表情。

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。あごを上げるバルゼー。
(効果音)ブリッジ内の機械音。
バルゼー「我々は若君から正式な出動命令を受けていない! 今ここにいるのも,騒動が起きているとの情報で様子を見に来ただけだ! 偶然にここを通りがかって,お前たちに遭遇しただけのこと! まさかその船に脱走囚人がいたとは思いもかけぬことだ! 見るとそこには囚人のデスラーと,お前がいた! お前には脱走補助の疑いがかけられている! どのみちお前ひとりで出来ることではなかろう! 背後関係も調べさせてもらう! ガトランティスは法治国家だ! お前を逮捕して取り調べなくてはならぬ! 若君の許しも無く,独断で大事な証人を撃てば,私の立場が危うくなるのだ! しかしそれでもお前たちが逃走しようとすれば,撃たなければならぬ! その時は勝手な判断を下した過度で私は若君に命をもって償わなければならない!」

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついているレック。背後にはゲーニッツ。
ゲーニッツ「バルゼー! 見え透いたことを・・・!」
レック「ははは。あの無骨者(ぶこつもの)なりに言葉を選んだな。確かに私は正式な撃墜命令を出していなかった。しかし,ガトランティスは法治国家とはよく言ったものだ。おかげで撃墜命令を出しにくくなった」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。フロントガラス上部スクリーンにバルゼーが映っている。コクピットにはデスラーの後ろ姿。左側には立ち上がっているフロールの後ろ姿。
バルゼー「さあ,質問に答えてもらおう! 一体お前は何をしようとしているのだ! お前が脱走させようとしているその男がどんな男か判っているのか! その男は慈悲のかけらも無い極悪人だ! お前の手に負える相手ではない! このマゼラン宇宙で一番危険な男なのだぞ!」
フロール「(後ろ姿)・・・そんな大げさな脅し(おどし)に惑わ(まどわ)されるとでも思ったか! バルゼー!」
デスラー「(後ろ姿)・・・バルゼーもたまには,まともなことを言う」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。フロントガラス上部スクリーンにバルゼーが映っている。コクピットにはデスラーの後ろ姿。左側には立ち上がっているフロールの後ろ姿。

(画面)デスラーの右横顔。正面へ顔を向ける。
デスラー「(首を傾ける)・・・お嬢さん,一体何者だ?」

(画面)スクリーンのバルゼー。
バルゼー「デスラー! 貴様には全く関係の無いことだ! その女は貴様には何の益にもならぬ! 直ちに引き渡してもらおう! そいつはただの頭のおかしい女乞食に過ぎん!」

(画面)コクピットのデスラーが画面左側。右側に立ち上がっているフロール。
フロール「無礼なことを言うな! バルゼー! 私は女乞食などではない!」
デスラー「・・・頭のおかしいところは否定しないのか?」
(画面)歯を食いしばって振り向くフロールのアップ。
フロール「・・・私の名は,フロール・レイム・ズォーダーだ!」

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。歯を食いしばって見上げるバルゼーの左横顔ローアングル。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。さすがに驚きを表情に表すデスラー。
(画面)気の強そうな表情のフロール。
(画面)デスラーの表情から驚きの表情が消えていく。
デスラー「(ゆっくりと笑み)・・・ほう。これは,これは,プリンセス。近づきになれて光栄の至りだ」
(画面)ゆっくりと正面へ向き直るデスラー。
デスラー「・・・プリンセスが脱走の手引き・・・。撃たなかったバルゼー・・・。フルオープン通信・・・。先程の会話・・・。ふふふふふふふふふふふ・・・。(見る見るすさまじい形相になる)ははははははは・・・!」

(画面)フロールの腰の銃を奪うデスラーの左手。

(画面)銃を持った左腕が,フロールの身体に巻きつく。力強く引き寄せる。
(画面)左手をフロールの鎖骨に当てるようにして,銃口を彼女の下あごの下部に押し付けるデスラー。銃口をあごの下から突き上げられ上を向いてしまっているフロール。左手一本で羽交い絞めにされて身動きがとれない。デスラーの右手は操縦管。彼の表情は正に阿修羅(あしゅら)。歯をむき出して常軌(じょうき)を逸(いっ)している。
フロール「ぐぐ・・・(声が出ない)」
デスラー「(鋭い視線)・・・ふふふ。バルゼー。お前は撃てまいよ。撃てるわけがない。お前の右手が振り下ろされるが早いか,プリンセスの脳みそは噴水のように噴き出すことになる。ははは。悪いがこのまま行かせてもらおう。それともせめて,お前が撃つか?」 

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。怒りに震えているバルゼー。
バルゼー「デスラー・・・。貴様・・・!」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。姿勢を崩さないデスラー。
デスラー「あきらめろ。バルゼー。対空砲の照準ロック程度で私を撃ち落すことはできない。お前は千載一遇の好機を逃したのだ。はははは。無駄な攻撃はこの宇宙艇の乗組員をひとり減らすだけだよ。・・・まあその時の後片付けと掃除は私が自らしてやろう。・・・それと,ズォーダーの坊や。聞いてるな? バルゼーを処刑するのは坊やの首を絞めることになる。私を喜ばせるだけだ。なにしろバルゼーは私を倒せるわずかな可能性を持っている唯一の戦士だからね。まあ,別にどうしようが私の知ったことではないことだが。それでは,そろそろお暇(おいとま)させていただくとしよう。どうもここには少し長くお邪魔しすぎたようだ・・・」

(画面)宇宙戦艦バルゼミアのブリッジ内。スクリーンのデスラーとフロールの映像が消える。通信を切られたようだ。
(効果音)スクリーンの電子音。ブリッジ内機械音。
(画面)わなないているバルゼーの後ろ姿。振り向く。
バルゼー「ナスカ! レネイドブーリーの識別信号を記録しておけ!」
(画面)ボードを持って直立しているナスカ。
ナスカ「記録は完了しております。提督」
(画面)向き直るバルゼーのアップ。
バルゼー「・・・このまま行かせるとでも思うか,デスラー! 上昇角度! 速度を第一宇宙速度まで加速!」

(画面)バルゼミア通信要員がボックスより振り返る。
通信士「大帝総督府よりダイレクト通信! 直ちに帰還せよとのことです! 明日1300時に,速やかに総督府へ出頭するようにとの正式命令です,提督!」
(画面)歯を食いしばるバルゼーのアップ。

(画面)方向転換して,ふたつの衛星の輝く夜空へ遠ざかっていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)遠ざかるエンジン音。

(画面)超高層ビル最上階の部屋。頬杖をついているレック。背後にはゲーニッツ。
レック「・・・ゲーニッツ」
ゲーニッツ「(体勢を低く)は! 大帝閣下」
(画面)頬杖の手を替えるレック。
レック「今回の一件では,さすがに責任の所在をはっきりさせる必要がある。明日,軍事法廷の準備を進めろ。ただし,判決は前もって裁判長に通知しておけ。被告人は公開処刑だ」
(画面)ゲーニッツ。
ゲーニッツ「承知しました。バルゼーの処刑ですね?」
(画面)嘲笑が広がるレック。
レック「ゲーニッツ。・・・君は馬鹿かね?」
(画面)恐縮気味のゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・は?」
(画面)笑みを浮かべているが,目は笑っていないレックのアップ。
レック「・・・タリマンの処刑に決まっているだろう。・・・まあいい。(右手を振る)・・・第一衛星エルフォン統合センターへ連絡。大至急,マゼランフォース隊を組織,出動させよ。さすがにデスラーはこのままにはしておけないからね。レネイドブーリーの識別信号を打電。同機を追跡,撃墜命令を出せ」
(画面)頭を下げるゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・は,はい。ですが,このままバルゼーに追わせた方がよろしいのではありませんか?」
(画面)頬杖をついているレック。
レック「我々は地球進行作戦の準備を進めなければならないんだよ,ゲーニッツ。あんな小さな宇宙艇一艘にわざわざ軍事力を割くわけにはいかないだろう。時間と金を無駄に費やすだけだ。それにあんな小物に今更(いまさら)何が出来るというのだ? (皮肉めいた笑み)ただ,法治国家として法の規律は守らなければならない。見せしめとして脱国者に死を与えるだけだ。脱国者には裁判も論議も必要ないからな。この場合は感情の入り込む余地のない生粋(きっすい)の戦士が適任だ」
(画面)頬杖をついているレック。背後には頭をさげているゲーニッツ。

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第3節 急襲! ならず者集団マゼランフォース隊