第1節 新たなる脅威! 集うアンドロメダ宇宙戦士

(画面)宇宙空間に浮かぶ青い地球。
(BGM)M−3

(画面)青空に大きな建物の外観。
(字幕)自治区立総合病院(画面下部横文字)
(BGM消える)
(字幕)2週間後(画面中央横文字)

(画面)病室。個室の一室。左側に大きな窓。窓際にベッドがひとつ。ベッドの右側には開放されてたたまれているカーテン。ベッドの向こう側に枕。手前には液晶テレビジョンの裏側。ベッドは背中側が起き上がってその若者はベッドの上で半身を起こしている。若者は島 大介。シンプルなパジャマを着ている。右手でテレビジョン用のリモコンを操作している。テレビジョンからは音声がもれている。

(画面)島の視線からのテレビジョンの映像。そこには司会者らしき男性と評論家の男性が会談をしている様子が映し出されている。
司会者「(首だけ評論家へ)・・・という事は,ヤマトの乗組員たちは心理学的にその他の戦士たちとは異なる点があるという事でしょうか?」
(画面)評論家のクローズアップ。
評論家「(カメラ目線)・・・そうですね。2年前のガミラス大戦では各自治区が音信不通になってしまい,日本自治区が完全に孤立した状況でした。最後まで艦隊を保有していたのも日本自治区だった。それが冥王星での戦闘により壊滅させられ,完全に追い詰められた心理状態は,他の自治区とは比較にならなかったのでしょう。その中で日本自治区はイスカンダル作戦を単独で遂行しなければならなかった。もともとヤマトは地球脱出用の避難船として穴井教授が設計製作した宇宙船だったのですが,各自治区との連絡が取れない以上,これを急遽(きゅうきょ)戦艦に改造し未知の波動エンジンを独自で解析しそれを実用化する必要性にも迫られていたのです。しかも時間が限られていた。・・・そのような特殊な状況の中で人手不足の理由で経験の浅い若者たちが徴収されたのです」

(画面)無表情の島 大介。

(画面)島の視線からのテレビジョンの映像。司会者がいったん下を向いて再び評論家へ向き直る。
司会者「そのような特殊な状況下で若者の心はかなりの影響を受けたと・・・」
(画面)評論家。
評論家「・・・これは,ひとつの大きな賭けでしたでしょうね。そのような場合,経験の浅い若者は発狂するか,適応するかどちらかしかなかったでしょう。ヤマトの場合は幸いにも後者でした。それも驚異的な適応でした。これは一重にヤマト初代艦長沖田十三氏の功績は大きかったですね。・・・しかしその適応はある意味,副作用をもたらした。特殊な状況での戦闘を繰り返していくうちに,彼らの心の中には個人的な人間としての幸せよりも世界・・・いや宇宙規模での幸せを望み,自分を犠牲にしてでもそれを守ろうとすることしかできなくなったのではないかと・・・」

(画面)病室。眉間にしわをよせる島。テレビジョンの光が顔にあたっている。
島「・・・(リモコンを構える)」
(評論家の声)・・・あのような特攻攻撃もそのあらわれ・・・
(画面)リモコンを押す島。番組の音声が変わる。
(テレビジョンの音声)・・・ヤマト搭乗員で不幸の戦死をされた森 雪さんのお母様,明子さんです。・・・
(画面)島の表情にかるい驚き。

(画面)島の視線からのテレビジョンの映像。年齢は40代半ばの女性が映っている。喪服であろう,黒い着物を着ている。どうやら個人的な告別式の中継のようだ。明子と紹介された女性は手前に娘の写真を両手で持っている。目の前にスタンドマイクがあり,集まってくれた人たちに挨拶をするようだ。深く頭を下げる。
明子「・・・本日は皆様,ありがとうございました。一度地球防衛軍によってお葬式を執り行なっていただきましたが,どうしてもこの家から娘の葬式を出したくてわがままを申し上げました。今日はマスコミの方々もいらっしゃっているようですので,包み隠さず今の私の気持ちを申し上げたいと存じます」

(画面)島の視線からのテレビジョンの映像。森 明子の上半身のアップ画面。
明子「・・・今ちまたではヤマトの話題でもちきりのようでございます。地球を救った英雄,宇宙の救世主,ヤマトの映画の製作もささやかれているとのこと・・・。中には神のごとく崇めた宗教もでているとか・・・。でも私はこの場をかりて申し上げたいことがございます」
(BGM)M−11

(画面)島の視線からのテレビジョンの映像。森 明子の上半身のアップ画面。
明子「・・・ヤマトの艦長,古代 進はひとでなしです。世間様が何と言おうが,私はあの男を認めません。・・・私の大切な一人娘をたぶらかしたのです。自分のフィアンセを戦場へ連れていくなど男のすることではありません。結婚を許した私が間違っておりました。聞けばあの男は両親を戦争で亡くしたそうではありませんか。子を亡くした親の気持ちの分からない男なのです。私は娘を,地球を守る男ではなく娘を守ってくれる男に嫁がせてやらなければいけなかった・・・」

(画面)島の視線からのテレビジョンの映像。後ろから彼女の夫と思われる男性が彼女の両肩をつかんで引き寄せるようにしている。耳元にささやくように,たしなめている様子。両肩をつかまれた明子はその瞬間堰(せき)を切ったように叫び始めた。
明子「(泣きながら)ヤマトの人たちは皆人殺しよ! 娘を返してちょうだい! あの娘はあんなに結婚生活を楽しみにしていたのに! 買ったばかりのマンションに買ったばかりの家具もそのままなのよ・・・!(号泣)」

(画面)テレビジョンの画面が消える。島がテレビジョンを消したようだ。

(画面)沈痛の面持ちでうなだれている島。顔が完全に下を向いている。
(BGM消える)

(画面)病室側からの廊下への出入り口の引き戸扉。
(効果音)ノックの音。
(画面)病室側からの廊下への出入り口の扉が左方向へ少し引かれ,相原が顔を出す。
相原「(探るように)・・・島さん,起きていますか?」
(画面)病室側からの廊下への出入り口が全開され,三人の若者たちの姿。・・・相原,太田ともうひとりメガネの長身の若者。
(画面)ベッドの上でうなだれている島。
(相原の声)・・・寝てるのかな?

(画面)同病院の廊下。床すれすれの描写。そこには赤いふたつのキャタピラが横からのアップで左方向へ移動している。視点はそのキャタピラに固定。よって画面も廊下の床を左方向へ同速度で移動。どうやらそのキャタピラはロボットの足のようだ。歩くという動作は感じられない。
(効果音)静かな機械音。
(BGM)M−17
(画面)同病院の廊下。今度は少し視点の位置が上に上がっている。ロボットのずんぐりとした胴体部分。やはり色は赤色。両手は下におろされたまま。腕の肘部分から背中へそれぞれコードがつながっている。あまり画面が上にないところをみると,このロボットはあまり背は高くないようだ。
(画面)同病院の廊下。ロボットの頭部を左横からのアップ。移動している廊下の背景。大きな頭部。首部分のくびれはない。目と思われる部分は広い透明スクリーン。耳の箇所には垂直に真上へ伸びるアンテナ。頭の上にはモヒカン崩れの突起が三連。

(画面)同病院の廊下。ロボットの全体像を正面から。画面手前に向かって移動して来る。ご存知,アナライザー。

(画面)同病院の廊下。白衣姿の男性の後姿。逆立ってる白髪から年配の人のようだ。両手を大きく振りながら,画面向こうへ歩いている。画面追尾。
(効果音)ギュッギュとくたびれた革靴の足音。

(画面)全開されている病室の出入り口を病室側から。廊下からおもむろに姿を現すネクタイに白衣の老人の全体。白髪頭はパンクスタイル。白い口ひげ。背はあまり高くなく,どうやら医者ではない。
老人「(右手を上げて)・・・よう! 島,元気しとるかあ! 入院患者に言う言葉ではないかのう! まあ許せ」
(BGM)M−17
(画面)窓をバックにベッドの島と,その周りの三人の若者たちが目を丸くしている。
島「(笑顔)・・・教授。お久しぶりです」
(画面)メガネの長身の若者のアップ。
(字幕)南部康雄(画面下部横文字)
南部「・・・地球防衛軍の合同葬儀以来ですね,教授」
(画面)白衣の老人のアップ。
(字幕)科学アカデミー名誉教授 穴井雷蔵(画面下部横文字)
穴井「(口と目を丸くして)・・・ほほ! ヤマトカルテット揃い踏み(そろいぶみ)かいな。きらきら光った勲章もらった有名人が四人も一ヶ所にいるとはの。マスコミの格好の餌食じゃな(にやり)」
(BGM消える)

(画面)同病室。うつむき加減の島の上半身アップ。
島「(ぽつり)・・・みんな,すまない。合同葬儀に出席できなかった。何としてでも出席したくて何度も外出許可を申請したんだが・・・」
(画面)穴井教授が口をへの字に視線を上の表情。
穴井「・・・蔵造(くらぞう)が許さんかったんじゃろ? あの男も頑固じゃからな。酒造じじいとは長い付き合いで,わしも蔵造を赤ん坊のころから知っとったが,いつからああなっちまったのかのう。(島を見て)しかしなあ。あいつも合同葬儀には出とらんのよ。理由を訊いたら,墓参りはいつでもできるが,患者の治療はいつでもというわけにはいかないと言っとったわい・・・多分,島。おまえのことじゃよ」
(画面)顔をあげる島。
島「俺は元気です」
(画面)両手のひらを見せる穴井教授。
穴井「それは,わしには分からん。わしは医者ではないからな。(表情を和らげて)・・・しかしまあ,おまえさんも今は身体を治すことだけ考えたらよかろう。完全に回復して,ここを退院したらヤマトの仲間たちが眠る”英雄の丘”に行ってやれ。その方が古代も喜ぶというもんじゃ。おっと。(両手のひらを合わせて)それはそうと今日はおまえさんに会わせたいやつがいてのう・・・一緒に連れてきたんじゃが」

(画面)全開されている病室側からの廊下への出入り口。
(女性の悲鳴)きゃあ〜!
(BGM)
(画面)ベッドに座っている島。ベッドの向こう側の右端に立っている太田。島をはさんで左側に相原。その隣に南部。ベッドの手前に立っている穴井教授。五人とも目を丸くして,こちらをを見ている様子。
(画面)全開されている病室側からの廊下への出入り口。・・・廊下にいる女性看護士が右手にカルテをかかえ,左手で白衣のスカートのすそを押さえながら後ろを振り返りつつ出入り口の左端から現れ右端へ駆け抜け消えていく。
(効果音)女性の駆ける足音。遠ざかる。
(画面)ベッドに座っている島。ベッドの向こう側の右端に立っている太田。島をはさんで左側に相原。その隣に南部。ベッドの手前に立っている穴井教授。
穴井「なんなんじゃい」

(画面)全開されている病室側からの廊下への出入り口の左端から,アナライザーが姿を現し病室内に入って来る。
(BGM)
(効果音)静かな機械音。
(画面)ベッドに座っている島。ベッドの向こう側の右端に立っている太田。島をはさんで左側に相原。その隣に南部。
相原,太田,南部「(同時)・・・アナライザー!」

(画面)アナライザーの全体像。話すときに頭部ランプが点滅する。
(字幕)分析ロボット アナライザー(画面下部横文字)
アナライザー「ホホ! やまとかるてっとソロイブミカイ? ますこみノ エジキ ジャナ」

(画面)穴井教授の苦みばしった表情。
穴井「真似しとる。このボケナス。どうせナースたちにひっかかっとったんじゃろうが」

(画面)島が微笑しながら左方へ顔を向ける。
島「・・・直ったんですね。教授」

(画面)アナライザーの左横へ立つ穴井教授。あまり背の高さに差がない。アナライザーの頭を右手で叩く。
穴井「おかげさんで,元通りじゃ」
アナライザー「コイツガ ナオシテクレタ」
穴井「(苦みばしる)・・・相変わらず口の悪いやつじゃ」

(画面)あごに手をあてて首をかしげる太田。
太田「・・・え,しかしアナライザーはあの戦闘で破壊されてバラバラになったはずですよね。ここにいるのは二代目ですか?」

(画面)アナライザーの左横へ立つ穴井教授。首を振る。
穴井「いやいや。ここにいるのは,れっきとしたオリジナルじゃよ。(アナライザーから島へ視線をうつす)・・・島のおかげじゃ」

(画面)ベッドに座っている島。ベッドの向こう側の右端に立っている太田。島をはさんで左側に相原。その隣に南部。三人がそろって島を見る。
(画面)うつむいている島のアップ。
島「・・・いや。俺はただアナライザーの中枢頭脳を預かっただけだよ。斉藤のおかげなんだ」
(BGM消える)

(画面)回想シーン。宇宙戦艦ヤマトの第一艦橋内部。フロントウインドウから見える外部のガトランティス都市帝国下部が迫っている景色。操縦席に座っている島。段発的に爆光。
(効果音)直撃を受ける爆発音。艦体がきしむ音。
(アナウンス)・・・左舷被弾損傷! シアンガス発生!
(画面)回想シーン。島の左手のひらのアップ。その上に何者かの手が重なる。その手が引っ込むと,島の左手の上に小さなカプセル状の機械が乗っている。
(画面)回想シーン。島が操縦席から半身で振り返っている。自分の左手に乗っているものから視線を上に。
(画面)回想シーン。恰幅(かっぷく)のいい豪傑(ごうけつ)な男のアップ。不敵な笑み。
(字幕)空間騎兵隊隊長 斉藤 始(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)
斉藤「(ウインク)・・・アナライザーだ。後はよろしく頼むぜ。じゃあな」

(画面)病室。うつむいている島のアップ。
(画面)相原。
相原「気がつかなかったな。あの時は僕たちは自分たちのことでいっぱいいっぱいだったから・・・やっぱり斉藤さんはすごい人だったんだな」
(画面)アナライザーと穴井教授のツーショット。
アナライザー「オレモ キガツカナカッタヨ。トーチャン」
穴井「脳みそだけだったんじゃろうが」
(画面)左側にベッドの上の島。右側からアナライザーが近づく。
アナライザー「シマサン。アリガトー。タスカッタヨ」
島「(苦笑)だから,斉藤のおかげなんだってば」

(画面)アナライザーのアップ。
アナライザー「シマサン。マタ イッショニ ウチュウニ イキマショー」

(画面)少し驚いた表情の島のアップ。うれしそうに微笑する。
島「・・・おまえがいてくれたら,とても心強いよ。アナライザー」

(画面)病室。穴井教授のアップ。
穴井「・・・それはそうと,今地球防衛軍はどんな感じかね。わしたちの方は宇宙艦の建造でおおわらわじゃ。ガトランティスはまた攻めてくるんじゃろうかのう」
(画面)南部の上半身のアップ。
南部「・・・可能性は大です。あの時の白色彗星からの警告やメッセージから推察すると,あの都市帝国にはどうやらガトランティスの重要人物がいたらしいのです。報復してくることは十分考えられると防衛軍司令部は考えているようです」
(画面)折りたたみの椅子を広げて座り込む穴井教授。
穴井「・・・やれやれ。また戦争かいな。うんざりじゃわい」
(画面)太田。
太田「昨日,地球連邦連合艦隊の編成会議があって私たち三人もオブザーバーとして出席したんですが,我が日本自治区の司令長官がものすごい剣幕だったんです。・・・あの戦いは地球側のほぼ負けに等しかったと珍しく声を荒げてました」

(画面)回想シーン。広いテーブルに各自治区代表が丸く席についている会議の全景を天井斜め上からのバードビュー。一番遠い正面席には立ち上がっている頭の禿げ上がった日本自治区司令長官の姿。
(司令長官の声)・・・今回だけはゆずるわけにはいきません・・・!

(画面)回想シーン。日本自治区司令長官が両手をテーブルにつき,大きなスタンスで発言している正面からの描写。両側には各自治区司令長官が並んで座って日本自治区司令長官へ視線を注いでいる。
(字幕)日本自治区防衛司令部司令長官 藤堂平九郎(画面下部横文字)
藤堂「・・・私は今,非常に悔やんでいるのだ。前回の会議の時,あの古代が発言を禁止されていたにもかかわらず立ち上がって我々を批判した時,どうして私はその発言を公にフォローしてやれなかったのかと。ヤマトを廃艦処分にする決議にも私はそれを反対できなかった」

(画面)回想シーン。会議の席上で制止を振り切り,立ち上がって必死に発言している若者。(音声無し)
(字幕)三代目宇宙戦艦ヤマト艦長 古代 進(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)

(画面)回想シーン。深呼吸する藤堂司令長官。
藤堂「・・・あげくに追い詰められた古代たちはあえて反逆者の汚名を着たままヤマトで地球を飛び出していくはめになってしまったのだ。(会議室内を見回し)・・・しかしみなさん。その反逆行為が結局は地球を救ったのですぞ! あなた方が下した決議は,ただハードウェアの威力のみを過信し,地球艦隊を全滅させ,あたら貴重な宇宙戦士たちの命を散らせただけだ。それはヤマトの戦士たちも例外ではない!」

(画面)回想シーン。オブザーバー席に座っている太田,相原,南部の順番。

(画面)回想シーン。金髪を短く刈り上げている青い瞳の年配の司令官。座っている席のテーブル上には星条旗。
アメリカ司令官「(英語)・・・しかし,ミスター藤堂。あなたの気持ちは分かるが,あの時の我々の決議に関しては,このような事態になるとは誰も予想できなかったはずですぞ。まさか白色彗星があれほど強力であったとは・・・」

(画面)回想シーン。左方へ顔を向ける藤堂司令長官のアップ。怒りの表情。
藤堂「黙れ,アメリカ! 誰も予想できなかったのならば,なぜ白色彗星に対して地球艦隊に全艦マルチ隊形をとらせたか! 主砲である拡散波動砲に過信していた事に他ならない作戦ではなかったのか! あの隊形では波動砲に効力がなかった場合に全ての艦は退避行動などできない。地球艦隊の壊滅はあなたの自治区の艦隊司令の浅はかな楽観的予想が原因だ!」

(画面)回想シーン。静まり返っている会議室。藤堂司令長官は立ち上がったまま。両側の各自治区司令長官は座ったまま彼へ視線を固まらせている。
藤堂「(少しうつむいて)・・・しかし私も責任は免れない。2年前のイスカンダル作戦の時もヤマトはたった一隻だった。そして今度もだ。彗星帝国と戦っているヤマトがたった一隻でぼろぼろになっていくのを見ながら私は心痛して思ったものだ。・・・地球艦隊が一隻でも残っていたら,ヤマトと共に戦ってくれる艦がいてくれたら,ヤマトはあそこまで悲惨な戦い方をしなくても済んだであろうと・・・」

(画面)回想シーン。ロマンスグレーの髪の30代半ばと思われる司令長官。座っている席のテーブル上にはフランス旗。
フランス司令官「(仏語)・・・ムッシュ藤堂。確かに前任の艦隊司令はミスを犯したかも知れない。・・・しかし今回貴官が艦隊司令に推薦したダイスケ シマはまだ21歳だと聞いている。地球連邦連合艦隊3000隻を率いるには少し荷が重過ぎるのではないか」

(画面)病室。驚愕の島。相原たち三人を見上げる。
島「(驚きと戸惑い)・・・お,俺が地球艦隊司令・・・!」

(画面)回想シーン。藤堂司令長官が再び顔を上げて各自治区司令官を見回す。
藤堂「・・・ご指摘の通り,彼はまだ若い。しかし彼は私の知っている限りこの地球で最も多く戦闘経験をして,そして生き残っている希少な宇宙戦士のひとりです。しかも彼はヤマトの操縦士として戦い抜いた経歴から他の戦士たちからの人望を集めることができる。あなた方がおっしゃっている若さというのは経験と社交がないという意味と判断できる。・・・そういう意味でいうならば,それは必ずしも懸念(けねん)する理由とはならないはず。・・・もちろん,自分は戦場へ行かず人に戦わせるという経験でいうならば,彼は私たちの足元にも及びませんがね」

(画面)病室。太田のアップ。
太田「・・・この提案が決議されないならば司令部を辞職するとまで長官はおっしゃって,ほぼこの提案は通過しそうですよ」
(画面)唖然と下を向いている島を太田の視線から。
島「・・・無理だ。艦隊司令など。俺はパイロットなんだぞ。戦略や戦術なんか俺の分野じゃない」
(画面)南部。
南部「島さん。あなたは古代艦長とずっと行動を共にしてこられた同期です。今までヤマトの戦略会議にもずっと参加してきました。その経験を生かせば必ずしも無理ではないと思います」
(画面)島が振り仰ぐ。
島「戦略ならば,南部。おまえは戦闘部門にいて経験も俺よりも豊富なはずだ」
(画面)南部が首を振る。
南部「私は駄目です。私では戦士たちの信頼を得ることなどできません。あなたは今や地球で最も有名な宇宙戦士なのですよ。素直におめでとうございますと言わせていただきます。あなたは司令長官に認められたのです」
(画面)島のいるベッドの左側の三人の若者たち。その手前で下を向いている島。
島「(つぶやき)・・・司令長官。無茶なことをおっしゃる・・・」

(画面)驚いた表情の穴井教授。
穴井「・・・そうじゃのう。全くたまげたわい。藤堂も随分思い切った事をしたものじゃ。ははは。島,心配すな。意外とうまくやれると思うぞい。日本人が地球連邦連合艦隊の指揮官か。やっと日本もアメリカに物申すことができるようになったということじゃな。(顔を少し上に)おいおい,おまえたち。島はまだ入院している患者じゃからの。いらんプレッシャーをかけてはいかんぞい」
(画面)相原が後頭部へ手を回す。
相原「すいません。・・・それにしても教授,フランス司令官の言っていた”地球連邦連合艦隊”というのは初めて聞くニュアンスですね。今までの地球防衛艦隊とは違うんですか?」
(画面)穴井教授が口をへの字にして少し首を傾ける。
穴井「じゃなあ・・・地球防衛艦隊というのは,当時まだ地球連邦ではなく,地球連合だった頃の連合政府が主導で編成した艦隊じゃな」

(画面)回想シーン。連合国会の様子。議論を交わしている各国代表。
(穴井の声)・・・あの時は自治区ではなく,まだそれぞれ”国”という単位じゃっただろう? 連合政府は各国の代表が集まって政治をつかさどるシステムじゃったからまだ各国の主義主張が強すぎてまとまりが悪くてしょうがなかった。

(画面)回想シーン。宇宙空間を航行するガミラスデストロイヤー艦隊。
(穴井の声)・・・そんな時じゃ。あの悪魔たちが地球に攻め込んできたのは・・・。地球防衛艦隊はガミラス大戦が勃発(ぼっぱつ)した時に急遽(きゅうきょ)地球連合政府が防衛予算組みをして各国へ振り分けたものじゃ。

(画面)回想シーン。図面や計画書等をはさんで検討している穴井教授はじめ各国の技術スタッフたち。
(穴井の声)・・・わしもその時にそのプロジェクトに参加したんじゃが,いかんせんそれまでの地球は外宇宙からの攻撃を受けたことがなかったものじゃから各国もその概念に慣れてなかった。対応が早かったのはやはりアメリカ合衆国でのう。連合政府の主導と言ったが実際はほとんどアメリカ合衆国が主導権を持っていたのじゃ。アメリカが主要な部署を独占し,各国はその指示でそれぞれの艦隊を動かしていた。

(画面)回想シーン。ガミラス艦隊と交戦している地球艦隊。次々と撃沈される地球艦隊。
(穴井の声)・・・しかしやはりまとまりが悪くてな。それぞれがバラバラに動いて出撃していたから,たちまちガミラスにやられてしもた。科学力の差もあったしな。

(画面)回想シーン。日本宇宙艦隊の雄姿。
(画面)回想シーン。赤い非常照明の中で軍帽のつばから鋭く眼を光らせ,毅然(きぜん)とした態度と表情を見せている白髭の提督。
(字幕)日本艦隊総司令官(後の宇宙戦艦ヤマト初代艦長) 沖田十三(2200年9月5日戦死)(画面下部横文字)
(穴井の声)・・・最後は沖田の日本艦隊が数隻残る有様じゃ。

(画面)回想シーン。演説する地球連邦大統領。
(穴井の声)・・・戦後,地球再建の段階で地球連邦政府が確立されて”国”が”自治区”になり各自治区の代表の上に連邦大統領が取り仕切る現在の体制が出来上がったんじゃが,地球防衛艦隊のシステムは実は以前とあまり変わってなかったんじゃな。

(画面)回想シーン。土星宙域を航行している宇宙戦艦アンドロメダをはじめとする地球防衛艦隊。
(穴井の声)・・・ガトランティスファーストコンタクトの時はそれでも少しはまとまりが出てきたが,やはりアメリカ主導の自治区混合で出撃した艦隊は指令伝達がスムーズにはいかなかった。

(画面)回想シーン。白色彗星に呑み込まれていく地球艦隊。
(穴井の声)・・・ま,わしに言わせれば地球防衛艦隊などガミラス襲撃の時にあわててつくった,当時の間に合わせの艦隊というとこじゃ。

(画面)アナライザーが折りたたみ椅子に座っている穴井教授に横から近づく。
アナライザー「トーチャン。オレノコトモ ソノトキ マニアワセデ ツクッタンダロ?」
穴井「(首を向ける)お前はわしの趣味で造ったわい」
アナライザー「ジャア ナンデ モット すまあとニ ツクレナカッタカ?」
穴井「(首を戻す)ばかたれ。そのスタイルが一番ロボットらしいんじゃ」

(画面)穴井教授が顔を画面正面に戻す。
穴井「・・・そこで考えられたのが地球連邦連合艦隊じゃ。各自治区の経済状況に合わせた防衛予算組みの範囲で各自治区が独自に艦隊を編成する。(身振り)・・・当然その艦隊の司令官はその自治区の人間じゃな。そしてそれとは別に地球連邦政府が任命した艦隊総合司令官が各自治区艦隊の司令官に指示を出すというシステムじゃ。これなら,各自治区の司令官がその命令を理解すれば自分の艦隊にスムーズな命令伝達ができる。(手振り)・・・今までの宇宙艦レベルでの機動力が艦隊レベルにアップするというわけじゃわ。ま,緊急時には艦隊総合司令官の判断を待たずに各艦隊の司令官が臨機応変に自分の艦隊を動かすこともできる。(指を立てる)・・・しかしこの特権が頻繁に使われるようじゃと,艦隊総合司令官の指導力に問題ありということになるんじゃがな。(両腕を広げ)・・・なにしろ予定では総艦艇数3000を越える大艦隊じゃ。艦隊総合司令官の責任はさらに重要になって・・・」

(画面)相原が右手を前に出して上下に細かく振る。
相原「教授。プレッシャー,プレッシャー」
(画面)病室。部屋の奥に太田。その手前に相原。さらに手前に南部がいてその右側にベッド。さらに右側には両手を広げて折りたたみ椅子に座っている穴井教授。その横にアナライザー。皆,島を仰ぎ見ている。ベッドの上には島が座っている。顔を真下にうなだれている島。
相原「(島を覗き込む)・・・島さん?」
島「(うつむいたまま)・・・俺が艦隊司令・・・」

(画面)病院の廊下。白衣姿の女性看護士の後姿。歩いている様子をローアングル。
スカートからすらりとした足がリズミカルに交互に運ばれている。

(画面)病室と廊下の床の境の病室内。バリアフリー。出入り口引き戸が引かれている方向とは逆方向の描写。そこへ白衣のスカートと足が病室内へ歩いて入って来る。上半身は見えない。

(画面)ベッドに座って,うなだれている島。ベッドの向こう側の右端に立っている太田。島をはさんで左側に相原。その隣に南部。ベッドの手前で椅子に座っている穴井教授。隣にアナライザー。島以外の四人とも目を丸くして,こちらをを見ている様子。
穴井「(あんぐり)・・・こいつは,たまげた・・・」

(BGM)
(画面)頭にキャップをのせているショートカットの女性。白衣の上半身のアップ。左手にはカルテらしきボードを持ち,細いバンドの腕時計をしている。文字盤が見えないところを見ると内手首にあるのだろう。右手には細い体温計らしきものを持っている。
女性「(軽い驚き)あら。お見舞いの人がたくさん。(笑顔)お邪魔してもいい?」

(画面)ベッドに座って,うなだれている島。ベッドの向こう側の右端に立っている太田。島をはさんで左側に相原。その隣に南部。ベッドの手前で椅子に座っている穴井教授。隣にアナライザー。
太田「ぜんぜん!」
相原「問題ありません」
南部「どうぞどうぞ」
穴井「独身かね?」
(結局四人全員が同時にしゃべった為,言葉は聞き取れない)

(画面)女性看護士が輝く笑顔で体温計を差し出す。
女性「・・・島さん。検温の時間ですよ」
(画面)顔を上げて看護士から体温計を受け取る島。
(画面)カルテを左脇にはさみながら腕時計を見る女性看護士。
女性「(視線を戻して)島さん。検査の結果について先生からお話があるそうです。30分後に診察室へ来てくださいね」

(画面)南部のアップ。ほれぼれとした表情。
南部「・・・いやあ。しかしそっくりだなあ」
(画面)女性看護士がその声に反応して小首をかしげる。
女性「あなた・・・南部さんね」
(画面)驚く南部の表情。
南部「・・・え?」

(画面が右へ移動)
(女性の声)・・・あなたは相原さん。
(画面)驚く相原の表情。
相原「・・・お?」

(画面が右へ移動)
(女性の声)・・・そしてあなたは太田さんね。
(画面)驚く太田の表情。
太田「・・・なんで?」

(画面)微笑む女性看護士。
女性「・・・みなさん,有名人ですもの。テレビで拝見しました。・・・島さん体温計」
(画面)脇から体温計を出して差し出す島。画面手前からそれをうけとる彼女の手。
島「(襟を直しながら)・・・彼女は雪さんのいとこなんだ」

(画面)下を向いている左横の島の後ろ側で口を大きく開けている三人の若者。

(画面)病室。カルテに書き込みをしてから両腕で抱きかかえ,にこりと笑う女性看護士。
女性「・・・森 綾乃です。はじめまして(頭を下げる)」
(字幕)森 綾乃(画面下部横文字)
綾乃「雪姉さんのお父様の弟が私の父です」
(BGM)

(画面)納得の表情の南部。
南部「雪さんに似ているわけだ」
(画面)見上げる島。
島「・・・森さん,今日はお葬式には行かなかったのかい?」
(画面)島の視線からの綾乃の姿。覗き込むような仕草。
綾乃「・・・テレビをごらんになったんですね? ・・・島さん,ごめんなさい。明子おばさまがひどいことを言ってしまって・・・許してください」
(画面)にこりと笑う島。
島「森さんが,あやまることはないんだ。むしろ俺があやまらなくっちゃならない。もう少しうまく俺がヤマトを動かせていたらと今でも思っているんだ」
(画面)綾乃が今度は本当に島を覗き込む。
綾乃「(微笑)島さんは地球一のパイロットです。だって世界で初めてワープ航法を成功させたパイオニアですもの。古代さんだって島さんが操縦してくれていたおかげで安心して波動砲が撃てたと思うわ」
(画面)体勢を直して横を向く綾乃。
綾乃「私,お葬式に呼ばれたけど行かなかったの。もう合同葬儀には出席したし。それに明子おばさまは古代さんを憎んでいたもの。私,古代さんを憎むのは筋違いだと思うから。雪姉さんは自分の意思でヤマトに乗り込んだのよ。きっと覚悟はしていたんだと思う。古代さんが軍人だという理由でおじさまとおばさまに結婚を反対されて半年もかかってやっと許してもらったふたりだったもの。古代さんに怒られてでも雪姉さんはいっしょに行きたかったんだわ」
(BGM消える)

(画面)左手のひらのアップ。
(画面)ぴくんと目を大きくして硬直する綾乃のアップ。
綾乃「・・・え?」
(画面)画面左端に綾乃の白衣の左腰部分。中央に隠れるように穴井教授の顔半分。・・・左手を綾乃の腰に置いている。
穴井「(真顔)ふむ。・・・これはまたなかなか優秀な流線型じゃなあ。宇宙工学の粋を集めても,これほど完璧にはなるまいて。・・・こうなると人間というのはまだまだ無力じゃのう。まさしく神の成せるわ・・・」
(画面)アナライザーの足のアップ。次の瞬間,星が砕け飛び天井が回転。逆さまの状態で迫る壁。さらにビッグバン。画面ブランク。
(効果音)顔をアナライザーの足で蹴られたような音。床に背中と後頭部をぶつけたような音。床をすべるような摩擦音。最後に額が壁にぶつかったような音。いわゆるドテ ポキ グシャ。
(画面)手前に後方を振り返っている綾乃の後ろ姿。向こう側の壁に仰向けにひっくり返っている穴井教授。
穴井「・・・ざ・・・」
(画面)ベッドに座っている島。傍らには苦笑で眉毛を下げ一筋の汗の綾乃。画面手前には穴井教授の逆さまの顔のアップ。綾乃の隣にはアナライザーが胸(?)を張っている。
アナライザー「ジョセイ ニ タイシテ ナント イウ シツレイ ナ コトヲ。トーチャン」
穴井「(うめく)・・・ボケナスめ・・・。生みの親になんちゅうことをしよる・・・(がくっ)」

(画面)左端にアナライザーの頭部の右横アップ。視線の高さを合わせて綾乃が右端から,苦笑のまま顔を近づける。
綾乃「・・・あ,あなたがあの有名なアナライザー君? ありがとう(視線を変える)・・・って言っていいのかしら。(視線を戻す)・・・でもやさしいのね・・・」
(画面)アナライザーの頭部の正面のアップ。

(画面)アナライザーの頭部の正面のアップ。・・・やがて頭部のいたるところから光が点滅し始める。
(効果音)アナライザーからの電子音。
(画面)アナライザーの胴体部分が左側。右側には綾乃の白衣のスカート。・・・下ろされていたアナライザーの両手が綾乃のスカートのすそにかかり,一気にスカートをまくり上げる。
(綾乃の悲鳴)きゃあ!

(画面)ベッドに座っている島の後ろ姿。その左横にベッドの傍らに立っている穴井教授の後ろ姿。画面の左端には赤面している三人の若者たち。彼らの視線の先には,病室内を逃げ回っているアナライザーと,右手を振りかざしながらそれを追いかけている綾乃の姿。
綾乃「(追いかけながら)待ちなさい! アナライザー! 待ちなさいってば! 待て! このエロロボット!」
島「(後ろ姿)・・・教授。ああいうところは直せなかったんですか?」
穴井「(後ろ姿)無理じゃなあ。あれはあいつのOSの基本中の基本じゃ。基本の変更は許されん」
島「(後ろ姿)・・・許されなかったんだ・・・」
穴井「(後ろ姿)・・・ふうむ。どうやら,あいつはああいうタイプがお気に入りのようじゃな」
島「(後ろ姿)それも教授のOSですか?」

(画面)自治区立総合病院の診察室。診察室側から見た出入り口の描写。・・・やがてその引き戸を開けて,島が室内に入って来る。後ろ手に引き戸を閉める島。

(画面)デスクが左端。その上にはレントゲン写真らしきネガとカルテなどの書類がのっている。デスクの右の肘掛椅子に座っている恰幅のいい白衣の男性の首から下の正面からの姿。手前には丸椅子が見える。白衣の男性の右手のひらが丸椅子へ差し出される。
男性「どうぞ。島さん」

(画面)手前右端には白衣の男性の上半身後姿。島が正面から近づいて丸椅子に座る。

(画面)白衣の男性の上半身正面の描写。頭は丸刈り。大きな体型。分厚い胸板を大きめの白衣が余裕をもって包んでいる。かなりの筋肉質のようだ。ひげはなく,メガネもしていない。
(字幕)外科担当医師 佐渡蔵造(画面下部横文字)
佐渡「さて,今日は少し話をしなければならないですな。英雄(えいゆう)さん」

(画面)レントゲン写真をスクリーン上部にはさんで明かりをつける佐渡医師。その手前には丸椅子に腰掛けている島の後姿。
佐渡「・・・まず,あなた自身が自覚している症状を包み隠さず教えていただきましょうか」
(画面)佐渡医師が目を細める。
佐渡「・・・言っておきますが,私はあなたのよく知っているあのやぶ医者とは違いますよ。病気に関する妥協(だきょう)は一切しません。あなたの病気はすでに,ほぼ把握(はあく)しているのです。下手な嘘はあなたのプライドと身体を蝕む(むしばむ)だけですよ」
(画面)島。
島「・・・あなたのおじいさんは立派な軍医でしたよ。先生」
(画面)デスクのカルテに向き直る佐渡医師。
佐渡「・・・島さん。いつからあなた,ご自分の症状に気がついていたのですか。すでに自覚症状があったはずですが・・・?」
(画面)うつむく島のアップ。
島「(無言)・・・半年ぐらい前かな」
(画面)身体はデスクに。首だけこちらへ向ける佐渡医師。
佐渡「左わき腹に激痛が? イスカンダル作戦のさなかの負傷ですか」
(画面)首を振る島。
島「・・・輸送船団護衛艦勤務の時だ。イレギュラーの流星が船団に衝突した。火災が発生して救助活動の際に気圧の変動による爆発で破片がわき腹に刺さった。・・・治ったものかと思っていたんだが」
(画面)カルテに書き込んでいる佐渡医師。
佐渡「(体勢変わらず)・・・医者には診せたんですか?」
(島の声)・・・その艦の軍医に治療してもらったが。
佐渡「(体勢を島へ向ける)・・・この世の中は,全くやぶ医者が多いものだ。どうせ傷口の治療だけだったのでしょう。診せてください」

(画面)パジャマの上着をまくりあげた島の身体。左わき腹に傷があり,それに触れている佐渡医師の手。

(画面)佐渡医師のアップ。
佐渡「最近,一番傷口が痛んだのはいつですか?」
(画面)パジャマをなおす島。
島「・・・ヤマトが発進する直前に艦内のベッドルームで激痛がはしった。気を失いかけたよ」

(画面)回想シーン。宇宙戦艦ヤマト艦内。医務室室内側から見た出入り口引き戸。・・・引き戸が開け放たれ,室内にユニホームを着た島が体勢を前のめりにしながら入室してくる。
(効果音)ドアの開閉する音。乱れている足音。
(画面)回想シーン。白地に赤十字のマークの白衣を着ている頭の禿げ上がったメガネの老人が振り返る。驚きの表情。
(字幕)医学博士 佐渡酒造(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)
佐渡酒造「・・・しぃまぁ! 何をしとるんじゃ! ヤマトはもう発進しとるぞ! お前が操縦しとるんじゃないのか?」
(画面)回想シーン。冷や汗をかいている島のアップ。顔色が悪い。
島「(表情を曇らせている)・・・佐渡先生。すいません。何も訊かずに俺に,痛み止めの注射をうってくれませんか・・・」
(画面)回想シーン。眉間にしわを寄せる佐渡酒造。
佐渡酒造「どこか具合でも悪いのか? 島」
(画面)回想シーン。哀願する表情の島。
島「お願いです,何も訊かないでください」
(画面)回想シーン。こちらを見つめている佐渡酒造。
(画面)回想シーン。冷や汗の止まらない島。
島「・・・お願いします・・・。先生・・・」
(画面)回想シーン。視線を外し,傍らのスイッチを入れる佐渡酒造。
(画面)回想シーン。診察台へ右腕をかけ体重を支えている島。
(古代 進の声)・・・微速前進,0.5・・・。(医務室のスピーカーより)
(画面)回想シーン。視線を正面へ戻す佐渡酒造。
(画面)回想シーン。激痛をこらえる表情の島。
島「・・・先生。急いでください・・・。古代では,海面からのジャンプは無理です・・・」
(画面)回想シーン。こちらを見つめている佐渡酒造。
(古代 進の声)・・・ゲート,オープン。・・・ヤマト,海中へ進入・・・。(医務室のスピーカーより)
佐渡酒造「(椅子を指差す)そこへ座るんじゃ,島」
(画面)回想シーン。安堵の笑顔の島。
島「・・・ありがとうございます,先生・・・」

(画面)体勢をこちらに向けてカルテを見直している佐渡蔵造医師。
佐渡「・・・ヤマト反逆事件が,9月8日。そして今日は12月12日。猛烈な激痛を感じてからあなたは三ヶ月もこの病気の具体的治療をしていない。・・・沖田十三さんは高齢だった。それに比べあなたはまだ若い。この病気は若いほど進行は早い。若さゆえの体力があるとはいえ,もはやあなたの身体は現役の仕事の復帰には耐えられないでしょう。防衛軍を退役(たいえき)せざるを得ません」
(画面)静かな面持ちで正面を見ている島。
島「・・・俺は今度,地球連邦連合艦隊総司令官に推薦されたんだ,先生」

(画面)微笑する佐渡医師。ため息をつく。
佐渡「・・・宇宙放射線病は伝染病ではない。よって患者を隔離(かくり)する必要はない。しかしあなたの場合は違う意味での隔離をしなければならないようだ。(真顔で前傾姿勢になる)・・・(厳しい表情)島さん! 私を甘くみてもらっては困る! この際はっきり言わせていただく! このまま軍に戻り,何も治療を施(ほどこ)さなければあなたは間違いなく死ぬ! 恐らく半年ももたないだろう。それが分かっていてむざむざあなたを退院させる私ではありませんよ!」

(画面)緊張した表情の島。

(画面)目をそらさない佐渡医師。

(画面)うつむく島。
島「そうか。・・・やっぱり,そうだったのか・・・そうか。何となくそんな気はしていたんだ・・・。(顔を上げる)しかし退院できないのは困るな・・・。かといって半年しかもたないというのも困る。・・・また戦争が近づいているんだ。人類の存亡がかかっている。ここで地球が滅んでしまえば,戦って散っていったヤマトの戦士たちに顔向けできない。地球は絶対に生き残らなければならない。・・・古代が俺に言った言葉だ。俺はその意思を守りたい」
(画面)佐渡医師が元の体勢に戻る。椅子に深く寄りかかる。
佐渡「・・・あなたが戦う必要はない。世界中の戦士たちが地球を守るために戦ってくれる。病気をおしてあなたが出れば,逆にその戦士たちの命を危険にさらすことになるのではないですか?」
(画面)肩を落とす島。
島「・・・そうかも知れない。しかし俺は・・・ここで終わりたくない。俺の身体の中にはあのヤマトの戦士としての血が流れているんだ。このまま何もせず朽ち果てるのは俺の今までの生き方を全て否定することになってしまう。・・・今,世間はヤマトの戦士たちが自分個人の人生を忘れてしまっていると言っているが,それは違う。人の人生を守ることが必ずしも自分の人生を否定することにはならないと思うんだ。それはヤマトの戦士だけに限ったことではないはずだ。自分のかけがえのない故郷を守りたいという気持ちはみな同じだと思う。・・・沖田さんも土方さんも古代も・・・きっとそうだったんだ。(顔を上げる)・・・頼む先生。半年しかもたないのは困る。他の戦士たちに迷惑もかけたくない。この眼で地球の行く末を見られるまでこの身体を無事にもたせてくれないだろうか。男の頼みだ。(正面を見据える)」

(画面)うつむき,黙っている佐渡医師。

(画面)正面を見据える島。

(画面)うつむき,黙っている佐渡医師。
佐渡「(顔を上げる)・・・かつてじっちゃんも,沖田さんに同じ言葉を言われたそうだ。結局その言葉に負けて,じっちゃんは治療を応急処置だけにとどめてしまった。私はそれを聞いて散々にじっちゃんを責めたよ。・・・それでも医者か! とね。そしたらじっちゃんは笑ってこう言った。”でも沖田艦長は最後に「ありがとう」と言ってくれたよ”・・・とね」

(画面)正面を見据える島。

(画面)ため息をつく佐渡医師。
佐渡「・・・強い口調で牛耳ろう(ぎゅうじろう)としたんだが,やはり駄目だったみたいだな。あなたの周りにいた人たちは手ごわい。まあ,私の予想の範囲内ではあるが。・・・まあ,仕方ないか。(決心したようなそぶりで)・・・実はあなたに提案しようと考えていた条件がある」

(画面)けげんそうな表情の島。

(画面)不敵な笑みの佐渡医師。
佐渡「・・・条件はふたつ。言っておくがこれは譲れ(ゆずれ)ない。もし,のめないならば,退院はさせないし病気を公表してあなたを退役に追い込む。いいですか?」

(画面)けげんそうな表情の島。

(画面)右人差し指を一本たてる佐渡医師。
佐渡「・・・まず,明日応急手術を受けていただく。ご心配なく。10日で退院させてみせます。そして・・・(親指と人差し指で二本。親指で自分の胸を指す)・・・この私をあなたの船に乗せていただこう。(前傾姿勢)これは私なりのあなたの隔離です。緊急時には医者の命令が全てに優先するという規約はご存知ですね? あいにく私はあなたを死なせるつもりは毛頭ない。これが私の戦い方です。私はじっちゃんみたいに簡単には諦めませんよ。・・・(そのまま島を指差す)さて,いかがですかな,英雄さん?」

(画面)診察室内。天井斜めからのアングル。島と佐渡医師が向き合っている。

(画面)宇宙空間。星が点々としている。
(ナレーション)・・・この大宇宙には数多くの島宇宙が存在する。・・・アンドロメダ銀河,マカリアン銀河,ソンブレロ星雲,ケンタウルス,バーナード銀河,しし座,くじら座,ろ座銀河団・・・。

(画面)銀河系の壮観。
(ナレーション)・・・そして我が太陽系を含む大銀河系もその数多くの島宇宙のひとつにすぎない・・・。
(字幕)西暦2202年(画面中央横文字)
(字幕消える)

(画面)大マゼラン星雲の全景。
(ナレーション)・・・その銀河系を隔てること14万8千光年。かつて宇宙戦艦ヤマトが大航海の果てにたどり着いた大マゼラン星雲。そこには地球を絶滅寸前に追い込んだガミラス帝星があり,地球の窮地に手を差し伸べた惑星イスカンダルがある。
(画面)大マゼラン星雲の全景が迫ってくるクローズアップ。
(ナレーション)・・・大マゼラン星雲の歴史はまさに戦いの歴史でもあった。歴史のさなか,数多くの軍事国家が現れそして,きら星のごとく消えていった。あのイスカンダルでさえかつてはイスカンダル帝星として,周辺の惑星の脅威であったのだ。その圧倒的な軍事力は他の追随(ついずい)を許さず,あのガミラスでさえ同盟を図らなければならなかった程である。・・・しかし時は流れ,イスカンダルも衰退しガミラスも星の寿命が近づくにつれ力が衰え銀河系への移住を検討し始める頃,新しい世代の軍事国家が大マゼラン星雲に台頭してくる。・・・それはひとつの惑星にこだわらず,次々と他の惑星を軍事力で占領していくというスタイルをとっていた。その軍事国家が目指すもの・・・それは惑星国家ではなく,連邦国家。

(画面)白い惑星の全景。
(画面)白い惑星の全景。ゆっくりクローズアップ。
(BGM)M−1A
(字幕)惑星ガトランティス(画面下部横文字)

(画面)惑星の白い雲へ突入。
(BGM)M−1A
(画面)やがて見えてくる超近代都市。それはあのかつての都市帝国の上部分に酷似。さらに画面がクローズアップ。
(画面)ひときわ高い超高層ビルディング。その最上階へ画面が迫る。

(画面)スクリーンに映し出されている映像。白色彗星都市帝国が様々な色の爆光を放って崩壊する様子。
(効果音)爆発による衝撃音。(映像)
(BGM)M−1A

(画面)白い手袋をしたしなやかな右手。卓上の操作盤を巧みな指さばき。そしてその右手は軽く握られ上に動かされる。画面もその右手を追尾。・・・やがてそれは細いあごを拳の上で支える。動く映像の光があたっている。
(効果音)爆発による衝撃音。(映像)

(画面)上方からのビュー。そこは広い部屋のようだ。天井も高いらしく,天井からの描写では画面の左側に誰かが座っている。その横にもう一人の人影。画面上方向には先ほどの映像のスクリーンがあり,どうやら超巨大戦艦が映し出されている。その右側にもひときわ大きなスクリーンがあるが,そこには何も映っていない。・・・しかしやがてそのスクリーンにも何かが映る反応が見え始める。
(BGM)M−1A
(効果音)スクリーン作動の電子音。
(バルゼーの声)・・・若君(わかぎみ)にあらせられましては,ご機嫌うるわしゅう。

(画面)大きなスクリーンに左ひざを床につけて立てている右ひざに右ひじをのせて頭を下げているバルゼーが映し出される。
バルゼー「第6遊動機動隊指揮官バルゼーです」

(画面)手前に操作盤デスク。その椅子に腰掛け右足を左ひざへ組み,デスクの上に右拳で頬杖をついている若者を正面から。肌は淡いライトグリーン。髪の毛は形よく整えられたグレー。すらりとした体型の美形。右端の傍らにはゲーニッツが立って控えている。
(字幕)レック・アルド・ズォーダー(画面下部横文字)
(画面)頬杖をついているレック。
レック「(笑み)バルゼー提督か。貴官の部下ナスカから詳細な報告は受けている。貴官ほどの男が不覚をとったものだね」

(画面)同じ姿勢で黙っているバルゼー。

(画面)頬杖をついているレック。
レック「まあ一概(いちがい)に貴官を責めることもできまいな。本当に不覚をとったのは他ならぬ親父殿(おやじどの)であったからな」
(画面)視線は変えず,卓上操作盤を操作するレック。左方向からの映像の光が消える。
レック「貴官ご自慢の第6遊動機動艦隊もあの反物質女におさえこまれ手も足も出なかったと聞いているぞ。彗星要塞を破壊され親父殿を殺されて,それでもなお敵に背を向けて逃げ帰ってきたか,バルゼー」

(画面)スクリーンのバルゼー。視線は下のまま。
バルゼー「申し上げる言葉もございません」

(画面)右手を軽く真横へ伸ばすレック。・・・ゲーニッツが書類を両手でレックへ手渡す。レックの視線は終始正面を向いている。
レック「親父殿は戦うことしかできぬお人だ。このガトランティスを建国させたのも戦いによるものだ。国を持続させることよりも国をたちあげることにしか興味のない根っからの戦士だった。内政には目もくれずに大マゼラン星雲から銀河系へ進出していったのも新たなる戦いを求めたからであろうな。(嘲笑)・・・しかし親父殿も老いられたものだ。私に言わせれば今回,親父殿はいくつものミスをおかしていたぞ」

(BGM)M−1A
(画面)まつげを伏せて書類に目を通すレック。
レック「・・・まず銀河系の足がかりとして親父殿は太陽系を目指した。ターゲットは地球か。戦略上,銀河のさいはてを狙ったことは評価できる。これはさすがだと言わねばならないな。しかし親父殿はここでひとつめのミスをおかした」
(画面)顔を上げるレック。

(画面)顔を伏せたままのバルゼー。

(画面)再び書類へ視線を戻すレック。
レック「・・・この地球という国はつい最近までガミラスと戦争をしていたそうじゃないか。しかも戦争に勝利している。つまり相手に屈しなかった戦争当事国だ。そのような国を相手に親父殿は,他の平和ぼけしている堕落した国に対するものと同じ戦術でそれに挑んだ。いたずらに時間をかけ,無駄に相手に時間を与え,決定的好機をつかみながら相手に反撃させる機会を与えてしまった。(顔を上げる)確か地球に降伏勧告をしたのは貴官だったな,バルゼー」

(画面)顔を伏せたままのバルゼー。

(BGM)M−1A
(画面)笑みを浮かべるレック。
レック「そして親父殿のふたつめのミスだ。彗星要塞の最大の威力は,超重力中性子嵐の流動発生機構と貴官の第6遊動機動艦隊にある。今までその連携によって彗星要塞は無敵の進撃を続けることができたはずだ。しかしこともあろうか,地球との戦いの中で親父殿はこの双方を失ってしまった。不意を突かれ流動発生機構を破壊され,貴官の艦隊も地球に加担する反物質戦士に行く手をさえぎられた。彗星要塞核内部施設などはその構造上,対空戦闘には向かぬ。せいぜい上部を守る気流帯と対空用回転ミサイル,下部のエネルギー機関砲にパラノイア式艦載戦闘機ぐらいなものだったはずだ。それでも親父殿はその状態でガトランティックを発進させず戦闘を続けようとした。まあ,相手が艦隊レベルではなく戦艦一隻だったという驕り(おごり)も親父殿にはあったのかも知れないがな」

(画面)ここで呆れ顔になるレック。相手に対する嘲り(あざけり)の表情。
(BGM)M−1A
レック「・・・さっきまで貴官の部下のバルゼミア観測員の脳をブレインスキャンした記憶の映像を見ていたのだが,・・・それにしてもなんだ? あの地球の戦艦は? 表面は酸で焼けただれているみたいにぼろぼろだし,塗装もむらだらけ。船体のあちこちに,つぎはぎの溶接の跡がある突起物の多い不恰好(ぶかっこう)なおんぼろ戦艦ではないか。あんなものに親父殿は殺されたのか?」

(画面)スクリーンのバルゼーがここで初めて顔を上げる。
バルゼー「・・・宇宙戦艦ヤマトです」

(画面)おおげさに両手を上げるレック。
レック「はは。ガミラスに勝利したという戦艦か。回転ミサイルを三発くらってもまだ動き続けていた。ゴキブリみたいにしぶとかったな。たった一隻で敵を油断させ相手内部に潜り込んで戦う卑怯(ひきょう)なゲリラ戦を得意としていたようだ。ガミラスもそれで敗れたのだろう。親父殿も同じ理屈でやられたわけだ。しかしそれにしてもあの銀河系に我々とまともに戦える軍事力をもっている国があったとはね。宇宙とは広いものだな,バルゼー」

(画面)再びうつむいているバルゼー。

(BGM)M−1A
(画面)頬杖をつくレック。
レック「そして親父殿のもうひとつのミスだ。あのテレザートの女王だ。あの反物質戦士がいなければ貴官の艦隊が立ち往生することなく,戦況も大きく変わっていたはずだ。確かに反物質戦士は強力だな。この世界のいかなる環境にも影響を受けることもなく,その超能力も相手には脅威だ。しかもその身体自体が究極の兵器となる。反物質戦士たちを管理下におければ宇宙征服も夢ではないかも知れない」

(画面)回想シーン。宇宙空間に現れて神々しい光を放つ長髪の美しい女性。
(字幕)惑星国家テレザート女王 テレサ(2201年11月28日ヤマトと共に玉砕)(画面下部横文字)

(BGM)M−1A
(画面)頬杖をついているレック。
レック「(片手を振る)・・・ま,私はそんな俗物など何の興味もないがね。しかし親父殿は反物質戦士の第一号の実験台に忠誠なる部下を使わず,攻め滅ぼした国の,しかも女を選んだ。親父殿があの女王にご注進(ごちゅうしん)だったのは分かるがそれが結果的に諸刃の剣(もろはのつるぎ)となったわけだ。身体は反物質に変えられても心の中までは変えられぬ。忠誠心など得られるはずもない。手に負えなくなり,空洞惑星カラカスに封じ込めたまではよかったが超能力で惑星ごと脱走されるしまつだ。ははは。捜索に向かったテレザート守備隊のゴーランドがカラカスを発見した場所は結局はるかかなたの銀河系の外れ・・・宇宙気流で足止めをくっていなければゴーランドもカラカスを見つけられていたかどうか疑問だな。どこに行ったのかと思っていたが,まさか彗星要塞を追って行ったとはね。女の執念こそ親父殿の最大の誤算だったといえるかも知れないな。ふふ・・・かつてこの大マゼランで一番恐れられ,あの伝説のイスカンダル帝星の再来とも言われたガトランティスの大帝,ゾッド・アルド・ズォーダーも宇宙の片隅に散ったか。しかも辺境の田舎惑星のおんぼろ戦艦と女の手によってな。(笑み)まあ,ある意味,親父殿の最期にふさわしかったか・・・」

(画面)スクリーンのバルゼーの下げている頭がさらに少し下がる。

(BGM)M−1A
(画面)レックの笑みは崩れない。
レック「何か言いたいことでもあるかね。バルゼー」

(画面)スクリーンで姿勢の変わらないバルゼー。
バルゼー「・・・いかようなご処分も覚悟いたしております」

(画面)笑みを深めるレック。
レック「ははは・・・。心にもないことを言うな。貴官を処分など出来ようはずもない。今国内はおろか植民地惑星の間でも親父殿の死は知らぬ者はない。それがもとで各地で治安が乱れ始めているのだ。内政を司って(つかさどって)いたのは私だが,やはり親父殿の影響力は大きい。その親父殿が民主主義国家に敗れたということで,にわかに民主化運動も起き始めているしまつだ。そんな時にガトランティスの英雄を処分してみろ。私から民衆の心が離れていきかねない。それでなくても妹のフロールがこれを機に民主化運動に加担して行方不明になっているのだ。フロールを旗印(はたじるし)にした不穏分子(ふおんぶんし)が活気付くのも面白くない」

(画面)スクリーンのバルゼーが顔をあげる。わずかな狼狽。
バルゼー「・・・姫君(ひめぎみ)が・・・」

(画面)頬杖をついているレック。
レック「今のフロールは,貴官が子守役をしていた頃のあの幼い子供ではないぞ。貴官が親父殿と宇宙を駆け回っている間に時間は過ぎたのだ。衛兵に捜させているところだが,さすがにあれは処分しなければなるまいな。親父殿の娘に生まれたのがそもそもの不運だったとあきらめてもらう。今この時ズォーダー家の当主はひとりだけが良い。対抗勢力を根絶やしにし,私は早急に民衆の支持率をあげなければならぬ。貴官には,これから,この私のためだけに働いてもらうことになるぞ,バルゼー。(笑み)」

(画面)心の中の狼狽をのみこんだ表情のバルゼー。

(BGM)M−1A
(画面)何かを含んだような笑みのレック。
レック「(頬杖の手を逆に)・・・民衆の心を手っ取り早く引き寄せる一番いい方法は何かわかるか? バルゼー」

(画面)バルゼーの体勢は変わらない。

(画面)書類に再び目を通すレック。
レック「(ちらりと視線を上に)・・・それは戦争だよ。太古の昔から変わらぬ政治的手法だ。戦争は内部の不都合から民衆の目を外に向けさせることができる。しかも負けるよりは勝ったほうがいいから民衆は指導者を支持する。そして戦争に勝利すれば民衆は喜び,そして今の指導者の力を再認識する。それが圧倒的なものであればあるほど効果は大きい。それが親父殿の弔い(とむらい)合戦であればなおさらだ」

(画面)顔を上げるバルゼー。
バルゼー「・・・地球を攻めるのですか?」
(BGM消える)

(画面)レックは頷(うなず)かず,笑みで応える。
レック「私は親父殿とは違う。今の時点でこれ以上領土を広げるつもりはない。この大マゼランの広大な領地を確固たるものにしなければならないと思っている。今現在も内政は手一杯なのだ。この上14万8千光年かなたの銀河系の田舎惑星など何の利用価値もない。・・・よって今回の地球攻略の目的は地球の植民地化ではない。・・・地球の完全なる破壊だ。惑星自体を消滅させ,地球人はひとり残らず抹殺する。実況中継でな。まあ,私の政権確保のためにあの田舎惑星をせいぜい宣伝利用させてもらうことにする。ふふふ・・・。(右後方に指を二本伸ばして引き戻す仕草)・・・ゲーニッツ」
(画面)後ろに控えていたゲーニッツが少しレックに近寄る。
ゲーニッツ「は! 大帝閣下!」

(画面)眉をひそめるバルゼー。

(画面)ゲーニッツとレックのツーショット。
レック「(書類を見てから)・・・集められる艦隊はこれだけか?」
ゲーニッツ「(頭を下げる)・・・はい。帝星内や各植民地惑星に護衛として残す艦隊を除きまして,実際に地球へ進行できる艦隊はこれだけです。我がガトランティス連邦の総艦艇数の約70パーセントです」

(画面)スクリーンの中で驚愕するバルゼー。思わず体勢が崩れる。
バルゼー「・・・70パーセント! 若君,それでは艦艇数が3万隻を超えてしまいますぞ!」

(画面)涼しい表情のレック。
レック「もちろん,貴官の第6遊動機動艦隊も参加してもらう」

(画面)体勢が崩れたままのバルゼー。
バルゼー「若君,そのような,大掛かりな艦隊では小回りがききません。しかも実際に参戦できない宇宙艦も出てきます。物資船団もかなりの確保が必要です。それにそれほどの軍事力を外に出せば,星雲内でウーム連邦が動き出す危険も出てきます・・・」

(画面)ゲーニッツとレックのツーショット。
ゲーニッツ「控えよ,バルゼー! 地球艦隊ごときに苦戦した貴様が言える立場と思うか!」
レック「(ゲーニッツを片手で制して)・・・言っただろう? バルゼー。戦争とはその勝利が圧倒的であればあるほど効果的であると。この戦争は国民たちや奴隷ども,そして反乱分子へのデモンストレーションも兼ねているのだ。派手であればあるほどいい。ウーム連邦については心配はいらない。すでに我が連邦との同盟が成立している。親父殿から私に主権が移ったことによって冷戦の緊張から開放されているのだ。地球への進行についての後方の憂い(うれい)はない」

(画面)体勢が崩れたままのバルゼー。

(画面)レックはこのやり取りを楽しんでいる様子。
レック「(笑み)もちろん,戦争は力押しだけではあまりにも芸がなさすぎるというもの。ちゃんと計画や作戦も練らなければならぬ。・・・そこで貴官が銀河系から持ち帰ったあのサンプルが役に立ちそうだ。今回,ほとんど唯一の貴官の成果だな,あのサンプルは。ブレインスキャンであのサンプルの脳の記憶を検分させてもらうよ。地球のことをよく知っていそうなサンプルだから何か情報が得られるかも知れないからな」

(画面)宇宙に浮かぶ青い地球。

(画面)地球上。季節は冬。しかし雪は降っていない。道路の両端の並木には葉はなく,冬特有の白い雲に高い青空。しかし日没が近づいているらしく,少し空が赤みを帯び始めてきている。やがてその道路を遠くから手前に向かって一台の黒い乗用車が走行してくる。
(画面)黒い乗用車の斜め左前方からの描写。視点は乗用車に固定されて背景が乗用車の走る速度で右後方へ流れている。2201年型メルセデスベンツ。
(効果音)乗用車の走行に伴うエンジン音とタイヤ音。
(画面)乗用車の内部。後部座席に座っている藤堂防衛司令部司令長官の上半身。

(画面)小高い丘。そこから一望できる海の水平線上には赤みを増している大きな太陽がその高度をさらに下げている様子。周辺もその夕日に色づいている。丘の上には3体の等身大の像。
(BGM)M−6
(画面)アングルが少しづつ右方向へ移動。一番左にはすでに見慣れている,杖をついている初代ヤマト艦長沖田十三。右隣には後ろ手にそびえ立つ二代目ヤマト艦長土方 竜。そして一番右端には三代目ヤマト艦長の古代 進の姿。それぞれが赤い夕日をバックにしているため影ができており,像の表情はあまりよく見えない。3体とも提督の正装をしている。

(画面)小さな花輪がいくつか並んでいる墓石の上に全て置かれている。

(画面)丘の3体の像に向かって立っている提督の正装をしている青年の後ろ姿。提督用の帽子は左手に持たれて下げられている。

(画面)夕日に色づいている島 大介の左前方の上半身。見上げているその表情はとてもやわらかく見える。提督用の軍服にはいくつかの勲章がぶら下がっている。
(効果音)乗用車の停止するタイヤ音。ドアの開け閉めする音。

(画面)手前には黒い乗用車の上部分。すでに乗用車を降りて立っている藤堂司令長官の後ろ姿が乗用車の向こう側。その向かう方向には夕日をバックの英雄の丘。

(画面)夕日に色づいている島 大介の左前方の上半身。やがてその背後から藤堂司令長官の姿が歩み寄って来る。
(BGM)M−6

(画面)島が軽く藤堂司令長官へ向き直り,右手を頭部へあてる敬礼。
藤堂「(敬礼を返し,手を下ろす)・・・挨拶は済んだかね?」
島「(敬礼を解く)お心遣い感謝します。長官」

(画面)藤堂司令長官は微笑して再び島の見ていた方向を見上げる。
藤堂「・・・今日はご苦労だったな。就任式も結成式も壮行会もそつなくこなしていた君だったが,やはり一番来たかったのはここだと思ってね。(島を見て笑顔)・・・実は私もここへ来て挨拶したかったのだよ。本音はね」

(画面)笑顔の島のアップ。

(画面)藤堂司令長官の斜め方向のアップ。
藤堂「ここに眠っている戦士たちは私にとっても特別な沖田の子供たちだ。土方も可愛い教え子だったな。古代も君にとってはかけがえのない存在だった。・・・ここを訪れるたびにいつも私は,結局ヤマトだけがガミラスとガトランティスを撃退できた唯一の存在だったのではないかとつい感じてしまう・・・」
(画面)手前に島。向こう側に藤堂司令長官の横顔のツーショット。
島「・・・そんな事はありません,長官。世界中の今まで戦って死んでいった者も生き残ってきた者も全て地球を守ってきたのです。ここに眠る戦士たちだけが特別なわけではありません。ヤマトだけが地球を救ったのではないのです」

(画面)右側で体勢を変えない島。藤堂司令長官が傍らを離れて少し歩を進め島より前で立ち止まる。
藤堂「・・・島君。君はもしかしたら今回の私の推薦に少し疑問を感じているのではないかね? なぜ,自分が地球艦隊司令官になったのかとね」
(BGM消える)

(画面)島のアップ。
島「(少しうつむいて)・・・長官のご推薦には本当に感謝いたしております。(顔を上げる)・・・ただ正直申し上げて,少し戸惑いもあるのです。私の指揮ひとつに地球の命運がかかっていると思うと,ただ経験があるというだけでは私への推薦理由には弱いのではないかと・・・」
(画面)振り向く藤堂司令長官。手前には島の後頭部。
藤堂「(笑顔)・・・まず,その使命感だ。そして必要以上に自分を前面に押し出そうとしない,おくゆかしさ。周りの部下はそういう上官のためには命令以上の忠誠心で支えようとするものだ。逆に彼らはそういう上官を前面に押し出そうとする。そして,何と言っても・・・」

(画面)左側に藤堂司令長官。右側に島。ゆっくりと藤堂司令長官が島の両肩に両手をのせる。
藤堂「・・・君は強運の持ち主だ。ここに眠る戦士たちは確かに優秀だった。君よりも優秀だったかも知れない。しかし生き残ることができなかった。・・・いいかね,島君。人の上に立つ軍人にとって最も必要な条件は生き残ることだ。上官が簡単に死んでしまうようでは組織は成り立たない。上官が生きているかぎり部下は戦い続けることができる。君はここに眠る戦士たちと同じ境遇の戦いを経験してきてそして生き残ってきた。・・・それが君を推薦した最も大きな理由だよ。ここにいる戦士たちも同じ意見のはずだ。強運の上官のもとには優秀な部下が集まってくるものだ。私は君に期待をしているのだよ。・・・そしてその他の人たちもだ」

(画面)島のアップ。

(画面)藤堂司令長官が島から離れて背を向ける。英雄の丘を見上げる。
藤堂「外宇宙での経験は得がたい。ガトランティスに対する対応の早さもその経験があったればこそだと思う。ヤマトはそういう意味でもパイオニア的存在だった。しかしそのヤマトもすでにない。君はその経験を他の戦士たちに伝承する責任があるのだ。ヤマトの戦いを後世に伝え,よりよい地球を創っていかなければな」

(画面)藤堂司令長官の前に進み出て同じ方向を見上げる島。
島「・・・長官。そういえば古代も私にそれと同じことを言っていましたよ・・・。(ふっきれたような表情)」

(画面)藤堂司令長官。

(画面)島のアップ。
島「長官。失礼して,ここで最後の下士官の敬礼をさせていただきます」

(画面)藤堂司令長官。

(画面)島の足元の描写。ぴかぴかに磨かれた靴に折り目のついたズボン。互いのかかと同士を力強く打ち合う。
(効果音)靴同士がぶつかりあう音。
(画面)島の胸元の描写。左脇に提督帽をかかえる。勲章が揺れる。
(画面)島の左肩後方からの描写。右腕が拳を握られ前方へ差し出される。
(画面)島の上半身の描写。左後方には藤堂司令長官の姿。島の前方に出された右手拳が彼自身の左胸に打ち付けられる。
(BGM)D−3B

(画面)沈みゆく太陽の赤い光に浮き上がっている英雄の丘に向かっているふたりの後ろ姿。しばらくこの描写が続く。
(BGM消える)

(画面)すっかり日が沈み,辺りが暗くなり始めた道路をライトを点灯させて走行するメルセデスベンツ。
(効果音)乗用車の走行に伴うエンジン音とタイヤ音。
(画面)車内。後部座席に座っている島と藤堂司令長官。島は向かって右側に座っている。
藤堂「島君。実は先日,私の携帯コンピューターに連絡が入ってきたのだが・・・」
島「(首を向けて)・・・?」
藤堂「月面基地からの報告でね,月面に宇宙艦の部品が落ちていたそうだよ」
島「・・・宇宙艦の部品ですか」
藤堂「(うなずいて)・・・製造番号は2199J0001ということだが」
島「・・・! ヤマトの製造番号じゃないですか。・・・部品というのは?」
藤堂「・・・ボイスレコーダーだそうだ。かなり傷んでいるようだが,あのような状況で発見されたというのは奇跡に近いことだな」
島「ボイスレコーダー・・・それで,それは再生はできそうなんですか?」
藤堂「(深く寄りかかって)・・・ところが穴井教授がその修理をかたくなに拒んでいるそうだよ」
島「・・・え?」
藤堂「(島をちらりと)穴井教授が言うには,ボイスレコーダーというのは宇宙艦が遭難したり原因不明の事故を起こして,それを証言する乗組員に不慮の事があった場合に,そのボイスレコーダーに録音された乗組員の会話をもとにその時何が起きたかを究明するためのものだと。・・・しかし今回の場合,原因は極めてはっきりしているし,ここであえてボイスレコーダーを再生する理由は全くないと部品ごと抱え込んで誰にも渡そうとしないらしい」
島「・・・(うつむく)」
藤堂「・・・ヤマトといえば今マスコミの一番の関心事だ。恐らく穴井教授は録音内容がマスコミの好奇の目にさらされるのを嫌がっているんじゃないかと言われているよ」
島「・・・そうですか。確かに古代の最後の言葉をマスコミのネタにされるのは私もいやだ」
藤堂「(島を見て微笑)・・・実は穴井教授に伝言を頼まれているんだよ。島君」
島「(顔を上げて)伝言ですか? しかしこれから穴井教授に会いにいくんですよ」
藤堂「向こうではその話をしたくないらしい。人がたくさんいすぎるとね。移動中に私から伝えておいてくれと言われてしまった」
島「(けげんな表情)」
藤堂「・・・もしも島君が個人的にボイスレコーダーの修理を希望するならば,極秘で修理をするそうだ。もちろん,修理して直る保障はないし直っても何も録音されていないかも知れない。録音されていても古代が何もしゃべっていないかも知れないし,しゃべっていても聞くに堪えない内容かも知れない。希望するにしてもある程度の覚悟はしてもらいたいとね」
島「(思案)・・・考えておきます・・・」
(画面)夜の帳が下りた星空にそびえ立つ大きなドック。照明が各所からその建物を明るく照らしている。やがてそこへメルセデスベンツが入場していく。
(効果音)乗用車の走行に伴うエンジン音とタイヤ音。

(画面)鉄製の両開き大扉の前に立っている警備兵ふたり。ショルダーベルト付のライフル銃を肩にかけている。やがて提督の正装をして上官帽をかぶった藤堂司令長官と島が近づくとそれぞれ両端に身を引いて道をあける。そして各端にあるスイッチをそれぞれの兵士が押すと扉が両側に引かれ始める。全開したところで藤堂司令長官と島が中へ歩を進める。敬礼する警備兵たち。敬礼を返すふたり。
(効果音)扉が開く音。ふたりがたてる足音。

(画面)場内走行用電気自動車の後部に座っている藤堂司令長官と島。専用運転手がハンドルを握っている。視点は電気自動車に固定。広い廊下が後方へ移動している。他に走行している電気自動車もあり,相対速度ですれ違っていく。
(効果音)電気自動車の静かな走行音。
(画面)電気自動車が何か巨大なものの手前で停止する。両側に電動式らしき大型の足場ステージが一番下から上昇し始めている様子。作業者が多数往来している。作業車も数台見える。
(効果音)作業に伴う機械音。金属音。

(画面)作業者と何やら立って話をしている穴井教授の後ろ姿。打ち合わせが終わったらしく,何気に振り向きこちらに気づく素振り。満面の笑顔で方向を変え,手前に近づいて来る。
穴井「(うれしそうに両腕を広げながら)・・・ほほう! 来よったな! 島提督(ていとく)!」
(画面)右側に島。左側に藤堂司令長官。島を手前に斜め正面。藤堂司令長官には目もくれずに島へ歩み寄る穴井教授。島の手を握る。
穴井「ははは。随分立派な姿じゃなあ。見違えたわい。就任式には行けなくてわるいことしたのう。何万人もの兵士たちの前で敬礼するお前さんの雄姿を見たかったんじゃが,いかんせん忙しすぎてなあ。この藤堂が人使いが荒いんじゃ」
藤堂「(苦笑)・・・島君には提督扱いで,私は呼び捨てかね?」
穴井「(島の手を握りながら首だけ向けて)・・・お前にとって役名など耳たこじゃろう,藤堂。なんなら平九郎と呼んでもいいんじゃぞ」
藤堂「(両手のひらを見せる)・・・藤堂でいい」
穴井「(島と藤堂司令長官の間に左腕を入れて島の背中を押す)ささ,見てみい! 島提督。見上げてみい。これがお前さんの船じゃ」
(画面)見上げる島のアップ。

(画面)見上げる島たち三人が手前に小さく描写。そびえ立つ宇宙戦艦の前面。巨大な波動砲発射口がふたつ並列に並び,中央から艦首レーダーセンサーの角が大きく伸びていて,薄いグレーの塗装が照明に眩しく反射している。すさまじい圧迫感をやわらげるように画面が少しずつ引いていく。
(効果音)乾いた巨大な金属音が反響。

(画面)見上げている三人。
島「(見上げたまま唖然)・・・これは・・・アンドロメダじゃないですか・・・!」
穴井「そうじゃ。今地球の科学力で製造できる最大最強の宇宙戦艦じゃよ」
(画面)穴井教授の視線から見た島。振り返って体勢を正面に向ける。
島「前回のアンドロメダと同じなんですか?」
(画面)口をへの字にする穴井教授。
穴井「・・・えっと・・・。全長275メートル,全幅66.2メートル,総重量9万8千トン。拡散波動砲が2門。3連装主砲が4基。・・・まあ,同じじゃな」
(画面)島の背後の藤堂司令長官。
藤堂「前回の戦闘では色々問題点も指摘されていたと聞いているが?」
(画面)左手を大げさに振る穴井教授。
穴井「何の何の。あの時は艦に問題があったわけじゃなかろう。動かす人間の方に問題があったのじゃ。実際,そんな人間が動かしてもガトランティス艦隊を敗走せしめたじゃろうが。やはり今の時点でこれ以上の宇宙艦はないのじゃ。(体勢をアンドロメダに向ける)ま,違うところといえばな,前回はちょっとオートマチック機能が多すぎたわ。臨機応変(りんきおうへん)な対応はやはり時代は変わっても人間が一番じゃ。艦内乗務員も前回の95人から123人に増やしとる。艦載戦闘機隊隊員68人を入れて総員191人じゃな。(島に向き直り)もちろん島提督。お前さんも入っとる」
(画面)口を半開きにして見上げている島。
(画面)その島に並びかける穴井教授。
穴井「それでもある程度はオートマチック機能は残しておる。全部手動で動かさなくてはいけなかったヤマトよりは操作性は向上しているのじゃ」

(画面)視線を向ける島のアップ。
島「・・・ヤマト型の戦艦は造ろうとは思わなかったんですか?」

(画面)見上げたままの穴井教授。
穴井「ははは。島提督,ヤマトはもう造れんわい。あれは最初で最後。後にも先にもあの一隻だけじゃ」
(画面)見つめている島。
(画面)同じく無言の藤堂司令長官。

(画面)笑顔で振り向く穴井教授。
穴井「・・・なあ,藤堂。わしはあのヤマトを戦艦なんぞにするつもりなんか毛頭なかったよなあ」
(画面)藤堂司令長官。

(BGM)M−12
(画面)穴井教授は島に視線を移す。
穴井「・・・ヤマトはもともと戦闘艦じゃなかったのよ。わしが独断で,沈没していた旧日本海軍の戦艦大和の骨格をベースに製造していたのは大型の輸送用宇宙船だったのじゃ。そこに人間や動物,植物,昆虫などを乗せて絶滅寸前の地球から脱出させることが目的じゃった。今まで人殺しの船ばかり造ってきたわしが,今度こそ人を生かすための船を造ろうと思って手がけたのがヤマトじゃった。それが急遽(きゅうきょ),イスカンダル作戦が決まってのう。どうしても波動エンジンを搭載する船が必要になって藤堂からヤマトに白羽の矢が立ったのじゃ。(見上げる)・・・イスカンダル作戦が決まってヤマトが発進するまでどれだけの時間が残されていたと思う? 他の国とは連絡も取れん,日本にはもう新しく宇宙艦を造る体力も残されてはいなかったから選択の余地はなかった。わしはヤマトを人殺しの船に改造するしかなかったんじゃ。(視線を下へ)・・・わしは不眠不休でヤマトに謝り(あやまり)ながら改造を進めたわい。鉄くずのスクラップをベースにしたとはいえ,飛び立つ前に2回も改造工事をした宇宙艦なんぞ,もうゼロから造ることは不可能じゃ。しかも,わしはもう,最初にヤマトを手がけた頃の気持ちには戻ることはできん。あの船は未だ(いまだ)にわしにとって,はるかなるノアの箱舟なのじゃ」
(画面)藤堂司令長官も無言。
(画面)押し黙っている島。

(BGM)M−12
(画面)笑顔に戻って顔を上げる穴井教授。
穴井「(明るく)それにの,たび重なる改造でヤマトの装甲板はその厚さが通常の宇宙艦の3倍近くになってしもうた。ヤマトに使われた鉄の量で同じ大きさの宇宙艦が二隻造れるわい。そんなコストの高い宇宙艦なんぞ地球連邦政府が許可するわけなかろうが?」
(画面)穏やかな表情の島。手前に歩み寄る。
島「・・・教授。あなたのその気持ちのおかげでヤマトはあの強固な頑丈(がんじょう)さを手に入れることができたのですよ。その厚い装甲板がなければ今頃我々は何の成果も得られないまま宇宙の塵(ちり)になっていたかも知れません。教授のその時の気持ちは決して無駄にはなっていなかったと思います。ヤマトはそれに携わった(たずさわった)人々のかけがえのない気持ちで完成した船だったんですね」
(画面)藤堂司令長官も穏やかな表情になっている。
(画面)穴井教授も口をへの字にしながら穏やかにうなずいている。
(BGM消える)

(画面)左側に島の後ろ姿。右側に藤堂司令長官の後ろ姿。その間から正面を向いている穴井教授が右手で上空を指差す。
穴井「(にかっと)・・・ということは,このアンドロメダは装甲板の厚みがヤマトの3分の1ということじゃな!」
(画面)左側に島の後ろ姿。右側に藤堂司令長官の後ろ姿。ふたりとも体勢が少し崩れる。
(画面)一転して不安な表情の島。
島「教授。それで大丈夫なんですか?」
(画面)歯を見せて笑う穴井教授。
穴井「前回の地球防衛艦隊もみなそうじゃったぞ。安心せい,島提督。ちゃんと断面形状強度も計算済みじゃい。こう見えても科学者じゃぞ。ははは。それにの,装甲板を厚くして艦の質量をやたらと増やせばその宇宙艦自体の操作性が格段に落ちてしまうわい。思い出してみい。ヤマトはかなり操作性が悪く,小回りもきかなかったはずじゃぞ。それは,ヤマトを実際に動かしていたお前さんが一番よく分かっとったはずじゃい。ヤマトはしょせん,単独艦なのじゃ。艦隊として航行するにあたって小回りのきかない宇宙艦は足手まといの何ものでもない。やはりこれからの艦隊戦を考慮するには物理的頑丈さを少し落としてでも操作性を重視するしかあるまいて」

(画面)島があごに手をあてる。
島「・・・じゃあ操縦士は大変だな。被弾しないように操艦を心がけなくては」
(画面)片目をつむって指を指す穴井教授。
穴井「元パイロットらしい意見じゃがな,島提督。いいか,アンドロメダっちゅうのは地球艦隊の旗艦じゃ。その旗艦自体が戦闘に参加してるという状況はの,つまり結局その戦闘はすでに負けとるということじゃぞ。心得よ。(笑顔)」

(画面)エレベーターの扉。閉まっている。右側の壁にいくつものランプがあり,それは徐々に上のランプに点灯が移っていく。やがて上から2番目のランプが点灯し,扉が片側へ全開する。中から藤堂司令長官,穴井教授,島の三人の姿が出てくる。
(効果音)エレベーターの上昇音,扉の開く音。三人の足音。
(画面)そこはかなりの広さの部屋。正面には方立リブで連窓されたフロントウインドウがあり,その手前には前方に向かって3つの座席が設けられている。さらにへやの両端にはやはり各2つの座席があり,部屋の中央には丸いドーム状の羅針盤。その羅針盤をはさんで両側に独立した座席とマシンデスクが設置されている。部屋の後方の奥にはひときわ高くなっている指令ボックスと肘掛椅子が見える。
(効果音)ブリッジ内の静かな機械音。操作音。
(画面)目を輝かしている島。
島「・・・そっくりだ・・・」
(BGM)M−12
(画面)その島に並びかける穴井教授と藤堂司令長官。
穴井「ブリッジの内装だけは初代アンドロメダとは構造を変えたわい。このレイアウトの方がお前さんも落ち着くじゃろう」
島「・・・ヤマトの中にいるみたいだ・・・(ふと何かに気づく)・・・」
(画面)フロントウインドウに向かって中央のボックスに座っている青い軍服の青年の後ろ姿。若者がこちらを振り返る。・・・古代 進。
(島の声)・・・こ,古代!
(効果音)幻想が消える音。
(BGM消える)

(画面)座っていた青年が振り返っている。南部である。
南部「(立ち上がって)・・・島さん!(笑顔)」
(画面)我に返った表情の島。
島「・・・南部・・・」
(画面)そんな島の表情に気づく南部。
南部「・・・あ。失礼しました。島提督。(下士官敬礼)アンドロメダ戦闘班リーダーに就任いたしました南部です」
(画面)ブリッジ左方に座っていた相原が振り向く。
(画面)ブリッジ右方に座っていた太田が振り向く。
(画面)南部の左に相原が,右に太田が並ぶ。
相原「(下士官敬礼)アンドロメダ通信班リーダーに就任いたしました相原です」
太田「(下士官敬礼)アンドロメダレーダー班リーダーの太田です。島提督。よろしくお願いいたします」
(画面)心の中をぐいっと飲み込む島。微笑して上官式敬礼を返す。
島「(手を下ろす)・・・こちらこそよろしく頼むよ。おまえたちがいてくれてよかった。おかげで心細い思いをしなくてすむ。(笑顔)」
(画面)手を下ろし,笑顔を返す相原,南部,太田。
(画面)島を真ん中に,向かって左側が穴井教授,右側が藤堂司令長官。
穴井「(正面を見ながら)旗艦のクルーは艦隊司令の出身自治区の人間で構成されるきまりじゃ。命令伝達の潤滑(じゅんかつ)を図るのが目的じゃな。だから旗艦アンドロメダの乗組員は全て日本人じゃよ。つまり携帯翻訳マイクの必要はないわけじゃ。今回は特に,イスカンダル作戦に当時参加していた女性搭乗員を含む元ヤマトのクルー計29名も全員アンドロメダに乗務することになっておる。皆,お前さんと一緒に働くことを希望していたからなあ。人事を担当した藤堂の粋な計らいというやつかな。(藤堂司令長官へ顔を向ける)」
島「(藤堂司令長官へ顔を向ける)」
藤堂「(笑顔の視線を返す)・・・島君。君の後輩を紹介するよ。(遠い視線になる)・・・藪(やぶ)君,こちらへ来たまえ。遠慮することはない」
島「(視線が正面へ)」

(画面)フロントウインドウに向かって右側のボックスに座っているやはり青い軍服の青年が,下を向きながら座席から離れてこちらへ向き直る。
青年「(小さな声)・・・はい」

(画面)軽くまばたきする島のアップ。

(画面)左右に避ける太田,相原,南部。その中央から割り込み,うつむきながら手前に歩み寄る青年。ようやく顔を正面に向けて,下士官敬礼。背はそれほど高くなく,前髪は長く左目にかかっている。体型は少しぽっちゃりしており,色白。
(字幕)藪 秀樹(画面下部横文字)
藪「・・・アンドロメダ運行班リーダーに就任しました藪 秀樹です」

(画面)上官式敬礼を返し,手を下ろす島。
島「・・・藪,君」
(画面)敬礼を解く藪。
藪「はい。(一旦下を向き,顔を上げる)・・・元宇宙戦艦ヤマト副機関長,藪 助治の弟です」

(画面)息を呑む島。左右に穴井教授と藤堂司令長官。
藤堂「覚えているだろう。島君。イスカンダルで不慮の事故に遭った藪副機関長のことは。弟の彼は機関職ではなく宇宙艦操縦士を志していたのだよ。彼は資格を取ってまだ間もないが島君がアンドロメダに乗ることを知って,猛烈に訓練学校の上官にアンドロメダ乗務を熱望したそうだ。本来ならば旗艦の操縦士に新卒者を採用することはできんのだが,普段おとなしい彼が退学も辞さない構えで考えを変えようとはしなかったらしくてね。上官が異例の推薦状を私によこしたというわけだ。見ると宇宙戦士訓練学校のパイロット科の成績は堂々のトップ。島君,君よりもいい成績だった」
島「・・・(苦みばしった表情)」
穴井「(満面のにやつき)」
藤堂「・・・まあ,島君がヤマトに乗り組んだ時も,状況が違っていたにしろほとんど新卒と同じようなものだったしね。前例もないわけではないと私が就任を許可したというわけだよ。とにかくここ数年で戦士がかなり減ってしまっているからね。今の時代,若者たちにはある意味いいチャンスが巡っているのかも知れないね」

(画面)硬い表情の藪。姿勢は崩さない。
藪「・・・僕の兄は不慮の事故で死んだのではありません」
(画面)島を中央に左右に穴井教授と藤堂司令長官。
(画面)うつむき,再び顔を上げる藪。
藪「僕の兄はヤマトに反逆して自業自得で命を落としたのです。他の乗員をたぶらかし,女性を誘拐してイスカンダルでたてこもり事件を起こした。・・・兄は地球人の面汚しです。僕は兄を一生許すつもりはありません」

(画面)島を中央に左右に穴井教授と藤堂司令長官。口を開きかける島。

(画面)藪。
藪「何もおっしゃらないでください,提督。兄の行動には弁解の余地は全くありませんから。(うつむく)・・・イスカンダル作戦からヤマトが帰還して兄の行動が公になった時,英雄扱いされた他の乗員たちとは反対に兄たちは世間から逆賊呼ばわりされました。人類を見捨てて自分たちだけ生き残ろうとした兄たちを周りの人たちは許してくれませんでした。そして世間の矛先は僕と母に向けられました。近所の人たちも態度が変わってしまって,僕たちふたりは孤立してしまったのです。それでも母は愚痴ひとつこぼさず,誰も花をたむけてくれない英雄の丘の兄の墓にひとりで毎日花を変えに行っている・・・。”あんなのが何で英雄なんだよ”という陰口をたたかれながらです。・・・僕はそんな母が不憫(ふびん)でならないんです。僕は何としてでもここで実績をあげて母を喜ばせてやりたい。元ヤマト操縦士である提督のお役に立って世間に認めてもらいたいんです。(藤堂司令長官を見る方向)・・・司令長官,アンドロメダ乗務をお認めくださり本当にありがとうございました。必ず,ご期待にそえるよう努力いたします」

(画面)島を中央に左右に穴井教授と藤堂司令長官。
藤堂「(微笑)・・・なるほど。普段無口だと聞いていたが,心の中は熱いものがあるようだね。期待しているよ,藪君。(首を傾ける)・・・しかし君はひとつ誤解をしているようだ」
(画面)藪。

(画面)藤堂司令長官と島。
藤堂「・・・君の兄さんの墓に誰も花をたむけてくれないと言ったね。(島の肩に手を置く)今日,島提督は君の兄さんの墓にもちゃんと花をたむけていたよ」

(画面)驚いたように島を見る方向へ首を向ける藪。

(画面)笑顔を見せる島のアップ。
島「・・・期待しているよ,後輩。お母さんを喜ばせてやれよ」

(画面)こみあげるものを抑える様子の藪。
藪「・・・(会釈)ありがとうございます。提督」
(画面)会釈した角度のまま一歩さがる藪。両側から彼の肩を叩く相原たち。

(画面)藤堂司令長官と島。笑顔でその様子をみている島だったが,ふと右方向へ気をとられる。その方向で視線が固まる島。

(画面)ブリッジ正面方向から右側の独立したマシンデスクボックスの脇に立っているひとりの女性。身体のラインが分かるコスチュームに身を包んでいる。背は高く抜群のプロポーション。髪は茶色でセミロング。ごくかるい小麦色の顔肌に切れ長の瞳の美人。
(BGM)

(画面)穴井教授と目を丸くしている島のツーショット。
(画面)視線は変えず,手前へ向かって歩いてくる女性。

(画面)左側に島の横顔。画面右側から女性の横顔。
女性「(しみじみ島を見る)ふうん。・・・とてもハンサムね。それにやさしそうだし・・・」
島「(冷や汗)・・・え?」

(画面)女性の視線から見た穴井教授。下から見上げている。
穴井「こら! 沙織! 敬礼せんか!」
(画面)斜め下から視線を戻す女性。ゆっくりと下士官敬礼。
(字幕)穴井沙織(画面下部横文字)
沙織「(やわらかい表情)・・・アンドロメダ方位距離測定士,穴井沙織です。提督,よろしくお願いしますね」

(画面)上官式敬礼で固まる島。
島「・・・穴井?」

(画面)下士官敬礼の沙織。
沙織「(微笑)・・・早く敬礼を解いてください,提督。手が下ろせません」

(画面)素早く手を下ろす島。
(画面)にこやかに敬礼を解く沙織。

(画面)穴井教授と島のツーショット。島が穴井教授へ向き直る。口をへの字にその視線を受ける穴井教授。
(画面)苦笑しっぱなしの穴井教授。
穴井「・・・実は孫娘でのう。(輪をかけた苦笑)」
(画面)眉をひそめ目を丸くする島。
(画面)上目づかいの穴井教授。
穴井「・・・信じてないようじゃの。その顔は・・・」

(画面)左から相原,藪,南部,太田。
太田「(改めて首を傾げる)・・・提督が驚くのも無理ないですよ。私だってまだ信じてません」
南部「(うなずく)教授のDNAが受け継がれているとはどうしても思えないんですよねえ」
相原「・・・地球が放射能に包まれた時の突然変異ではないかと・・・」
藪「(口を丸くしているだけ)」

(画面)左手前から穴井教授,島,藤堂司令長官。右手前から太田,南部,藪,相原。その中央に沙織の後ろ姿。足をふんばり,右手を大きく振る穴井教授。
穴井「やかましいわい! それじゃまるで,わしの血統はみなブサイクみたいに聞こえるじゃろうが!」
沙織「あら。私,ブサイクですわ」
穴井「(右手を細かく振る)おいおいおいおいおいおい,その発言は世界中の女性たちを敵にまわすぞい」

(画面)島と藤堂司令長官のツーショット。
島「(笑顔)・・・でも性格は何となく教授に似ているような気がしますね」

(画面)沙織と穴井教授のツーショット。
穴井「・・・わしが言うのも変じゃが問題はそこじゃよ。方位距離測定だけじゃなく,大抵の機械は一通り操作できるんじゃ。戦闘機も操縦できるんじゃぞ。仕事は大変優秀なのじゃ。・・・だが,わしが言うのも変じゃが,こいつの性格がなあ。”天は二物を与えず”というが,頭が痛いわい。島提督,悪いがよろしく面倒みてやってくれい」
沙織「(笑顔で会釈)」

(画面)左から相原,藪,南部,太田。
藪「(正面を直視)・・・天は二物,与えてますよね・・・」
三人「(うなずく)」
(BGM消える)

(画面)巨大な真紅の波動シリンダー本体が画面全体にそびえる。画面下の床には計器類が小さなスケールで固まっている。その周辺を動き回っている小さな人々。波動エンジンの巨大さを強調。
(効果音)ブリッジとは違ってひときわ大きな機械音。回転音。
(画面)機関エリアを穴井教授と島と藤堂司令長官が並んで歩いている。背景の波動シリンダーの移動の少なさがその巨大さを感じさせる。
穴井「・・・3年前にイスカンダルから送られてきた波動エンジンの設計図は,イスカンダルの女王スターシアさんが地球人にも短期間で容易に理解できるように基本的な構造と理論を簡略化しているものだということがわかったのじゃ。まあ,そのおかげですぐに実用化することに成功したわけじゃが,ヤマトがイスカンダルへ向かっている間もわしは波動エネルギー理論の解析に余念がなかった。後でこうしておけばよかったと臍(ほぞ)をかむ思いを何度したことかのう。そういう意味でいうならヤマトの波動エンジンはまだ未完成だったということじゃな」
島「・・・あれで未完成だったんですか? だって29万6千光年を一年以内で往復できたんですよ」
穴井「・・・もちろん,本来の目的を達成するための基準は全てクリアしておった。しかしのう,やはり人間というのはわがままなものでな,もう少し何とかならないものかといつも考えるものじゃ。それが進歩につながるんじゃがの。(笑顔)・・・例えばワープ航法の場合,人間の身体にもう少し負担のかからない方法はないかとかの。ヤマトは一回のワープで1200光年跳べたが,もう少し遠くへ跳べなかったものか・・・などじゃ」
島「・・・(瞳を上に)」
穴井「本来,わしがヤマトに乗り込んで航行中に研究を重ねてヤマトに改良を施す予定じゃったんだが,(藤堂司令長官に視線)・・・この藤堂がわしではなく,わしの部下の志郎を技師長に選びやがってのう」

(画面)回想シーン。個室のドアから室内へ入って来る青年。眉毛は薄く,鋭い瞳。背はすらりと高く,頭は角刈り。
(字幕)科学アカデミー技師 真田志郎(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)
真田「失礼します,教授。お呼びですか」
(画面)回想シーン。書斎机の脇に穴井教授の後ろ姿。後ろ手に組んでいる。
穴井「(振り返る)・・・用件は分かっとるはずじゃ。志郎」
(画面)回想シーン。苦笑する真田。
(画面)回想シーン。穴井教授。
穴井「(目を細める)・・・まさか,お前がヤマト乗務を承諾(しょうだく)するとは思わなかったぞい」
(画面)回想シーン。おだやかな表情の真田。
真田「司令長官からの辞令を受け取りましたので」
(画面)回想シーン。書斎机の椅子に腰掛ける穴井教授。机の上で手を組む。
穴井「それだけが理由ではなかろうが」
(画面)回想シーン。直立不動の真田。
真田「ヤマトプロジェクトには私も当初から参加しておりました」
(画面)回想シーン。あごを上げる穴井教授。
穴井「あのヤマトは,もはやわしたちが目指していた船ではない。あれはもう戦艦なのじゃ。戦艦とはどういうものか分かるじゃろう,志郎。人を殺す機械じゃぞ。お前が一番忌み嫌う存在のはずじゃい。そんなお前がなぜ,人殺しの船に成り下がったヤマトへ乗ろうとする? お前は機械に対してトラウマを持っておる。敵とはいえ,お前はガミラスに銃口を向けられるのか? この作戦にお前が適しているとはどうしても思えんのじゃよ。辞令を撤回して,このわしにヤマト乗務を譲れ」
(画面)回想シーン。視線を外さない真田。
真田「・・・そのような事だと思いました。ですが,恐らく私がヤマトへ乗る理由は教授と同じですよ」
(画面)回想シーン。口をへの字にする穴井教授。
穴井「ほう。お前も,あの生活班リーダーの娘に気があるのか」
(画面)回想シーン。再び苦笑する真田。そして,おだやかな中にも決意を秘めた表情。
真田「教授。私はヤマトに乗ります。・・・ヤマトは戦艦です。しかし,あのヤマトは人を生かす戦艦だとも思っています。私の手足と姉を奪った機械を確かに私は憎んでいます。ですが,それと同時に機械に対抗できうるのはやはり機械でしかないとも感じているのです。教授に造っていただいたこの私の手足のようにです。今,ガミラスに対抗することができるのはこのヤマトしかありません。そして地球を救う可能性があるのもこのヤマトのみです。私はそのヤマトに乗り組んで,もう一度自分の中にあるジレンマと向き合いたいと思っているのですよ。教授,航海中のヤマトの改良点の対応はこの私に任せてください。教授はここに残って,第2第3のヤマトの開発をお願いいたします」

(画面)穴井教授と島と藤堂司令長官が並んで歩いている。
藤堂「・・・ヤマトには研究設備がなかった。教授には研究を続けてもらいたかったのでね」
穴井「嘘つけ。わしを年寄り扱いしよったんじゃろう。わしには長旅は無理だと言ったじゃろうが」
藤堂「・・・そんな事言ったかな」
穴井「酒造じじいはわしと同い年じゃったぞ」
藤堂「(苦笑)・・・そんなに,いじめないでくれ。おかげでこの高性能波動エンジンが完成したんだしね」
穴井「ものは言いようじゃな」
島「(笑顔)」

(男性の声)・・・島提督!
三人「(声の方向に首を向ける)」
(画面)ひとりの若者が笑顔で駆け寄って来る。
(画面)笑顔の島。
島「・・・坂本!」
(画面)人なつっこい笑顔の若者が下士官敬礼。両側のふたりにも同様。
(字幕)坂本俊夫(画面下部横文字)
坂本「お久しぶりです。就任式には参加できなくてすみませんでした」
(画面)上官敬礼を返す島。
島「いいさ。アンドロメダチームはみんな忙しいからな。どうだい,坂本。このアンドロメダのエンジンは?」
(画面)敬礼を解き,両手を広げる坂本。
坂本「やっぱりすばらしいですねえ。ヤマトのエンジンとは格段にレベルアップしていますよ。元ヤマト機関技師としてはなかなか刺激的なものがありますね」
(画面)島を中央に両側に穴井教授と藤堂司令長官。穴井教授は満足そうにうなずいている。
島「(思い出す)あ・・・そういえば,お子さんが生まれたそうじゃないか。おめでとう。どっちだったんだ?」
(画面)照れ笑いの坂本。
坂本「(頭をかいて)ありがとうございます。女でした」
(画面)島を中央に両側に穴井教授と藤堂司令長官。手前に坂本の後ろ姿。
島「・・・女の子かあ。可愛くて仕方ないんだろうな。名前は決まったのかい?」
坂本「(手を後頭部から下ろして)・・・はい。徳川機関長のお孫さんのお名前を頂戴いたしました」
島「・・・愛子ちゃんか・・・」

(画面)回想シーン。英雄の丘であぐらをかいて酒の入ったコップを持っている頭の禿げ上がった白いひげの老人。
(字幕)機関長 徳川彦左衛門(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)
徳川「(驚き)・・・なんじゃと,子供ができた? ははは。でかしたぞ,坂本!(右手を振り上げる)」
(画面)回想シーン。左肩を叩かれ,バランスを崩す坂本。
坂本「(痛そうに)・・・ありがとうございます,機関長」
(画面)回想シーン。満面の笑顔の徳川機関長。少し酔っているようだ。
徳川「いいか,坂本。今,地球はめざましい復興をしているが,本当に必要なのは子供なのじゃ。壊れた建物や機械はすぐに元通りになる。しかし,人間はそうはいかん。ガミラスとの戦争で人間の数は激減しておる。戦前の人口に戻すのは容易なことじゃない。特に中堅の人間はほとんどが戦死してしまった。これからはお前たちみたいな若者が中堅の役割をして,その後を継ぐ世代を育てなくてはなあ。わしが言うのもおかしいが,レベルアップした機械を作るよりも難しいことじゃと思うぞ」
(画面)回想シーン。うなずく坂本。・・・次の瞬間,ものすごい風が巻き起こる。再び体勢を崩す坂本。
(効果音)突風の音。エンジン音。
(画面)回想シーン。夜空から眩い光を放つ最新鋭宇宙戦艦が飛来してくる。
(画面)回想シーン。突風にあおられ,徳川機関長の手からコップが飛ばされる。中身の酒が膝にこぼれる。
徳川「(さみしそうに)・・・こぼれてしまったわい。この程度で。・・・わしも歳をとったかの。ははは」
(画面)回想シーン。唇をかむ坂本のアップ。立ち上がる。
(画面)回想シーン。夜空を遠ざかっていく最新鋭宇宙戦艦。丘の上で立ち上がって右腕を振り上げる坂本の後ろ姿。
坂本「・・・ばっかやろおお!」

(画面)しみじみと笑顔の坂本。
坂本「・・・島提督。私は古代艦長には心から感謝しているんです」
(画面)少し首を傾ける島。
(画面)うつむく坂本。
坂本「白色彗星との戦いの中で頭に血が上っていた私の頭を冷やして退艦命令を出してくれたおかげで,今こうして血の通った幸せを手に入れる事ができたと思っているんですよ。そうでなければ私は,愛子の顔を見ることさえできなかったはずなんです・・・」
(画面)島を中央に両側に穴井教授と藤堂司令長官。三人とも笑顔。
藤堂「(笑顔)・・・坂本君。そういえば土方機関長はどこにいるか分かるかね?」
(画面)はっとする坂本。恐縮する。
坂本「・・・あ,失礼いたしました。機関長は今,第6セクターで作業指示を出されているはずです。ご案内いたします。(身体を半身にする)」

(画面)機械制御盤の左側から潜り込んでいる男性の後ろ姿。力を入れるたびに腰部分が左方向に引っ張られている様子。
(効果音)室内の機械音。
(画面)機械制御盤の左側から潜り込んでいる男性の後ろ姿から左手だけが手前に差し出される。作業服の袖は肘までまくり上げられている。
男性「・・・モンキーを取ってくれ。ボルトを締めてみる」
(画面)男性の左手のアップ。自在スパナがその手に渡される。自在スパナをつかみ,すぐに引っ込められる左手。

(画面)島を中央に両側に穴井教授と藤堂司令長官。自在スパナを手渡した様子の坂本。
穴井「・・・作業指示じゃと?」

(画面)機械制御盤から身体を出す男性。後ろ向きのままで制御盤を右手で叩く。
男性「・・・よしっと。これで振動もおさまるはずだ。(振り向く)」

(画面)島を中央に両側に穴井教授と藤堂司令長官。自在スパナを手渡した様子の坂本。

(画面)振り向いた男性の上半身の描写。額が少し汚れている。しかしその顔は,ある人物と全くうりふたつ。
男性「(目を丸く)・・・ん?」

(画面)穴井教授のあきれた表情。
穴井「おでこが汚れとるぞい。機関長」

(画面)笑顔で額の汚れを自在スパナを持っている左手の甲で拭き取る男性。左利きのようだ。
(字幕)土方影虎(画面下部横文字)
土方「ははは。失礼しました。(下士官敬礼)」

(画面)藤堂司令長官と島のツーショット。ふたりとも上官式敬礼。
島「(手を下ろす)・・・土方先生が機関長になってくださるとは光栄です」
(画面)敬礼を解く土方機関長。
土方「先生はよそう,島提督。(笑顔)私はもう訓練学校には所属していないんだ。しかしそれにしてもやはり現場はいいものだ。久しぶりに胸が高まる。ははは。(傍らの機関員にスパナを渡す)」
(画面)島たちへ顔を向ける坂本。島たちも顔を向ける。
坂本「宇宙戦士訓練学校の機関科の生徒たちは先生が学校を退職されてひどく残念がっているんですよ」
(画面)土方機関長。
土方「現場復帰は私の長年の希望だったからな。弟の竜が先に戦略科を退職して,11番惑星ゼナに配属されたと聞いた時はうらやましくて仕方がなかった。双子は考えることも同じだったということかな。(笑顔)」
(画面)穴井教授が口をへの字にする。
穴井「そうかのう? その割には弟は艦隊司令じゃったが,お前さんは機関職じゃぞ。性格も似ているとは思えんかったがなあ」
(画面)機械制御盤を触る土方機関長。
土方「価値観の違いだけですよ,教授。私は物を作るのが好きで,弟は壊すのが好きだっただけです。ははは・・・。それに私は生き恥をさらすのが大好きでね。(笑顔)」
(画面)島のアップ。
島「・・・土方司令は素晴らしい艦長でした。あの人のおかげでヤマトはあそこまで戦うことができたんです」

(画面)回想シーン。険しい表情で都市帝国への攻撃を指示する軍人。土方機関長と同じ顔。軍帽を目深にかぶっている。(音声無し)
(字幕)宇宙戦艦ヤマト二代目艦長 土方 竜(2201年11月28日戦死)

(画面)穏やかな表情になる土方機関長。
土方「・・・こちらこそ感謝しているよ,島提督。正直,竜はゼナ配属を不満に思っていたんだ。表向きは外敵を監視する最前線の艦隊ということになってはいたが,実は当時の防衛軍の体裁のいい捨て駒にされていたのだよ。訓練学校の退職者にはそれぐらいの仕事しか残っていなかったんだ。少ない予算しか組んでもらえずに,まともな宇宙艦も与えてもらえなかった。駆逐艦ゆうなぎではとてもガトランティスに対抗することはできなかったはずなんだ。最前線とは名ばかりの弱小艦隊だった。あいつは無念の死を覚悟したはずだよ。そこへヤマトが通りかかってくれて,艦長にさせてもらえたんだ。あいつは最後にとてもいい仕事をする事ができた。あいつはとても幸せだったと思うよ。(笑顔)」
(画面)島を中央に穴井教授,藤堂司令長官。
藤堂「・・・あの時は私もふがいなかったと思っているのだよ」
(画面)満面の笑顔の土方機関長。
土方「長官。あのヤマトの一件で長官の発言も強くなられた。おかげで私はここにいられる。私は幸せ者ですよ。(顔の向きを変える)・・・島提督。遠慮は無用だぞ。思う存分私を使ってくれよ。(笑顔)」

(画面)アンドロメダ艦内のスタンバイルーム。壁には無線装置付のヘルメットが並べて架けられている。長いテーブルと椅子がいくつか設置されていてそこには68名の戦闘服を着ている隊員たちが思い思いの体勢でくつろいでいる。飲み物を飲む者,カードをしている者。
(効果音)ざわつき。
(画面)タバコを吸っている男性。椅子に腰掛け,テーブルに広げられた雑誌を読んでいる。年齢は30代初め。頭は長めのスポーツ刈り。強面(こわおもて)。
(字幕)桂 巧(画面下部横文字)

(画面)画面右端に桂の左横面。やはりテーブルの雑誌を読んでいる。灰皿にタバコの灰を捨てる。・・・やがて左端の椅子に座り込んで桂の正面へ前傾姿勢をとるもうひとりの男性。やはり髪は短く,少し小柄。前歯が少し出ている。
(画面)前傾姿勢をとっている前歯の男性の正面。
(字幕)長倉三郎太(画面下部横文字)
三郎太「(片目をひそめる)・・・隊長,お偉方(おえらがた)はいつになったら来るんすか? こんなに待つんだったらさ,戦闘機の整備をしていたほうがよくなかったっすかねえ」

(画面)雑誌から目を離して正面を見据える桂隊長。とにかく強面(こわおもて)。
桂「何言ってんだい,三郎太。(タバコを灰皿に捨てる)もう機体が削れる程整備しまくったじゃねえか。俺たちは船の中じゃ何もすることはねえんだ。外を飛び回ってこそなんぼの仕事だ。お偉方が来るからといって,無理やり体裁よく働いている姿を見せることはねえ。最初が肝心なんだ。俺たちの真価は空で見せればいい」
(画面)首を傾げる三郎太。
三郎太「・・・俺たちの真価っていうっすけど,何で旗艦アンドロメダなんすか? 旗艦なんてさ,艦隊の後ろで指示を出すだけでしょう? 真価なんて出しようがないっすよ。俺たちはやっぱり最前線の日本艦隊の空母にでも配属させてもらったほうがよかったんじゃないっすか?」
(画面)さらに強面(こわおもて)の桂隊長。
桂「三郎太。俺たちのチーム名を言ってみろ」
(画面)目を丸くする三郎太。
三郎太「・・・え。ブラックタイガーっすけど」
(画面)タバコに火をつける桂隊長。
桂「そうだ。俺たちゃ,ブラックタイガー隊だ。しかし世間で名を売ったブラックタイガーは俺たちか?」
(画面)少し上を向く三郎太。
三郎太「(正面を向く)・・・違うっす」
桂「(煙をはく)・・・そう,はきはきと違うと応えるなよ,三郎太。しかし,まあ確かに違うな。そしてそれこそ俺がアンドロメダ勤務を希望した理由よ」
(画面)難しそうな顔をしている三郎太。
(画面)タバコの灰を灰皿に捨てる素振りの桂隊長。灰はまだ短い。
桂「・・・ヤマトは戦艦だった。空母じゃない。艦載できる戦闘機には限りがあった。あの時まともに戦闘機を飛ばせることのできるのはブラックタイガー隊だけだった。しかし130人の隊員に対してヤマトの戦闘機は62機。半分にも満たなかった。結局イスカンダル作戦に参加できたのは加藤や山本,鶴見たちだったろが。俺たちは居残り組になっちまった。それが明暗を分けたのよ」

(画面)回想シーン。角刈りの青年の上半身の描写。黒いユニホームを着ている。手前に手を伸ばす。
(字幕)ブラックタイガー隊パイロット 加藤三郎(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)
加藤「(笑顔)・・・桂。後はよろしく頼む。俺はお前がいてくれるから安心して地球を離れることができるんだ・・・。色々なことがあったが,実は俺はお前に感謝していたんだ。本当に今までありがとう・・・」
(画面)回想シーン。しかめ面をする桂。
桂「(伸ばされた手を払いのける)・・・加藤。悪いが俺はそんなあいさつは大嫌いなんだ。それじゃまるで,これっきりみたいに聞こえるだろうが。・・・いいか。死ぬんじゃねえぞ。絶対に生き残れ。生きて,地球でお前を待っている女のところへ帰るんだぞ。いいな!」

(画面)煙をはく桂隊長。
桂「加藤たちは,イスカンダル作戦を成功させ,一躍英雄だ。戦果を認められブラックタイガーからコスモタイガーとして独立していきやがった。白色彗星のときもあいつらは華々しく戦って華々しく散っていった。まさしく俺たち戦闘機乗りのひのき舞台だ。それにひきかえ俺たちは何だ。未だに戦果も挙げられず,世間じゃブラックタイガーは壊滅していると思われちまってる」
(画面)人差し指をこめかみにあてる形で頬杖をつく三郎太。
三郎太「それなら白色彗星戦の時に地球防衛艦隊に参加すればよかったのに,隊長」
(画面)うつむく額を右手の甲で支える桂隊長。
桂「・・・いまごろ俺たちゃ死んでるぞ」
(三郎太の声)・・・そか。
桂「(顔を上げて)あの時の艦隊司令なんぞクソだ。波動砲のことしか頭になかった。敵が戦闘機を飛ばしてきてもこちら側から戦闘機を発進させようとはしなかった。戦闘機に対して対空砲でしか応戦しなかった。よくあんなのが司令官になれたもんだ。結局戦闘機隊を腹に抱えたまま艦隊を壊滅させちまった。一度も飛べずに大勢の戦闘機乗りが宇宙艦の棺おけの中で涙を散らせたのよ。(指をさす)・・・だがな,三郎太。今度の艦隊司令は違うぞ。提督の島 大介はあのヤマトの元パイロットだ。それにアンドロメダにはヤマトの元クルーが全員乗り組んでいる。いいか,三郎太。これは俺たちの名を売る千載一遇のチャンスなのよ。ブラックタイガーは加藤たちだけじゃないって事を世間に知らしめるのさ」

(画面)スタンバイルームの入り口に一人の隊員がドアを開けて立っている。
隊員「隊長。島提督と藤堂司令長官と穴井教授が見えられました」
(画面)スタンバイルームの入り口。

(画面)スタンバイルームの入り口が開いて,藤堂司令長官と穴井教授,島が入って来る。
(効果音)入り口が開閉する音。
(画面)島を中央に左右に藤堂司令長官と穴井教授。

(画面)島を中央に左右に藤堂司令長官と穴井教授。瞬きをする島。

(画面)桂隊長を先頭に背後に全隊員が整列している。桂隊長の左後ろには三郎太。
桂「・・・総員整列完了! ブラックタイガー隊68名! 総員敬礼!」
(画面)全員が一斉に下士官敬礼。
(効果音)かかとのなる音。衣擦れの音。

(画面)上官式敬礼の島。
島「・・・ブラックタイガー・・・?」

(画面)不敵な笑みで敬礼をしている桂隊長。

(画面)アンドロメダ艦内医務室。カーテンでところどころ間仕切りがされている。藤堂司令長官が袖をまくりあげて,綾乃に血圧を測ってもらっている。その背後では島と穴井教授が座っている。
(画面)藤堂司令長官の腕から装置を外す綾乃。
綾乃「・・・血圧はみなさん正常です。やっぱりタフですね。お疲れのはずなのに」
(画面)袖をなおす藤堂司令長官。
藤堂「(苦笑)・・・いや,やはりよる年月には適わんよ。なかなか疲れがとれなくてね」

(画面)けげんな表情でにらみつけている穴井教授。
穴井「こら,ボケナス。何でお前ここにおるんじゃ。どうもブリッジで見かけんと思っちょったら・・・」
(画面)机には佐渡医師が座っている。その横にはアナライザーが立っている。
アナライザー「ココデ ヒッコシノ オテツダイヲ シテマス。トーチャン。」
佐渡「助かっていますよ。教授。何しろ医者というのは衣装もちでね。医療機器は重いものが多いから,このロボット君の怪力は重宝ですよ」
(画面)疑わしき表情の穴井教授。
穴井「・・・本当は,綾乃ちゃんのスカートを追っかけてきたんじゃないのか?」
(画面)腰を押さえてギクリと振り返る綾乃。

(画面)左側に座っている穴井教授。右側に立っているアナライザー。中央にはアナライザーを振り返っている綾乃。
アナライザー「アタリ」
穴井「(立ち上がる)自分に正直すぎるんじゃ,お前は!」
綾乃「・・・(眉毛の下がった笑顔)」

(画面)佐渡医師が軽い笑みで左方向を見る。
佐渡「まあ,それにこのロボット君から色々とじっちゃんの話も聞けるんでね」
(画面)口を丸くする穴井教授。
穴井「・・・ほう。蔵造,お前確か酒造じじいのことはきらいじゃなかったのか?」
(画面)鼻で笑う佐渡医師。
佐渡「好き嫌いは関係ないですよ。ただ興味があっただけです。・・・聞けばじっちゃんは戦死する直前まで酒を飲もうとしていたそうじゃありませんか,まったく。医者としての自覚があったのか疑問ですね」
(画面)口をへの字にする穴井教授。
穴井「医者だって酒ぐらい飲むわい。それが酒造じじいのスタイルなのじゃ。酒で誤診したことなど一度もなかったぞ。お前も試しにやってみたらいいんじゃないか」
(画面)右手を振る佐渡医師。
佐渡「冗談じゃない。酒を飲んで治療など論外ですよ,教授。それに私は酒もタバコもやりませんから」
(画面)片方の眉毛を上げる穴井教授。
穴井「酒もタバコもやらずに何を楽しみに生きているんじゃ,蔵造」
(画面)微笑する佐渡医師。
佐渡「酒とタバコぐらいしか楽しみがないんですか? 教授」
(画面)顔をゆがめて左手中指で眉間を押さえる穴井教授。
穴井「・・・ああ言えばこう言う・・・可愛くないやつじゃ」
(画面)佐渡医師の座っている椅子の左下の描写。机の下に何やら動いている。やがて,光る丸い目がふたつ瞬き,それが勢い良く跳びあがる。
(効果音)動物が動く音。

(画面)右寄りに藤堂司令長官。中央にその背後の穴井教授,左隣に島が座っている。三人とも目を丸くしている。
(画面)佐渡医師の膝の上に茶トラの子猫がちょこんと座っている。その後頭部を佐渡医師のおなかにすり寄せて甘える素振り。佐渡医師の右手が子猫ののどに伸びる。ごろごろと目を閉じている子猫。
(子猫の鳴き声)ミャアオウ・・・。
(画面)穴井教授の驚いた表情。
穴井「・・・こりゃ,たまげた。・・・蔵造,お前,猫に首ったけかいな。ほほ。(片目をつむり指をさす)・・・さすがに血は争えんなあ,蔵造。ひひ」
(画面)子猫を膝の上に乗せている佐渡医師。
佐渡「ご心配なく。衛生面には充分配慮していますよ」
(画面)後ろを振り向いている綾乃。
綾乃「(視線を正面へ)・・・この猫ちゃん,実は佐渡大先生のミーくんの娘なのよ。この子だけ身体が弱くて,引き取り手がなくて先生が面倒をみていたの。名前はミヤちゃんっていうのよ。もうすっかり元気になったんだけど,見ての通り先生になついちゃって。この子の名前は先生がつけたんですよ。(くすくす)」
(画面)仏頂面(ぶっちょうづら)している佐渡医師。
(画面)面白そうに歯を見せて,にやにやしている穴井教授。

(画面)眉毛が下がる島。苦笑する。
(BGM)M−12
島「何てことだ。猫までもか・・・まったく今日は驚きの連続だったな。このアンドロメダにはかつてのヤマトの乗員だけじゃなくて,佐渡先生や森さんも含めてヤマトの乗員の関係者までそろってしまっている。・・・ブラックタイガーまで・・・。こんな一隻にこれだけ集まっているのは,これは絶対に偶然じゃないな」
(画面)アナライザー。
(画面)佐渡医師。
(画面)藤堂司令長官。
(画面)穴井教授。
(画面)微笑みかける綾乃。
綾乃「・・・そうですね,提督。もちろん偶然なんかじゃないと思います」
(BGM消える)

(画面)宇宙空間。星が点々としている。
(ナレーション)・・・大宇宙の歴史は気まぐれである・・・。飛ぶ鳥を落とす勢いの権勢を誇った英雄が,突然その地位をおわれるかと思えば,まったく振り返られることのなかった存在が多くの支持を得て大宇宙の大舞台へあがることもある。永遠に続くかと思われている文明でさえ,実は水に漂う気泡以上の存在ではありえないのだ。しかしそれでも星の数ほどの人間たちはその存在を大宇宙の歴史に刻みつけようとする。だからこそ大宇宙の永遠の営みの中でもその歴史は不変ではないのかも知れない・・・。

(画面)大マゼラン星雲の全景。
(ナレーション)・・・そして,今また大宇宙は気まぐれをおこす。その時の流れは,それが常にそうであるように何の前触れもなくそして突然に・・・再びあの男を大宇宙の歴史の表舞台へ引き戻そうとしていた・・・。
(画面)惑星ガトランティスの全景。

(画面)暗闇。
(効果音なし)
(BGMなし)
(画面)暗闇。場所も時間も,この時点では,はっきりしていない。
(画面)暗闇と静寂が支配している。

(画面)暗闇・・・画面中央に突然開かれるふたつの鋭い目のアップ。画面にはこの目だけが描写。・・・黒い瞳が左方へ動く。そして右方へも動く。目の持ち主は無言。

(画面)再び暗闇。目を閉じたようだ。しかしまた目は開かれ,この暗闇の中に明らかにそれが存在していることを示す。

(笑い声)ふふふふふ・・・・。
(画面)目がその声に反応して右方へ瞳を動かす。

(画面)アングルが変わり,暗闇の中央へ浮かぶようにガラススクリーンの窓。その向こう側の部屋には明かりが点いており,ひとりの男の上半身が窓の向こうに見えている。レック・アルド・ズォーダーである。笑い声はスピーカーから聞こえている。
レック「・・・ふふふ。目覚めたか! 我が愛しのサンプルよ」

(画面)暗闇の目。
目「・・・」

(画面)ガラススクリーンの内側の部屋。画面の左端にレックの右半身の斜め後ろ姿。画面中央から右端へかけてガラススクリーン。その向こう側の暗闇の中では,小さくふたつの目が浮かんでいる。
レック「私の声が理解できるか? 親愛なる野蛮人。本来ならお前を覚醒させる理由はないのだがな,事の成り行きがお前の思い通りになっていないことを思い知らせたかったのでね。ふふふ・・・。まずは私の寛容な計らいで,お前に今の状況を教えてやる。お前が今いる場所は,かつてお前自身が望んだあの宇宙空間ではない。・・・ここは惑星ガトランティスの凶悪犯罪者が収容されている警戒厳重な帝星立刑務所だ。お前はその中でも最も罪の重い囚人が収容される特別室の超合金製の寝台に両手両足を固定され,あお向けに寝かされている。周りの壁は核融合ミサイルにも耐えうる厚みがあり,唯一の出入り口は外からでも複数の人間でなければ開けられぬセキュリティロックシステムに守られている。・・・まあ簡単に言わせてもらえば,お前はどうにも手の施しようもない状況で私に囚われているということだな」

(画面)暗闇の目。

(画面)優越の笑みのレック。
レック「しかし,ガミラス人というのはしぶとい人種だな。何も身に着けず真空の宇宙空間にあれだけさらされながら,なおも生き続けていられるとはね。野蛮人のたくましい生命力にはほとほと感心させられる。・・・」

(画面)暗闇の目が少し細められる。

(画面)きびすを返すレック。少し後方へ歩を進めてそこにある肘掛椅子に腰掛ける。
レック「(足を組む)・・・ブレインスキャン検査機でお前の脳の過去の記憶を見させてもらったよ。噂通りの極悪非道ぶりだな。この私でさえ何回か目をそむけるはめになった。素直に認めよう。お前は間違いなく宇宙で一番の極悪人だ。そして我がガトランティス連邦にとって,重大な裏切り者でもある。彗星要塞の流動発生機構のウィークポイントを地球人に知らせた罪は,お前が自分で選んだごとく死に値(あたい)するものだ。まあ安心するがいい。私がお前の代わりにお前に死を賜って(たまわって)やろう」

(画面)暗闇。再び浮かび上がる目。
目「・・・ふ。・・・よくしゃべる坊やだ。・・・もしかして私と話をしたがっているのかな?」

(画面)一瞬笑みが消えるレック。しかし再び先程より強い嘲笑で対応する。
レック「ふふ。耳も口も正常なようだな,デスラー。お前の短い人生を哀れんで教えてやろう。私の名はレック・アルド・ズォーダー。お前がかつて崇拝(すうはい)したゾッド・アルド・ズォーダーの後を継ぐ者だ」

(画面)デスラーと呼ばれた暗闇の目。
デスラー「・・・ズォーダー?」

(画面)面白くなり始めているレック。
レック「お前のひいきするあの宇宙戦艦ヤマトは,無残な宇宙の塵(ちり)と成り果てたぞ。生意気にも我が親父殿と刺し違えてな」

(画面)暗闇の目。
デスラー「なるほど。あの戦争気違い閣下のお坊ちゃんか。・・・謹んで(つつしんで)お悔やみ申し上げる」

(画面)頬杖をつくレック。
レック「ははは。お前に戦争気違いと呼ばれるとはね。実に愉快だ。やはりお前は極上のサンプルだよ。ブレインスキャンでお前の知識を検分するうちに色々なことが分かったしな。・・・あの地球という星はどう考えても我々とまともに戦える世代の国ではないと思っていたのだが,おかげで謎が解けた。地球はお前と戦争をしている間にイスカンダル帝星から科学力の提供を受けていたのだな。女王スターシアも随分と大胆なことをしたものだ。これはある意味,ガミラスへの宣戦布告ともとれなかったのか? 波動エネルギーはそれを扱う者にとっても相当な覚悟と準備が必要だ。我々でも完全に扱いきれる代物ではない。それをあんな地球の原始人に与えて,どのような事態が起こりうるか想像できなかったのかね? 当のイスカンダル人でさえ扱いを間違えて滅びの道を歩んでしまったのであろうが。波動エネルギーの原理を完全に理解せず,その限度もわきまえていない地球人が宇宙環境を破壊しながら遂にはお前のガミラス帝星を滅ぼし,そして我が彗星要塞と親父殿を消滅させた。当事者である暴虐な地球人も許しがたいが,それに協力したイスカンダルの罪も免れん(まぬがれん)」

(画面)暗闇の目。

(画面)立ち上がるレック。
レック「・・・地球をこの宇宙から消滅させた後は,次はイスカンダルだ。かつてのマゼラン宇宙の元凶を粉々に粉砕させてもらうことにするよ,デスラー!」

(画面)暗闇の目が再び細められる。
デスラー「なかなか素晴らしい演説だったよ。 坊や」

(画面)あきた様子で真顔になるレック。
レック「・・・まあいい。どうせお前とは全く関係のない世界の話だ。実は,お前を目覚めさせた理由はもうひとつある。まもなくお前はお前自身が望んだ宇宙空間へ戻されることになるだろう。それまでそこで死への恐怖をゆっくりと味わってもらおうと思ってね。私のせめてものはなむけだ。これでお別れだ,デスラー。お前と話ができて楽しかったよ。もう二度と会うことはあるまい。(半身を返し,歩み去る)」

(画面)無表情な暗闇の目。

(画面)刑務所内の廊下。背後に警備兵を従えて歩いているレック。傍らにはゲーニッツ。
(効果音)廊下内の響く足音。
(画面)廊下の左側で片足をついて頭を下げているバルゼー。
(画面)気づく素振りのレックのアップ。立ち止まる。
(画面)手前に変わらぬ姿勢のバルゼー。立ち止まって見下げているレックの姿が向こう側。
レック「・・・何だ? バルゼー。貴官もあの野蛮人と話をしに来たのか」
バルゼー「・・・(姿勢変わらず)」
レック「ふふ・・・まあいい。許す。貴官も当初はあのガミラス人と意気投合(いきとうごう)していた時期もあったらしいからな。(皮肉をこめて)まあ,かつての友に今生(こんじょう)の別れでもしてくるがいい。(画面から立ち去る)」
バルゼー「(頭を深く下げる)」

(画面)暗闇。
(効果音なし)
(BGMなし)
(バルゼーの声)・・・デスラー。
(画面)暗闇の中で開かれる目。瞳が右方へ動く。

(画面)暗闇の中のガラススクリーンにバルゼーの上半身の姿。

(画面)暗闇の目。
デスラー「・・・バルゼーか」

(画面)静かな表情のバルゼー。

(画面)暗闇の目。
デスラー「お前が,私を拾い上げたのか,バルゼー」

(画面)視線を外すバルゼー。
バルゼー「・・・まさかとは思っていた。しかし,正直お前だと気づくのが遅れたのも認める。あの様子では,お前も覚悟の上の行動だったのだろう。お前の気持ちに水をさしたと後悔もしたが,あの状況下ではお前を元の場所へ戻す理由が思いつかなかった。それに確認したいこともあった」

(画面)暗闇の目。

(画面)顔を上げるバルゼー。
バルゼー「・・・大帝閣下からお預かりした駆逐艦と兵士たちを,お前は撃ったのか。監視官ミルを殺したのはお前だったのか。彗星要塞のウィークポイントをヤマトのクルーに教えたのか。デスラー。なぜそのようなことをしたのだ? 我がガトランティスには感謝こそすれ,お前に恨まれる理由などどこにもなかったはずだ」

(画面)暗闇の目。閉じられ,暗闇が画面を支配。しばらくその状態が続く。

(画面)口をきっと閉じているバルゼー。

(画面)再び暗闇に目が開かれる。
デスラー「・・・私は常に勝利してきた。それがガミラス国民を守るためでもあり,私自身の尊厳を守ることにもつながった。・・・しかし,不覚にもその倦怠(けんたい)を悟れず,ほんの少しの油断をみせたために生涯初の敗北を味わってしまった。これは私自身の失敗によるものだ。武士(もののふ)は時として敗北を認める勇気も問われる。他の力を借り,敗れた相手に勝利したとてそれが何になるかね。それよりも私は違う相手に続けて敗北することを潔し(いさぎよし)としなかったのだ」

(画面)目を見開くバルゼー。
バルゼー「デスラー! お前・・・!」

(画面)暗闇の目。
デスラー「お前なら,どうかね。バルゼー。戦いに敗れ,命を救われ,それでもなお感謝せよと恩を売ってくる相手の気持ちを素直に享受(きょうじゅ)できるかな。男とは自尊心がなければ生きられぬ。時にはそれが命よりも優先されることがあるものだ。私はあの時,あのヤマトの坊やにもそれを感じ取った。・・・バルゼー。私も敗れる相手は森羅万象(しんらばんしょう),ヤマトのみと決めていたのだ。それがあの時に残されていた私の唯一の自尊心だった。自尊心が命を凌駕(りょうが)した戦士はけして理不尽(りふじん)な権力にくだることはない。ズォーダーはそこのところが分かっていなかったようだ」

(画面)息を呑んでいるバルゼー。

(画面)暗闇の目。

(画面)両手をガラススクリーンに置き体重を支えるバルゼー。うつむいている。しばし無言。
バルゼー「・・・やはりお前を救うべきではなかった。お前は我々を謀って(たばかって)いたのだな。私の考えは甘かったのか。これがお前を救った代償だとはな。・・・(顔を上げる)もう何も訊かぬ。もはや二度と会わぬ。・・・さらばだ,デスラー。(立ち去ろうとする)」
(デスラーの声)・・・バルゼー。
バルゼー「・・・(立ち止まるが,振り返らない)」

(画面)暗闇の目。
デスラー「お前も戦いに敗れぬよう心がけることだ」

(画面)誰もいないガラススクリーンの窓の描写。

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第2節 大脱出! 難攻不落オルカバーン要塞