第12節 カウントダウン! 14万8千光年を隔てる民族の心

(画面)宇宙空間に圧倒的な規模を誇って停泊しているガトランティス本隊。
(効果音)膨大な機動音。
(BGM)M-32

(画面)宇宙戦艦ヤマト外観。
(効果音)機動音。

(画面)宇宙戦艦ヤマト第1艦橋内。艦長席で頬杖をついているレック・アルド・ズォーダー。
(効果音)艦橋内機械音。
(BGM)M-32

(画面)書類を持って進み出てくるゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・大帝閣下。第3遊動機動艦隊,コーテク司令より連絡が入りました。・・・9番惑星の地球艦隊,及び地球軍基地を壊滅したとのことです」

(画面)頬杖の腕を替えるレック。
レック「(笑み)・・・ふふ。さすがだね。それで我が方の被害はどれくらいだったのかな。ゲーニッツ」

(画面)少し表情がくもるゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・それが。・・・第3遊動機動艦隊は,ミサイル艦13隻を含む計60隻が撃沈されたと・・・」

(画面)目を丸くするレック。
レック「・・・ほう。驚きだね。・・・コーテクともあろう者が艦隊の3分の1を失ったのか」

(画面)顔を上げるゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・そのほとんどが,艦首波動砲によるものだと・・・」

(画面)鼻をならすレック。
レック「全く。またイスカンダルの兵器か。やれやれ。スターシアもやっかいなおもちゃを虫けらどもにあてがったものだね。戦争巧者のコーテクでさえ,完全には防ぎきれなかったとはね」
(BGM)M-32

(画面)ゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・我が本隊の情報も地球側へ知られてしまったとのことです」

(画面)身体を起こすレック。
レック「・・・急がなければならないようだね。虫けらどもに降伏する機会を与えるわけにはいかない。・・・太陽系の地球の戦力の様子はどうかな?」

(画面)再び書類に見やるゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・第3遊動機動隊の偵察隊の報告によりますと,外周惑星に艦隊や戦力が潜んでいる気配はないとのことです。人っ子一人いません」

(画面)笑みを浮かべるレック。
レック「・・・思った通りだね。もはや地球には私たちに対抗できる戦力は残っていないか。(顔を向ける)・・・ゲーニッツ。そろそろイベント開始といこうか。大マゼラン星雲への中継システムを確認してくれ。艦隊の配列には気を配ってくれよ。国民たちに恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないからね」

(画面)胸に手をあてて頭を下げるゲーニッツ。
(BGM消える)

(画面)本隊前衛付近に停泊しているガトランティス第6遊動機動艦隊。131隻。
(効果音)複数の機動音。

(画面)宇宙戦艦バルゼミアの外観。
(効果音)機動音。

(画面)宇宙戦艦バルゼミアブリッジ内。艦長席のバルゼー。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(ナスカの声)・・・提督。
バルゼー「・・・(顔を向ける)」

(画面)ボードを持って直立しているナスカ。
ナスカ「第2遊動機動艦隊のエルダ提督から通信が入っています」

(画面)ゆっくりと両肘で身体を支えるバルゼー。
バルゼー「・・・(見上げる)」

(画面)天井パネルスクリーンの描写。・・・真横に電子ラインが走り,軍帽の下に赤いショートカットを蓄える女性戦士が映し出される。
(効果音)電子音。
エルダ「・・・バルゼー」

(画面)見上げているバルゼー。

(画面)スクリーンのエルダ。
エルダ「・・・相変わらず,軍帽はかぶらないか。もう,そろそろ本隊が動くぞ。バルゼー」

(画面)見上げているバルゼー。
バルゼー「分かっている。エルダ」

(画面)スクリーンのエルダ。
エルダ「・・・我が第2遊動機動艦隊は,本隊の右翼。第6遊動機動艦隊の前へ布陣する。久しぶりに共に戦えるな。一介のノンキャリアの市民から第6艦隊にまで出世したお前はガトランティス市民の夢の英雄だ。マゼランネット中継船は右翼側だから,お前の雄姿は国民全体の注目の的になるだろう。第2遊動機動艦隊は幸運にも,そのおこぼれにあずかれるわけだな。(微笑)」

(画面)表情をゆるめるバルゼー。
バルゼー「・・・国民は史上最も出世した女性戦士に注目している。その言葉は私のものだ。エルダ」

(画面)微笑んでいるエルダ。
エルダ「・・・(表情を引き締める)・・・コーテクが苦戦したらしい。”先制の貴公子”が先制を許したあげくに,5分の1の相手に艦隊の3分の1を撃沈されたそうだ」

(画面)見上げているバルゼー。
バルゼー「・・・コーテクは幸運だ。3分の1で済んだんだからな」

(画面)スクリーンのエルダ。
エルダ「(小声)・・・これは通信だぞ。バルゼー」

(画面)見上げているバルゼー。
バルゼー「あえて言っているのだ。明らかにコーテクの艦隊と地球艦隊の戦士たちの気持ちには温度差があった。それは認められねばならぬ。不利な状況でも地球人たちはけしてあきらめない。地球人類は我々ガトランティス人に負けず劣らずの戦闘民族だ。我々は地球軍に対しては”相手にする”というのではなく,”戦う”という気持ちで望まなければならぬ。油断だけはするなよ。エルダ」

(画面)スクリーンのエルダ。
エルダ「・・・私を心配しているのか。バルゼー」

(画面)笑みを浮かべるバルゼー。
バルゼー「・・・”赤い壊し屋”を心配する者などいない」

(画面)微笑むエルダ。
エルダ「・・・そうか」

(画面)宇宙空間。壮大な姿を見せている銀河系。・・・画面下部手前からゆっくりとアングルへ入って来る人工衛星。

(画面)翼を広げたように両側に大きなパネルを伸ばしている人工衛星。・・・各所から点滅を始める。
(効果音)電子音。持続。
(字幕)ガトランティス製リレー通信衛星No.38(太陽系より約3万8千光年)(画面下部横文字)

(画面)宇宙空間に浮かぶ,赤と黒の入り混じった暗黒の巨大惑星。
(字幕)惑星バラン(画面下部横文字)
(画面)惑星バランの軌道を横切るように画面右端から姿を現す人工衛星。
(効果音)電子音。持続。
(字幕)ガトランティス製リレー通信衛星No.24(太陽系より約7万7千光年)(画面下部横文字)

(画面)宇宙空間に映える島宇宙。大マゼラン星雲。・・・やはり同様の人工衛星が画面下部からゆっくりと現れる。
(効果音)電子音。持続。
(字幕)ガトランティス製リレー通信衛星No.10(太陽系より約11万9千光年)(画面下部横文字)

(画面)宇宙空間に浮かぶ惑星ガトランティス。・・・惑星の軌道をまわる人工衛星。
(効果音)電子音。持続。
(字幕)ガトランティス製リレー通信衛星No.1(太陽系より約14万8千光年)(画面下部横文字)

(画面)惑星ガトランティス地表。そびえ立つ巨大な建設施設。
(字幕)ガトランティス通信ネットワークセンター(画面下部横文字)

(画面)ネットワークセンター内部。壁を埋め尽くしている次元ディスプレイの列。各計器類ボックスで作業しているガトランティス人作業スタッフたちが多数。
(効果音)内部機械音。電子音。多数。
(スタッフの声)・・・リレー中継衛星。No.1からNo.51まで。通信波,開通。
(スタッフの声)・・・出力,レベルアップ!
(スタッフの声)・・・ライブによる,映像。音声。異常ありません。
(スタッフの声)・・・中継船とのコンタクト・・・ワープ通信成功!
(画面)操作しているガトランティス人スタッフ。
スタッフ「・・・星雲内のマゼラン・ネット中継。強制介入準備完了・・・!」
(画面)操作しているスタッフの両手。
(効果音)操作音。
(画面)スタッフのアップ。ヘッドマイクへ話しかける。
スタッフ「・・・マゼランネットワーク回線,強制介入! 全てのネットワーク端末へ! 自動電源! ガトランティスチャンネル発信! 生中継の映像と音声。スタート!」

(画面)大マゼラン星雲の全景。
(効果音)発信される多数の通信波。

(画面)惑星ガトランティスの街並み。歩いているガトランティス市民たち。
(効果音)繁華街。移動機械。人々の話し声等。

(画面)街並みのショーウインドウに置かれているディスプレイ。

(画面)街並みのショーウインドウに置かれているディスプレイ。・・・クローズアップ。・・・そして唐突に入る電源。
(効果音)電子音。

(画面)ディスプレイに映し出されている映像。・・・それは太陽系の外で隊列を整えているガトランティス本隊。

(画面)振り返るガトランティス市民。

(画面)ディスプレイに映し出されているガトランティス本隊の映像。
(音声)・・・栄光なるガトランティス市民たちよ! ついにその時は来たれる! 我らが新しき指導者,レック・アルド閣下が先代ゾッド・アルド閣下の無念を晴らすべく,宇宙の元凶太陽系へその歩を進めたり!

(画面)歩く方向を変えて,手前へ歩み寄るガトランティス市民たち。男性。女性。小さな子供を連れた親子連れまでが近づいてくる。
(効果音)ざわめき。多数の足音。

(画面)ディスプレイに映し出されている映像。・・・太陽系の外で隊列を整えているガトランティス本隊。

(画面)ディスプレイの前へ群がってくるガトランティス市民。目的のディスプレイには宇宙空間を悠然と航行するガトランティス本隊。
(音声)・・・思えば昨年。ひきょうな不意打ちにより,戦火に焼かれた先代の思いは今の今までレック・アルド閣下の思いとして,変わる事のない熱き決心を一度も忘れることなく・・・。

(画面)違う街並みでも,各所でディスプレイにガトランティス市民たちが集まっている。
(音声)・・・ようやく,こうして積年の悲願を達成する瞬間が近づいているのです!

(画面)ガトランティス市民の家庭風景。ディスプレイを囲んでいる家族。
(音声)・・・選ばれし国民たちよ! 我々に平和をもたらした偉大なる指導者をだまし討ちし,愛する家族を奪った地球人たちの末路を,その目に焼きつけよ!

(画面)宇宙空間に浮かぶ青い惑星。
(字幕)植民地惑星テレザート(画面下部横文字)

(画面)ガトランティス戦士たちに次々と連行されてくる奴隷(どれい)たち。床に叩きつけられる。
(効果音)足音。倒れる人。
(画面)優越のガトランティス戦士。
戦士「はは! よく見ておけ! あの艦隊を! 我がガトランティス連邦に逆らおうなどとは絶対に思わないことだ!」

(画面)床から顔を上げる奴隷のテレザート人男性。
男性「(口の血をふく)・・・ちきゅう・・・?」
(画面)男性の視線の先に本隊を映しているディスプレイ。
(音声)・・・見よ! この宇宙一の大艦隊を! 一体,誰が無謀にもこれに刃(やいば)を向けることができるのか!

(画面)宇宙空間に浮かぶ惑星イスカンダル。

(画面)セントラルシティ内。振り返るスターシア。
(効果音)電子音。
スターシア「・・・!」

(画面)ディスプレイの描写。・・・突然電源が入り,画面に”マゼランネット”のクレジットタイトルが表示される。
(効果音)オープニングサウンド。

(画面)スターシアのアップ。

(画面)ディスプレイの描写。・・・やがて画面に”ガトランティスチャンネル”のクレジットタイトル。

(画面)まゆをひそめるスターシア。

(画面)ディスプレイの描写。・・・そこに映し出されるガトランティス超巨大艦隊。30000隻超。
(音声)・・・大マゼラン星雲内の全ての市民たちへ・・・! ・・・この中継は,マゼランネット回線を独占し,大マゼラン星雲内の全てのネット回線を介して,星雲全域へライブでお送りしています! 我がガトランティス連邦は,前大帝閣下のご無念を晴らすべく,星雲より14万8千光年に位置する銀河系へ大規模な軍事作戦を決行! 仇敵である太陽系地球へ向かっているところであります!

(画面)驚愕するスターシア。
スターシア「・・・! 何ですって・・・!」

(画面)ディスプレイの描写。・・・そこに映し出されるガトランティス超巨大艦隊。30000隻超。
(音声)・・・レック・アルド閣下率いる我が艦隊は太陽系より280ガトランティスアワーの位置までその進撃を開始しており,前衛艦隊により太陽系外周艦隊をすでに壊滅。残る地球本星の戦力へ目指して,強い決意とゆるぎない結束をもってその歩をゆるめることなく,まい進しているところであります!

(画面)呆然と立ちすくんでいるスターシア。

(画面)部屋へ駆け入ってくる古代 守。
(効果音)足音。
守「・・・スターシア!」

(画面)ディスプレイを背に振り返るスターシア。

(画面)振り返っているスターシアが画面右端。画面中央で立ち止まる古代。
守「・・・ディスプレイを観たか? 太陽系が・・・」

(画面)唇をしめるスターシア。
スターシア「・・・マモル・・・」

(画面)混乱している様子の古代。
守「・・・どういうことだ? ガトランティスって何だ? あれは・・・? なぜ太陽系へ進軍しているんだ? スターシア。これは一体・・・?」

(画面)さすがに直ぐには言葉が出ないスターシア。
スターシア「・・・マモル・・・」
(音声)・・・ご覧ください! あれがレック・アルド閣下のおわす戦艦です!
スターシア「・・・(後ろを向く)」

(画面)スターシアと古代。

(画面)ディスプレイの映像。クローズアップされる戦艦の姿。
(BGM)M-10

(画面)驚愕するスターシアと古代。

(画面)ディスプレイの映像。航行している宇宙戦艦ヤマト。
(BGM)M-10

(画面)愕然としている古代。
守「・・・あ・・・! あれは・・・!」

(画面)さすがのスターシアも絶句している。

(画面)我にかえるように声を張り上げる古代。
守「・・・あれは・・・ヤマト・・・ヤマトじゃないか!」

(画面)唇を噛むスターシア。
(BGM消える)

(画面)ディスプレイの映像。航行している宇宙戦艦ヤマト。
(音声)・・・この戦艦は,前大帝閣下のお命を奪った憎き地球の戦艦の姿をかたどったものであります! あえてこの戦艦に乗ることによってレック・アルド閣下は,愚かなる地球人たちへの無言の宣告と変わらぬ決意を示しているのです! もはや後悔しても遅いのだ! お前たちは絶対に怒らせてはいけなかった相手を怒らせてしまったのだと・・・。

(画面)茫然自失している古代を背に,スターシアのアップ。
スターシア「(目を細める)・・・戦争を・・・!」

(画面)スターシアへクローズアップ。
スターシア「(怒りへ)・・・戦争を・・・見世物にするつもりですね・・・。レック・アルド・ズォーダー!」

(画面)宇宙空間を航行する宇宙戦艦ヤマト。
(効果音)エンジン音。
(音声)・・・次回中継は帝星時間で10日後であります! 全ての視聴者へ,我が艦隊が地球を消滅させる瞬間をお見せいたしましょう! 以上。ガトランティス・チャンネルでした!
(画面)ブランク。

(画面)宇宙空間に浮かぶ冥王星と惑星カロン。すでにガトランティス第3遊動機動艦隊は,補給と修理などの目的で本体合流を目指して宙域を去っている。そして,かつてそうであったように再び静寂を取り戻している二連星。

(画面)冥王星大気圏内。バードビュー。移動するアングル。・・・流氷の海を低空飛行する。・・・やがて岩だらけの陸地へ。アングルが左へ回転。・・・ふと。陸地に散乱している戦闘機の部品。・・・移動がゆっくりとなる。そして。・・・画面に現れる墜落しているコスモタイガータイプ戦闘機1機。

(画面)画面に無残な姿をさらしている戦闘機を側面からのアングル。

(画面)戦闘機のコクピットへクローズアップ。・・・なにやら動いている人影。

(画面)コクピットで計器類をいじっているパイロットを上からのアングル。動くヘルメット後頭部。作業する右手。・・・計器類の丸いパネルに光が灯って放射状の電子ラインを回転させ始める様子。
(効果音)電子音。

(画面)無表情で作業しているオサードのアップ。密閉式のフルフェイスメットのバイザー越し。
(効果音)電子音。継続。

(画面)計器類の丸いパネル。回転している電子ライン。・・・パネルの右上の箇所で電子ラインに反応して光るポイント。
(効果音)反応する電子音。

(画面)無表情で作業しているオサードのアップ。・・・ふと視線をずらして右手首に,はめられている計器バンドを見る。
(効果音)電子音。継続。

(画面)丸いパネルの計器類から配線コードを伸ばして右手首の計器バンドへ接続する様子。
(効果音)接続。複数の電子音。

(画面)無表情で作業しているオサードのアップ。
(効果音)複数の電子音。

(画面)反応し始める右手首の計器バンド。・・・電子ポイントが転送されている。
(効果音)複数の電子音。

(画面)視線を左へ向けるオサード。
(効果音)複数の電子音。

(画面)左手首の計器ランプが赤く点滅している。・・・横に”oxig”と明記されている。(ポルトガル語で”酸素”の略)
(効果音)複数の電子音。

(画面)オサードのアップ。・・・立ち上がるオサード。

(画面)海中に沈んでいる宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)海中。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦内。移動式ベッドに寝かされている島 大介。移動式ベッドは通路を動いているらしく,通路が後方へ流れている様子。島の鼻と口には酸素マスクがはめられている。目を閉じている島。意識が完全に失われている。
(効果音)キャリア移動音。足音。

(画面)移動式ベッドからのローアングル。通路を走っている佐渡医師。南部。穴井教授の三人。電力節約のため,通路フロアのスライドは停止しているようだ。
(効果音)キャリア移動音。足音。

(画面)走っている佐渡医師のアップ。緊迫した表情。
(効果音)キャリア移動音。足音。

(画面)医務室内部。・・・スライドドアが開いて移動式ベッドの島と,そのベッドを押していた佐渡医師,南部,穴井教授が入室してくる。
(効果音)ドアの開閉音。複数の足音。

(画面)移動式ベッドを立ち並ぶベッドの中へ装着する三人。すぐさま佐渡医師が島の胸のボタンを外しにかかる。
(効果音)装着音。
佐渡「(緊張した顔を上げる)・・・いかん! 至急,生体チェックの準備だ・・・! チアノーゼが出ている! チェックシステムを・・・。(ベッドから離れる)」

(画面)見回す穴井教授。
穴井「・・・蔵造! 看護士はどこじゃ!?」

(画面)同じように見回している南部。
南部「(顔を向ける)・・・いませんよ・・・! 先生! 森さんはどこですか?」

(画面)応えずに黙々とチェックシステムをベッドの脇へ引いてくる佐渡医師。
(効果音)キャリア音。

(画面)隣のカーテンが開いて,ソマリア・ギルが顔を出す。
ギル「(英語)・・・ミス・モリなら宇宙服着て,奥の気密部屋へ行ってるぞ」

(画面)ベッドの横で一斉に顔を向けている佐渡医師。南部。穴井教授。

(画面)カーテンから顔を出しているソマリア・ギル。

(画面)ベッドの横で一斉に顔を向けている佐渡医師。南部。穴井教授。
穴井「・・・何で,お前がここにいるんじゃ?」

(画面)苦笑して頭をかくソマリア・ギル。
ギル「・・・(英語)・・・いや。どうも,ブリッジで倒れたらしくて・・・ここで寝かされてたみたいで・・・」

(画面)思い当たる表情の三人。

(画面)・・・ふと,目を細める佐渡医師。
佐渡「・・・お前・・・。(さらに目を細める)・・・ずっと,そこにいたのか・・・?」

(画面)苦笑して頭をかいている真っ赤な顔のソマリア・ギル。

(画面)ため息をつく佐渡医師。すぐに表情を引き締める。
佐渡「・・・まあいい。(顔を向ける)・・・教授。アナライザーを呼んでください」
(画面)穴井教授。
穴井「・・・お? そういえば,どこ行ったんじゃ。あのボケナス」

(画面)島のボタンを外している佐渡医師。
佐渡「外の通路の反対側でバラバラになってます」

(画面)目を丸くする南部。
南部「・・・気がつかなかった」

(画面)南部の肩に手を置く穴井教授。
穴井「・・・組み立てるぞい。副官。手伝ってくれい。(うなずく南部を連れ出していく)」

(画面)検査機械を引っ張って端子を寝ている島の身体に装着し始める佐渡医師。
(効果音)電子音。装着音。

(画面)緊迫した表情に戻る佐渡医師。

(画面)その様子をじっと見ているソマリア・ギル。

(画面)酸素マスクをして目を閉じている島。

(画面)艦内通路の描写。

(画面)”許可無く立ち入りを禁ず”の文字があるスライドドア。

(画面)ドアの内側からの描写。室内である。物音も聞こえない部屋。しかし照明は明るい。

(画面)部屋の中央部に設置されている固定テーブル。こちらを向いて向こう側の椅子に腰かけている穴井沙織。向かって左隣には退屈そうに両手の甲で細いあごを支えて,口を尖らせているフロール。胸には翻訳マイクが取り付けられている。

(画面)テーブルの反対側へ座っている森 綾乃を正面から。宇宙服を着ている。ヘルメットはテーブルの上に置かれている。
綾乃「・・・(微笑)」

(画面)沙織とフロール。
フロール「・・・それは宇宙服に見えるが? 普通ヘルメットは,かぶるだろう? 地球人は普段から,そういう着こなしをしているのか? そういえば,サオリもその格好で船に乗り込んできたしな・・・」
沙織「(微笑)・・・艦内への汚染が心配だから宇宙服を着たのよね?」

(画面)笑顔の綾乃。
綾乃「・・・その通りよ」

(画面)自分の身体を見回して匂いを嗅ぐフロール。
フロール「(顔を向ける)・・・そんなに私は汚いか? レネイドブーリーにもシャワー設備ぐらいあるぞ。それに仮に私が汚くったって,その格好じゃとっくに汚染されまくってるって」

(画面)笑顔の綾乃。
綾乃「宇宙服を着るって言わないと,あなたたちに会えなかったの。(右へ視線)・・・穴井さん。あの時は,ありがとう。あなたが私に気づいてくれなかったら,今頃私どうなっていたか・・・」

(画面)左肘で身体を支えている沙織。
沙織「・・・聞きたいんでしょう? なぜ私があなたの異変に気づいたのか・・・」

(画面)綾乃。
綾乃「そうね。でも,訊きたいのはそれだけじゃないわ。(彼女たちの後方へ視線)・・・(視線を戻す)・・・あの男の人の具合はどうなの?」

(画面)沙織とフロールの後方に見える透明なスクリーンカーテン。
(効果音)電子音。

(画面)沙織とフロール。
沙織「意識は戻っていないわ。出血が多すぎたみたい。でも傷口はふさがっているようだし,まだしばらくはあの状態なら生きているわよ」

(画面)まゆをひそめる綾乃。
綾乃「・・・え? だって・・・」

(画面)微笑む沙織。
沙織「ガミラス人の生命力は,ヒューマノイド知的生物では恐らくトップクラスよ。自然治癒能力は地球人のそれをはるかに上回っているわ。こうしている間にも細胞は傷口をどんどんふさいでいくでしょうね。・・・ただ意識が戻らないのはそれに必要な材料がそろわないからよ」

(画面)しばらく黙る綾乃。
綾乃「・・・やっぱりガミラス人だったのね。あの男の人。佐渡先生は違うんじゃないかって・・・」

(画面)沙織を見ているフロール。
沙織「肌の色でしょう? 無理もないわ。太陽系内では地球軍はガミラス軍に,ほとんど歯が立たなかったものね。局地的な勝利はあったようだけど,地球軍は太陽系内でガミラス人の生きた捕虜を捕らえることはとうとうできなかったから・・・」

(画面)首をかしげる綾乃。
綾乃「・・・どういうこと?」

(画面)立ち上がる沙織。フロールは座ったまま。
沙織「(歩き出して振り返る)・・・ここへ来て確認してみる? 森さん」

(画面)綾乃のアップ。

(画面)透明なスクリーンカーテンをはさんで並んで歩み寄る沙織と綾乃。
(効果音)ふたりの足音。

(画面)綾乃のアップ。

(画面)透明なカーテンの中のベッドに寝かされているデスラー。酸素吸入マスクをされて生体チェックセンサーが枕元で作動している。ただ,その肌の色は青色である。
(効果音)電子音。

(画面)綾乃のアップ。
綾乃「・・・(沙織へ視線を向ける)」

(画面)沙織と綾乃。
沙織「・・・さすがに生命力が低下しているのよ。(後ろへ去る)」
綾乃「・・・(沙織を目で追う)」

(画面)艦内医務室。島の周りの佐渡医師。穴井教授。南部。アナライザー。
(効果音)部屋中をつんざくような長い電子音。
(画面)アナライザーのアップ。
アナライザー「・・・シンパイ テイシ ジョウタイ! ケツアツ テイカ! シンゾウ ガ トマッタ! センセ! タイヘンダ!」
(効果音)長い電子音。

(画面)生体チェック機の一番上の電子ラインがまっすぐ左から右へ流れている。
(効果音)長い電子音。

(画面)酸素マスクをはめている島。・・・徐々に失われていく生気。
(効果音)長い電子音。

(画面)歯を食いしばる佐渡医師。
(効果音)長い電子音。

(画面)唖然と顔を上げる南部。
(効果音)長い電子音。

(画面)顔色が変わっている穴井教授。
(効果音)長い電子音。
穴井「・・・な。なんじゃと・・・!」

(画面)後ろのアナライザーを振り向く佐渡医師。
佐渡「心臓蘇生システムを! アナライザー!」
(効果音)長い電子音。

(画面)カーテンから飛び出すソマリア・ギル
ギル「(英語)・・・待て! ドクター!」
(効果音)長い電子音。

(画面)顔を向けている三人を押しのけるようにしてベッドへ向かうソマリア・ギルの背中。
(効果音)長い電子音。

(画面)にらみつける佐渡医師。
佐渡「何をする! 空間騎兵隊!」

(画面)ベッドの上の島に馬乗りになるソマリア・ギル。顔を向ける。
ギル「(島へ両腕を突っ張る)・・・(英語)心臓の停まり方が異常だ! 早すぎる! (顔を下へ向けて心臓マッサージを始める)・・・機械なんかじゃ間に合わないぞ! こういうときはアナログのほうがいいんだ! (心臓マッサージ)」

(画面)見つめている佐渡医師。南部。穴井教授。

(画面)心臓マッサージを続けるソマリア・ギルのアップ。

(画面)酸素マスクをはめている島。身体が押し上げられている。

(画面)テーブルへ戻っている綾乃。
綾乃「・・・生命力が低下・・・?」

(画面)並んで座っている沙織とフロール。
沙織「・・・ガミラス人には,ふたつの肌の色があるの。極悪な環境の母星で暮らす上で必要だった本能的身体防衛・・・」

(画面)綾乃。

(画面)沙織のアングル。
沙織「・・・あなたがた地球人が知っているガミラス人の姿は,実はその周りの環境が彼らに適していないことを示すサインなの。身体のあらゆる防衛機能が働いてその身体を健康に保ち続けようとする。肌があのような色になっている時はその機能がフル稼働している時よ」

(画面)酸素マスクをはめているデスラー。

(画面)沙織のアングル。
沙織「・・・ガミラス人が本当に健全で健康な状態の時の肌の色は,あなたがた地球人の肌・・・正確に言うとアジア系の人種の肌の色と酷似しているの。その肌の色が本当のガミラス人。・・・この太陽系の若い恒星の光の成分には,かつてサンザー系の恒星が持っていた光の成分と同じものを大量に含んでいるわ。ガミラス人たちがわざわざ,はるかなこの太陽系に進行してきたのも,実はそれが理由。・・・同じような光の成分を持っている若い恒星系は大マゼラン星雲にも無数にあったけれど,そのほとんど全てがガトランティスとウームの戦場だったし,今現在は統治されてしまっているから選択の余地はなかったのよ」

(画面)考えている綾乃。
綾乃「・・・と,いうことは・・・」

(画面)興味深げに耳をかたむけているフロール。

(画面)沙織のアングル。
沙織「・・・そう。太陽系に進行してきていたガミラス人たちの肌の色は地球人とは変わらなかったはず。ただ,あなたがたはそれを確認できなかっただけの話。青い色の肌のガミラス人は,身体機能を酷使しているから長生きはできなかった。せいぜい地球時間で40年程度。冥王星基地にいたガミラス人たちは,その2倍以上は長生きできたでしょうね」

(画面)後ろを向いてから,上を向くフロール。
フロール「・・・あの男は何歳だ? サオリ。確か,あいつを助けられると言っていたが・・・。寿命の心配はないのか?」

(画面)フロールへ微笑む沙織。
沙織「・・・プリンセス。あの男は特別よ。ガミラス人を健康に保つ光の成分は,わずかだけど人工的に再現できたから。母星のクリーンルームにいたころのあの男の肌はいつも健康状態だったわ。公(おおやけ)の場で部下たちの前に出る時はそうはいかなかったようだけど。大丈夫。あの男は長生きするわよ」

(画面)けげんな表情になる綾乃。
綾乃「・・・プリンセス? (フロールへ)・・・あなたはガミラス人じゃないのね。あなたは誰なの? それと・・・あのガミラス人は・・・?」

(画面)沙織を向いているフロール。・・・正面へ向き直る。

(画面)ゆっくりと視線をこちらへ向ける沙織。
沙織「・・・私たちの自己紹介をしなければならないようね。・・・まず,ここにいる女性はガトランティス人よ。森さん。名前はフロール。宇宙戦艦ヤマトと戦って刺し違えたガトランティス元首の娘。そして今地球を目指している2代目元首の妹よ。つまり,ガトランティス連邦のプリンセスというわけ。今のところは,私たちに危害を与える様子はなさそうよ」

(画面)立ち上がって胸に手をあてるフロール。
フロール「申し遅れた。フロール・レイム・ズォーダーだ。理由があって追われている。・・・危害どころか,与えるものは何にも持っていないから,安心してほしい」

(画面)まばたきする綾乃。
綾乃「・・・プリンセスなのに逃亡者なの?」

(画面)顔を向けるフロール。急に熱っぽく語りだす。
フロール「そのリバーシブルなギャップが,むしろリアルだろ? 信じてほしい。何とかこの艦の艦長に取り次いでもらえないものか。ここで地球人に,そっぽ向かれたら今までの苦労や悩みが報われない・・・」

(画面)うつむく沙織。
沙織「・・・プリンセス。それはまだ無理よ。少なくとも今この時点の島提督では・・・」

(画面)沙織を向いているフロール。

(画面)首を前へ出す綾乃。
綾乃「・・・え・・・?」

(画面)複雑な表情の沙織。
沙織「(首を後ろへ向けて前へ)・・・あのガミラス人を紹介しなければならないわね。でも,もしかしたら紹介なんて必要ないかも。だって後ろのあのガミラス人は,すでに多くの地球人にその名を知られているから・・・」

(画面)綾乃。

(画面)無表情へと変貌していく沙織。
沙織「・・・あのガミラス人は,太陽系創生の歴史上,最も多くの地球人類を殺した男よ。・・・あの男の罪は,たとえどのような理由があろうとも,けして許されるべきものじゃないわ。そしてあの男ほど,数多くの宇宙人類たちの人生をも狂わせてきた者はいない。地球人も,イスカンダル人も,そしてガミラス人でさえも・・・」

(画面)次第に表情がこわばっていく綾乃。
綾乃「・・・まさか・・・。そんな・・・」

(画面)沙織とフロール。・・・沙織へクローズアップ。
沙織「・・・そう。・・・生きていたのよ。性懲り(しょうこり)も無くね。しかも選り(より)によって,ここへ現れてくれた。この私の目の前に・・・。あの男を知る者たちが呼ぶその代名詞は,宇宙一の強運を持つ男。よくも言ったものね。他人の運を食いつぶす存在なのよ。あの男は。・・・地球人であっても,あの男の顔だけは,元ヤマト・クルーなら一目で見破るはず。・・・そして・・・そして私も,あのガミラス人に人生を狂わされたひとりなの。憎んでも憎み足りないほどよ。・・・それなのに。(顔をふせる)・・・あの男を助ける方法がひとつだけしかないなんて。・・・死ぬのならば,私とは関係のない時間と場所で死んでほしかった。私の決断で左右されるような状態の身体で私の前に現れないでほしかった・・・! (顔を上げる)・・・私の身体にはね,・・・間違いなくあの男の忌まわしい血が流れているの。皮肉なことに今,この時この場所で,あの男を助けることができるのは,あの男を憎んでいる私だけ。・・・あの男の強運がまたここで試されているということね」

(画面)口を大きく開けて沙織をかえりみているフロールの横顔。

(画面)目を見開く綾乃。
綾乃「・・・な,なんですって・・・」

(画面)無表情の沙織。
沙織「・・・森さん。さっき,私たちの自己紹介と言ったはずよ。実は私,地球人じゃないの。・・・デスラーは私の父よ」

(画面)艦内医務室。島の周りの佐渡医師。穴井教授。南部。アナライザー。島へ馬乗りになっているソマリア・ギル。
(効果音)電子音。
(画面)アナライザー。
アナライザー「・・・シンパイ。コキュウ。ノウハ。セイタイ ハンノウ。 アンテイ シマシタ」

(画面)肩を下ろす佐渡医師のアップ。

(画面)ベッドを降りるソマリア・ギル。
ギル「・・・(汗を拭う)(英語)・・・神よ・・・」

(画面)けげんな表情で顔を上げる穴井教授。
穴井「・・・蔵造・・・?」

(画面)同じような表情の南部。
南部「・・・なんで? ・・・なんで,こんなに切迫するんですか? 先生」

(画面)顔を向ける佐渡医師。
佐渡「・・・入院させます。このことは,ここだけの話にしてください。検査入院ということにします」

(画面)南部と穴井教授。
南部「(前へ)・・・!? 入院・・・? 提督は,そんなに悪いんですか!?」
穴井「・・・蔵造。・・・病気は治ったんじゃなかったのか・・・?」

(画面)応えない佐渡医師。

(画面)佐渡医師を見るソマリア・ギル。
ギル「・・・(英語)・・・ドクター。・・・これは宇宙放射線病だな・・・?」
佐渡「・・・(黙っている)」

(画面)目を見開く南部と穴井教授。

(画面)島を向くソマリア・ギル。
ギル「(英語)・・・仲間が同じ病気になったことがある。全く同じだ。・・・物理的な理由で強制的に身体の中に入った宇宙独特の放射線ウイルスが,細胞のDNAを破壊していく。(佐渡医師へ)・・・ドクター。確か,これは不治の病じゃ・・・」

(画面)鋭くにらみつける佐渡医師。
佐渡「とにかく!」

(画面)黙る三人。

(画面)にらみつけている佐渡医師。
佐渡「・・・他言はしないでください。・・・あくまでも検査入院です。艦全体の士気に関わります。誰にも言わないでください。・・・もちろん本人にもです。よろしいですね?」

(画面)見つめている三人。

(画面)酸素マスクをして目を閉じている島。

(画面)海中に沈んでいる宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)海中。

(画面)海中。その中を泳いでくる人影。・・・近づいてくる。
(効果音)海中。

(画面)海中でのオサードのアップ。
(効果音)海中。
オサード「・・・(視線が動く)」

(画面)海中に沈んでいる宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)海中。

(画面)身体をくねらせて海中を泳ぐオサード。
(効果音)海中。

(画面)海中に沈んでいる宇宙戦艦アンドロメダ。・・・そこへ遠ざかっていくオサードの姿。
(効果音)海中。

(画面)海中。宇宙戦艦アンドロメダの機関部装甲部分外壁で溶断作業をしているクルーたち。
(効果音)海中。溶断。気泡。

(画面)オサードのアップ。・・・ふと顔を上げる。
(効果音)海中。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦尾部分から突出しているタワークレーン。・・・交換用の装甲が吊られて海中をゆっくり回転している様子。
(効果音)海中での機械音。

(画面)クルーたちの死角へ回り込んで,吊られている装甲の外側へ泳ぎ着くオサード。
(効果音)海中での機械音。

(画面)吊られている交換用の装甲の内側。・・・少しずつ近づいてくる。両手を手前へ振って誘導しているクルーたち。
(効果音)海中での機械音。

(画面)交換用装甲を外側からのアングル。・・・交換用の装甲の大きさに合わせて溶断された艦尾の四角い穴へゆっくりと近づいていく。その外側に背中をぴったりとつけているオサードの姿。
(効果音)海中での機械音。

(画面)タイミングを見計らっている様子のオサード。
(効果音)海中での機械音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダの艦尾に開いている四角い穴の外観。・・・ゆっくりと交換用の装甲がその穴にぴったりとはまるように近づいていく。・・・徐々に狭まっていく交換用装甲と四角い穴の隙間。
(効果音)海中での機械音。

(画面)タイミングを見計らっている様子のオサード。
(効果音)海中での機械音。

(画面)四角い穴に交換用の装甲がはまる寸前に,そのわずかな隙間へ身体を滑り込ませるオサード。・・・ぴったりと艦尾にはまる装甲。
(効果音)海中での機械音。はまる瞬間の金属音。

(画面)海中。はまった装甲の外側で溶接作業を開始するクルーたち。緊急の,しかも過酷な作業のためか,誰ひとりとしてこの侵入者に気づいた者はいないようだ。
(効果音)海中での溶接音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ機関室内部。・・・薄暗い海中を泳ぎ降りてくるオサード。
(効果音)海中。

(画面)機関室内部で作業しているスタッフの横を泳いでいくオサード。・・・各自スポットライトでの作業で視界は狭い。
(効果音)海中。

(画面)オサードのアップ。
(効果音)海中。

(画面)出入り口ハッチからクルーが機関室内へ入ってくる様子。
(効果音)海中。

(画面)いったん,両足を下ろして海中で停止するオサード。・・・方向を変えて海中を泳ぎ始める。
(効果音)海中。

(画面)ぴくりと顔を上げる沙織。

(画面)綾乃がまゆをひそめる。
綾乃「・・・どうしたの? 穴井さん」

(画面)左手で,あごを支えて左を見ているフロール。

(画面)苦笑して顔を向ける沙織。
沙織「・・・全ては,あのデスラーのせいね。あの男が身近に現れてくれたおかげで,せっかく忘れていた私の嫌な能力が目覚めてしまった。穴井雷蔵さんは,何もかもを承知の上で私を受け入れてくれた・・・。地球人として生きていく決心をしていたのに・・・」

(画面)あごを支えているフロールのアップ。
フロール「・・・確かガミラス帝星はイスカンダル帝星の他にサイレン公国とも国交があったとの記録がある。デスラーはよくサイレン公国にも外遊していたとのことだが・・・? サイレン人は様々な超能力を持っていたらしいが」

(画面)顔を向ける沙織。
沙織「(微笑)・・・ふふふ。なかなかいい読みをするわね。プリンセス。・・・ただ,信じてもらうしかないけど,純粋のサイレン人ではないから,かなりのエネルギーと時間がないと人の心は読めないわ。だから警戒しなくても大丈夫よ。今の状況では私はあなたがたの心を読むことはできない。ただ・・・」

(画面)乗り出す綾乃。
綾乃「・・・ただ・・・?」

(画面)緊張した面持ちの沙織。
沙織「・・・ただ・・・。心を持つ生命体の物理的な動きは分かってしまうの。それがガミラス人であっても,ガトランティス人であっても,(綾乃へ)・・・医務室で気を失っていた地球人であってもね。・・・森さん。今だから言えることだけど・・・島提督の命は何とか持ちこたえたわよ。だから安心して」

(画面)息を呑む綾乃。
綾乃「・・・え? それって・・・?」

(画面)緊張した面持ちの沙織。
沙織「インターホンで確認してみるといいわ。・・・それと,もうひとつ。・・・この船に何者かが侵入したということも伝えて」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦内通路。・・・通路の壁に背中を押し付けて通路交差を警戒しているオサード。ヘルメットは取り去っている。・・・人影がないのを確認して走り去って行く戦闘機服のオサード。
(効果音)足音。

(画面)艦内医務室。ブザーが鳴るインターホン。
(効果音)ブザー音。

(画面)インターホンを取る佐渡医師。
佐渡「・・・医務室! (受話器へ視線)・・・森くん?!」

(画面)振り向く南部とソマリアギル。

(画面)受話器を持っている綾乃。
綾乃「・・・先生! 提督は大丈夫ですか?」

(画面)思わず自分で持っている受話器を見る佐渡医師。
佐渡「・・・(再び受話器へ)・・・なぜ,それを知っているんだ? ・・・それよりも,どこから連絡している! これは室間インターホンだぞ! 君はヘルメットを外しているのか?」

(画面)受話器を持っている綾乃。
綾乃「・・・先生! 大至急,全艦に警戒発令を出してください!」

(画面)まゆをひそめる佐渡医師。
佐渡「・・・え?!」

(画面)受話器を持っている綾乃。
綾乃「・・・アンドロメダに侵入者です! 何者かがこの船に潜り込んだようなんです! 早く急いで!」

(画面)まゆをひそめている佐渡医師。
佐渡「・・・何を言っているんだ? 森くん」」

(画面)様子をうかがっている穴井教授。

(画面)受話器を持ったまま首をかしげている佐渡医師。・・・穴井教授が近づく。
(画面)穴井教授。
穴井「・・・どうしたんじゃ? 蔵造」

(画面)けげんな表情の佐渡医師。
佐渡「・・・いや・・・。異星人たちと穴井測定士のいる部屋から森くんが電話してきたんです。・・・アンドロメダに侵入者が潜り込んだと・・・」

(画面)目を見開く穴井教授。
穴井「侵入者・・・! (うつむいて考える様子)」

(画面)顔を向ける南部とソマリア・ギルとアナライザー。

(画面)けげんな表情の佐渡医師。
佐渡「・・・あんな孤立している密室にいて,何でそんなことが分かるっていうのか・・・」

(画面)上げた顔が,みるみる厳しい表情になる穴井教授。
穴井「・・・蔵造! それは多分,本当じゃぞ! ・・・沙織が気づいたんじゃ・・・!」

(画面)困惑している佐渡医師。
佐渡「・・・え? いや,しかし。・・・侵入者っていっても,一体全体どこから艦内に入れるっていうんですか? しかも誰にも気づかれずにですよ」

(画面)その言葉を受け流し,背中を向けて南部へ近づき声をかける穴井教授。
穴井「副官! 至急,全艦に第一級警戒態勢を布くんじゃ!」

(画面)うろたえる南部。
南部「・・・あ・・・でも。・・・」

(画面)腕を引く穴井教授。
穴井「何やっとるんじゃ! 全く。島提督がいない時は副官であるお前がしっかりしないでどうするんじゃ!」

(画面)固まっている南部。

(画面)目を丸くしている佐渡医師。

(画面)南部のところから再び近づいてくる穴井教授。
穴井「蔵造・・・!」

(画面)視線を下に向ける佐渡医師。

(画面)神妙な顔つきで見上げている穴井教授。
穴井「(声が小さくなる)・・・蔵造・・・。最後にひとつ,おしえてもらえんか・・・。島提督は・・・」

(画面)見つめている佐渡医師。

(画面)顔を向ける穴井教授。
穴井「・・・島提督は・・・もう・・・?」

(画面)黙っている佐渡医師。

(画面)南部とソマリア・ギルとアナライザー。

(画面)そしてわずかに,にじみ出た感情をすすり上げてうつむく穴井教授。
穴井「・・・そうか・・・。(ゆっくりと顔を上げる)・・・そうか。・・・蔵造。頼みがあるんじゃ。・・・一度だけ・・・」

(画面)佐渡医師。

(画面)穴井教授のアップ。
穴井「・・・あと一度だけでいい・・・。島を・・・島を,もう一度,あの席に座らせてやってくれい・・・。頼む。・・・それまでわしらは何としてでもこの艦を守り抜いていくから・・・。頼む,蔵造。あと一度だけでいい。・・・頼む。この通りだ。(頭を下げる)」

(画面)南部とソマリア・ギルとアナライザー。

(画面)佐渡医師。
佐渡「・・・教授・・・」

(画面)再び南部のもとへ行く穴井教授。
穴井「早くブリッジへもどるぞい! 急ぐぞ,副官! (ソマリア・ギルへ)・・・お前も来るんじゃ,急げ! ギル!」

(画面)自分を指差すソマリア・ギル。
ギル「(目を丸くしている)・・・ギル・・・」

(画面)頭部を点滅させるアナライザー。
アナライザー「ハヤク イケ イケ ぎる」

(画面)ふたりの腕を引きずって,医務室から出て行く穴井教授。・・・閉まるスライドドア。

(穴井教授の声)・・・ブリッジはこっちじゃ! どこ行くんじゃ! このギル!
(ソマリア・ギルの声)・・・コノギル・・・。

(画面)黙って見ている佐渡医師。
(BGM)H-1

(画面)艦内通路。隅に隠れて,身をかがめて右手首のバンドを操作しているオサード。
(画面)右手首のバンドの描写。点滅しているポイント。
(効果音)小さな電子音。
オサード「・・・(立ち上がる)」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダスタンバイルーム。文字通り,スタンバっている68人のブラックタイガー隊員たち。周囲には煙草の煙が充満しており,雑誌を読む者,花札を打つ者・・・。
(隊員たちの話し声。ざわめき)

(画面)退屈しきっている様子の長倉三郎太。
三郎太「・・・隊長ぉ・・・! 何だか知らないっすけど,やけに長い間俺たちの出番がないような気がしないっすかぁ?」

(画面)くわえ煙草で雑誌をめくる桂 巧隊長。
桂「仕方がねえだろ! 三郎太! それぞれ色々と大人の事情ってもんがあるんだからよ!」

(画面)急にお腹を抱える三郎太。
三郎太「・・・ああ。隊長! あんまり暇なもんで,また腹の具合が悪くなってきたっすよ! アンドロメダの動力が落ちた時に,冷蔵庫の中身が腐っちゃったんじゃないっすか? いててて・・・(立ち上がる)」
(BGM)H−1

(画面)灰皿へ灰を落として,顔を上げる桂隊長。
桂「(強面)・・・なんだい。またクソか! しょうがねえやつだな。いいか,三郎太! 腹くだしてんのは,お前だけなんだぞ! 第一,あん時ぁアンドロメダは冷蔵庫よりも冷えきってたんだ! 飯が腐るわきゃねえだろが! 大体,胃腸の弱い戦闘機乗りなんざ・・・」

(画面)閉まる出入り口ドア。
(効果音)開閉音。

(画面)くわえ煙草の桂隊長のアップ。
桂「・・・行っちまいやがった・・・。しかし全くよく出やがんな。どこにそんなに入ってんだ」
(効果音)警戒サイレン。

(画面)見上げる桂隊長。
(効果音)警戒サイレン。

(画面)艦内スピーカーの描写。
(効果音)警戒サイレン。
(BGM)H−1
(南部の声)・・・全乗組員へ! 全乗組員へ! 第一級警戒態勢! アンドロメダに侵入者! 復旧作業者以外の乗組員は艦内を循環。捜索し,侵入者の捕獲に勤めよ! 繰り返す! 全艦,第一級警戒態勢! 全乗組員は,侵入者の捜索,捕獲に勤めよ! 

(画面)見上げているブラックタイガー隊員たち。
(南部の声)・・・復旧作業者は各自,銃を携帯! 不慮の事態に備えよ! なお,単独行動は禁ずる! 捜索は複数グループで行うよう! 以上だ! 

(画面)くわえ煙草の灰が落ちる桂隊長。
桂「・・・侵入者だぁ? 勝手口のすき間からゴキブリでも入ったかよ・・・! (立ち上がる)」
(BGM一時停止)

(画面)医務室。デスクに座ってこちらを見ている佐渡医師。・・・ゆっくり画面が引いていく。画面手前には酸素マスクをして昏睡している島のぼやけたアングルの横顔。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)生体チェック機の描写。安定している様子の周波。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)寝ている島のベッドの脇にはアナライザーが立っている。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)デスクで指を組んでうつむいている佐渡医師。膝には子猫。
佐渡「・・・もう一度,あの席・・・にか・・・」

(画面)昏睡している島。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)表情を曇らせている佐渡医師。
佐渡「・・・ここで本格的に手術をすれば,島さんはあと数ヶ月・・・いや。一年は生きていられるかも知れない。しかし二度とベッドから起き上がることは出来なくなる・・・」

(画面)見つめているアナライザー。

(画面)苦悶の佐渡医師。うつむく。
佐渡「・・・応急処置ならば,艦長席に座れて指示さえ出せるようになるだろう。・・・しかし,恐らく2週間ももつまい・・・。(顔を上げる)・・・ロボット君。島さんとは長いつきあいの君だ・・・。どちらの選択が島さんにとって幸せなのか・・・。君なら,どちらを選ぶかい?」

(画面)見つめているアナライザー。
アナライザー「・・・センセ。ボク ハ キカイ デスヨ。・・・ニンゲン ノ キモチ ヲ ボク ニ シツモン スルンデスカ?」

(画面)苦笑する佐渡医師。
佐渡「・・・不思議なものだ。どういうわけか,君なら人間の気持ちを分かってくれそうな気がするんだよ。機械の君にね・・・」

(画面)見つめているアナライザー。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)見つめている佐渡医師。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)頭部を点滅させるアナライザー。
アナライザー「・・・センセ。・・・ジツハ ソノ シツモン ハ ボク ニ トッテ ハジメテ ノ シツモン デハ ナインデス」

(画面)佐渡医師。

(画面)頭部を点滅させるアナライザー。
アナライザー「・・・2ネン マエ ニモ ボク ハ オナジ シツモン ヲ ウケテ イマス。・・・やまと ノ イムシツ デ」

(画面)両指に力をこめる佐渡医師。
佐渡「・・・! (うつむく)」

(画面)見つめているアナライザー。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)佐渡医師のアップ。
佐渡「(歯を食いしばる)・・・!」

(画面)見つめているアナライザー。
(効果音)生体チェック機の電子音。

(画面)佐渡医師のアップ。
佐渡「・・・じっちゃん・・・!」

(画面)艦内通路。桂隊長を先頭に走っているブラックタイガー隊員たち。
(効果音)複数の足音。
(BGM)H−1

(画面)右方向を指差す桂隊長。
桂「お前らは,向こう当たれ! (前を指差す)・・・俺たちは,こっちだ! (走り出す)」

(画面)誰もいない艦内通路。交差する壁から様子をうかがっているオサード。・・・すぐに姿を隠す。
(BGM)H−1

(画面)右腕の計器バンドをチェックするオサード。なぜかブラックタイガーチームのユニホームを着ている。
(効果音)小さな金属音。近づいてくる複数の足音。
オサード「・・・(振り向く)」

(画面)向こう側の通路を走って通りすぎていくブラックタイガー隊員たち。手前の壁へ身をひそめているオサード。
(隊員の声)・・・いないぞ! 隠れられるところは全部さがせ! (通り過ぎていく)
(効果音)複数の足音。

(画面)ユニホームの翻訳マイクを外して操作するオサード。
(効果音)衣擦れ。操作音。

(画面)翻訳マイクの小さな横長のディスプレイ画面。・・・”English”の文字が表示されている。

(画面)操作しているオサードのアップ。
(効果音)操作音。

(画面)翻訳マイクの小さな横長のディスプレイ画面。・・・”Japanese”の文字が表示される。
(効果音)電子音。

(画面)翻訳マイクを胸にセットして,顔を上げるオサード。後ろを振り返り,前へ走り出す。
(効果音)足音。

(画面)艦内通路。銃を持って捜索しているソマリア・ギルはじめ空間騎兵隊たち。
(効果音)複数の足音。

(画面)周辺を見回しているソマリア・ギル。
ギル「(英語)・・・ガッデム! ただ,侵入者といってもなあ。顔も種族も特徴も何も分からない相手を,どうやって捜せっていうんだ・・・!」

(画面)ソマリア・ギルの横に近づく隊員。
隊員「(英語)・・・誰もその侵入者を見た者はいないのでしょう? 隊長。どう考えてもおかしいですよ。侵入者に気づいた女って,どんなやつなんですか? ただの狂言じゃないんですか?」

(画面)顔を向けるソマリア・ギル。
ギル「(英語)・・・ミスター・アナイの孫娘だそうだ。しかしな。ミスター・アナイが,かなり真面目に信じていたところを見るとどうも狂言には思えない説得力があるんだ。東洋人は昔から不思議な力を持っていたからな。ガミラスを倒したのも日本人だ。下手に疑って本当に侵入者がいれば,そっちの方が問題だぞ。ここは素直に信じて,狂言だったという方がむしろ平和的じゃないか。どうだ」

(画面)別のエリアを捜している薮と太田。ふたりともサーチライトを持っている。
(効果音)複数の足音。

(画面)当てるライト越しの薮。
薮「・・・太田さん。相手はガトランティス人ですかね・・・?」

(画面)ライトを下へ向ける太田。
太田「何とも言えないな。・・・ただ,どうにもあの穴井測定士はウサンくさいとは思わないか。薮」

(画面)後ろを向く薮。
薮「え? どうしてですか? 太田さん」

(画面)上半身を伸ばす太田。
太田「(顔を向ける)・・・お前,感じないのか? 彼女の一連の行動だよ。ガミラス語を流暢(りゅうちょう)に話して,森さんの危機を事前に感じ取り,異星人たちの存在をいち早く察知できた。海中でヘルメットを外して異星船に乗る離れ業をこなしたかと思えば,挙句(あげく)の果てにはこの侵入者騒動だ。どう考えても普通の行動じゃない。教授の孫娘だというから何も言わずに遠慮はしているが,どうにも納得がいかない事ばかりだ」

(画面)目を上げる薮。
薮「・・・そうでしょうか? 僕には,気さくで行動力のある頭のいい女性に見えますけど・・・」

(画面)目を丸くする太田。

(画面)ライトで物陰を照らしている薮。

(画面)目を丸くしている太田。・・・にやにやし始める。
太田「(にやにや)・・・薮。・・・お前,まさか穴井測定士をプラス思考でしか見られなくなっているんじゃないか? ”あばたもえくぼ”って言うもんなあ・・・」

(画面)驚いた表情で顔を向ける薮。・・・ふくれ面で真赤になる。
薮「・・・太田さん! 変な,勘ぐりやめてくださいよ! ほら! 捜索を続けますよ! (ライトを持って背を向ける)」

(画面)にやにやしながらサーチライトで捜索を再開する太田。

(画面)通路の途中で立ち止まる桂隊長と数名の隊員たち。
桂「・・・ふう! あらためて思い知るぜ! でかい船だな! アンドロメダっつうのは・・・!」
(BGM)H−1

(画面)走り寄ってくるひとりの隊員。
(効果音)足音。
隊員「・・・隊長!」

(画面)顔を向ける桂隊長。

(画面)立ち止まって,後ろを指差す隊員。
隊員「トイレで不審な物音がします!」

(画面)隊員を追い抜く桂隊長。振り向く隊員。後続の隊員たちも続く。
(効果音)複数の足音。

(画面)艦内通路の壁の影で立ち止まるオサード。
(BGM)H−1
(画面)壁の影から顔を出すオサード。

(画面)艦内貨物ハッチの出入り口。数名のブラックタイガー隊員たちが捜索している様子。

(画面)壁の影から顔を出しているオサード。・・・すぐに壁の影へ隠れる。

(画面)艦内トイレ入り口で立ち止まる桂隊長はじめ数人の隊員たち。全員がホルダーから銃を抜いて顔の近くへ構える。
桂「・・・(隊員へ,あごで指示して先に踏み込む)」

(画面)艦内トイレ内からのアングル。・・・銃を構えながら踏み込んでくる桂隊長と隊員たち。
(効果音)複数の足音。

(画面)唯一閉まっているトイレの個室ドアの左右に立ち止まる隊員たち。左に桂隊長。
(BGM)H−1

(画面)桂隊長の横顔のアップ。
桂「(顔を向けて,うなずく)」

(画面)トイレの個室ドアを蹴り倒す桂隊長の足。
(効果音)衝撃音。

(画面)トイレの個室の内側からのアングル。ドアは手前へ蹴り倒されている。一斉にこちらへ銃を構えている桂隊長はじめブラックタイガー隊員たち。
(効果音)ドアの倒れる音。複数の小さな金属音。

(画面)個室の便器の横で,トランクス一枚の姿で両手両足を縛られて,さるぐつわをされて転がっている三郎太。
(声にならない声)・・・ふぁいひょう!

(画面)銃を構えたまま目を丸くしている隊員たち。

(画面)目を丸くしている桂隊長。
桂「・・・さ! 三郎太ぁ! 何やってんだぁ! そのざまぁ!」

(画面)左右の隊員にさるぐつわを取ってもらう三郎太。
三郎太「・・・隊長ぉ!」

(画面)強面の顔を渋くしかめる桂隊長。
桂「・・・情けねえやつだな・・・! お前それでも誇りの出るブラックタイガー隊員かよ!」

(画面)左右の隊員に縄をほどいてもらっている三郎太。
三郎太「・・・言葉,間違ってますぅ! だって隊長。あの状態じゃ,どうにもならなかったんっすよ! 完全に不意つかれて・・・」

(画面)真上から指差す桂隊長。
桂「クソをしっていたのを理由にすんじゃねえ! 戦闘機乗りってんのはなあ! 身体中クソまみれになっても,クソ投げつけてでも相手に不覚はとらねえもんだ! クソったれ!」

(画面)しょぼくれる三郎太。
三郎太「・・・そんな隊長ぉ・・・。そんなにクソクソ言わなくても・・・。確かにクソは,たれたっすけど・・・」

(画面)思案する桂隊長。
桂「・・・とにかくこの船に不逞の輩(ふていのやから)が潜り込んでいるのは間違いねえってこったな・・・。(三郎太へ)・・・どんなやつだった,三郎太! そいつはひとりか?」

(画面)トランクス姿で立ち上がる三郎太。
三郎太「・・・ひとりのようでしたっす。ただ,地球艦隊の戦闘機服を着てたような・・・。地球人だったのかな?」

(画面)中指で眉間を押す桂隊長。
桂「バカヤロウが。そいつは間違いなくガトランティス人だ。多分,冥王星会戦の生き残りだろうよ。顔も見てねえのか。全く」

(画面)きょとんとする三郎太。
三郎太「・・・だって隊長。地球軍の戦闘機服だったっすよ」

(画面)指差す桂隊長。
桂「今はブラックタイガーの戦闘機服を着ているんじゃねえのか? そいつは! 大体,地球人だったら俺たちから逃げ回るかよ! 人を見かけだけで判断するんじゃねえ!」

(画面)納得する三郎太。
三郎太「・・・さすが隊長。隊長が言うと,やたらと説得力があるっす・・・」

(効果音)呼び出し電子音。
(画面)耳に装着されている受信機に反応する桂隊長。
桂「・・・(マイクを伸ばす)・・・なんだ!?」
(通信音声)・・・不審な人影を通路で見かけました! 第14エリア付近です!
桂「(マイクへ)・・・でかした! 絶対に逃がすんじゃねえぞ! (顔を上げる)・・・行くぞ,野郎ども! (三郎太へ)・・・お前もついて来い! 三郎太!」

(画面)うろたえる三郎太。
三郎太「ええ? この格好でですかぁ?」

(画面)振り返る桂隊長。
桂「あたりめえだ! 取られた自分の服は,てめえで取り返せ! (指差す)・・・それよりも,てめえ。ちゃんと拭いたんだろうな!?」

(画面)壁の影から様子を見ているオサード。
(BGM)H−1

(画面)艦内貨物ハッチ付近。その場にいたブラックタイガー隊員たちが一斉に走り去っていく。
(隊員の声)・・・第14エリアだ! 急げ!
(効果音)遠ざかる複数の足音。

(画面)壁の影から様子を見ているオサード。

(画面)通信マイクを収納するオサードのアップ。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。目を丸くしている南部。
(効果音)ブリッジ内機械音。
南部「・・・穴井測定士を捜索に参加させろと言うんですか?」

(画面)穴井教授。
穴井「そうじゃ。沙織ならば,侵入者の動きを的確に捉えることができる。侵入者は誰にも気づかれずに艦内に入り込んだ上に,これだけの捜索人数にまだ気配さえも悟らせておらん。相当な,したたか者じゃぞ。沙織の力が必要じゃ」

(画面)首をかしげる南部。
南部「・・・穴井測定士の力が必要だというところが,よく分かりませんが・・・。とにかく今,彼女は提督の命令で謹慎処分中です。私の独断で決定できることではありませんよ。教授」

(画面)前へ出る穴井教授。
穴井「・・・不慮の事態で指揮官が不在の時は副官が最終権限を持てるきまりじゃ。何とかならんのか」

(画面)首を振る南部。
南部「駄目ですね。それならば余計に私は穴井測定士の謹慎を解くことは出来ません。上官の命令違反はそう簡単に免除できるものではありません。肉親の要請であれば,なおさらです。教授」

(画面)にがみばしる穴井教授。
穴井「・・・まったく。お前さん,それでも元ヤマト戦士か? 古代を見ておらんかったのか? それじゃ,大きくなれんぞい」

(画面)艦内貨物ハッチ付近。ハッチ操作盤へ近づいていくオサードの後ろ姿。
(BGM)H−1

(画面)周辺を確認して操作盤を開けるオサード。

(画面)画面左端にオサードの後ろ姿。・・・右手で操作盤を操作しているオサード。
(効果音)操作音。

(画面)医務室気密室内。親指と人差し指第二関節で,あごと口を押さえる沙織。
沙織「・・・侵入者は翻訳通信装置を手に入れたわ。艦内に嘘の情報が流れている・・・」

(画面)見つめている綾乃。

(画面)顔を向けているフロール。
フロール「・・・侵入者はガトランティス人か?」

(画面)両手を置く沙織。
沙織「・・・間違いないわ。ガトランティス人にしては恐ろしく頭の切れる男性ね。一目で異星の機械を操作できている。今,貨物用ハッチにいるわ。内側ハッチを開放させようとしているみたい。貨物艇でも盗み出すつもりかしら」

(画面)あごを支えるフロール。
フロール「・・・ガトランティス人にしては・・・というくだりには,少し素直になれないな。サオリ」

(画面)艦内の第14エリア内に集まってきている乗組員たち。
(字幕)第14エリア(画面下部横文字)
(効果音)複数の足音。
(乗組員の声)・・・どうだ! いたか!
(乗組員の声)・・・いえ! いません!

(画面)第14エリアで立ちすくんでいる薮と太田。
薮「・・・いませんね。太田さん・・・。誰からの通信だったんでしょうか?」
太田「・・・」

(画面)艦内貨物ハッチ全景。・・・ゆっくりと上へ開いていく内側ハッチ。中は広いエリア。向こう側には外側ハッチ。
(効果音)開閉音。
(BGM)H−1

(画面)見上げているオサード。・・・正面を向く。
(効果音)開閉音。

(画面)開いている途中で内側ハッチのスペースへ潜り込むオサードの後ろ姿。
(効果音)開閉音。

(画面)貨物ハッチ内部。手前にオサードの後ろ姿を遠めから。ハッチ内の左サイドに貨物艇が2隻と,救命艇が3艘,立体ステージに縦方向に収納されている。
(効果音)開閉音。

(画面)見上げているオサード。・・・ゆっくりと視線を下げる。
(効果音)開閉音。
(BGM消える)

(画面)艦内第14エリアで捜索している乗組員たち。
(効果音)雑音。

(画面)ぴくりと顔を上げる太田。気づく薮。
薮「・・・どうしたんですか? 太田さん」

(画面)表情が変わっている太田のアップ。
太田「・・・! (薮へ)・・・この場所を教えた通信音声はどこからのものだった? 薮!」

(画面)きょとんとしてから通信マイクを確認する薮。
薮「・・・えっと・・・。(顔を上げる)・・・左舷13番貨物ハッチ付近ですね」

(画面)表情が変わっている太田のアップ。
太田「・・・! しまった・・・! これは罠だ!」

(画面)走りかける太田。横には薮。
太田「貨物ハッチだ! 急げ! (走り出す)」
薮「あ・・・! 太田さん! 待ってくださいよお! (後を追う)」

(画面)貨物ハッチ内のオサードの横向きの姿。
(効果音)内側ハッチ全開。

(画面)無表情のオサード。・・・動きが止まっている。

(画面)貨物ハッチ内部。立体ステージの描写。一番上には救命艇。・・・徐々に下へ下がるアングル。・・・貨物艇。・・・そして再び救命艇。

(画面)無表情のオサード。

(画面)貨物ハッチ内部。立体ステージの描写。・・・さらに徐々に下へ下がるアングル。・・・貨物艇。・・・そして・・・。

(画面)無表情のオサード。

(画面)・・・立体ステージのその一番下に収納されている白い宇宙艇。

(画面)無表情のオサード。完全に無防備状態。

(画面)無表情のオサード。
(桂隊長の声)・・・そこまでだぜ! ガトランティス人!
オサード「・・・(瞳を左へ)」

(画面)銃を構えている桂隊長。その後ろにはトランクス姿の三郎太と,同じように銃を構えている隊員たち。
桂「翻訳機は動いてんだろう? 言葉ぁ判るはずだ! 両腕を上に上げろ! 地球の取り決めじゃ,腕を上げないやつは撃ってもいいことになってんだ! 撃たれたくはないだろが!」

(画面)両腕を上げて身体を向けるオサード。・・・すぐさま隊員が両側から近づいてオサードのホルダーから銃を取り上げ,両腕を背中へ絞り上げる。
オサード「(無表情)・・・よく分かったな。地球人」

(画面)銃を構えたまま,にやりと笑う桂隊長。後ろにはトランクス姿の三郎太。
桂「・・・この場所の近くから発信された通信はよぉ! あまりにも完璧な日本語だったのさ! ほとんど日本人ばかりのこの船で,日本語の翻訳音声ほど怪しいものはねえんだよ! 他の連中はだませても,俺の耳はごまかせなかったってわけだ! いやあ! それにしても,地球語って本当に難しいもんだよな! 同情するぜ。ガトランティス人!」
三郎太「(桂隊長を指差す)・・・かっこいい! 隊長!」

(画面)ブラックタイガー隊員に両側から押さえられているオサード。
オサード「・・・あそこに格納されているのはレネイドブーリー号だな。・・・この船に乗っているのか。プリンセスが」

(画面)銃を収める桂隊長。
桂「・・・んあ? プリンだぁ?」

(画面)押さえられながらも無表情のオサード。
オサード「ゾッド・アルド閣下の令嬢だ。プリンセス・フロールがここにいるのかと訊いている」

(画面)腰に手をあてる桂隊長と三郎太。
桂「だったら,どうだってんだ」

(画面)押さえられているオサード。
オサード「案内してもらおう」

(画面)にやりと笑う桂隊長。
桂「・・・どうやらまだ地球語が完璧じゃねえようだな。今のところそれは,お前さんの立場じゃ不可能なんだぜ。不埒(ふらち)なゴキブリさんよ」

(画面)押さえられているオサード。
オサード「・・・なるほど。地球語というのは難しいものだな。(引かれていく)」

(画面)ブラックタイガー隊員たちの目の前を,両腕を押さえている隊員たちに引かれて歩き去っていくオサードの後ろ姿。それを目で追う桂隊長らブラックタイガー隊員たち。
(効果音)複数の足音。

(画面)桂隊長と三郎太の前を横切っていくオサードと両側の隊員の後ろ姿。
(効果音)複数の足音。

(画面)オサードを目で追っている桂隊長。その後ろから話しかける三郎太。
三郎太「・・・隊長」
桂「・・・(振り向く)」
三郎太「・・・あのガトランティス人って,山本先輩にどこか感じが似ていると思わないっすか?」
桂「(まゆをひそめる)・・・あん? 明(あきら)にかぁ? そうかぁ? 性格の悪そうなところか? どうせ他人の空似(そらに)だろうがよ」
三郎太「(視線を遠くへ)・・・そりゃまあ,異星人ですから・・・」

(画面)宇宙空間に映える大マゼラン星雲。

(画面)宇宙空間に浮かぶ惑星ガトランティス。

(画面)惑星ガトランティス地表。恒星ガトランがゆっくりと海面へ赤い光を放って沈んでいく様子を一望できる丘。・・・その丘には多数の墓石が立ち並んでいる。それはさながら,地球の英雄の丘と酷似。・・・アングル移動。

(画面)ひとつの墓石の前で花束を持っているガトランティス人女性がひとり。地球年齢で50代というところか。・・・身をかがめて墓石の前に花束を置く。死者への供養に花を添えるのはどうやら宇宙共通の姿であるようだ。

(画面)しゃがんでいる女性を正面から。悲しげな表情の奥に鋭く感じさせる後悔の光が瞳に宿っている。・・・彼女の背後へ歩み寄ってくるもうひとりの女性。地球年齢で20代くらい。
若い女性「・・・お母さん。もう日が暮れるわよ。このところ夜は物騒よ。早く帰りましょう」
母親「・・・(動かない)」

(画面)目を閉じる母親の横顔。

(画面)若い女性は母親の娘のようである。
娘「・・・お母さん。兄さんの仇はきっとレック・アルド閣下がとってくださるわ。兄さんの魂の前で・・・」

(画面)目を閉じている母親のアップ。

(画面)回想シーン。中央部を回転させて防護気流を発生させている都市帝国。・・・そこへ向かっていく数十機のコスモタイガーU戦闘機。
(効果音)気流音。複数の噴射音。

(画面)回想シーン。都市帝国の回転している台座で対空射撃を開始している対空砲塔,十数棟。飛び交う機銃の弾光。
(効果音)対空射撃。気流音。

(画面)回想シーン。歯を食いしばって,引き金を引き続けている若いガトランティス戦士。
(効果音)機銃発射音。

(画面)回想シーン。対空砲火の弾光に見舞われるコスモタイガーU戦闘機2機。
(効果音)機銃音。噴射音。気流音。

(画面)回想シーン。歯を食いしばって,引き金を引き続けている若いガトランティス戦士。
(効果音)機銃発射音。

(画面)回想シーン。対空砲火の弾光を巧みにかわすコスモタイガーU戦闘機。1機。もう1機は弾光の直撃を受けて四散。・・・ゆっくりと迫ってくるコスモタイガーU戦闘機コクピット。
(効果音)機銃音。噴射音。気流音。

(画面)回想シーン。コスモタイガーUコクピットで操縦管を握っている長髪の若いパイロット。
(字幕)コスモタイガーパイロット 山本 明(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)

(画面)回想シーン。ミサイル発射管を引く山本。
(効果音)発射管金属音。

(画面)回想シーン。ミサイルが発射されるコスモタイガーU戦闘機。
(効果音)圧倒的な気流音。かき消されるミサイル発射音。

(画面)回想シーン。対空砲塔へ向かう2基のミサイル。・・・そして直撃。爆光。台座から大破する機銃砲塔。
(効果音)圧倒的な気流音。

(画面)回想シーン。コクピットから左方向へ哀悼の敬礼をする山本。
(効果音)圧倒的な気流音。

(画面)回想シーン。外れかける砲塔の一部に必死でつかまっている若いガトランティス戦士。
(効果音)圧倒的な気流音。
戦士「(苦しげな表情)・・・うわああ・・・!」

(画面)墓石へ向かっている母親の顔へ夕日が当たっている。
母親「・・・私があの子を殺したようなものよ・・・」

(画面)見つめている娘。

(画面)墓石へ向かっている母親。
母親「・・・銀河系遠征は出世のチャンスだって・・・。私に楽をさせるんだって・・・あの子は。私がもっとあの子を止めてさえいれば・・・」

(画面)見つめている娘。
娘「・・・お母さん・・・」

(画面)墓石へ向かっている母親。
母親「・・・この戦争で,あの子の気持ちが安らぐんだったら・・・。でも。地球にも,子の親はいるんでしょうね・・・。なんで戦争なんて・・・」

(画面)恒星ガトランをのぞむ丘をバードビュー。墓石へ向かっているふたりの女性の後ろ姿。・・・やがて海面へその姿をゆっくりと没していく恒星ガトラン。

(画面)宇宙空間に浮かぶ地球。

(画面)広いテーブルに各自治区代表が集まっている。前回のネット会議は連合艦隊司令官の集まりであったが,今回は自治区連合を含む司令長官レベルの会議である。アフリカ連合。アジア連合。北アメリカ連合。南アメリカ連合。ヨーロッパ連合。オーストラリア連合。6つの連合より代表各3名が出席。計18名。連合艦隊編成会議の時と同じメンバーである。

(画面)沈痛な表情のアメリカ代表。

(画面)フランス代表も口をつぐんでいる。

(画面)日本代表の藤堂司令長官が各代表を見回している様子。どうやら彼は発言済みであり,各代表の言葉を待っている体勢のようだ。

(画面)アンゴラ代表がゆっくりと顔を上げる。
アンゴラ代表「・・・(ポルトガル語)・・・トウドウ司令の報告は,よく分かりました。ベルナルド司令は我が自治区連合の誇りです。そして彼が命がけで我々に問いかけた選択肢は,しかし。我がアフリカ自治区連合にすればすでにその結論は出ております・・・」

(画面)視線を向ける各代表。

(画面)しっかりとその視線を受け止めているアンゴラ代表。
アンゴラ代表「(ポルトガル語)・・・勝利は困難を極めるでしょう。かけがえのない大切な同胞を失うでしょう。故郷そのものを失ってしまうかも知れない。・・・しかし。(見回す)・・・我々にとっての降伏するタイミングは,すでに逸しているものと考えております」

(画面)緊張の面持ちの各代表。

(画面)決意のアンゴラ代表。
アンゴラ代表「(ポルトガル語)・・・降伏するのならば,1年前のあの時に降伏すべきだったと。それが馬鹿げた論理であることは百も承知の上です。しかし。今,ここで降伏するのよりは,はるかにマシだったと考えます。しかし。それでも我々は戦ってしまった・・・」

(画面)立ち上がるアンゴラ代表。
アンゴラ代表「(ポルトガル語)・・・ガミラス大戦で戦いを後悔した宇宙戦艦ヤマトは一転,ガトランティスでは徹底抗戦を叫んだ。それはなぜか。それはガトランティスの目的自体が戦争そのものであるからに他ならない! 我ら地球人との共存の可能性がゼロだからです!」

(画面)見つめている藤堂司令長官。

(画面)立ち上がったまま見回すアンゴラ代表。
アンゴラ代表「(ポルトガル語)・・・共存できない相手に降伏するは自殺行為です。ヤマトの戦士たちには肌身でそれを感じ取っていたはずなのです。だから,どんなことをしてでも戦わなければならなかった。すでにその段階で降伏など愚の骨頂だったのです。・・・なのにそれよりも条件の劣る今回のこの降伏に一体何の意味がありましょうか!」

(画面)顔を上げるフランス代表。
フランス代表「(仏語)・・・地球人類は滅びるかも知れませんよ。相手は3万。こちらは3千だ」

(画面)アメリカ代表。
アメリカ代表「(英語)・・・波動砲さえ今回の戦いではその効果にどれほどの信頼が得られるかどうかも分からん・・・」

(画面)立ち上がっているアンゴラ代表。

(画面)ゆっくりと立ち上がる藤堂司令長官。
藤堂「・・・各代表の皆様方・・・」

(画面)藤堂司令長官へ注目する各代表。

(画面)オープンスタンスでテーブルに両手をつく藤堂司令長官。
藤堂「・・・恐らく結果は同じとなるでしょう・・・」

(画面)画面中央に藤堂司令長官の背中。一斉に顔を向けている各代表たち。

(画面)藤堂司令長官のアップ。
藤堂「・・・彼らが我が地球に求めるもの・・・。それは土地でも資源でも人材でもない。・・・彼らガトランティス国民を結束させる大義名分に他なりません。降伏しても恐らく滅亡がほんの少し先延ばしになるだけのこと・・・。とかく理由をつけて政治的な配慮で結局我々は皆殺しにされるでしょう。すでにその時には我々には彼らに抵抗する術(すべ)さえも持ち合わせてはいない・・・」

(画面)アンゴラ代表のアップ。

(画面)藤堂司令長官。
藤堂「・・・しかし,今は違います。我々は彼らには及ばずとも今は抵抗する術(すべ)を持っている。(表情を和らげる)・・・みなさん。私には聞こえるんですよ。あの古代の声が・・・。”我々は戦う。断固として戦う”・・・とね」

(画面)会議室のバードビュー。立ち上がっている藤堂司令長官とアンゴラ代表。そして異論を唱えない各代表たち。

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第13節 アンドロメダ浮上! 復活への逃避行