第7節 沈没! 極寒の海へ消えるアンドロメダ

(画面)宇宙空間に浮かぶ冥王星。その右側に惑星カロン。そのふたつの惑星をのぞむはるか遠くの空間にまばゆい光。・・・次第にそのひかりの直径が大きく膨らんでくる。・・・接近してくる光。
(効果音)青色ドップラー効果のすさまじい衝撃波。

(画面)顔を上げる島。

(画面)宇宙空間を疾走する巨大なタキオンの砲弾の帯。画面右端からアングルが回転。無数の稲光を放出しながら画面を右から左へ一気に通過していく。
(効果音)衝撃波。

(画面)宇宙空間に浮かぶ冥王星。

(画面)宇宙空間に浮かぶ冥王星。・・・画面がゆっくりと上へ移動。冥王星の姿が同じ速度で画面下部へ没していく。・・・丸い大気圏線を画面下部へのぞんで,戦闘態勢で集結している地球艦隊を左斜め正面から。ここで画面の移動がストップ。・・・巨大な光の帯がその艦隊中央から少し上部へ,逸れ(それ)気味に飛び込んでいく。
(効果音)衝撃波。

(画面)まばゆい光に左手で目をかばうベルナルド。
ベルナルド「・・・うお!」

(画面)光の砲弾にさらされ,蒸発していくイージス艦。周囲の宇宙艦も次々と被弾し,ばらばらに砕け飛んでいく。バランスを崩してお互いに衝突,艦体の前部を吹き飛ばされ画面から退場する戦艦。爆発する駆逐艦。大きく揺らいで傾き,自ら爆発光を放って粉々になる空母。
(効果音)多数の爆発音。金属音。衝撃波。

(画面)周囲の爆発に巻き込まれていく宇宙戦艦メッロ。許容限界を超える艦の傾き。
(効果音)重量音。爆発音。衝撃波。

(画面)画面下部へ落ち込んでいく宇宙空母サツマ。その上部では光による宇宙艦同士の地獄絵図が展開されている。爆発による破片が次々と宇宙空母サツマへ直撃。爆光。
(効果音)衝突音。爆発音。衝撃波。

(画面)艦長席から投げ出される梶川司令。
(効果音)爆発音にかき消される。

(画面)物理的では考えられない動きを見せて隊列を崩していく日本艦隊。エンジン部を中心に旋回しながらバラバラになる巡洋艦。真っ二つに裂けて別方向へ飛ばされていく主力戦艦。避けることができない無数の金属破片の直撃を受けて,自らも破片と化す駆逐艦。

(画面)よだれをたらして放心状態の薮。宇宙戦艦アンドロメダの舵機能は麻痺している。
(効果音)衝突音。爆発音。衝撃波。

(画面)光の圧力に大きく圧迫されながら右方向へ押し流されている宇宙戦艦アンドロメダ。・・・別の駆逐艦がアンドロメダ右舷に衝突。巨大な火花を伴い,まばゆい爆光を放って爆発。左へ大きく傾く宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)衝突音。摩擦音。重量音。爆発音。不調機動。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。強烈な光がブリッジ全体を支配。・・・耐え切れず,フロアへ投げ出される沙織。
(効果音)衝突音。摩擦音。重量音。爆発音。不調機動。
(画面)艦長席に突っ伏している島。傍らでは佐渡医師がデスクにしがみついて島の左肩の軍服をつかんで引き寄せている。
(画面)バランスを崩しかけるアナライザー。
アナライザー「・・・マタ コワレ・・・(パーツごとにばらばらになる)」
(画面)アナライザーの頭部パーツを両手で受けて転がっていくソマリア・ギル。
(画面)フロアをあおむけにすべっていく穴井教授。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダスタンバイルーム。三郎太が懸命に桂隊長の顔面を両手でつかんでバランスをとっている。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ機関室。ひっくり返る土方機関長と坂本。

(画面)光の帯の中で次々と瓦礫(がれき)と化していく地球艦隊。・・・タキオンの砲弾が通過していく。しかしそれでも各艦の爆発による誘爆は止まず,次々と放射状に爆光を放って沈没していく宇宙艦多数。
(効果音)爆発音。多数。

(画面)1隻の宇宙巡洋艦が爆発沈没。・・・残されたエンジン部分が宇宙空間へ吹き飛ばされる。
(効果音)爆発音。

(画面)吹き飛ばされているエンジン部分。宇宙空間を猛速度で飛ばされている。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダのエンジン右側面装甲板。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ機関室。フロアにうつぶせになって踏ん張っている土方機関長と坂本。
(画面)ふたたびぶれる画面。フロアへ伏せている坂本のアップ。ふところから1枚の写真がすべりだす。・・・それを左手でつかみとる坂本。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダのエンジン右側面装甲板。・・・そこへ先ほど沈没した宇宙巡洋艦のエンジン部分の残骸が激突。装甲板へめり込んでいく。
(効果音)衝突音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ機関室。大きく揺らぐ画面。さらに衝撃に翻弄(ほんろう)される土方機関長と坂本。
(効果音)金属が裂ける音。
(画面)フロアへ叩きつけられる坂本の左手。・・・写真が手から離れる。
(画面)顔を上げる坂本のアップ。衝撃で口から出血している。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダのエンジン右側面装甲板。・・・宇宙巡洋艦のエンジン部分の残骸がアンドロメダのエンジン装甲板の1部をむしりとって画面から退場していく。・・・穴の開いた装甲板。宇宙空間へすさまじい勢いで放出されていく艦内空気。
(効果音)強烈な裂音。

(画面)画面手前から坂本の左手。・・・空気の流れが写真を遠ざけていく。追いかける左手。
(画面)歯をくいしばって左手を伸ばす坂本のアップ。
(効果音)空気の流れる音。徐々に大きくなる。
(画面)身体を起こして振り向く土方機関長。風圧が勢いを増して髪の毛が激しく波打つ。
土方「(目を細める)・・・坂本・・・! 外壁に穴が開いたぞ! 早く来い!」
(画面)歯をくいしばっている坂本。
(画面)写真をつかむ坂本の左手。
(画面)表情がやわらぐ坂本のアップ。

(画面)穴の開いている宇宙戦艦アンドロメダのエンジン右側面装甲板。・・・機関室内で爆発が起き,その内部から爆光が吹きだす。さらに大きく広がっていく装甲板の穴。
(効果音)断続的な爆発音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ機関室。先ほどの爆発で一斉にバランスを崩す機関士たち。数人が風圧に巻き上げられて宙に浮く。
(効果音)断続的な爆発音。猛烈な風の流れ。
(画面)機関士数人が天井に大きく口を開けた漆黒の宇宙空間へ吸い上げられ小さくなっていく。
(画面)爆発の衝撃で宙に浮く坂本の身体。顔色の変わっている坂本。
坂本「・・・!」
(画面)計器ボックスへ身体を支えている土方機関長。坂本に気づく。
土方「坂本!」
(画面)足が上になり,逆さまに持ち上げられたかたちの坂本。懸命に右手を差し出してくる坂本。天井には口を開けた宇宙空間。
(画面)きき腕とは逆の右手を伸ばす土方機関長。左手は防災フェンスを握る。
(画面)坂本の右手を握る土方機関長の右手。
(画面)風圧と苦痛に顔をゆがめながら,力を入れ手前に引き寄せようとする土方機関長。
土方「・・・! しっかりつかまれ! 坂本!」
(画面)歯をくいしばっている坂本。
(画面)歯をくいしばっている土方機関長。・・・表情が険しくなる。
(画面)握っている両者の手。・・・少しずつすべっていく。
(画面)懸命に力を入れる土方機関長。
土方「しっかりしろ・・・!」
(画面)歯をくいしばっている坂本。
(画面)懸命に力を入れる土方機関長。
土方「・・・くそ・・・!」
(画面)さらにすべっていく両者の手。
(効果音)猛烈な風の流れ。
(画面)うす目を開ける坂本。
坂本「・・・し・・・しにたく・・・ない・・・」
(画面)限界の表情の土方機関長。

(画面)ひきはがされる両者の手。
(効果音)無し。

(画面)両手を伸ばしながら宇宙空間の穴へ遠ざかっていく坂本。
(効果音)無し。

(画面)右手を伸ばしている土方機関長。
(効果音)無し。

(画面)宇宙空間へ消えていく坂本の身体。・・・次第に小さくなっていく。
(坂本の声)・・・あいこおぉ!(消えていく)

(画面)天井に開いた宇宙空間への穴。
(効果音)無し。

(効果音)猛烈な風の流れ。
(画面)悲痛な表情の土方機関長。
土方「さ・・・さかもとおお!」

(画面)宇宙空間。爆光を放って大きくかたむいていく宇宙戦艦アンドロメダ。眼下には冥王星の光。さらに爆発。
(効果音)爆発音。エンジン不調。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。艦長席でうつむいて衝撃に耐えている島。傍らには佐渡医師。
(効果音)衝撃。機械音。不調。ぶれる金属音。
(画面)うつむいている島のアップ。・・・顔を上げる島。
(画面)ブリッジ正面フロントガラスから見える宇宙空間。
(画面)島のアップ。
(画面)ブリッジ正面フロントガラスから見える宇宙空間。・・・フロントガラス下部から視界に入ってくる,はるかかなたに小さく見える宇宙戦艦。・・・すぐにフロントガラス上部へ見えなくなる。
(画面)島のアップ。

(画面)ブリッジ正面フロントガラスから見える宇宙空間。
(画面)島のアップ。
島「・・・うそだ・・・」

(画面)宇宙空間。決定的な爆発をエンジン付近で炸裂させる宇宙戦艦アンドロメダ。眼下の冥王星へ向けて降下していく・・・。
(効果音)爆発音。エンジン不調。

(画面)宇宙空間を疾走する宇宙戦艦ヤマト。艦体下部から粉塵が出ている。
(効果音)エンジン音。

(画面)宇宙戦艦ヤマト第1艦橋内。スイッチを握っているレック。右方向へ顔を向ける。
(効果音)艦橋内機械音。
(画面)まゆをしかめるレック。
レック「(不機嫌そうに)・・・ゲーニッツ。艦首照準をしくじったね。発射角度がわずかにそれたようだが」
(画面)右手をみぞうちへあてるゲーニッツ。
ゲーニッツ「(顔を上げて)・・・申し訳ありません。発射の寸前にイレギュラーのアステロイドが艦首下部へ衝突したむねにございます」
(画面)目を細めるレック。
レック「アステロイド? どこからそんなものが衝突するんだ? あのアステロイドベルトから流れてきたとでもいうのかね。にわかには納得できないね。レーダーにも映らなかったのか」
(画面)恐縮するゲーニッツ。
ゲーニッツ「レーダー要員は感知してはいなかったと報告してきております」
(画面)嘲笑するレック。
レック「・・・ずいぶんと不思議な言い訳があるものだね。それよりもレーダー係の監視ミスか,お前の艦首照準ミスと考えた方がよほど現実的に聞こえるんだけどね。・・・(流し目)」
(画面)青くなるゲーニッツ。
ゲーニッツ「私の照準指示は完璧でした。大帝閣下・・・!」
(画面)ため息をつくレック。
レック「・・・まあ,いい。ゲーニッツ。それよりも地球艦隊の今の状況はどんな感じかな。そのレーダー係に調べさせてくれ。地球人たちにこの艦を見られている。護衛の潜宙艦隊を前面に押し出させろ。一気に殲滅する」
(画面)頭を下げるゲーニッツ。
(画面)振り返るレーダー士。
レーダー士「・・・当艦へ後方より接近してくる金属反応をキャッチ! 推進機能確認! 宇宙船のようです! 金属組織はガトランティスのものです! 天井パネルへ切り替えます!」
(画面)後ろを見ているゲーニッツ。
(画面)目を細めるレック。
レック「・・・レーダー係は極めてアクティブのようだよ。ゲーニッツ」

(画面)宇宙空間。はるかかなたに接近してくる小さな点。・・・大きくなってくる。それは次第に宇宙艇の姿となって画面全体へ迫ってくる。船体の色は白。後部には機銃砲塔を備えている。アングルを押しのけるようにして画面を通過していく高速宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)推進音。ドップラー効果。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。操縦管を握っているコクピットのデスラー。デスラーの肌の色は青色ではなく,黄色がかった肌色に変化している。見た目は地球人に見える。後ろの席から顔をのぞかせるフロール・レイム・ズォーダー。
(効果音)内部機械音。
フロール「(いの字)・・・くそ! 艦隊よけて遠回りしたのがやっぱりよくなかったんだ! レック・アルドに先を越されてしまった!」
デスラー「(微笑)・・・ほう。なかなか,そそる光景だね」

(画面)宇宙戦艦ヤマト第1艦橋内。天井パネルに映し出される宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)電子音。
(画面)驚愕しているゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・デスラーか・・・! 生きていたのか? マゼランフォース隊はどうなったんだ? ビーメラのパメラは? それよりもどうして太陽系なんぞにきたんだ!(後方へ)総員,戦闘態勢!」
(画面)頬杖をついているレック。
レック「待て。ゲーニッツ。勝手に攻撃命令なんか出さないでもらえるかな。我々は今,地球艦隊と向かいあってるんだよ。たとえそうでなくても,混乱が生じたと思われるのはつまらない」
(画面)振り返るゲーニッツ。
ゲーニッツ「し,しかし。デスラーが攻撃してきたら・・・」
(画面)笑みを浮かべるレック。
レック「・・・攻撃なんかしてこないよ。ゲーニッツ。それにあんな小型宇宙艇に何ができるというんだね?」
(画面)通信士が振り返る。
通信士「・・・接近してくる飛行物体より入電です!」
(画面)頬杖をついているレック。
レック「・・・読め」
(通信士の声)・・・はっ。いや。しかし。
レック「(微笑)・・・気にしなくてもいい。そのまま読んでくれ」
(画面)直立してデーター紙を持つ通信士。
通信士「・・・はい・・・。(視線を落とす)・・・”親愛なるヤマトの諸君。久しぶりだね。また出会えることができて感動の至りだ。諸君の低俗で品のない趣味の悪いアイデアには,片腹(かたはら)がよじれるほどの感銘を受けている。労を惜しまず,手段さえ選ばずに目的を達成しようとする諸君の浅はかな貪欲さには深く頭が下がる思いだ。とても私には真似ができるものではない。今後のみやげ話として,ここで諸君のやり方をじっくりと見物させていただくことにしよう。尊敬する諸君の健闘を心から祈る次第だ。友人より。”・・・以上です」
(画面)顔を真っ赤にして震えているゲーニッツ。
ゲーニッツ「・・・野蛮人め・・・!」
(画面)頬杖をしながら嘲笑するレック。
レック「・・・ここはいったん引き上げることにしようかね。ゲーニッツ」
(画面)顔を上げるゲーニッツ。
ゲーニッツ「あ・・・しかし。大帝閣下・・・!」
(画面)頬杖をついているレック。
レック「・・・充分,目的は達したよ。もうあの艦隊にはこちらへ偵察に来られるほどの統率力は残っていない。・・・それにこうなったのは,そもそも156遊動機動隊の不備だからね。彼らに責任を取らせることにしよう。ゲーニッツ。イメルに暗号通信を送れ。処罰か,汚名挽回の機会か。好きな方を選ばせるのだ。あの地球艦隊を撃滅せよとね。成功すればそれでよし。失敗しても名誉の戦死と褒め称えてやろう」

(画面)宇宙戦艦ヤマトを後方からの描写。何のためらいも見せずに後方から接近していく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)噴射音。機動音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内。目を丸くしているフロール。
(効果音)内部機械音。
フロール「あの戦艦にレック・アルドが乗っているっていうのか? 敵艦隊にたった1隻で向かっているっていうのか? あのレック・アルドがか?」
(画面)微笑するコクピットのデスラー。
デスラー「1隻じゃないよ。お嬢さん。護衛艦はそろっている」
(画面)視線を向けるフロール。
フロール「(鼻で笑う)・・・潜宙艦か。そうだろうな。あのレック・アルドにそんな度胸があるものか。しかしそれにしても不思議な光景だな。あの地球艦隊に何の動きも見られないぞ。やられっぱなしじゃないか。」
(画面)デスラー。
デスラー「ふふふ。下品な戦術が通用するのは程度の低い感傷だということかな。・・・おや。どうやらあの坊やは,私たちの見世物になるのが気に入らないようだ」
(画面)外を見るフロール。

(画面)宇宙戦艦ヤマトを後方からの描写。傍らには宇宙艇レネイドブーリー。・・・やがて宇宙戦艦ヤマトの艦体がぼんやりとした光に包まれてゆっくりと揺らぎ始める。・・・明らかに空間の歪みの反応。周辺の空間にも,およそ30の揺らいだ光が輝き始める。これは潜宙艦のものであろう。全てが同時に光り始めて,そしてゆっくりと空間に溶け込むように消えていく。・・・関心がないかのようにその脇を通過して冥王星方面へ遠ざかっていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)複数のワープ音。噴射音。

(画面)傷つきながらも体勢を整える宇宙戦艦メッロ。
(効果音)金属音。不調音。

(画面)宇宙戦艦メッロブリッジ内。艦長席のデスクボックスにしがみついているベルナルド。
(効果音)ブリッジ機械音。
(画面)振り返るレーダー士。
レーダー士「(ポルトガル語)・・・敵戦艦の姿が・・・消えました・・・! ワープインした模様です・・・!」
(画面)鋭く顔を向けるベルナルド。
ベルナルド「(ポルトガル語)・・・敵戦艦・・・? ・・・敵・・・だと・・・?」
(画面)振り返らないレーダー士。
(画面)顔を正面へ戻すベルナルド。
ベルナルド「(ポルトガル語)・・・我々は今まで様々な敵と遭遇してきた。・・・どのような相手であろうとも,我が同胞を傷つける敵であるならば,力ずくでもそれに対処していける自信があった・・・。しかし・・・今のは・・・何だ・・・? 我々は,あの存在でさえも敵と呼ばねばならないのか? 我々が唯一想定していなかった相手ではないか・・・!」

(画面)体勢が整わず,傾いたままの宇宙空母サツマ。
(効果音)金属音。不調音。

(画面)宇宙空母サツマ管制塔ブリッジ内。よろめいて歩いてくる副官。
(効果音)ブリッジ内機械音。
副官「・・・司令・・・! 我が艦隊の大多数が被弾しています・・・! 隊列を修復中ですが今だ時間がかかりそうです」
(画面)艦長席へ戻る梶川司令。
梶川「・・・島司令官は・・・? アンドロメダはどうなったのだ・・・?」
(画面)つまる副官。
副官「・・・エンジン部分を被弾した模様です。制御を失って冥王星重力圏へ流されています・・・! 送信していますが応答がありません」
(画面)うつむく梶川司令のアップ。
梶川「・・・我々ではどうすることもできない・・・。(視線を向ける)・・・副官。貴官は,先ほどの戦艦は何に見えたか・・・?」
(画面)緊張する副官。
副官「・・・(沈黙)」
(画面)顔を上げる梶川司令。
梶川「・・・司令部にはなんと報告すればいいのだ・・・」

(画面)かたむいて冥王星へ降下している宇宙戦艦アンドロメダ。すでに眼下には冥王星の大気圏が目前に迫っている。
(効果音)不調音。金属音。落下の衝撃波。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。操縦席で操縦管を握ったままうつむいている薮。
(画面)操縦席の右側の描写。薮の右足と右腕が画面右端。
(効果音)不調音。
(画面)操縦席の右側の描写。薮の右足と右腕が画面右端。・・・画面左から中央へ向かって伸びる右手。操縦席のシートをつかむ。薮の手ではない。・・・つかんだ右手にゆっくりと力がこめられて,手の主の顔がシート右側から上部へ現れる。・・・沙織である。力をさらにこめて両手で操縦席シートにしがみつく沙織。歯をくいしばっている。

(画面)うつむいている薮の右斜め後ろから。・・・沙織の右手が薮の右襟をつかんで揺する。
(効果音)不調音。
(画面)右端に失神している薮の顔。左側から右手で揺すっている沙織のアップ。
沙織「・・・起きて! しっかりしなさい! それでも男ですか!」

(画面)かたむいて冥王星へ降下している宇宙戦艦アンドロメダ。冥王星の大気圏との摩擦が始まっている。ゆっくりと赤い光。
(効果音)不調音。金属音。落下の衝撃波。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。・・・操縦席のベルトを外して,失神している薮を操縦席から追い出す沙織。・・・フロアへ伸びる薮。
(効果音)不調音。
(画面)ちらりと上から視線を送り,すぐに操縦席へ向き直る沙織の横顔のアップ。
沙織「・・・だらしない男・・・!」
(画面)操縦管を握る沙織の両手。
(画面)操縦管を握っている沙織の正面。引き上げようとする。・・・操縦管が動かない。表情が緊張する沙織。

(画面)かたむいて冥王星へ降下している宇宙戦艦アンドロメダ。冥王星の大気圏との摩擦が強まってくる。V字の赤い光が艦首から大きく広がってきている。
(効果音)不調音。金属音。落下の衝撃波。

(画面)冥王星の大気圏を眼下に近づいてくる宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)噴射音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内。コクピットのデスラーと後ろからのぞき込んでいるフロール。
(効果音)内部機械音。

(画面)赤い摩擦熱を引きずりながら降下していく宇宙戦艦アンドロメダ。・・・そこへ向かっていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)不調音。金属音。落下の衝撃波。噴射音はかき消される。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。操縦席の沙織。懸命に操縦管を引き上げようと踏ん張る。しかし全く動かない操縦管。
(効果音)不調音に摩擦音が加わり,振動音が重なる。
(画面)操縦管を握っている沙織の右手。
(画面)汗をかいている沙織。
沙織「・・・! お願い・・・! 動いて・・・!」
(画面)操縦管を握っている沙織の右手。・・・そこへ重なる右手。
(画面)振り仰ぐ沙織。
(画面)毅然(きぜん)とした表情で軍帽をうなずかせる島。
(画面)頼もしそうに安堵の表情を浮かべる沙織。
(画面)島と沙織を正面から。・・・沙織を操縦席へ座らせたまま,左腕を沙織の背後からまわして両腕で操縦管を握る島。
島「しっかりつかまっているんだ」
(画面)操縦管を引き上げる島の両手を上からのアングル。フロアには踏ん張っている沙織の両足。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦首部分。2ヶ所ある艦首下部噴射口からロケット噴射。・・・しかしアンドロメダのものでない宇宙艦の部品が噴射ノズルに引っかかって噴射を阻害している。
(効果音)噴射音。不調。

(画面)赤い摩擦熱を引きずりながら降下していく宇宙戦艦アンドロメダ。・・・そこへ向かっていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)不調音。金属音。落下の衝撃波。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内。コクピットのデスラーと後ろからのぞき込んでいるフロール。
(効果音)内部機械音。
フロール「・・・デスラー。あれは地球の戦艦だな」
デスラー「少し大気圏再突入の角度が深いようだね。・・・もう手遅れだ。あれは助からないよ」
フロール「(デスラーの襟をつかむ)・・・そんなことを言うな! 何とかしろ! 助けるのだ,デスラー! あの戦艦を助ければ,その功績で地球の皇帝に謁見(えっけん)できるかも知れぬ! すでに戦争は始まっているのだ。あの地球人たちを味方につけたい!」

(画面)何かを感じたようにピクリと顔を上げる沙織。

(画面)コクピットのデスラー。

(画面)赤い摩擦熱を引きずりながら降下していく宇宙戦艦アンドロメダ。・・・そこへ向かっていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)不調音。金属音。落下の衝撃波。

(画面)宇宙空間に浮かぶ青い地球。

(画面)夜の日本自治区地球防衛司令部の外観。天気は星空に回復している。

(画面)日本自治区地球防衛司令部内部。立ち上がっている藤堂司令長官。周囲には司令部スタッフたちも見上げている。
(効果音)司令部内部音。

(画面)スクリーンの中で直立している梶川司令。

(画面)立ち上がっている藤堂司令長官。
藤堂「・・・その報告を信じろというのかね・・・?」

(画面)スクリーンの中で直立している梶川司令。

(画面)体重のほとんどを落下させて椅子に座り込む藤堂司令長官。うつむく。
(効果音)椅子のきしむ音。衣擦れの音。

(画面)スクリーンの中で直立している梶川司令。・・・たまらず少し視線を下げる。

(画面)うつむいている藤堂司令長官のアップ。
藤堂「・・・島君・・・。私はあきらめてはいない。・・・君は強運の持ち主だ。・・・たとえ・・・」

(画面)視線を斜め下へ向けて立っている山南司令。

(画面)顔を上げる藤堂司令長官のアップ。

(画面)振り返っている司令部スタッフたち。

(画面)藤堂司令長官のアップ。
藤堂「・・・相手が幻影であったとしてもだ・・・」

(画面)冥王星大気圏上空。大気との摩擦熱でさらに赤く輝きながら冥王星へかたむき降下している宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)摩擦音により他の音がかき消されている。

(BGM)
(画面)画面へ迫ってくる宇宙艇レネイドブーリー。例外なく大気圏の摩擦の影響を受けている同機。
(効果音)噴射音。摩擦音。

(画面)左斜め正面から見上げるように,その画面のほとんどを巨大な宇宙戦艦アンドロメダ艦首が赤い光を引きずりながら圧倒的なアップ。・・・画面左端にぽつんと姿を現す小さな宇宙艇。少しクローズアップ。・・・宇宙艇レネイドブーリー。2門の艦首波動砲口へ至近距離。アングルはここで宇宙艇レネイドブーリーに固定。画面左から右へ回り込んでいく同機。巨大な艦首を下から仰ぎ見る描写。・・・実際はすばやく動いている宇宙艇レネイドブーリー。しかし巨大な艦首はゆっくりとその存在感を大きくスライドさせている。圧倒的な大きさの違いを表現。
(効果音)大きな摩擦音。BGMがかき消される。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。赤い熱光がコクピットのデスラーと後部座席のフロールの顔を赤く照らしている。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)画面の背景は全て赤い光を放つ艦首で埋め尽くされる。バランスを崩しかけながらバランスを整える宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)赤い光に照らされているデスラーのアップ。少し画面がぶれている。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦首の一部。・・・クローズアップ。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)赤い光に照らされているデスラーのアップ。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦首の一部。・・・クローズアップ完了。2ヶ所ある艦首噴射ノズルのうちの片方の描写。破片に阻害されながらも限られた動く範囲でロケット噴射を続けているノズル。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)赤い光に照らされているデスラーのアップ。・・・笑みを浮かべる。
(効果音)大きな摩擦音。
デスラー「・・・ほう。この状況でさえもまだ操縦管を握っているとはね。よほど気丈なパイロットが乗っているようだ」
(BGM)

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。操縦席正面。操縦席に座っている沙織はその首を島の左腕にもたげて目を閉じている。操縦管を握っている島は操縦管を強く握りしめて懸命に引き上げる操作を続けている。
(効果音)大きな摩擦音。
(BGM)

(画面)圧倒的な艦首へ向けて近づいていく宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)大きな摩擦音。
(BGM)

(画面)赤い光に照らされているデスラーのアップ。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)操縦管の上部を親指ではじくデスラーの右手。操縦管の上部のキャップが開いて機銃発射ボタンが現れる。

(画面)接近してくる宇宙戦艦アンドロメダの艦首の壁。

(画面)赤い光に照らされているデスラーのアップ。
(効果音)大きな摩擦音。

(画面)操縦管上部機銃発射ボタンを押すデスラーの親指。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーの正面。・・・両側から発射される機銃の弾光の羅列(られつ)。
(効果音)大きな摩擦音の中でわずかに機銃発射音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦首の一部。・・・2対の弾光の羅列が噴射ノズルを阻害していた破片に命中し続ける。しばらくの間この描写が続く。なかなか剥がれなかった破片が変形して,突然むしりとられるようにその姿を一瞬の間に画面右上部へ吹き飛ばしていく。
(効果音)大きな摩擦音。金属音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリーが手前。・・・突然,画面の全てを覆っていた巨大な艦首が猛烈な勢いで同機から遠ざかっていく。バランスを崩す宇宙艇レネイドブーリー。艦首の2ヶ所の噴射ノズルが全開。画面両側から冥王星の大気圏が見え始める。
(効果音)大きな摩擦音。金属音。噴射音。
(BGM消える)

(画面)宇宙戦艦アンドロメダの左側舷。・・・大気圏再突入角度が一気に浅くなっていく。画面左上に宇宙空間が見え始める。完全なリバウンド。このままでは逆に宇宙のかなたへ弾き飛ばされる危険性。
(効果音)摩擦音。噴射音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。操縦管を懸命に押し下げようとする島。歯をくいしばる。絶妙の操艦。浮き上がる沙織の身体を左腕で押さえる。
島「(マイクへ)・・・総員・・・! 不時着に備え・・・対ショック姿勢・・・!」
(画面)フロアに這っていた佐渡医師。身体が宙に浮く。
(画面)フロアをすべっていく薮の左足をつかむソマリア・ギル。片手でアナライザーの頭部パーツの耳アンテナをつかんでいる。
(画面)太田がシートにしがみつく。
(画面)かたく目を閉じている相原。
(画面)南部に抱きついている穴井教授。
(効果音)摩擦音。噴射音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダの左側舷。・・・大気圏再突入角度が正常に戻されていく。
(効果音)摩擦音。噴射音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダの艦体が大気圏との摩擦熱で赤くなっていく。
(効果音)摩擦音。轟音。

(画面)冥王星地表。・・・右上の空から左下へ向けて落下していく火球。画面下部には流氷の広がっている冥王星の海。・・・手前の陸岩岸には,くらげに似た冥王星原生生物が多数,空を見上げるように集まっている。
(効果音)轟音。

(画面)冥王星の空。かなたから降下してくる宇宙戦艦アンドロメダの正面。接近してくる。さらに接近。圧倒的に迫ってくる2門の砲口。さらに接近。アングルが上部へ移動。画面下部へすべりこむように通過していく艦首。第1主砲と第2主砲をかすめてブリッジが接近してくる。フロントガラスが迫る。操縦席の島と沙織。ブリッジも画面下部へ通過してさらにアングルが回転。・・・冥王星の流氷の海へ降下していく宇宙戦艦アンドロメダ。光を失っているメインエンジン噴射口が遠ざかっていく。
(効果音)不調音。風圧。ドップラー効果。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。操縦席を後ろから。操縦席の右側で両足を踏ん張っている島の後ろ姿。前方のフロントガラスの景色。猛速度で後方へ流れている冥王星の海が徐々に接近してくる。
(効果音)不調音。

(画面)冥王星の海面。流氷が圧力で放射状に流れ始める。波がたち始めてその中央に空気圧を思わせる水のくぼみが出現。さらに小波が大きく変化。波と風の焦点が近づいていく。・・・やがて海面自体が放射状に大きく裂け始めて灰色の影が大きく黒い影にかき消される。さえぎられる太陽の光。・・・衝突。画面ブランク。
(効果音)接近音。風圧。波。激突音。

(画面)冥王星の海に画面右上から左下へ艦首を突入させる宇宙戦艦アンドロメダ。右上へ向かって大きく立ち上がる水柱。水の圧力で艦尾が落ち込む。水柱が右方向へ変化。・・・艦首が一瞬,海面から出現。艦首から浮き上がる。
(効果音)水の轟音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。衝撃でばらばらに飛ばされるブリッジスタッフたち。
(効果音)水の轟音。

(画面)冥王星海面。再びその艦首を海面に叩きつける宇宙戦艦アンドロメダ。一瞬海面に浮かび上がるも,舷方向へかたむいて徐々に海中へ没していく。・・・やがて艦尾放射リブを最後に完全に海面からその姿を消す同艦。
(効果音)水の轟音。

(画面)海中。かたむいて沈んでいく宇宙戦艦アンドロメダ。

(画面)冥王星の海面を上空から。宇宙戦艦アンドロメダが沈没した海域が白く濁っている。ところどころで渦潮が発生している。・・・その上空へ到達する宇宙艇レネイドブーリーをさらに上空から。
(効果音)静まっていく水の轟音。噴射音。

(画面)海中。かたむいて沈んでいく宇宙戦艦アンドロメダ。・・・海底の岩場へ着岩。かたむいて停まる様子。気泡が周囲に充満している。
(効果音)接触音。気泡。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。下をのぞいているフロール。
(効果音)内部機械音。
フロール「・・・やったぞ。デスラー!」
(画面)コクピットのデスラー。
デスラー「まだ助かってはいないよ。お嬢さん」

(画面)アステロイドベルト宙域で隊列を整えているガトランティス第156遊動機動艦隊。21隻。
(効果音)複数の機動音。

(画面)宇宙空間で停泊している宇宙戦艦イメルディア。
(効果音)機動音。

(画面)宇宙戦艦イメルディアブリッジ内。艦長席に腰かけているイメル。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(画面)通信士が電信を持って前へ進み出る。
通信士「・・・本隊より通信文です。遊動機動隊司令長官殿からです」
(画面)視線を向けるキーク。
(画面)艦長席のイメル。
イメル「・・・読んでくれ」
(画面)視線を落とす通信士。
通信士「・・・”大帝閣下は寛大である。今1度,貴官の失敗を挽回する機会をお与えくださった。太陽系9番惑星付近に停泊している地球艦隊を殲滅されたし。よって貴官の通信は1度だけ許可するものである。勝利の報告のみである。以上”」
(画面)仰ぎ見るキーク。
(画面)表情が硬くなるイメル。
(画面)視線を落としている通信士。
通信士「・・・ここからは遊動機動隊司令長官のお言葉です。・・・”なお,同惑星付近に現れたし小型宇宙艇レネイドブーリー号も併せて(あわせて)撃墜せよ。同機には指名手配中の政治犯1名と脱獄犯であるデスラーが乗っている。諸君らの速やかなる朗報を待つものである。”(顔を上げる)・・・通信文は以上です。提督」
(画面)顔色を変えて身体を震わせるキーク。
(画面)表情を苦みばしらせるイメル。
イメル「(視線を右へ)・・・レーダー。地球艦隊の現在の状況を報告せよ」
(画面)振り返るレーダー士。
レーダー士「・・・隊列は,そろいつつあります。現在艦隊機動数は41隻・・・」
(画面)視線を落とすイメル。
イメル「・・・我らの数の2倍ではないか・・・。しかも我らは艦載機隊をほとんど失っている。地球人たちもすでに警戒態勢に入っているだろう。我らを確認次第,艦首波動砲の充填準備もできるはずだ。殲滅など不可能だ・・・」
(画面)身体を震わせているキークのアップ。
(画面)頭を抱えるイメル。
イメル「大帝閣下もひどい。なぜ,あの時もう少し地球艦隊を叩いておいてくれなかったのだ・・・! そうすればもう少しは我々だって手の打ちようがあったものを・・・!」
(画面)身体を震わせているキークのアップ。
キーク「・・・デスラーが・・・デスラーが,来ているのか・・・。あのデスラーが,ここに・・・!」
(画面)視線を正面へ向けるイメル。
イメル「通信士!」
(画面)先ほどの通信士が,かかとをそろえる。
通信士「はっ・・・!」
(画面)指を指し示すイメル。
イメル「本隊へ通信文を送れ。今の艦艇数では地球艦隊に太刀打ちはできない。いま少し援軍を・・・」
(画面)下から顔を上げるキーク。
キーク「提督!」
(画面)顔を向けるイメルと通信士。

(画面)アステロイドベルト宙域のガトランティス第156遊動機動艦隊。21隻。
(効果音)複数の機動音。

(画面)宇宙戦艦イメルディアブリッジ内。顔を向けているイメル。
(効果音)ブリッジ機械音。
イメル「・・・どうしたのだ。キーク」
(画面)かかとをそろえるキーク。
キーク「・・・提督。通信は大帝閣下の望むものではありません。このような事態になったのは,もともと我らの度重(たびかさ)なる通信が原因なのです。我らの正体が敵に知られ,本隊の場所まで地球側に憶測されてしまった。すでに通信電波がガトランティスのものであることは地球軍の知るところです。この上さらに本隊へ通信すれば,地球側に警戒をされてしまうばかりではなく大帝閣下の逆鱗(げきりん)に触れて我々の処罰は避けられないものとなります」
(画面)消沈するイメル。
(画面)キーク。
キーク「確かに今の我らの兵力ではあの地球艦隊を打ち破ることは困難です。しかし,今ここにある力のみで対処していく以外に我らの生きる道はありません」
(画面)力なく両拳にあごをのせるイメル。
イメル「・・・では,どうすればよいのだ・・・。キーク。我らにはもう,まともな戦闘機隊も,ミサイル艦もないのだぞ」
(画面)顔を上げるキーク。
キーク「私に妙案(みょうあん)があります」
(画面)あごを上げるイメル。
イメル「・・・妙・・・案だと・・・?」
(画面)うつむくキーク。
キーク「・・・我らに下された命令はふたつ。地球艦隊の殲滅と,そしてもうひとつ・・・」
(画面)顔を突き出すイメル。
(画面)再び顔を上げるキーク。
キーク「我らはまず,地球艦隊と対峙(たいじ)します。射程距離範囲の外ぎりぎりのポイントを維持します。あえて交戦はしません。目的は地球艦隊の注意をこちらへ引き付けることです」
(画面)首をかしげるイメル。
(画面)少し歩いて通信士を押しのけて正面へ立つキーク。通信士は画面から退場。
キーク「(顔を向ける)・・・地球艦隊の関心を我が艦隊へ引き付けている間に,当艦1隻が地球軍からの死角となる9番惑星の双子星の裏面へ移動します。・・・まもなくあの双子星は地球艦隊に対して9番惑星の影に完全に隠れる方向へ自転します。そのタイミングで我が艦は9番惑星の大気圏内へ再突入します」
(画面)腕を組むイメル。
イメル「うむ。・・・そこで地球軍基地のワープ通信施設を攻撃し,破壊する作戦か。通信手段を奪って,地球軍を動揺させるのだな。その混乱に乗ずれば我が艦隊にも勝機が出てくるかも知れないと・・・」
(画面)直立しているキーク。
キーク「・・・いえ。提督。我らは最後まで地球艦隊とは戦いません」
(画面)腕をほどくイメル。
イメル「・・・何だと・・・? キーク・・・? しかし大帝閣下のご命令は・・・」
(画面)思いつめた表情のキーク。
キーク「・・・地球軍基地など攻撃したら当艦の存在を地球艦隊に悟られてしまいます。当艦はあくまでも地球軍に対して隠密(おんみつ)の行動を取り続けなければなりません」
(画面)再び首をかしげるイメル。
(画面)キーク。
キーク「提督。我らに下された命令はふたつです。そのもうひとつの命令はデスラーの暗殺・・・」
(画面)まゆをひそめるイメル。
イメル「・・・デスラーだと?」
(画面)うなずくキーク。もはや彼の表情には上官に対する畏敬の念は微塵も感じられない。
キーク「私の案に従っていただきましょう。提督。我らが生き残る方法はもはやこれしかありません。9番惑星に潜んでデスラーを捜索するのです。デスラーを見つけ出してやつを殺すのです。それはひとえに,ふたつある命令のうちのひとつを完遂したことになり,1度だけ本隊と連絡をとる口実が得られます。その時に援軍でもなんでも要請したらよろしいでしょう。命令を成功させた我らの援軍要請を本隊は無視できますまい。援軍さえ来れば,傷ついた地球艦隊など恐れるに足りません」

(画面)冥王星宙域で隊列を整えている地球艦隊。41隻。
(効果音)複数の機動音。
(画面)クローズアップする宇宙戦艦メッロ。

(画面)宇宙戦艦メッロブリッジ内。振り返るレーダー士。
(効果音)ブリッジ内機械音。
レーダー士「(ポルトガル語)・・・11時の方向に艦隊反応! 数は20! 本艦隊より24万宇宙キロ!」
(画面)表情をひきしめるベルナルド。
ベルナルド「(ポルトガル語)・・・全艦攻撃態勢! 日本艦隊に態勢要請! (視線を左へ)・・・敵艦隊との射程までの時間は?」
(画面)しばらく背中を見せているレーダー士。・・・ゆっくりと振り向いたけげんな表情。
レーダー士「(ポルトガル語)・・・それが。敵艦隊にそれ以上の動きはみられません。24万宇宙キロを維持しています」
(画面)目を細めるベルナルド。
ベルナルド「(ポルトガル語)・・・どういうことだ?」

(画面)宇宙空間に停泊しているガトランティス第156遊動機動艦隊。20隻。
(効果音)複数の機動音。

(画面)体勢が整っている宇宙空母サツマ。
(効果音)機動音。

(画面)宇宙空母サツマ管制塔ブリッジ内。艦長席の梶川司令。
(効果音)ブリッジ内機械音。
梶川「・・・副官。敵艦隊は動かないか」
(画面)レーダー士と共に振り向く副官。
副官「動きません」
(画面)あごに触れる梶川司令。
梶川「・・・解せんな。目的は何だ。こちらも,うかつには動けないな。しばらく様子を見る」

(画面)宇宙空間に浮かぶ冥王星。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダが沈んだ海域の上空。・・・旋回している宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)噴射音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内。通信パネルを操作しているフロールの右横顔。
(効果音)内部機械音。操作音。
フロール「ち・・・くそ。(操作)・・・地球の科学力レベルでは,この装置では通信できないか・・・?」
(画面)コクピットのデスラーの左横半身。
デスラー「(視線を向けず)・・・多分,あの戦艦に問題があるんだろう。乗組員か,通信装置が壊れているか・・・」
(画面)顔を向けるフロール。
フロール「お。地球人は壊れるのか? 地球人は機械の身体なのか?」
(画面)笑みを浮かべるデスラーの横顔。
デスラー「ずいぶんと耳新しい言葉だね。お嬢さん」

(画面)かたむいて海底に着岩している宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)水の中。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。操作パネルへ向かっている穴井教授。オレンジ色の非常照明がブリッジ全体を照らしている。
(効果音)機械音なし。
穴井「(操作)・・・いかんなあ。完全に動力がストップしとる。エンジンがいかれとるな」
(画面)ヘッドマイクの相原も懸命に通信装置を操作している様子。
相原「(沈痛)・・・駄目だ。通信装置が作動しない・・・」
(画面)操縦席の薮の頭を引っ叩く沙織。恐縮している薮。
(画面)アナライザーを組み立ててるソマリア・ギル。
アナライザー「ソージャナイ。ソコジャナイ。モット ミギ ナナメ ウエ ダド」
ギル「(英語)シット! もう少し壊れてりゃ静かだったろうに。全く!」
(画面)艦長席の島の傍らに佐渡医師。
島「・・・副官。被害状況はどうだ?」
(画面)太田と打ち合わせしている南部が振り向く。
南部「・・・レーダー,通信などの外部接触システムだけではなく,スライド通路,エスカレーター,エレベーターの艦内移動手段,湿度,温度,酸素供給の生命維持装置までが完全に停止しています。アンドロメダの全てのデジタル回路が使い物になりません」
(画面)振り向く薮。
薮「機関室と連絡がとれません。提督」
(画面)ボックスから顔を向ける穴井教授。
穴井「動いとるのは防犯セキュリティシステムだけじゃ。島提督」
(画面)艦長席の島。
島「副官。生命維持装置は改善できるか・・・?」
(画面)口ごもる南部。
(画面)顔を向けている穴井教授。
穴井「・・・せめて補助エンジン機構だけでも復活してくれんと無理じゃ」
(画面)顔を向ける島。
島「教授。生命維持装置無しで我々は,あとどのくらいもちますか?」
(画面)口をへの字にする穴井教授。
穴井「そうじゃなあ。気密区画がどのくらい健全に残っとるかにもよるな。まあ,全てが健全だとしても1時間が限界じゃろう」
(画面)艦長席の島。
島「教授。防犯セキュリティシステムを切ってください」
(画面)穴井教授。
穴井「今現在,被害状況を知ることのできる唯一の稼動システムじゃぞ。切れば再起動する保障はない」
(画面)島。
島「・・・切れば各区画へ手動で移動できます。ドアさえ開けられなければ我々は何もできません」

(画面)海上を飛行している宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)噴射音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。弱りきった表情で顔を向けるフロール。
(効果音)内部機械音。
フロール「あうああ。駄目だぁ。通信できないぞ。困ったな。悩みはつきない」
(画面)コクピットのデスラー。
デスラー「お嬢さん。電波による無線通信はできるのかな?」
(画面)目を丸くするフロール。床にあぐらをかく。そばにはサックが置いてある。
フロール「・・・無線通信? 太古の原始的通信手段か。(サックをさぐる)・・・しかしやっかいだぞ。デスラー。あの戦艦にその無線の媒体(ばいたい)があるかどうか分からぬ。しかも電波周波数を時間をかけて探さなければならないし,何といってもこちらの音声がダイレクトに相手に伝わってしまう。翻訳機能のある光通信みたいに意思の疎通はできないぞ。こちらの言葉など相手には理解できないだろう? (探り当てる)・・・あった。(黒い四角い装置を上げる)」
(画面)笑みを浮かべるデスラー。
デスラー「なんだかんだいっても,結局は何でも持っているんだね。その装置にビーメラで使った翻訳装置を併用(へいよう)できないかな」
(画面)口をつきだすフロール。
フロール「・・・実は地球の言語は登録してないんだ。地球人の言語は3500以上ある。自動翻訳機能のある翻訳機でないと無理だ。だからまず,地球人たちにこの翻訳機に話しかけてもらわなければ登録できない」
(画面)苦笑するデスラー。
デスラー「・・・それでよく地球人たちと話し合いなどという発想が生まれたものだね・・・。(パネルへ視線)・・・おやおや。どうやら少しばかり,ややこしくなりそうだよ。お嬢さん」
(画面)レーダーパネルに点滅する点がひとつ。中心へ移動している。

(画面)同じく冥王星大気圏内。はるかかなたから画面中央へ大きく迫ってくる宇宙戦艦イメルディア。
(効果音)エンジン音。空気の衝撃音。

(画面)宇宙戦艦イメルディアブリッジ内。腰へ両手をかけているキーク。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(レーダー士の声)・・・検索している対象と一致する飛行物体を発見いたしました! 99%の確率でレネイドブーリー号です!
キーク「・・・位置は?」
(画面)背中を向けているレーダー士。
レーダー士「大気圏内です。対象まで0.3ガトランティスアワー」
(画面)無表情のキーク。

(画面)海底に着岩している宇宙戦艦アンドロメダ。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。空間騎兵隊隊員ふたりの肩に支えられながら土方機関長がブリッジへ入室してくる。
(画面)駆け寄る薮。
薮「・・・機関長! ご無事でしたか!」
(画面)両側の隊員の肩に両腕をまわしたまま,重そうに顔を上げる土方機関長。
土方「・・・申し訳ありません・・・提督・・・」
(画面)艦長席から降りてくる島。
島「・・・機関室の様子はどうですか?」
(画面)土方機関長を支えている隊員のうち,右側の隊員が顔を向ける。機関指示ボックスに土方機関長を座らせる両者。
隊員「(英語)・・・機関室は完全に水没しています」
(画面)右側に島。後方左には薮。太田。穴井教授。
(画面)顔を上げる土方機関長。
土方「・・・不時着の際に伝導回路室が衝撃で爆発を起こしました。エネルギー伝導管が損傷していると思われます。コスモナイト鉱石製の伝導管ユニットの交換が必要です」
(画面)前へ進み出る穴井教授。
穴井「それさえ交換できれば何とかなるんじゃな? エンジンが動けば生命維持装置も回復するはずじゃ」
(画面)首を振る土方機関長。
土方「・・・伝導管を含む部品貯蔵在庫倉庫が吹き飛ばされました。部品の多くは船外へ放出・・・。(苦痛の表情)」
(画面)ボックスへ手をかける島。
島「大丈夫ですか。機関長」
(画面)歯をくいしばっている土方機関長。
土方「(顔を上げる)・・・提督・・・。坂本が・・・坂本が死にました・・・」
(画面)表情が緊張する島。

(画面)アナライザーの頭部のアップ。・・・突然,点滅を開始する両眼スクリーン。
(効果音)引きずるような周波数の音が強弱。点滅音。
アナライザー「・・・ナ ナンダ? ナニカ ガ ボク ノ カラダ ヲ ツカッテ ハナシ カケテ キテマス キテマス・・・」
(画面)点滅しているアナライザーの全容。そばには,のけぞって座っているソマリア・ギル。
(画面)一斉に注目している様子のブリッジスタッフたち。
(画面)点滅しているアナライザーの全容。
アナライザー「ナナナ・・・ナニモノ カガ・・・ボク ヲ・・・(ブー・・・ブブブ・・・)」
(画面)一斉に注目している様子のブリッジスタッフたち。
(画面)点滅しているアナライザーの全容。
アナライザー「(別の音声)・・・ヤマト・・・オキタ・・・」
(画面)目を細める島。
(画面)口をへの字にする穴井教授。
穴井「・・・何を言ってるんじゃ。ボケナスは・・・?」
(画面)立って聞いている沙織。
沙織「・・・」
(画面)点滅しているアナライザーの全容。
アナライザー「(別の音声)・・・コダイ・・・バカメ・・・」
(画面)アナライザーの前へいく薮。
薮「ギル隊長。組み立てを間違えたんじゃないの?(アナライザーをのぞきこむ)」
(画面)つかつかと歩み寄って,アナライザーの前の薮を払いのける沙織の後ろ姿。アナライザーの前で,かがんで耳を傾ける。
(画面)アナライザーへ耳を近づけている沙織のアップ。
沙織「この訛り(なまり)は,まさか・・・」
(画面)床にしりもちをついているソマリア・ギルと薮。
(画面)目を見開く穴井教授。
(画面)画面左側にアナライザーの胴体。右側に沙織のアップ。アナライザーの胴体のパネルを操作する沙織。
(画面)一瞬ためらう沙織の表情。しかし,決心したようにあごを上げる。
沙織「(アナライザーに顔を近づける)・・・(ガミラス語)・・・私たちに話しかけているお前は何者か?」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内。目を丸くして上体を引くデスラーとフロール。

(画面)大気圏内を航行する宇宙戦艦イメルディア。・・・そこから発進してくる数機のパラノイア戦闘機。
(効果音)機動音。複数の噴射音。
(画面)先頭のパラノイア戦闘機の描写。大きなフロントガラスの中にパイロットが1名。
(画面)メットのバイザーの下にキークの鋭い両眼。
キーク「・・・ここで会ったのもミル兄さんの導きだ・・・。逃がさないぞ。デスラー・・・」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーに話しかける沙織。
沙織「(ガミラス語)・・・応えろ。何者だ。目的は何だ?」
(画面)言葉もなく,顔を向けているブリッジスタッフたち。
(画面)床に座り込んでいるソマリア・ギルと薮。
(画面)その様子を見つめている穴井教授。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。微笑して通信マイクを握りなおすデスラー。
(効果音)内部機械音。
デスラー「(ガミラス語)ふふふ。・・・これは驚いた。こんな宇宙の辺境で母国語に遭遇するとは。さすがに夢にも思わなかったよ。我が同胞かな? 捕虜か? 戦災難民か? いずれにしてもガミラス人だね? まさか地球の戦艦に乗っているとはね」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーに話しかける沙織。
沙織「(ガミラス語)・・・私は地球人だ。少なくともガミラス人ではない。しかしガミラス人はよく知っている。私の母を散々もてあそんだ挙句に(あげくに)自殺に追い込んだ,憎むべき存在だ。お前はガミラス人なのか? 名は何というのだ?」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。動じる様子もなく微笑しているデスラー。
デスラー「(ガミラス語)・・・名乗るほどの名ではないよ。ただ,あなたがたの今の状況に同情し,憂慮(ゆうりょ)している通りすがりの者だ。どうやらあなたでなければ今現状,意志の疎通を図る方法は他になさそうだね。憎むべきガミラス人を相手にさせて誠に恐縮だが,今少しご辛抱願いたい」

(画面)大気圏を編隊飛行しているパラノイア戦闘機隊。
(効果音)複数の噴射音。
(画面)コクピットのキーク。
(通信音声)・・・対象まであと0.2ガトランティスアワーです!

(画面)マルチ画面。右側に沙織。左側にデスラー。
デスラー「(ガミラス語)・・・まずあなたがたの現在の環境を教えていただこう」
沙織「(思案している様子から顔を上げる)(ガミラス語)・・・エンジンがやられている。全ての動力は停止状態だ。生命維持装置も駄目になった。機関室が水没して自力での浮上ができない」
デスラー「(ガミラス語)・・・エンジンは波動エンジンかね?」
沙織「(ガミラス語)・・・そうだ」
デスラー「(笑み)(ガミラス語)それならば構造は心得ている。私に故障箇所を説明できるかね?」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーの脇で立ち上がる沙織。体勢をこちらへ向ける。
沙織「・・・機関長」
(画面)ボックスで顔を上げる土方機関長。
(画面)沙織。
沙織「・・・無線通信です。通信波がシビアです。アナライザーの立ち位置を変えられません。すみませんが,こちらへ来てください。私が通訳します。今のエンジンの状況を説明してください」
(画面)けげんな表情の土方機関長。
土方「・・・どういうことだ・・・? 誰と話しているんだ? 無線通信? 今の君の言葉は・・・」
(画面)沙織のアップ。
沙織「申し訳ありません。今は説明している猶予がありません。もしかしたら私たちが助かる唯一の方法かも知れません。私を信じていただけませんか。(視線を変える)」
(画面)佐渡医師と一緒に立っている島。横には神妙な面持ちの穴井教授。
島「・・・(うなずく)」
(画面)微笑む沙織。

(画面)宇宙空間で戦闘態勢の地球艦隊。
(効果音)複数の機動音。

(画面)宇宙空母サツマ管制塔ブリッジ内。艦長席の梶川司令。
(効果音)ブリッジ内機械音。
梶川「(レーダー士へ)・・・敵艦隊はまだ動かないか」
(レーダー士の声)・・・動きはありません。
梶川「(あごに手)・・・どうも,腑に落ちないな。目的が読めない。もしかしたら我々の注意を他へ向けさせないための陽動かも知れん」
(画面)顔を上げる副官。
(画面)視線を向ける梶川司令。
梶川「副官。イージス艦冬月は健在か?」
(画面)正面に足をそろえる副官。
副官「はい。コンディションは万全ですが」
(画面)艦長席を立つ梶川司令。
梶川「移動艇を準備させてくれ」
(画面)あごを上げる副官。
副官「は・・・?」
(画面)フロアへ降り立つ梶川司令。
梶川「・・・あの艦隊の動きはどう考えても不自然だ。何かの時間を稼いでいるとしか思えない。我々の注意を引き付けている間に敵が何かを企んでいると考えたほうが自然だ」
(画面)副官。
(画面)正面を向く梶川司令。
梶川「私は冬月へ行く。・・・副官。貴官は私の代理として艦隊の指揮をとれ」
(画面)驚愕する副官。
副官「・・・な! なぜですか・・・?」
(画面)梶川司令。
梶川「イージス艦冬月は,アンドロメダが実践しようとした任務を引き継ぐ。電波送信先の偵察任務だ。我々がここに停滞している間にも敵は何かしらの動きを起こしているかも知れん。我々の任務は地球本部に敵の情報を報告することだ。それは旗艦を失っても変わることはない」
(画面)うろたえる副官。
副官「・・・今は戦闘態勢中です。司令が動けば士気にも関わってきます。それに敵艦隊がその機に乗じて動くかも知れません」
(画面)笑みを浮かべる梶川司令。
梶川「・・・あの艦隊は最初から我が艦隊と戦火を交えるつもりはないよ。間違いない。我々を戦闘態勢にすることが自体が目的なのだ。戦闘態勢時に宇宙艦が艦隊を離脱するなどということは考えにくい。だから我々はその逆をつく」
(画面)副官。
副官「しかしだからといって,司令自ら動かなくても・・・。冬月に監視命令を発すれば済むことでは・・・」
(画面)梶川司令。
梶川「通信は使えない。敵に傍受されれば警戒されてしまう。偵察任務の詳細を知っているのはこの艦では私だけだ。貴官は私が移動,離脱する間,援護射撃を行って敵の注意をかく乱させてくれたまえ。冬月には光モールス信号で移動艇の格納のみを指示してくれればいい」
(画面)肩を落とす副官。
副官「・・・司令・・・。無茶です・・・」
(画面)顔をあおぐ梶川司令。
梶川「副官。・・・うちの息子は,ヤマトが好きだったんだ。・・・だから私が島司令官と同行発進すると聞いたときは飛び上がって喜んでいたもんだ。”お父さん,かっこいい。”とね。(顔を向ける)・・・副官。だから息子には絶対にあの艦(ふね)は見せたくない」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーのそばに沙織と土方機関長。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。マイクを持っているデスラー。
(効果音)内部機械音。
デスラー「(ガミラス語)・・・大体状況は把握させていただいた。大変少ないがわずかな可能性で試す方法がある。・・・この星には我がガミラスの最前線軍事施設があったことは承知しているはずだ。あなたの戦艦の規模でのエンジンの部品は皆無だが,補助エンジンレベルならば互換性(ごかんせい)のある部品が見つかるかも知れないね」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーのそばに沙織と土方機関長。
沙織「(ガミラス語)・・・ガミラス基地はヤマトによって壊滅しているはずだ・・・」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。マイクを持っているデスラー。
(効果音)内部機械音。
デスラー「(ガミラス語)・・・あなたがたは,あとどのくらい生きられるかね?」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーのそばに沙織と土方機関長。
沙織「(ガミラス語)・・・地球時間で30分ももたないだろう・・・」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。マイクを持っているデスラー。
(効果音)内部機械音。
デスラー「(笑み)(ガミラス語)・・・あなたがたには5つの幸運が必要だ。・・・ガミラス基地が完全には破壊されていないこと。・・・その基地でエンジンユニットの部品が見つかること。・・・その部品があなたがたのエンジンに使用できること。・・・私が時間内に戻ってこられること。・・・そして・・・」

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーのそばに沙織と土方機関長。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。微笑するデスラーのアップ。
(効果音)内部機械音。
デスラー「(ガミラス語)・・・私の気が変わらないことだ・・・」

(画面)キークのアップ。
キーク「デスラー!」

(画面)機銃を連射するパラノイア戦闘機の正面。後続には数機の同型戦闘機隊。
(効果音)複数の噴射音。機銃発射音。

(BGM)M−29
(画面)機銃の弾光の羅列をかわして急上昇する宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)機銃。エンジン加速音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。急上昇している角度。コクピットのデスラー。強烈なGにより,後ろのフロールはリクライニングに顔を押し付けられて変形している。
(効果音)エンジン加速音。
デスラー「(ちらりと後ろを見る)・・・時間は有効に使わないとね。お嬢さん」
フロール「・・・ぎゅ・・・この帳尻(ちょうじり)の合わせ方には,つくづく慣れてきたぞ。デスラー」

(画面)遠ざかっていく宇宙艇レネイドブーリー。・・・それを追跡すべく次々と加速していくパラノイア戦闘機隊が画面すれすれを猛速度で通過していく。遠ざかっていく。
(効果音)複数の噴射音。ドップラー効果。
(BGM)M−29

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。アナライザーを背に立っている沙織。
(効果音)アナライザーの機械音。
(BGM)一時停止。
(画面)神妙な面持ちで近づいてくる穴井教授。
穴井「(立ち止まる)・・・沙織・・・」
(画面)うつむく沙織。
沙織「・・・(顔を上げる)・・・ガミラス人だったんです・・・。おじい様」
(画面)穴井教授の後ろに立っている島。
島「・・・ガミラス・・・? ・・・ガミラス人は確か滅亡したはずだが?」
(画面)振り向く穴井教授。後ろには沙織のうつむいている姿。
穴井「・・・今,沙織が話していた言葉は・・・ガミラス語なんじゃ。島提督」
(画面)眼鏡の奥の目をしかめる南部。
南部「・・・どういうことですか? ガミラス人? 今,冥王星にいるんですか? 状況がのめません。今何が起きているんですか? それにアナライザーはどうなったんですか? ガミラス語・・・? 穴井さんは一体・・・?」
(画面)顔を向ける島と佐渡医師。
島「・・・とにかく,今の通信内容を説明してくれますか。穴井測定士」
(画面)顔を上げる沙織。
(画面)うなずく島。
(画面)決心したような表情を見せて姿勢を正す沙織。
沙織「・・・報告いたします。それ以前の成り行きは完全には把握していませんが,先ほどアナライザーを媒体(ばいたい)とした,ガミラス人と思われる知的生命体からのコンタクトをキャッチいたしました。通常の通信ではなく原始的な無線通信によるものです。アナライザーが受信媒体となったのは全くの偶然だと思われます」
(画面)目をみはる相原。
相原「・・・無線通信・・・。そんなことが・・・」
(画面)しりもちしたまま首を向ける薮とソマリア・ギル。
(画面)島。
島「・・・で,通信の内容は・・・?」
(画面)直立している沙織。
沙織「・・・アンドロメダが被弾し,墜落沈没した一部始終を目撃していたとのことです。今の私たちの状況の説明を求められました」
(画面)島の隣から詰め寄る太田。
太田「・・・それで説明したんですか! 何ということを・・・!」
島「(右手で太田を制して顔を上げる)・・・続けてください。穴井測定士」
(画面)再び顔を向ける沙織。
沙織「・・・ガミラス人は私たちを助けたいと言っていました。冥王星にあったガミラス最前線基地へ行き,またここへ戻って来るとのことです。アンドロメダのエンジン部品との互換性のあるユニットに心当たりがあると」
(画面)顔を向ける土方機関長。
土方「ガミラス基地はヤマトが破壊したはずだ。しかもガミラスの部品が地球のエンジンに使えるとは思えない。ましてガミラスが我らを助けたいなどと・・・」
(画面)うつむいている沙織。
(画面)穴井教授。
穴井「・・・機関長。アンドロメダをはじめとする今の地球の宇宙艦は全てがイスカンダルからの技術提供を基に製造されておる。隣国のガミラスの技術もイスカンダルのそれと似通っていると考えても不自然じゃないわい」
(画面)島。
島「穴井測定士。その通信は信用できるんですか?」
(画面)うつむいたまま,わずかに首を振る沙織。
沙織「・・・分かりません」
(画面)視線を変える島。
島「・・・副官」
(画面)直立する南部。
(画面)島。
島「乗組員全員に宇宙服を着用させてくれ。4時間は時間が稼げるはずだ。艦内放送は使えない。各自リレー伝達で行ってくれ」
(画面)下士官敬礼をする南部。
南部「・・・分かりました! (立ち去る)」
(画面)仰ぎ見る穴井教授。
穴井「・・・島提督」
(画面)視線を下へ向ける島。吐く息が白くなってきている。
島「教授。あなたと穴井測定士への尋問は後で行います。今はその時間がありません。彼女が事実を隠蔽(いんぺい)する心配はないと思います。かといって穴井測定士の今の報告を鵜呑み(うのみ)にする危険を冒すわけにもいきません。我々は我々で事態打開を検討しなければならないでしょう」

(画面)海底にかたむいて沈んでいる宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)海底。

(BGM)M−29
(画面)冥王星大気圏内。画面下部に海面。水しぶきをあげる風圧を伴って画面手前へ向かってくる宇宙艇レネイドブーリー。同機を通過する機銃弾をかわしながら加速し画面手前へ退場。間髪入れずに追走するパラノイア戦闘機隊。
(効果音)噴射音。多数。風圧。水しぶき。機銃発射音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。後部機銃砲塔で操作管を握っているフロール。
(効果音)内部機械音。
フロール「(引き金を引く)・・・!」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー後部の描写。後部砲塔から発射される機銃。
(効果音)噴射音。機銃発射音。

(画面)弾光を楽々かわしていくパラノイア戦闘機隊。
(効果音)機銃音。複数の噴射音。
(BGM)M−29

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。後部機銃砲塔で操作管を握っているフロール。
(効果音)内部機械音。
フロール「くそ! 相変わらず当たらない・・・! (後ろへ)・・・大体なあ! レック・アルドを刺激するような通信を送るからこうなったんだぞ,デスラー! もっと,こじんまりと地味に行動できないのか!」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。コクピットで微笑するデスラー。
(効果音)内部機械音。
デスラー「すまなかったね。お嬢さん」

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。後部機銃砲塔で操作管を握っているフロール。
(効果音)内部機械音。機銃発射。
フロール「(ふくれる)・・・あやまるだけかい! それじゃ全然会話がふくらまないだろうに・・・!」

(画面)再び急上昇する宇宙艇レネイドブーリー。はじける海面。機銃の弾光とともに画面手前へ向けてかわされる形のパラノイア戦闘機隊。
(BGM)M−29
(効果音)加速音。水しぶき。複数の噴射音。

(画面)パラノイアコクピット。見上げるキーク。
(効果音)噴射音。

(画面)急上昇している宇宙艇レネイドブーリー。後部機銃は発射され続けている。
(効果音)加速音。機銃発射音。

(画面)海面上空からのアングル。画面へ向かって上昇してくるパラノイア戦闘機隊。
(効果音)噴射音。複数。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。コクピットのデスラーが後ろを垣間見て左手でレバーを操作。
(効果音)レバー金属音。

(画面)突然,減速して上昇速度が鈍る宇宙艇レネイドブーリー。・・・パラノイア戦闘機の陰に隠れる。・・・フロールの放つ機銃がその2機を貫通。火を噴く戦闘機2機。画面から退場。加速して画面上部へ突き抜ける宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)噴射音。機銃音。直撃。爆発。

(画面)操縦管を左へきって目を見開いているキーク。
(効果音)噴射音。
(BGM)M−29

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。後部機銃席で目を丸くするフロール。
(効果音)噴射音。
フロール「・・・ああ,びっくりしたあ! まさか当たるとは思わなかった」

(画面)旋回しながら海面すれすれを疾走する宇宙艇レネイドブーリー。パラノイア戦闘機隊の機銃が無数の小さな水柱をあげる。
(効果音)噴射音。加速音。機銃音。水柱。複数。

(画面)海上を低空航行している宇宙戦艦イメルディア。・・・左へ舵をとり画面手前へ向かってくる。
(効果音)機動音。エンジン音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー。コクピットのデスラー。
(効果音)噴射音。

(画面)火を噴く宇宙戦艦イメルディアの主砲。
(効果音)主砲発射音。3発。

(画面)宇宙戦艦イメルディアの正面へ向かっていく宇宙艇レネイドブーリーを後方から。・・・右上へ旋回離脱する同機。直後に今まで同機があった海面に砲弾が着弾。大きく上がる水柱。
(効果音)爆音。水の轟音。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。斜めの描写。後部砲塔で足を踏ん張りながら後ろを向くフロール。
(効果音)轟音。展望ガラスに打ち付ける水しぶき。
フロール「・・・く・・・! デスラー! 戦艦だ! やっかいだぞ! 機銃なんかじゃ歯が立たない! こっちが搭載しているミサイルだって残り5発だ!まともにやりあうのは無理だ!」
(画面)コクピットで笑みを浮かべるデスラー。
デスラー「ご親切な忠告,痛み入る」

(画面)宇宙戦艦イメルディアブリッジ内。艦長席のイメル。
(効果音)ブリッジ内機械音。
(BGM)M−29
(レーダー士の声)・・・デスラーは左舷方向へ進路をとりました!
イメル「(腕を上げる)・・・逃がすな! レーダーで拾い続けろ! キークたちを援護だ! デスラーを殺さなければ我らに明日はない!」

(画面)コクピットのキーク。
(効果音)噴射音。

(画面)パラノイア戦闘機の右端からの正面へ向かうアングル。猛速度で後方へ通過していく流氷海面。正面には宇宙艇レネイドブーリーの後部。後部砲塔からは機銃の弾光が不規則に撃たれ続けている。
(効果音)空気の流れる音。機銃発射音。噴射音。

(画面)コクピットのキーク。
(効果音)噴射音。
キーク「・・・!(機銃発射ボタンを押す)」

(画面)パラノイア戦闘機の右端からの正面へ向かうアングル。猛速度で後方へ通過していく流氷海面。パラノイア戦闘機から発射される機銃の弾光の羅列。飛び散る流氷。水柱を上げる海面。弾光を避けるように蛇行運転を繰り返す宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)空気の流れる音。機銃発射音。噴射音。

(画面)海面すれすれに右端から画面に現れる宇宙艇レネイドブーリー。画面左端まで移動してアングル固定。同機と同速度で海面をすべるアングル。宇宙艇レネイドブーリーを追いかけていく機銃の水柱の羅列。
(効果音)連続する機銃音。加速する噴射音。

(画面)コクピットのデスラー。視線を上に。

(画面)三たび急上昇する宇宙艇レネイドブーリー。通り過ぎていく機銃の水柱。
(効果音)機銃音。加速音。

(画面)見上げるキーク。
キーク「・・・同じ手を・・・!」

(画面)上昇していく宇宙艇レネイドブーリー。空中で大きく転回。その機首を下方へ向けて急降下を始める。
(効果音)加速音。
(BGM)M−29

(画面)コクピットのデスラー。

(画面)目を見張っているキーク。

(画面)加速に引っ張られる画面。後部機銃座席にて背中から落ちているフロール。
フロール「お。おおおおおお・・・・・!」

(画面)急降下している宇宙艇レネイドブーリー。・・・画面下部から海面が見えたと瞬間に大きな水柱を上げて海面へ飛び込む同機。
(効果音)水の轟音。

(画面)コクピットのキーク。
キーク「・・・! 何だと・・・!」

(画面)海中。無数の気泡を振り払いながら体勢を整える宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)気泡。海中噴射。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内部。コクピットで波の光を反射させているデスラーのアップ。
(画面)いの字で目を見開いているフロール。
フロール「・・・ここまでくると,何でもありだな・・・!」
(効果音)内部機械音。
(画面)コクピットのデスラー。
(画面)機銃発射ボタンを押すデスラーの親指。
(効果音)小さな金属音。

(画面)海中で機銃を発射している宇宙艇レネイドブーリーの正面。
(効果音)海中での機銃音。

(画面)海面上空を飛行するパラノイア戦闘機隊。・・・海面から飛び出してくる弾光に貫かれて1機が大破。海面上で爆発。
(効果音)機銃音。爆発音。水音。

(画面)後ろを見ているキーク。
(効果音)噴射音。
(画面)前へ向かうキークのアップ。
キーク「・・・デスラー。なぜこの区域にこだわっている・・・? なぜこの付近から離れようとしないんだ? 作戦か。それとも他に理由があるのか。いずれにしてもお前は僕たちからは逃げられないぞ。悪あがきがどこまで続くか・・・」

(画面)海面から飛び出す宇宙艇レネイドブーリー。遠ざかっていく。追跡していくパラノイア戦闘機隊。
(効果音)波しぶき。複数の噴射音。
(BGM消える)

(画面)海中に沈んでいる宇宙戦艦アンドロメダ。
(効果音)海中。

(画面)非常照明の艦内。動かないスライド通路。
(画面)通路側から見た出入り口ドア。ドアには赤十字のマークがペイントされている。一般的に宇宙艦で使用されているドアは部屋の内外へ扉が動くスイングドアは安全の関係上設置されていない。人や物への衝突や思わぬ事故を引き起こすからである。しかもドアの前に人や物が倒れていればドアを開けることすらできなくなる。ゆえにアンドロメダ艦内のドアは全て戸袋壁内蔵式のスライドドア(引き戸)である。

(画面)医務室内部。散乱している医療機器。やはりここも非常照明がついている。
(効果音)静寂。

(画面)デスクの影。・・・なにやら動くものの気配。オレンジ色の非常照明の光に照らし出される1匹の猫。
(猫の鳴き声)・・・ミャオウ・・・。

(画面)白いストッキングの細いふくらはぎの描写。動いていない。

(画面)瞳を閉じている綾乃。頭のキャップがわずかにずれている。

(画面)白いストッキングの細いふくらはぎの描写。・・・猫がのどを鳴らしながら自分の身体をすりよせていく。
(猫の鳴き声)・・・ミャオウ・・・。

(画面)瞳を閉じている綾乃。・・・わずかに眉間に反応。薄目を開けて視線を泳がせる。

(画面)綾乃の視界。自分の足にまとわりついている猫。

(画面)綾乃のアップ。目を開ける。
綾乃「・・・ミヤちゃん・・・(白い息)」

(画面)猫を拾い上げる綾乃の両手。

(画面)猫を抱いて壁によりかかって床に座っている綾乃。冷気を感じて1度大きく震える。空調の働かない艦内の温度は急激に低下しつつあるようだ。左右へ視線を走らせる綾乃。

(画面)猫を抱いて見上げている綾乃。

(画面)震えながら伸ばされる綾乃の右手。・・・スライドドアに触れる。わずかに力を入れる仕草。しかしドアはびくとも動かない。

(画面)猫に顔をうずめる綾乃。震えが止まらない。
綾乃「(顔をわずかに上に)・・・提督・・・。(白い息)」

(画面)アンドロメダスタンバイルーム。ここも非常照明。三郎太が室内へ戻ってくる。
三郎太「・・・隊長・・・! 駄目っすよ。岩盤で戦闘機発着口がふさがれてるっす! 戦闘機が出せないっすよぉ。大変だぁ。電力が落ちてるから,貨物ハッチも開かないしい! にっちもさっちもどうにもならないっす! (白い息)」
(画面)強面でにらみつける桂隊長。
桂「バカヤロウ。三郎太。男は滅多に駄目とか大変とかを口に出すもんじゃねえ! こういう時は口から弱音じゃなく案を吐き出すもんだ。(白い息)」
(画面)べそをかく三郎太。
三郎太「・・・だってぇ。隊長。戦闘機乗りがこんなんじゃ,陸にあがった河童(かっぱ)と同じっすよぉ。案を出せって言ったって,饅頭(まんじゅう)じゃないんだから・・・(白い息)」

(画面)スタンバイルームへ入ってくる若い乗組員。
乗組員「・・・ブラックタイガー隊のみなさん! すぐに宇宙服を着用してください! アンドロメダの生命維持装置が停止しています。艦内温度が氷点下を下回っています! 二酸化炭素濃度も許容範囲を越えました。急いでください! (白い息)」

(画面)ぎろりと顔を向ける桂隊長。
桂「俺たちゃ戦闘機乗りだ。宇宙服なんぞ,そんなみっともないもの着れるか! (後ろを見る)・・・なぁ,手前ら! (白い息)」

(画面)画面左端に桂隊長の後頭部。右側にはあわてて宇宙服を着用している隊員たち。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダブリッジ内。艦長席の島と傍らの佐渡医師。まだふたりとも宇宙服は身につけていない。
島「・・・(前を向いている)」
佐渡「(島へ)・・・島さん。宇宙服を着てください。(白い息)」
島「(佐渡へ笑いかける)・・・乗組員全員が着用したら着させてもらうよ。それにこの方が指示を出しやすいしね。(白い息)」
佐渡「・・・しかし島さん。あなたの身体は・・・。(白い息)」
島「(佐渡へ)今は乗組員の不安をあおる発言は控えてください。先生。(白い息)」

(画面)宇宙服を着ている穴井教授。
穴井「・・・艦内温度。氷点下22度。23度。・・・25度。・・・酸素濃度が10%をきったぞい! (後ろを向く)・・・島提督! 早く宇宙服を着るんじゃ! 人間が意識を保っていられるギリギリいっぱいじゃぞ! このままじゃ,凍死か窒息じゃ!」

(画面)ドーム型ゲージに向かっている沙織。宇宙服を着ている。・・・首をかしげる。・・・右耳の部分を右手中指で叩く。

(画面)島の肩へ手を置く佐渡医師。
佐渡「・・・意識を失えば指示が出せなくなります。島さん。宇宙服を着てください。(白い息)」
島「(佐渡へ微笑)・・・そうだな。それじゃ,着させてもらうか・・・。(白い息)」

(画面)安堵するブリッジスタッフたち。

(画面)ドーム型ゲージに向かっている沙織。

(画面)沙織の上半身の描写。バイザーで表情は分からない。

(画面)沙織のアップ。バイザーの中の表情。

(画面)沙織のバイザー越しの両目のアップ。・・・その瞳には驚愕の光。
沙織「・・・な・・・なんて・・・なんてことなの・・・! 大変!」

(画面)背中から振り向く沙織。
沙織「・・・提督!」

(画面)顔を向けている佐渡医師と島。

(画面)沙織のアップ。必死の表情。
沙織「・・・森さんが・・・! 森さんがぁ!」

(画面)まゆをしかめる島のアップ。

(画面)機銃をかわしながら海面上を接近してくる宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)噴射音。機銃音。

(画面)コクピットのデスラーを左斜め後方からの描写。操縦管を巧みに動かす一方で前面パネルを操作している。
(画面)後部機銃席で引き金を引きながら後方を向くフロール。
フロール「デスラー! もうすぐ0.5ガトランティスアワーだ! 地球時間での30分を経過したぞ! あの戦艦のタイム・リミットだ!」
(画面)顔を上げるデスラー。
デスラー「大丈夫だよ。お嬢さん。彼らはあと2トライムは生きているはずだ」
(画面)機銃を撃ち続けるフロール。
(効果音)機銃音。
フロール「時間の単位を統一して語ってくれ!」
(画面)操作パネルの描写。映し出されている建築物のCG。その一部が赤く点滅を始める。その下に表示されるガトランティス文字。
(効果音)電子音。
(字幕)施設非常エントランス開放システム作動可能(画面下部横文字)
(画面)微笑するデスラー。
デスラー「・・・どうやら地球人たちは一つ目の幸運をクリアしたようだね」

(画面)機銃を撃ちながら海面上を飛行するパラノイア戦闘機。
(効果音)噴射音。

(画面)コクピットのキーク。何かを操作している。
キーク「(前を見る)・・・デスラー・・・。お前が殺したミル兄さんは,僕にとってたったひとりの肉親だったんだ。父や母も戦死して,兄さんは僕をひとりで育ててくれた。周りからは陰険(いんけん)でいやなやつだと陰口(かげぐち)もたたかれていたけど,僕にはいつも優しい兄だったんだ・・・。それをデスラー・・・。お前はその兄さんを背中から撃った・・・。絶対に許さないぞ。あの時から僕の人生はお前を殺すことだけに費やされてきたんだ・・・」

(画面)冥王星の陸地が迫る。画面を追い抜いて陸地へ向かっていく宇宙艇レネイドブーリー。追跡していくパラノイア戦闘機隊。
(効果音)複数の噴射音。

(画面)宇宙戦艦アンドロメダ艦内。通路を走っている島と佐渡医師。彼らの白い息の量が呼吸の苦しさを物語っている。後ろから追走するクルーたちはさすがに宇宙服の影響でふたりより遅れている。
(効果音)足音。息づかい。

(画面)赤十字のペイントのあるスライドドアの前に立つ島と佐渡医師。ドアを開けようとする島。・・・しかしドアが動かない。佐渡医師もドアに手をかける。ふたりがかりの力を受けるスライドドア。

(画面)歯を食いしばっている島。手前の佐渡医師も同様。
佐渡「・・・くそ・・・! 動かない・・・! (白い息)」

(画面)島と佐渡医師に追いつくクルーたち。何人かがドアに手をかけて開けようと試みる。

(画面)医務室内部から。少しずつ動いているスライドドア。
(効果音)どこかに当たっているような摩擦音。

(画面)通路側から。島や佐渡医師をはじめとする数人が懸命にドアを開けようとしている。
(効果音)どこかに当たっているような摩擦音。

(画面)医務室内部から。・・・スライドドアが4分の1ほど開いて戸先に数人の手がかかる。そこで一気に開かれるスライドドア。
(効果音)摩擦音。
(画面)立ち尽くす島。左には佐渡医師。後ろには宇宙服のクルー。

(画面)医務室の入り口付近で猫と一緒にぐったりとしている綾乃。この寒さで身体を丸めていないのは危険のサインである。

(画面)島のアップ。
島「・・・! 森くん!」

(画面)綾乃の頭を左腕で支えて,右腕で身体を引き寄せる島。綾乃の腕から猫が飛び出す。綾乃は無反応。

(画面)佐渡医師の腕の中へ飛び込む子猫。

(画面)ひざをついて綾乃を抱きすくめている島。
島「(ゆする)・・・しっかりしろ! 森くん!」
(画面)島の腕の中で頭をぐったりさせる綾乃。

(画面)島のアップ。

(画面)島の腕の中の綾乃。

(画面)島のアップ。

(画面)島の腕の中の綾乃。・・・突然,画面がフラッシュバック。綾乃の顔が別の女性の顔と交互に重なる。

(画面)島のアップ。

(画面)(回想シーン)腕の中で力なく微笑んでいるひとりの女性。最後の瞬間まで自分の気持ちを押し殺し続けた女性。
(字幕)森 雪(2201年11月28日戦死)(画面下部横文字)
雪「・・・地球の・・・みんなの願いがこめられているのよ・・・」

(画面)かたまる島。そして震える島。
島「・・・いやだ・・・! いやだ! 死なせはしない! 死なせはしないぞ! 絶対に死なせない! (白い息)」

(画面)氷点下30度を下回る艦内で上着を脱ぐ島。上着を綾乃の身体に巻きつける。

(画面)うろたえる佐渡医師。
佐渡「島さん! (白い息)」

(画面)綾乃を抱きしめて見上げる島。
島「佐渡先生! 毛布を持って来てくれ! すぐに彼女の様態を診てやってくれ! (白い息)」

(画面)絶句している佐渡医師。

(画面)にらみつける島。
島「早くしろ! 命令だぞ!」

(画面)冥王星の陸地上空。パラノイア戦闘機隊と空中戦を繰り広げている宇宙艇レネイドブーリー。1機のパラノイアがきりもみ状態で墜落していく。
(効果音)機銃音。噴射音。空気を切る音。爆発音。

(画面)コクピットのデスラー。ふと,視線を下げる。
(効果音)噴射音。小さな電子音。

(画面)コクピットのキーク。通信マイクに口を近づける。
(効果音)噴射音。
キーク「・・・デスラー! よく聞け! お前は無防備の監視官ミルを卑怯にも不意打ちして殺した! お前は僕の兄の仇(かたき)だ! あの時のミル兄さんの屈辱と苦痛をお前にも味わってもらう! 覚悟しろ!」

(画面)嘲笑するコクピットのデスラー。パネルを操作する。
(効果音)噴射音。
デスラー「ふふふ。ここにも程度の低い感傷か。交戦中に通信とはね。あいにく通波の具合が良くないようだよ。よく聞こえないね」

(画面)歯をくいしばるキーク。通信装置を調整する。

(画面)コクピットのデスラー。
(画面)パネルを操作するデスラーの左手。

(画面)冥王星の陸地。突然亀裂が入って左右に引き分かれ始める。・・・やがて陸地に大きな四角い穴が出現。
(効果音)重機械音。土や岩がころがり落ちる音。

(画面)接近してくる宇宙戦艦イメルディア。
(効果音)機動音。

(画面)宇宙戦艦イメルディアブリッジ内。目を見開くイメル。
(効果音)ブリッジ内機械音。
イメル「・・・なんだ・・・? あれは・・・?」
(画面)振り返るスタッフ。
スタッフ「この付近に巨大な人工建造物の反応があります。巨大な動力反応です」
(画面)顔を向けるイメル。
イメル「地球の基地か?」
(画面)再び振り返るスタッフ。
スタッフ「調査中です。ただ,デスラーはあの開いた陸地の穴へ向かっているようです。当艦のレベルでは追跡不可能です」
(画面)腕を上げるイメル。
イメル「主砲発射だ! 陸地の穴を狙え! デスラーを逃げ込ませるな!」

(画面)主砲を連続発射する宇宙戦艦イメルディア。
(効果音)主砲発射音。連続。

(画面)次々と陸地へ着弾する砲弾。土や岩を伴う火柱が穴の周辺に数多く出現。・・・火柱を巧妙にすり抜ける宇宙艇レネイドブーリー。
(効果音)着弾多数。噴射音。

(画面)冥王星宙域の宇宙空間。

(画面)冥王星宙域の宇宙空間で戦闘態勢中の地球艦隊。
(効果音)複数の機動音。

(画面)宇宙戦艦メッロブリッジ内。振り返るレーダー士。
(効果音)ブリッジ内機械音。
レーダー士「(ポルトガル語)・・・提督! 冥王星大気圏内でエネルギー反応です!」
(画面)艦長席でまゆをしかめるベルナルド。
ベルナルド「(ポルトガル語)・・・やはり陽動作戦だったか・・・! 基地がやられる・・・! 大気圏内へ出撃する艦を選抜・・・」
(レーダー士の声)・・・提督!
(画面)顔を向けるベルナルド。
(画面)振り返っているレーダー士。
レーダー士「敵艦隊が接近してきます! 距離,20万宇宙キロ!」
(画面)歯を食いしばるベルナルド。

(画面)前進してくるガトランティス第156遊動機動艦隊。20隻。
(効果音)複数の機動音。

(画面)156遊動機動艦隊の駆逐艦ブリッジ内。艦長席のガトランティス戦士。
(効果音)ブリッジ内機械音。
艦長「ある程度まで前進したら全艦停止。あくまでも地球艦隊の注意をこちらへひきつけろ」

(画面)冥王星大気圏内。主砲を撃ち続ける宇宙戦艦イメルディア。
(効果音)主砲発射音。連続。

(画面)宇宙艇レネイドブーリー内。支離滅裂に機銃を発射しているフロール。
(効果音)着弾音。連続。
フロール「(いの字)なりふり構わず撃ってくるな! あれはどこの遊動機動隊だ!」
(画面)コクピットのデスラー。
デスラー「ふふふ。あの戦闘機隊も条件は同じだね。おかげで施設にうまく入れそうだよ」

(画面)火柱に翻弄(ほんろう)されているパラノイア戦闘機隊。
(効果音)着弾音。連続。

(画面)コクピットのキーク。
キーク「(苦々しげ)・・・あのイメルの馬鹿が・・・! 秩序のない砲撃を・・・! 結果的に我らからデスラーを守るかたちになっているのが分からないのか!」

(画面)宇宙戦艦イメルディアブリッジ内。右手を上げているイメル。
(効果音)ブリッジ内機械音。
イメル「撃てぇ! 撃てぇ!」

(画面)火柱が立ち上る中,陸地の穴へ突入していく宇宙艇レネイドブーリー。追ってやはり突入していくパラノイア戦闘機隊。
(効果音)着弾音。連続。噴射音。複数。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第8節 未曾有の危機! 追い詰められる戦士たち