周防 元水 様

 御作読みました。
 世津とは何物なのか。女か、神か、海か、大地か、宇宙か。
 元水氏の作品は難解である。それは一つには作品中の人物や出来事が現実のことなのか、夢の中にいるのか。はたまた想像の世界なのか皆目わからないことに起因している。夢と現実の交錯した世界が作品の特徴であり、それは読者にとって難解であると同時に心地よいものとなって読者を作品の世界に引き込んでいく。絶対者である世津が「わたし」を身も心も余すところなく包み込み、めくるめく世界に連れて行く。
 鳥居は「わたし」の希望の出発点である。「わたし」は希望をもって鳥居から船出することを願っていた。がそれはあえなくついえたのである。神社の神域で「わたし」は最期に神と一体に成り、おのが体を信仰の中に昇華させ至福のうちに生涯を終える。これは「わたし」がほんとうに最初から望んだことなのだろうか。
 この作品のほっとするところに、「わたし」の幼い頃の両親の働く姿を描いた情景がある。それが作者の少年時代を垣間見せて、作者の原点に触れた気がした。根はつながっている、と小生救いを得た心地になった。同じ土壌で育っているからには作品への理解も可能にちがいない。
 繰り返すが氏の作品の難解さは対象物と現実・非現実の世界が暖昧なところにある。読者にとよっては規定されない分自由に読めるだけに世界が広がる。想像力のない人は難しくて皆目わからないということになる。そこに氏の作の特徴があることは間違いないであろう。読後の甘いけだるさも氏の作の特徴といえようか。願わくばめくるめく官能の世界にたゆうとうようなスケールの大きな作品を期待したい。

平成16年9月15日
鈴木孝之

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