周防 元水  〜昔話〜        

 すおう げんすい。浜松市生まれ。「フェイドアウト」が処女作です。浜松っ子は浜名湖と共に育ってきたといってもいいと思います。古くは浜名湖で獲った魚貝類は遠く三方原台地にまで漁師の手により行商品として巡っていきました。珍しいトビウオやダツ、大量の海苔やアサリ・カキは私たちに浜名湖の自然の大きさを想像させ浜松中にその恵みを広く伝えました。当時の生活圏は今日とは比べものにならないほど狭かったので、浜名湖での催し等は伝え聞く程度で大変珍しく、たまに誰かが「弁天に行って来た。」と自慢気に話し皆の羨望の的となる程でした。さすがに最近では交通の便が発達し、この様な光景は見られなくなりましたが、幼い頃味わった海の幸の五感や湖畔での様々な出来事は、原体験として皆さんの心のひだに多く残っていて、浜松っ子としての今を形作っているのではないでしょうか。

 私も浜名湖と共に育ってきました。母の実家の目の前が浜名湖で、年2回の里帰りの時には、せがんでよく船に乗せてもらったものです。早朝に起こしてもらい叔父さんの漕ぐ和船で昨夕仕掛けて置いた刺し網を挙げに行くのです。朝まずめ時20分程櫓を漕げば絶好のポイントに到着。網を手繰れば朝日に映えた銀鱗が早くも湖面に姿を現し、これはもう三方原の台地に育った者としては別世界へ来たようなそんな錯覚に陥る心地よい瞬間でした。復路の船底には、網に掛かった小魚と共に櫓音に驚き飛び込んできた小魚も時折混ざっていました。獲れた魚は何と言う名前か今はもう忘れましたが、お婆ちゃんが網から外して生きのいい内に酢物にして朝食に出してくれたのが嬉しかったです。潮の香りと潮騒、裏山からの蝉時雨そして決まって2時頃通るアイス屋さんのチンチンという鐘の音が夏の湖畔の一風景です。波打ち際のフナムシや玄関先の赤いカニは呆れるほどぞろぞろと現れて私の目を楽しませてくれました。暑い日にはパンツ1枚で海水浴です。長めの板が小さな舟代わり、叔父さんには沖でひっくり返され死ぬ思いもさせられました。夕方には五右衛門風呂で潮風に当たり、夜8時頃には早くも蚊帳の中で翌朝の漁を想って床に就いていました。それはそれはのどかな風景でした。

 どうぞ、本Web小説「フェイドアウト」を通して、皆さんも浜名湖の持つ真の美しさを想い起こし見付け出して頂きたいと想います。「フェイドアウト」はこれまでの小説とは違いインターネットを活用した小説です。皆さんからのご批評を頂き各行間にそれを反映・滲ませ創造していくいわば双方向対話型の小説です。主題は自然保全運動、浜名湖の環境浄化です。これまで行われてきたイベント的自然保全運動とは趣・角度を変え、個人個人の持つ原体験・感性に着目・期待し環境保全の基礎を少しでも固めることができればと想っています。是非読み進めて頂きご批評を頂きたいと想います。そして浜名湖の持つ自然の大きさをご堪能ください。

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