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紅茶の栽培・製造
「どぅとのむ」の紅茶はどのようにしてつくられているの?

紅茶の原料になる植物は日本茶と同じ

 「どぅとのむ」の茶畑や工房がある静岡県は日本茶や紅茶の生産で有名な地域のひとつですが、 日本茶も紅茶もツバキ科の常緑樹「チャ(学名:カメリア・シネンシス)」から製造されます。 現在は品種改良の成果もあって「チャ」には大変多くの品種が存在しそれぞれに特徴がありますが、 主に大きく緑茶向きの中国種(バラエティ・シネンシス)と紅茶向きのアッサム種(バラエティ・アッサミカ)に分けることができます。 いずれの品種からも紅茶の製造は可能ですが、その土地の気候風土や歴史的な背景がありインドのアッサムやニルギリ、スリランカやアフリカなどではアッサム種から、 日本では主に中国種から紅茶が製造されているようです。現在は中国種とアッサム種が交雑された品種もあるようです。 「どぅとのむ」の茶畑には中国種に属する幾つかの品種が植えられていますが、元の地主の方が様々な品種を試されていたようで品種不明の茶樹もいくつかあります。 品種がわかっているものでは「やぶきた」「ふじみどり」「やえほ」「するがわせ」「やまかい」「くらさわ」「ほうりょく」などがあります。

自然な紅茶のための茶栽培

 静岡県に住んでいるとそこら中に茶畑があり、私も子供の頃に「かまぼこ型」の茶樹が並んだ茶畑で遊んだことを覚えています(今はそんな子は見ませんよね)。 しかし、最近は農家事情も変化してきており、省力・効率化のため規模の拡大化が進んでいるようで、 茶畑にはロボットのような乗用型茶葉摘採機が多く見られるようになりました。 ロボットの導入によって茶畑の様子も変わり、「かまぼこ型」ではなく「平らな樹形」で色も形も整えられた美しい茶畑が多くなっています。 さらに、単位面積当りの収穫量をできる限り増やすために農薬や肥料によって葉はぎっしりと高密度に栽培されています。 人で言う「メタボリックシンドローム」のような状態の茶を育てているという表現の書物もありました。
 「どぅとのむ」は、このような農業とは少し理念が異なりますので、少しお話させていただきます。 「どぅとのむ」では化学肥料や除草剤・農薬などを一切使用しない自然を生かし大切にした茶の栽培を行っておりますので、茶畑の外観が一般的な茶畑とは少し異なります。 茶樹の側面は強く刈り込まれ、枝もあまり横に広げないような樹形(垣根型?)に整えられています。 そのため、畝(うね)と畝との空間が極端に広くなり、遠くから見ると茶畑ではなくワイン造りのためのブドウ畑のように見えるかもしれません。 これによって、茶樹の各株・各葉ならびにそれを支えている地面にも日光が良く当たり、風通しも良くなりますので、茶樹が健康に育ち病害虫の被害を軽減できます。 茶畑の中の地面も広く日光の影響をうける部分の面積が増大するため、畑全体の夜や昼などの寒暖差が大きくなり、 温度の影響を受けて生合成される茶葉中の成分が多様化されることになります。 これは、まさにワイン造りのためのブドウ畑の考え方を導入したものです。 しかし、茶樹の周りには自然とたくさんの雑草が生い茂ることになります。 それらの雑草は頻繁に抜いたり刈ったりしなければなりませんが、雑草は後々に茶樹の肥料となってくれますので、 草取り・草刈は雑草の強い生命力を茶樹に供給する大切な作業になります。
 高品質の緑茶の指標となるテアニンなどのアミノ酸の含有量を増加させるために多量の窒素肥料を投入したり、 香りや味を調節したり、生長を促進して収量を上げるたりするために特別な肥料を用いたりすることもないため、茶樹の生長はゆっくりになります。 また、元々ひと株で栽培する茶葉の量を少なくしていますので、摘める茶葉の量も少なくなります。 しかし、茶樹はその土地の自然環境に徐々に順応しながらじっくりと育ちますので、茶葉はその土地特有の自然な優しい味わいを持つと考えます。 また、茶葉の摘採(てきさい)も機械ではなく手摘みで、その中でも最も茶樹を傷めにくい「折り摘み」と言う方法で行い、樹勢の衰弱にも気を付けるようにしています。 ただ、効率は非常に悪く単位面積当たりの生葉の収穫量は一般的な機械摘みの茶畑の数10分の1以下しかないと思います。 近所のお茶の師匠と言われるベテランからは、「お前のお茶は幻の紅茶だな。」などと言われています。
 紅茶の場合は、高級日本茶では敬遠されがちな渋味の成分とされるカテキンなどのポリフェノール類を重視しますが、 施肥の制限は紅茶にとってむしろ優れた栽培法という理論もあり、環境にも負荷を与えない地球に優しいサステナブルな農法と言えます。 農薬・化学肥料や大型機械を使用し、合理性等を最優先した農業を否定するわけではありません。 私も日常生活においてペットボトルの茶類を飲みますし、その恩恵は受けていると思います。 ただ、過去の茶業を振り返った時に多施肥は環境問題となりましたし、茶樹自身に対しても負荷を与えることが報告されました。 そして、現在の「環境保全」に対する考え方は無視できないと思います。 「どぅとのむ」では、紅茶の世界においても日本で昔から育まれてきた繊細な感性を大切にし、自然の力でじっくりと生長し、その土地の気候風土にあった自然の香味をもち、 季節が感じられるような茶葉や紅茶造りに取り組んでいきたいと思っています。下の写真は、「どぅとのむ」の茶畑の様子です。 畝(うね)間の空間が広く、そこに繁茂して刈り取られた雑草や整枝葉は、後々の肥料としての効果があります。
畑望遠 畑全体 茶木

生茶葉から紅茶ができるまで

紅茶の製法には主に次の3種類があります。

  1. オーソドックス製法(伝統的な製法:下に説明)
  2. アン・オーソドックス製法(CTC法やローターバン製法など)
  3. セミ・オーソドックス製法(オーソドックス製法とアン・オーソドックス製法を併用した製法)

「どぅとのむ」の紅茶工房は昔ながらの機械によるオーソドックス製法で、主な製造工程は次のようになっています。
1.摘採 → 2.萎凋 → 3.揉捻 → 4.発酵 → 5.発酵止め → 6.本乾燥
各工程での詳細な作業内容は、工房によって異なり各工房なりの工夫が凝らされていると思います。 ここでは「どぅとのむ」の紅茶造りの工程についての概要を説明したいと思います。

1.摘採(てきさい)
茶芽・茶葉を摘む作業で、「折り摘み」という手摘みの方法で主に一芯二葉から三葉の茶葉を摘んでいます。 農薬や化学肥料を使用しないため、自然環境の変化がストレートに茶葉(茶芽)の生長に影響します。特に平地ではない山里では顕著になると言えます。 さらに厳密に言えば、同一株内でも枝や芽ごとに生長具合は微妙に異なります。 また、「どぅとのむ」の紅茶園では数品種の茶葉を栽培しているため、品種による生長の遅速も発生します。 したがって、どのタイミングでどの茶葉(茶芽)を摘むのが最も適切かを見極めることが重要になり、機械ではできない繊細な手摘みならではの良さがでます。 手摘みは効率も悪いため、一人で1日に生茶葉を5kg程度しか摘めません。 しかし、この手摘みをいい加減にすると最後にできる紅茶の品質に大きく影響しますので、体力的にも精神的にも最も疲れる作業になります。 緑茶でも手摘みの新茶が高価になるのは納得できます。 つまり、統一化された商品を大量に(しかも安価)で生産するためには、 その規模の大小はありますが、その背景には薬などの化学物質や機械に頼らざるを得ない状況があると言うのが現実かもしれません。
1芯2葉

2.萎凋(いちょう)
摘んだ生茶葉を萎(しお)れさせる作業で、これが香りに関係する大切な工程です。「どぅとのむ」では古民家の風通しの良い大広間を萎凋用の部屋にしています。 そこに網棚を設置してその上に茶葉を薄く並べ自然の風でじっくり干します。 これを「自然萎凋」と言いますが、この萎凋工程から(厳密には摘採された時から)茶葉では発酵という現象が徐々に始まっています。
下の写真は、「どぅとのむ」の事務所のすぐ近くにある古民家内に設置された萎凋用の網棚で、摘採された生茶葉を萎凋しているところです。
萎凋

3.揉捻(じゅうねん)
萎凋した茶葉を機械を使って揉みます。この作業によって茶葉の組織が傷つけられるため細胞の中の酸化酵素がカテキンと接触して発酵が激しく始まります。 揉捻中の発酵をある程度コントロールするために、揉捻中の茶葉の温度や室内の湿度に気を付けて揉捻の時間を調節します。 「どぅとのむ」では一度に摘める茶葉の量が少ないため、少量の茶葉に対応できるように揉捻機が改良されています。
揉捻

4.発酵(はっこう)
揉んだ葉を温度30℃位で、高い湿度を保った発酵箱の中に入れて、本格的に茶葉中の酸化酵素の働きで発酵させます。この発酵は微生物などによる発酵とは異なります。
発酵

5.発酵止め(はっこうどめ)
中揉機(ちゅうじゅうき)の円柱ドラムの回転によってドラム内の茶葉が回転します。 同時にドラム内に送られる熱風によって茶葉中の酸化酵素が熱変性して活性を失い発酵が停止します。
発酵止め

6.本乾燥(ほんかんそう)
発酵止めを行った茶葉を4段ある乾燥器の引き出しに薄く並べて、熱風を送り水分を減らします。 茶葉が均一に乾燥するように、途中で引き出しの入替を行います。
本乾燥

 紅茶と日本茶の最も大きな違いはその製造工程にあります。 日本茶の場合は、摘んだ生茶葉に「蒸熱(じょうねつ)」と言ってすぐに熱い蒸気を当てて酸化酵素の活性を止め、発酵が進行しないようにします。
これに対して紅茶の場合は「蒸熱」はせず、「萎凋」と言って摘んだ生茶葉を萎れさせ水分を減少させます。 この時に起きる微量な「発酵」によって、紅茶には花のような香りが引き出されます。 そして、この「萎凋」と言う工程が、この後の「揉捻」と言う茶葉を揉む工程や一定の温湿度による「発酵」と言う工程をスムースにそして安定させる重要な意味を持っています。 細かい点ではそれぞれの工房によって独自のノウハウがありますし、大量に茶を製造する工場などではライン化された優れた機械が導入され、 短時間に高品質の日本茶や紅茶が大量に製造できるシステムが構築されています。
 「どぅとのむ」にはそのような高性能の機械や設備はありませんので、昔ながらの機械でじっくりと手間暇をかけて仕上げるようにしています。 また、茶葉の状態は常に一定ではありませんので、各工程で茶葉の様子を見ながら微妙に調節して進めます。 機械類も緑茶と併用することはなく、紅茶のみで「どぅとのむ」の自家工房のため、個性的な紅茶造りのための大きなメリットと言えます。

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