溯ること二十年以上前の話になりますが、私は将来の田舎暮らしを夢見て静岡県浜松市の山奥に古民家を購入致しました。
妻も私もサラリーマンでしたので、週末や休日に夫婦で山に赴き、古民家の修理をしたり周りの土地や畑の手入れをして過ごしました。
果樹や野菜、ハーブも植えたりして、多い時には50種以上のハーブを植えていました。
しかし、露地栽培であったため週に1~2回程度の手入れでは雑草の勢いに負けてしまい、
またシカやイノシシなどの野生動物の食害にも会い、徐々にハーブの種類は減り、果樹はかじられ、野菜も収穫できなくなってしまいました。
今は雑草に比較的強く、野生動物の食害にも会い難い数種類のハーブが残っているだけです。
山に通い始めて時が少し経過し落ち着いてきた頃、近所の耕作放棄された茶畑が荒れているのが気になり、地主さんに話をして茶畑を貸していただけることになりました。
自分の背丈以上に生長した茶樹が生い茂る茶畑の手入れは想像以上に大変な仕事で、普通の茶畑らしい状態にするのにも数年を要しました。
そして、農家資格を取得して地主さんから茶畑を譲り受け、現在は自分なりのこだわりをもった方法で茶の栽培を行っています。
「どぅとのむ」の畑のイングリッシュラベンダー
「どぅとのむ」の茶畑は静岡県浜松市天竜区横山町の大白木(おおしろき)と言う地区にあります。
大白木は茶業や林業などを営む10世帯ほどの家族が生活する小さな山里で、浜松市中心の市街地からは自動車で1時間30分から2時間ほどかかります。
山間部に入ると途中に「船明(ふなぎら)ダム」があり、その近くに「↑月 Tuki 3km」と書かれたマニアにはちょっと名の知れた道路標識があります。
伊与原新さんの「月まで三キロ」と言う小説を思い起こされる方もあるかもしれません。
大白木地区はこの標識の「月」と言う地区からさらに奥に数キロ進んだ標高約400メートルの山の中にあります。
「どぅとのむ」の茶畑はこの大白木地区にあり、南の方角は天竜川の川筋に沿って山が開け、空気が澄んだ好天の日には遥か遠くに太平洋を臨むことができます。
条件が揃うと大海原の海面が陽光を反射してキラキラと輝き、その上を船がゆっくりと進むすばらしい光景を眺めることができ、畑仕事の疲れを癒してくれます。
西の方角には山の稜線が連なるため、夕陽の沈む時間は平地よりも少し早くなります。
日が落ちてすっかり周りが闇に包まれると空気は急に冷たくなり、今度は海が見えた南の方角に夜の街灯りが瞬き始めます。
山の中でありながら海も夜景も眺められるとても珍しい素敵なところです。
さらに、雨天などでは広く山々や茶畑が霧に包まれて幻想的な世界になります。
昼夜の寒暖差もあるため茶の栽培には格別の土地と言え、「静岡の天竜茶」の産地として有名なところです。
浜松市の市街地から大白木へ向かう途中にある船明ダム
ダムのすぐ近くにある「月」の道路標識
「月」地区のボート場から見える鉄橋
2025年4月より「どぅとのむ」の施設はこれまでと少し変更になりました。事務所はこれまでと同じ茶畑のすぐ横にあります。
事務所の建物はかなり老朽化した廃屋でしたが、そこからの景観が素晴らしかったため所有者の方に譲っていただき、自らの手でリノべーションし、
日常生活に必要な設備を整えてあります(電気、上下水道、ガスなどはプロにお願いしました)。
「どぅとのむ」では、春の一番茶から秋の茶葉まで摘採(てきさい)された生葉はすべてすぐに仕上げて季節紅茶にしますので、事務所がシーズン中の生活の拠点になります。
以前は、事務所と店舗は同一の建物を使用していましたが、今回のリニューアルにより、事務所とは店舗は近くですが別の建物になり、紅茶工房は移転して店舗横になり、萎凋用の施設が増えました。
これまでに比べ施設数は増えましたが、それぞれの施設が近接しているため作業や管理がかなり便利になりました。
新しい紅茶工房は木造の古風な茶工場を整備し直した建物ですが、太い木の梁や石垣の壁、サッシではない木枠のガラス窓など昔ながらの趣があり、
大変素敵なを紅茶工房になっています。
製茶用の機械は、以前から私が使用していたものをそのまま導入いたしました。
石垣の上の古民家をリノベーションした「どぅとのむ」の事務所の建物
事務所のすぐ下にある萎凋室がある古民家の建物(中央のえんじ色の屋根の建物)
事務所横の茶園のすぐ下にある新しい店舗と新しい萎凋施設がある建物
新しい店舗の隣にある新しい紅茶工房の入口