[寸評] 2029年から10年ずつ1979年まで、家族の歴史を遡っていく6章からなる構成の作品なのだが、話が変わると視点も変わり、新しい登場人物が説明なく出てくるので人物関係が分かりにくく、普通に時代を経る順に後ろの話から読んでいった方が理解しやすかったと感じた。 初めの方の章では、ちょっと風変わりな、闇を抱えたような二つの家族の話は、意外性もあってなかなか面白く読めたのだが、後の章に行くほど興趣に乏しくなった感じなのは残念。 採点はやや辛め。
23歳のハードリーは寂れた遊園地で働いている。
7月の死ぬほど暑い日、市庁舎へ駐車違反切符の延長申請に訪れる。
窓口の列に並んでいるとき、廊下の先のベンチに子供がふたりで座っているのに気付く。
二人は6、7歳くらいでガリガリに痩せている。
延長許可をもらい、二人に声をかけるが反応はない。
見ると女の子の足首と男の子の襟元にボタンほどの丸い点が並んでいる。
煙草の火傷跡だ。
最近ついた跡で間違いない。
[寸評]
ミステリー関係賞を多数受賞した「11月に去りし者」以来、作者5年ぶりの新作。
大いに期待したが、趣は前作とはだいぶ変わって、青年が父親からのDVにあっていると考えられる子供たちとその母親を救うために奔走する話だ。
この青年、ちょっと思慮が浅く、先をあまり深く考えずに暴走気味で、読んでいて大丈夫かなと、つっこみどころが多い。
物語はテンポはあるが、展開にはあまり抑揚がない。
ラストは壮絶だが、これで話がすべて解決したとは思えなかった。
メルチョール・マリンはカタルーニャ州南西の町テラ・アルタにある警察署の刑事。
夜勤が明けるのを待っていると突然電話が鳴った。
アデルの屋敷で人がふたり死んでいるという通報。
町いちばんの富豪であるアデル美術印刷の社長夫妻の屋敷だ。
急行したメルチョールは屋敷の二階の大広間で衝撃のあまり棒立ちになる。
赤や赤紫が入りまじった肉塊がふたつ、血液、内蔵、軟骨、皮膚が混ざったドロドロの液体に浸かっている。
[寸評]
珍しいスペインのミステリーで、英訳され英国推理作家協会の最優秀翻訳小説賞を受賞した作品。
まずは主人公メルチョールのキャラが立っているのが良い。
正義を実行することを絶対とするストイックな男で、迷宮入りの事件も上司が止めるのも聞かず密かに捜査を続ける。
その男が図書館の司書に恋してしまうところも面白い。
物語は現在の時間軸に過去のメルチョールの回想が時折挟まれ、テンポよく進む。
ただ事件の真相が少し唐突に感じられてしまったところは残念。
[寸評]
30〜50ページほどの短編6編。
コロナ禍、犯罪がアクセントになっているものが多いが、どんな題材でも料理しますという作者の手練れの技がうかがえる作品集だ。
いずれも軽くスラスラ読める温かめの話だが、意外性は薄く、全体通して後に残るものはあまりないという印象ではある。
中では、高校生の娘が妊娠する一家の騒動を描く「祝福の歌」、料理人だったがコロナ禍で店を解雇され求職中の男が金持ちの一人暮らし高齢者と知り合う「特別縁故者」が面白かった。
[寸評]
平安京、NHK大河ドラマ「光る君へ」の約20年後、藤原道長が栄華を極める時代を舞台とした王朝ミステリー。
道長邸で働く主人公の小紅と都を暗躍する盗賊集団との関わりを描く。
紫式部や和泉式部らも登場して、大河と並行して見ても楽しい。
登場人物も多く、歴史用語を交えた書きぶりは最初は少し読みにくいが、後は面白さがぐっと優る。
ミステリーとしては朝廷を揺るがすような謎が用意され、動きの多い展開で存分に楽しませる。
終盤は少し急いだ感じがした。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
夜の雑踏のただ中、週末の午後八時、一軒目を物色する客と二軒目を逡巡する客で繁華街はごった返していた。
優斗が差し出すビラは十枚に一枚も目に留めてもらえない。
それでもほろ酔い加減のサラリーマン四人組を首尾よく捕まえ、店までアテンドすることができた。
優斗はふと視線を感じた。
軽く周囲を見回すとすぐに若い女と目が合った。
攻撃力が高そうな女でもちろん面識はなく、慌てて目を逸らした。
(「違う羽の鳥」)
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
29歳の小紅は左大臣・藤原道長の私邸・土御門第で働いている下搶蘭[。
晩秋のある日、賀茂川端で牛車を降りてから険しい山道を歩いて寺に向かっていた。
ようやく着いた荒れ寺では兄の肥後守・藤原保昌が待っていた。
この夏に配流先の佐渡島で亡くなった小紅たちの父・致忠の法会を営むのだ。
父は八年前の冬、旧知の橘輔政と酒席で諍い、止めに入った輔政の息子と郎党を殺害して捕縛され、佐渡へ流罪に処せられていたのだ。
[採点] ☆☆☆☆
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