◎3月


消えた子供の表紙画像

[導入部]

 全米でも犯罪発生率が最低の部類に入る平和な町、トールオークスで子供が消えた。 ジェシカ・モンローの三歳の息子ハリーが行方不明になったのだ。 彼女は子供部屋に見守りのためのカメラを設置していた。 彼女の寝室は二階、子供部屋は地階。 その夜、「ジェシカ」と呼ぶ声が聞こえた気がしてモニターを見ると、ピエロのマスクを被った男が息子の部屋にいた。 急いで子供部屋へ向かうとハリーは消えていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 冒頭は地元警察の署長が、子供の失踪事件に関する母親の供述を確認する場面から始まる。 続いてそこから誰が子供を誘拐したのかという捜査の過程が語られていくのかと思ったら、その後のほとんどが町の人々の日常を描くのに費やされる。 とにかく登場人物が多い。 物語を読みながら、これは誰だったかと主な登場人物の表を行ったり来たりという感じ。 人間模様は多彩で面白く、むしろ群像劇として読み応えあり、肝心のミステリー部分は少々呆気ない。


蟻の棲み家の表紙画像

[導入部]

 7月16日未明、蒲田署管内で男の死体が発見された。 多摩川の河川敷でばったりと上向きに倒れていて、一見して争った形跡はないが、顔が粉砕されていた。 そのころ東中野では女性が殺害されているのが発見されていた。 コンビニ裏の路上で、若い女性が仰向けに倒れ顔から血を流しており、眉間の真ん中に直径1センチほどの穴が開いていた。 そして4日後、東中野でもう一体、女の死体が発見された。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 フリーの女性雑誌記者が、売春していた女性二人の連続殺害事件を追う犯罪小説。 貧困、虐待といった劣悪な環境でのやるせない負の連鎖の中で起きる犯罪を、取材記者の視点、犯人視点で描き出していく。 社会の底辺にいるような人たちの、まさに蟻地獄のような人生が読んでいてとても辛い。 真犯人、場当たり的な犯行の中の真実が終盤に語られ、その構成はいいのだが、それまで寡黙だった男が随分饒舌になったのはちょっと気になった。


男たちの船出の表紙画像

[導入部]

 瀬戸内海は塩飽諸島の牛島。 船大工の頭領、嘉右衛門は暴風雨で荒れ狂う瀬戸内の海を見ていた。 牛島を出帆した七百石積みの清風丸など、四隻は大阪で物資を積み込んだ後、下関から日本海へ向かうため笠岡諸島の沖に至った時、突然の暴風雨と大時化に遭遇。 たまたま近くを通った船が、清風丸が航行不能に陥ったのを見て、塩飽に知らせてくれた。 清風丸には嘉右衛門の弟の市蔵も乗船していた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 江戸時代、大型船の建造に挑戦する瀬戸内の船大工たちを描いた時代小説。 当時、五百石積みの船が大型船だった頃、千石積みの船を造って、荒れ狂う佐渡の海に挑む男たちのたいへん骨太な物語だ。 そして、老いを意識し始めた父と夢を追い血気にはやる息子という船大工の親子の激しいぶつかり合い、葛藤と愛憎のドラマでもある。 物語はまさにドラマチックに展開し、波濤が盛り上がる海に大型船で乗り出す場面はかなりの迫力がある。


ノースライトの表紙画像

[導入部]

 所沢の建築士の青瀬稔。 彼が設計した信濃追分の家が、大手出版社が出した「平成すまい二〇〇選」という豪華本に「Y邸」のイニシャル名称で載った。 浅間山を望む、北からの光を思う存分取り込んだ「木の家」。 そのY邸に誰も住んでいないようだという話が、その家を見に行った浦和の客を通して所長の岡嶋からもたらされる。 Y邸を吉野一家に引き渡して四か月。 青瀬は電話をかけるが留守電になっていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 作者の6年ぶりの新作長編で、得意の警察ものではなく建築士を主人公にしたミステリー。 もとはかなり前の雑誌連載を全面改稿したものだそう。 新築家屋を引き渡された家族が行方不明という冒頭の謎の提示はその後の展開を期待させるが、そこに事務所の設計コンペ参加というドラマが並行して描かれ、全体のテンポはややゆっくり。 ドラマは読み応えあるが、ミステリーとしては今ひとつ盛り上がらない。 終盤の謎解きは良く組み立てられていると思う。


スイート・マイホームの表紙画像

[導入部]

 長野の冬は厳しい。 ジムのインストラクターをしている賢二は、妻と乳飲み子のサチと共にモデルハウスを見に来た。 本田と名乗る長身の女性社員に案内されたのは、冬でも半袖一枚で過ごせる暖かさ。 居住空間に暖房器具は一切なく、家中どこも同じ室温で快適に暮らせるという“まほうの家”。 床下に家と同じ広さの空間があり、そこにエアコンがあるという。 賢二は地下へ続く階段を見て息苦しさを感じた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ホラー仕立てのミステリー作品だが、ホラーとしてはそれほど怖くはない。 またミステリーとしても真犯人は話半ばで分かってしまい意外性はさほどない。 それでも物語の流れは全体にスムーズで読みやすく、次の展開がどう転んでいくか、楽しみにページをめくる面白さがある。 とりわけ終盤のたたみかけるようなスリリングな展開はなかなかのものだ。 しかし最後のおぞましい場面は読みたくなかったな。 「イヤミス」を超えた「オゾミス」というそうです。


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