◎10月


すべての夢、果てる地での表紙画像

[導入部]

 作業服姿の男は電柱に登って、ニッパーでファイバーケーブルを切断した。 電柱の隣に停まったワゴン車には同じ服装の仲間が待っていた。 男が電柱を降りて合流するまでに、マンションの住人が、インターネットが通じなくなったという電話をケーブル会社にかけてきた。 五分、間を置いて、ワゴン車でマンションを一周してから、正面玄関のインターホンで部屋番号を押す。 桂様ですか。 ケーブル会社の工事代行で来ました。 部屋に入れてください。 (表題作)

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 創元SF短編賞受賞の表題作を含む6篇を収録したハードSF短篇集。 帯には「SFの夢と驚きを心ゆくまで堪能できる」とあるが、私にはそれが分かるような知識も理解力も無かった。 文章は難解なSF用語が流れるように綴られ、読み手を選ぶ本なのかな。 中では、5分後の未来が視えるキューブを駆使した戦闘もの「ディセロス」のスピード感が凄い。 地球各地で文化財を盗む怪盗の「キャプテン・セニョール・ビッグマウス」は冒険ものを期待したが、これも後半は難物だった。


春かずらの表紙画像

[導入部]

 多賀家は先祖代々、安良藩の普請組の軽輩だったが、清史郎の父の織部は旧友だった馬廻方・渡辺幸太夫に殺された。 清史郎が二十二歳の冬だった。 父の死により多賀家の家禄は一旦召し上げられ、清史郎が見事、渡辺幸太夫を討ち取った暁には主家への帰参が許されると決まった。 かくして、織部を討ったその足で国境を越えた幸太夫を追う旅に出て、すでに十二年。 いまだ仇討ちの目処は立たないが、母の百合が病で亡くなり、清史郎は異例の帰国を果たした。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 仇討ちの旅に出て十二年、いまだ本懐を遂げぬまま母の死により一旦郷里に戻った男が知る父の死の真相の物語。 江戸時代、お家のため藩のために生きる侍たちを描く。 時代小説として滋味のある滑らかな文章の作品だが、ちょっと長いかな。 三章仕立ての第二章には主人公よりはるかに長い仇討ちの途上にある老剣士が出てくるのだが、このエピソードは必要かなと思った。 仇の息子との交流が切なくて良く、理不尽な武家社会の中で人としての道理を貫こうとする主人公の姿が潔い。


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