住宅型有料老人ホーム「サテーンカーリ崎宿 参番館」に新たな入居者が加わった。
長身で骨格も筋肉もがっしりして威圧感を与える旭(72)という男。
表情も言葉数も乏しく、とっつきにくい印象を他の入居者に与えた。
冬児(82)は旭を入居者たちのカラオケに誘う。
旭はT.M.Revolutionの「HOT LIMIT」を歌った。
旭は仁王立ちでたっぷりとした声量で歌い上げる。
歌が終盤にさしかかると、入居者たちは手元の紙片に何かを書き始めた。
(「老ホの姫」)
[寸評]
本の雑誌社による第一回北上次郎「面白小説」大賞の受賞作で不思議な世界を見せる。
全七編の短編集だが、中では老人ホームの姫ポジションを入居者が競い合う「老ホの姫」と、人身事故を起こした電車運転士がお祓いみたいな儀式に出る「命はダイヤより重い」が頭抜けて面白い。
「老ホの姫」の突飛な決着の付け方、「命はダイヤより重い」のギャル短歌は傑作。
この二編は四つ星クラスだが、ほかの五編はSF的な一発アイデア倒れという感じで、なんだこれはと首をかしげた。
ロンドンでフリーランスの編集者として働いているスーザン。
6月のある日、事実上の上司という立場にあるコーストン・ブックスの発行人マイケル・フリンから、若手作家の新作の編集を依頼される。
今は亡きアラン・コンウェイが書いた名探偵アティカス・ピュントのシリーズの別作家による新作続編。
執筆途中の三万語の原稿を渡される。
作者を聞くと、スーザンも知っているエリオット・クレイスだという。
彼はまったく売れない作家だった。
[寸評]
「カササギ殺人事件」、「ヨルガオ殺人事件」に続く犯人当てミステリーシリーズ三作目で、語り手主人公はスーザンで共通。
以前の作品の結末にかなり触れているので要注意。
今回も作中作が用意されており、登場人物や設定が現代パートとリンクしていて、相変わらずこれがたいへん面白い話なのだが、進行上仕方ないもののちょっと短くて残念。
全編緻密に練り上げられているのには感心するが、前半はちょっと長いかな。
当然ながら登場人物が非常に多くて、苦労の読書となった。
金沢市内で女性の変死体が見つかる。
亡くなったのは細川奈津江、四十三歳、芸妓で芸名は、なつ江。
自宅マンションでぐったりしているところを友人が発見して119番通報。
病院に着いたときには心肺停止状態で、その後、死亡が確認された。
死因は頭部強打による急性硬膜下血腫。
自宅から財布とスマートフォンがなくなっており、警察は強盗殺人事件の可能性が高いとみている。
翌日、刑事の小豆沢はひがし茶屋街にある民芸品店を訪れる。
[寸評]
タイトルや装丁からしっとりとした時代小説を連想するが、現代ミステリーだ。
人気芸妓の殺害事件を軸に、一章ごとに関係者の生活までがじっくりと描かれ、それぞれの人生や人間模様が浮かび上がっていく。
刑事と記者が事件の真相に迫っていく過程はとても丹念に描かれ、無理がない。
女性刑事の小豆沢の、地道な捜査を通して事件の核心を追求していく姿勢にも好感。
全体の印象は地味な作品でけっこう長尺だが、金沢の文化も感じられ、中身はたいへん充実した物語だった。
畔田家の五代目の十兵衛は年が明ければ元服だ。
彼が住まう紀伊国の南中間町は天守閣を間近に望む城下町。
紀伊国を治める藩主は、賢候で藩吏・領民の信頼も厚い徳川治宝。
十兵衛の師は紀州の藩医である小原桃洞で、桃洞は自邸の離れで塾を開き、本草学を教えていて、十兵衛はその塾生だ。
今日、十兵衛は岩橋のお山を目指して歩いていた。
岩橋のお山には城下にはない草木が茂っているはずで、それを持ち帰り、桃洞に見てもらおうというのだ。
[寸評]
江戸時代後期の紀州藩の本草学者・畔田翠山に材を取ったフィクション。
天狗が出てきたり、つる草を伝って天上から亡き父が降りてきたりと、面妖な雰囲気のファンタジーであり、人と交わることが苦手だった内気な主人公の、本草学者として、人としての成長譚でもある。
紀州の山野の美しい景色が目に浮かぶような作品。
翠山画の挿絵がいくつか挟まれている。
全体に静かで穏やかな気持ちの良い物語だが、欲張って言えば心躍るとまではいかなかったな。
泉鏡花文学賞を受賞。
ネイサンは金属製品組立工場の従業員で、ボランティア消防隊員をしていた。
ある日の午後、湖で釣りをして帰る途中、携帯電話で三音の警告音が鳴った。
消防署からの知らせだ。
自分が今いる近くの小屋が火災との通報だった。
ピックアップトラックでカーブを曲がるともくもくと立ち上る煙が目に入った。
平屋の小屋で建物の反対側が燃えていた。
玄関から中へ飛び込み、メインとなる部屋に入ると緑のゴミ袋が置いてあり、袋を開けると大量の札束が。
[寸評]
まずは邦題が残念。
それでもタイトルはともかく、中身は面白い犯罪小説だ。
ボランティア消防隊員のネイサン、看護師のキャリー、妻と娘を同時に亡くしたアンディの三人が“罪”に向き合う三つの物語が交互に描かれていく。
三話はお互い関連は薄いので、連作短編集としても良かったのでは。
読んでいて息苦しくなるほど、そこまでやるかというくらい、とことん主人公らは追い詰められていく。
人の弱さと強さが鮮やか。
ラストは光もあるが、突き放し感も。
採点は少し甘め。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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