◎18年10月


真夜中の太陽の表紙画像

[導入部]

 少数民族のサーミ人が住むノルウェーの極北の地コースン。 ウルフ・ハンセンは真夜中にバスを降りた。 七十時間、千八百キロの逃亡。 千鳥足で歩いているマッティスという村人に出合い、ホテルや下宿屋があるか尋ねるが男は首を振り、集落の手前にある教会を指す。 仕方なく無人の教会に入り寝ていると、誰かが体をつついた。 クヌートという名の10才の男の子。 そして若くたくましい女が教会の掃除に入ってきた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 暴力と裏切りの物語
「その雪と血を」に続く邦訳作品。 緊張感を漂わせた簡潔な文章が心地よい。 裏切り者は地の果てまで追うという“漁師”と言う呼び名の麻薬業者のボスには凄みが足りないが、主人公に逃亡者の諦念を時折感じさせる描き方も上手い。 ノルウェー人とは異なる文化を持つ少数民族のサーミ人の描写も興味深い。 今回はハードボイルドな雰囲気の中にも暖かみのある話で、終盤の展開はまったく予想を裏切られたが、これはこれで良い。


そして、バトンは渡されたの表紙画像

[導入部]

 高校3年になった優子には、父親が三人、母親が二人いる。 家族の形態は十七年間で七回も変わった。 生まれたときは水戸優子だった。 その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮優子を名乗っている。 始業式の朝、父親の森宮さんは張り切って大きなどんぶりのカツ丼を用意してくれた。 朝から揚げ物はきつい。 森宮さんの「親とはこういうもんだ」という考えは時々ずれていて、戸惑ってしまう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 主人公は幼い頃実母が事故で亡くなり、小学5年で実父はブラジルへ、その後は義理の母に、続いて義理の父に育てられ・・・と次々に移り変わる複雑な家庭環境にありながら、優しく素直に育っている。 娘を捨てるひどい人たちの話などではなく、皆それぞれの愛情を持って主人公に接している。 登場人物それぞれが優しさに満ちた人々だが、人物造形がしっかりしているので、こんなやつおらんだろとは思わせない。 本の始めから終わりまで温かな物語。


最初の悪い男の表紙画像

[導入部]

 43才で独身のシェリルは、護身術エクササイズのDVDを販売するNPOの職員。 理事を務めるフィリップに思いを寄せ、9才のときに出会い生き別れとなった赤ん坊、クベルコ・ボンディとの再会を妄想する夢見がちな日々を送っている。 彼女は上司のカールとスーザン夫妻の娘をしばらく自宅で預かることになる。 やって来た20才のクリーは金髪美人だが、やや太めの巨乳で傍若無人、自堕落で粗暴な娘だった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 孤独だが平穏な日々を送っていた中年女性のところに突然転がり込んできた、わがままで暴力的で理解不能な若い娘。 協調は早々に崩れ対立の日々が続くが、二人はやがて想像もつかない関係性に変化していく。 主人公の妄想ぶりや娘の傍若無人な様子など、いかにもアメリカ的な人間ドラマだが、思いもよらない展開に翻弄される面白い物語。 あけすけな性描写には腰が引けるが、中盤に用意された出来事はジェットコースター的に凄かった。


草薙の剣の表紙画像

[導入部]

 人の姿のないスーパーマーケットの夢を見た。 そこを出ると車道に車の姿はない。 62才の昭生は目を覚まし、懐かしさを感じた。 52才の豊生は誰かに肩を揺さぶられるように目を覚ましたが再び眠り込んだ。 42才の常生は目を開けて、夢の記憶を振り払おうとした。 32才の夢生は恐さに胸の動悸を感じた。 22才の凪生は自分の見た夢を振り返った。 12才の凡生は母親に呼び止められたように目を覚ました。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 62才から12才まで10才ずつ年の違う男6人を登場させ、それぞれの家族たちを絡めて、彼らが生きてきたおよそ100年の現代日本の姿が描かれる。 主人公6人と家族の生き様、それぞれの時代の様相、時代を象徴する出来事、日本人が生きてきた軌跡を羅列するような文章が続く。 一番年長の昭生が私と同年代なので、当時を思い浮かべながらとても懐かしく読めた。 ただ、6人が順不同でランダムに描かれるので、誰が誰やらと混乱させられたが。


ペンギンは空を見上げるの表紙画像

[導入部]

 佐倉ハルは北海道朝見市に住む小学6年生の男子。 将来はNASAやJAXAといったところのロケット開発に係わるエンジニアになる夢を持っている。 四月、この小学校では2年に1回のクラス替えのため、教室の顔ぶれは5年生の頃と変わらない。 始業式のあと、担任の後を追うように教室に入ってきたのは、背の低い、腰まで届く金色の髪をした女の子だった。 つまり、転校生はあろうことか外国人だった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 本物のロケットを作ることが目標の小学6年生の男子を主人公に、努力と奮闘、そしてハーフの女子転校生との交流を描いた物語。 陰湿ないじめの場面もあるが、全体に爽やかな印象で、思わず応援したくなるようなヤングアダルトもの。 そして「ミステリ・フロンティア」の一冊として、しっかりミステリーにもなっている。 後から読み返せば伏線も多く巧妙に張られており、その点は感心する。 肝心の終盤がちょっと乱暴な展開になってしまったのは残念だった。


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