◎12年2月


平成猿蟹合戦図の表紙画像

[あらすじ]

 歌舞伎町のビルの隙間に真島美月は赤ん坊を抱き、途方にくれてしゃがみ込んでいた。 美月は長崎の五島福江島で働いていたが、大阪のホストクラブを辞めて東京へ行ったという夫の朋生を追って新宿へ来たものの、夫はその店も辞めていた。 赤ん坊の泣き声を聞いて同じビルの韓国クラブで働く浜本順平が声をかけてくる。 順平は朋生と親しかったが彼の行き先は知らなかった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 田舎から出てきた子連れのホステスがマスコミに取り上げられ一躍人気者になったり、水商売の下働きをしていた若者が故郷で選挙に出たり、物事、こんなにうまく運ぶはずはないと思っても、それなりに結構楽しめた。 多彩な登場人物がうまく整理されており、物語も二転三転、先の読めない展開が続き、結末に向けて500ページを飽かすことなく進んでいく。 少々楽天的過ぎる話だが、娯楽作として割り切って読めば満足できる作品。


怪談の表紙画像

[あらすじ]

 箕輪健太郎は八王子にある父が立ち上げたミノワ工務店の副社長。 父は6年前に胃癌でなくなり、父の部下だった六十過ぎの男を傀儡社長に据え、健太郎が実質全権を握っている。 建設業界のパーティー会場で、健太郎はある女に目を惹かれた。 雪のような真っ白なドレスに、肌も痛々しいほど白い、やせがたの若い女。 周囲の男たちにはまるで彼女が見えていないようだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の同名作品へのトリビュート作ともいえるもので、30数ページの短編6編からなる。
「ジョーカー・ゲーム」など短編にはなかなかの切れ味を見せる作者ゆえ、この作品も背中がヒヤリとするような物語が並んでいる。 ”怪談”と銘打ってはいても、中身は怪奇趣味の旺盛なものから、ミステリ色の強いもの、グロテスクなものまでヴァラエティに富んでおり、作者にはこの路線への挑戦もぜひ続けてほしいです。


アイアン・ハウスの表紙画像

[あらすじ]

 殺し屋マイケルは少年時代に犯罪組織のボス、オットー・ケイトリンに拾われた。 孤児院を出奔した彼にとって命の恩人であったが、今は癌に侵され死にかけている。 数日前、マイケルは恋人の存在を打ち明け組織を抜けたいと話し、おやじさんは大きくうなづいてくれた。 しかし、ボスの息子や組織の幹部は認めていない。 オットーはあまりの痛みから死への旅立ちを懇願していた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 作者待望の新作で「AMAZON USA」の読者評価もかなり高い本だったが、確かにアメリカ人の好みそうな話でした。 無慈悲な殺し屋だったが、女と一緒になって子供をもうけ幸せに暮したいという男を後押しするような話で、そのためにまた何人も殺していく姿はどうなのか。 それに離れて暮す弟の話が絡んでくるのだが、惨劇の決着のつけ方のひとつが、ある病気が原因で・・・って反則まがい。 長尺を飽かさず読ませるのはさすが。


緋色の十字章の表紙画像

[あらすじ]

 地方警察官のブルーノは、フランスの南西部にある人口3千人ほどの風光明媚な村、サンドニの警察署長。 署長といっても署員は他にはおらず、署長室も役場の中。 村には英国人や北アフリカからの移民アラブ人も多い。 目下の心配事は、EUの衛生基準をフランスの市場に守らせようと抜き打ち検査に来る検査官と地元民とのいらぬ争いが起きないようにすることだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 物語の中心は勲章を授与された戦争の英雄の老人が惨たらしく殺された事件の捜査だが、警官が拳銃を携行することもほとんどない田舎の駐在さんと村民のふれあいがこの物語の本質。 緊張感をはらむ場面もあるが、全体をのどかな雰囲気が満たしており、署長を交えた人々の日常の暮らしが生き生きと描かれた好編。 事件捜査、民族・人種問題、戦争への言及もそつなく描かれている。 思わず★ひとつプラスして4つ星に。


週末は家族の表紙画像

[あらすじ]

 瑞穂は恋愛感情や性的欲求を持たない無性愛者。 大学の演劇部で知り合いずっと友人だった大輔と、既婚者という立場は社会的になにかと便利という打算的な考えで一致し、結婚している。 二人は、施設で暮らすひなたという10歳の女の子を都合の良い日に預かる週末里親になった。 大輔は劇団のほか、特殊な人材派遣業を営んでおり、子役が必要だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 達者な子役を求めて週末里親制度を利用した打算的夫婦が、10歳の女の子に翻弄されながら、普通の家族を超えた「チーム」になっていく様を描いた家族?小説。 ひなたの大人びてはいるが10歳はやはり10歳だと思わせるキャラが秀逸だし、世の中そんな単純なもんじゃないと素直に描かれて、好感度UP。 彼らの特殊な商売のエピソードも面白いが、三人が徐々に心を通わせて居心地の良くなる様子が実に好ましい。


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