◎10年3月


さらば雑司ヶ谷の表紙画像

[あらすじ]

 大河内太郎は中国から5年ぶりに日本に帰ってきた。 彼は、雑司ヶ谷にある宗教団体「泰幸会」の家に生まれた。 教祖は太郎の祖母で、政財界にもコネクションを広く持ち、まさに妖怪のようなババア。 父母は他界し、太郎の伯父、伯母たちはババアに嫌気が差し、出て行った。 太郎は後継者として期待されたが、反発した彼は子供の頃から仲が良い京介のグループに入って暴れていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ページの背まで黒くした凶々しい体裁以上に内容も毒に満ちた物語。 ネット上などでは点数が高いが、私は途中で止めたくなりました。 殺人、強姦などなんでもありの、刹那的で、とにかく物語の進行上邪魔なものは消し去ってしまえ的な描き方はどうか。 設定したものを壊していくだけの話。 無駄の無い展開で、褒める人がいることも分かるが、ギリギリのところを描いているようで、上辺だけでは伝わってきません。


天才までの距離の表紙画像

[あらすじ]

 Z大学准教授の美術研究家・佐々木は、京都の古美術店「鷹見堂」の地下倉庫で一枚の絵を前にしていた。 一幅の掛軸の絵紙には墨で書かれた一尊の仏のみ。 法隆寺夢殿にある救世観音を写したもので、古美術商は岡倉天心の作品だと言う。 天心は明治期の日本美術界の黒幕的存在だが、彼が絵を描いたという記録はなく、真贋は定かでない。 佐々木は購入するか否か迷う。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 天才美術探偵、神永美有の美術ミステリーシリーズの第2短編集。 雑誌掲載そのままで加筆はないらしく、第1作未読の私には、人物関係などを掴むのに時間がかかりました。 美術ミステリは好きなジャンルだが、各短編に出てくる美術作品そのものに魅力がないのは残念。 また、随所に出てくる「伎癢」「ドアが排され」「剔抉」とかの言葉は何? 作者は語彙が豊富すぎで使わずにはいられないってことですか。


台北の夜の表紙画像

[あらすじ]

 金融アナリストのエマーソン・チャンは、台湾から移住してきた母に、弟と共に育てられた。 父は早くに死に、母はモーテルを経営しながら二人を育てた。 その母が突然亡くなった。 遺書を残していたが、思い出の詰まったモーテルは弟に相続するというものだった。 弟は10年程前に家を飛び出し今は台北にいるはずだが、音信は不通と言ってもいい状態。 エマーソンは台北に向かう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 編集者だった作者のデビュー作にしてアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。 期待もあったが、賞に値するか疑問符の残る読後感でした。 地理的な広がりは大きくても物語に広がりが感じられず、なにより主人公のエマーソンに魅力がない。 女性を愛することに憶病な彼の心情は表現不足だし、彼と危険を共にするエンジェルというレポーターも魅力が足りない。 それでも500ページ近く緊張感を保たせた展開は立派。


欧亜純白の表紙画像

[あらすじ]

 1997年、グアム警察のマリオは、台湾産ドラッグがリコ兄弟を経て島内で捌かれ、一部はアメリカ本土に流れ込んでいるとにらむ。 半年の捜査で中国人の運び屋をつきとめ、閉店した食堂でドラッグの受渡し現場を押さえるつもりだ。 警官が突入しようとした時、食堂は大爆発し、警察官5人がリコ兄弟もろとも爆死した。 この爆発は、日本を含む巨大なヘロイン密売ルート構築の始まりだった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 世界規模の麻薬供給ルートの日本での開拓を阻止せんとする、麻薬Gメンの潜入捜査を描く1100ページを超える大長編。 グアム島、ロシア、日本へと移っていく序盤のグローバルな展開はいいが、その後の広がりは今ひとつ。 スリルとサスペンスに満ちた娯楽性も十分な作品だが、複雑な謀略ものなので、ときどき頭の中で人物や組織の関連について整理しながら読むと良い。 雑誌連載から10年後の単行本化です。


挑発−越境捜査2−の表紙画像

[あらすじ]

 警視庁でお宮入事件の掘り起こしをしている鷺沼刑事は、パチンコ業界最大手のトビー興産社長で日本の富豪の五指に入ると言われる飛田不二雄を会社に訪ねる。 7年前、電子部品メーカー社長殺人容疑で拘留中の男が、警察署屋上から飛び降り自殺。 殺害された社長はトビー興産と不正部品製造の取引があり、殺した男は飛田の従弟。 飛田は従弟とは30年音信不通ととぼける。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 
前作は面白かったのに・・・とため息が出ました。 主要な登場人物は前作同様ながら、神奈川県警はみ出し刑事も今回はさしたるはみ出しもせず、おとなしめ。 変化をつけようと様々な出来事を連発してして、話の流れはいいが、結局物語は最初から最後までレールをはみ出すことなく、予定調和そのもの。 今時、「警察上層部と業者の癒着」はないでしょう。 前作にあった緊迫感にも痛快さにも欠けました。


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