◎08年2月


MM9の表紙画像

[あらすじ]

 灰田涼は緊急の呼び出しを受けて気象庁へ向かった。 彼は特異生物対策部(気特対)の職員。 海上自衛隊の潜水艦が小笠原沖で遊泳中の巨大なアンノウンと接触して損傷。 アンノウンは日本に向け遊泳を続けている。 全長100m近い大怪獣とみられ、MM(モンスター・マグニチュード)8クラス。 気特対の部員も続々集結。 分析を始め、怪獣注意報を出し警戒を呼び掛ける。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 日常世界に怪獣が頻繁に出現する話だが、テレビの「ウルトラQ」や「ウルトラマン」で育った世代の私にはまったく違和感なく物語の世界に入っていけた。 それゆえ、物語の中で説明調で語られる"多重人間原理"とか、ビックバン宇宙ではどうとか、神話宇宙ではどうとかなどという話は、逆に余計者という印象。 せっかくのワクワクするような怪獣世界を無理に説明するようなことは不要だったのでは。 娯楽アクションとして楽しみたかった。


借金取りの王子の表紙画像

[あらすじ]

 村上真介はリストラ請負会社の面接担当。 今回の依頼先は消費者金融最大手。 少々問題のある支店長たちに自主退職を促すのだ。 次の相手は渋谷一号店の店長、三浦。 慶応大学を卒業し新卒で入社、25歳で秋葉原二号店の店長となり目覚ましい実績を上げ、渋谷店に栄転するもその後は芳しくない。 しかし職場アンケートで彼は驚くほど部下の信頼が厚かった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 山本周五郎賞
「君たちに明日はない」の続編。 相変わらずのクビ切りから、今回はそれとは逆の人材派遣まで、5編の短編集。 最初の3作、とりわけ表題作はぐっとくるような人情話に仕上がっている。 元ヤンキーのキツイ女店長と有名私大卒の性格の良すぎる男のおとぎ話のような恋愛劇だが、作りものと分っていても読ませる。 一方、4、5作目は設定、展開ともやや甘い仕上がりで、結果、採点は★ひとつマイナスとなりました。 残念。


ラットマンの表紙画像

[あらすじ]

 姫川亮は高校1年の夏に仲間とバンドを組んでもう14年。 谷尾と竹内、ドラムは小野木ひかりだったが、2年前、ひかりの妹の桂に替わった。 姫川は23年前、父と当時小3の姉を亡くした。 姉はクリスマスの飾り付け中に2階の窓から落下し、石に頭を打ち付けたとみられた。 悪性脳腫瘍で自宅療養中の父は、姉の死の翌日から意識が混濁し、1か月後に死んだ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 騙しのテクニックが冴える作者だが、本作も読者を巧みに誘導しながら、二転三転見事に覆していく。 ラットマンとは、同じ絵でも隣に並べた絵によって人間に見えたり鼠に見えたり、前後の刺激や思い込みが知覚の結果を変化させてしまうことだとか。 仕掛けは実に見事だが、陰湿な行為は読んでいて気分が滅入るし、殺人に至る動機や経緯が弱いと感じた。 人物造形や感情描写にもう少し深みが出れば 終盤はもっと盛り上がったはず。


クローバーの表紙画像

[あらすじ]

 華子と冬治は双子の姉弟だが性格は正反対。 華子は我が強く、思い込みが激しく、負けん気が強い。 一方、冬治は慎重で、決断力に乏しく、人に気を使うタイプ。 2人は故郷を出て東京でアパートの部屋をひとつ借り、別々の大学に通っている。 今日も冬治は男の数が足りないからと言って、華子に無理やり飲み会に連れ出されるが、その席でも孤立してしまう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 青春ラブコメディ。 当初、この本の第一話が読み切り短編として「野生時代」に掲載されたものが、話が収まりきれず急遽連載になったそうな。 本書は全8章から成る。 全体に軽いお話だが、姉に振り回されっぱなしの弟・冬治の、恋に進路に思い悩む姿が実に自然で好ましい。 また、熊のように大柄なのに"細野"という名字の華子にベタ惚れの大男や、冬治に恋する万事控え目な雪村さんなどのキャラも、性格付けがバランス良い。


TheBookの表紙画像

[あらすじ]

 2000年の冬休み、高校生の広瀬康一が道端で漫画家の岸辺露伴と話しているところに、血まみれの猫が通る。 首輪に付けられたネームプレートから家を探し当てると、しっかりと内から施錠された家の中で女性が死んでいた。 その死体の右大腿部には車のバンパーがぶつかった跡が。 外から運ばれた様子もない。 では彼女は家の中で交通事故にあったのか。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 コミックスをもとにした物語だが、話は完全なオリジナル。 恥ずかしながら、私はもとになっている漫画を見たこともなく、ヤングアダルト向けともノベライズとも知らず、ただ乙一の本なので手を出したのだが、乙一らしい救いの少ない話だ。 中盤までは、動きの乏しい暗い話が続くが、残り100ページほどから展開する、自らのスタンドを駆使した超人同士の戦いはまさに壮絶な迫力で、それまでの沈滞ムードを吹き飛ばした感があった。


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