[寸評]
さまざまな恋のかたちを軽妙に描く作者お得意の短編集だが、今回は食べ物をモチーフにした6編。
焼き蛤にポテトサラダ、カレーうどん、梅干し等々ごく庶民的な食べ物を肴に、20代から30代の恋にもまれるキャリアウーマンの話はどれも面白い。
そしてどれもが、ハッピーエンドとはいかなくても主人公が前向きになって終わるところが良い。
とび抜けたものはないが、1時間の単発恋愛TVコメディを観て良い暇つぶしとなった気分。
[寸評]
「犯人に告ぐ」など作者の今までの作品はサスペンスフルなミステリードラマばかりだったが、今回はまるで趣が異なる。
女子大生を主人公とした恋愛模様があまり緩急のない展開で綴られていく。
巻末の作者の言葉を読めばこの物語の成り立ちや作者の思いは理解できるが、それは本の面白さとは無関係。
唯一、万年筆販売場面は面白いが、はるか前に結末まで予測できてしまうようなストーリーとか、薄っぺらな脇役陣など不満多し。
[寸評]
大人こどもの精神科医伊良部一郎もの第3作で全4編。
相変わらずの無軌道ぶりは爆笑ものだが、1編目と2編目は患者のモデルがあまりに明白で、ちょっとお手軽すぎないですかね。
3編目の、伊良部との遭遇で自分を見つめなおす女優の物語はこのシリーズの典型的な作品。
これに対し表題作は、離島でのドタバタぶりが傑作で、抜群の面白さだが、終盤は尻すぼみなのが本当に惜しい。
しっかり白黒つけてくれないとね。
[寸評]
17室もある芦屋の洋館での、朋子の1972年から73年にかけての1年間が綴られる。
コビトカバに乗って小学校に通う従妹のミーナとの交流がほのぼのと暖かく描かれた大人の童話。
ところどころに挿入された寺田順三のノスタルジックで色彩豊かな挿絵もすばらしい。
何よりいいのは、冒頭、朋子を迎える芦屋の家族・使用人皆が、自然に彼女を歓待するところで、これでこの悪意のない物語の世界に素直に入ることができた。
[寸評]
事件の被害者の夫婦について、過去に学生時代や会社で関わりのあった者たちがレポーターのインタビューを受け、彼らについて語る。
構成そのものに特に新味はないが、人間が人間を語る恐ろしさが非常に良く出ている。
表と裏、ある者が見れば"表"でも他の者が見れば"裏"と語る、そこにはやがて語っている側の顔が見えてくる。
欲を言えばさらにもう一段の恐ろしさと、肝心の犯人についてはもう一ひねり欲しかったところ。
[あらすじ]
小野沙織は23才、私立女子大の事務員。
南田俊哉は10才年上、生涯教育のテキスト制作販売会社の営業マンで、事務室に入り込んでは時間をつぶす。
3か月前まで付き合っていた男に焼き蛤のおいしさを吹聴されていた沙織は、俊哉に焼き蛤を食べさせる料理屋に誘われる。
そこで前菜として出てきたのはヤモリの焼き物、サソリの素揚げなどだった。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
大学2年の堀井香恵は、マンドリンクラブに在籍、駅前の文具店でバイトもしている。
ある日、マンションの部屋のクローゼットの中に、「伊吹’s note」とタイトル書きされた見知らぬキャンパスノートを見つける。
親友の葉菜がアメリカ留学に旅立ち、寂しさからノートを開くと、どうやら小学校教師の日記のようだ。
そこには生徒との交流が生き生きと綴られていた。
[採点] ☆☆★
[あらすじ]
宮崎良平は東京都職員となって3年目、伊豆諸島の千寿島にある町役場の総務課に出向して9か月が過ぎた。
町では4年に一度の町長選挙が近づき、現町長と前町長の争いで町内も役場内も2分されている。
良平は両陣営からどちらにつくか早く腹を決めるよう迫られていた。
そんな折、伊良部という神経科の医師が町営診療所に短期で派遣されてきた。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
母一人子一人の朋子は、小学校卒業式の翌日、 開通したばかりの山陽新幹線に乗って岡山から新神戸へ向かった。
母が東京の洋裁専門学校で1年間勉強するため、朋子は芦屋の伯母夫婦に預けられることになったのだ。
伯父は飲料水会社の社長で、ドイツ人のおばあさんと子供=いとこが2人。
18歳のお兄さんはスイスへ留学、妹は朋子より一つ下だ。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
東京23区内の新興住宅地で起きた殺人事件。
30代の夫婦と小学生の息子とその妹の一家4人全員が刃物で殺害された。
新築一戸建てに引っ越してきてわずか3か月ほど。
世帯主は大手不動産会社の社員。
比較的静かで安全と思われた地域で起きた残虐な事件は1年を経過しても解決していない。
新聞や雑誌に様々な記事が出て、噂も多く流れた。
[採点] ☆☆☆★
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