◎03年2月



[あらすじ]

 矢島家は江戸の雑司ヶ谷にある御鳥見役組屋敷の中の一軒。 お鳥見役は御鷹場の巡邏が主な役目だが、家主の伴之助はお鳥見役のもう一つの顔である公儀隠密として沼津へ出向き消息不明となっていた。 父を追った次男の久之助に続き、矢島家に居候していた源太夫も沼津へ向かった。 矢島家では伴之助の妻の珠世が持ち前の明るさで家を守っている。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
前作に続き八話から成る連作集。 矢島家を取り巻く状況はさらに厳しいが、気丈で笑顔を忘れない珠世の性格そのまま、わざとらしさを感じさせない暖かさに満ちた描き方で、前作同様気持ちの良い作品。 前半の4、5話は動きも少なくゆっくりした運びだが、後半は一転してスリリングな展開が楽しめる。 なにか中途半端なエピソードも見られるが、「小説新潮」誌での連載はまだ継続中のようで、そのあたりに繋がるのかもしれない。



[あらすじ]

 トニーは弁護士をしている妻の希望でロンドンから海の近くの田園地帯に移り住んだ。 ある日、妻が岬の断崖から転落死してしまう。 警察は自殺を考えたが、その理由はなく事故ということで決着した。 トニーはしばらく親友のマットと妻の妹のルーシー夫妻の家に身を寄せる。 その家は石造りの完全な円柱形だった。 その家でトニーは奇妙な夢を見るようになる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 オカルトものとスパイ・スリラーが組み合わされたような珍しい構成。 やや取っつきにくい序盤を乗り切れば、あとは時空を超えた不思議な物語の面白さにどっぷりと浸って、ひたすら読み進めていける。 まさに異形の家の不可思議な力に引っ張られるように話は突き進んでいく。 先の見えない展開も見事だ。 最後はある面で決着し、ある面は謎のまま残ったような感じで個人的には少々不満だが、後味の良いラストはいい。



[あらすじ]

 昭和12年、大阪。 私立探偵の金田一耕助は、調査依頼を受け薬のまちとして知られる道修町に来た。 依頼主の善池初恵の家は、本家・鴇屋蛟龍堂。 その向かいには元祖・鴇屋蛟龍堂があり、両家は長らく商売の上で争ってきた。 そして1年半ほど前、初恵の兄の喜一郎は向かいに乗り込み、元祖の跡取り息子の長彦に劇薬をぶちまけた後、姿を消したという。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 3年前の「名探偵博覧会 真説ルパン対ホームズ」に続く作品。 前作に引き続き、今回も書名の2人のほかフレンチ警部、ブラウン神父等々を登場させた短編7編から成る。 過去の名作、名探偵、怪盗らへの作者のオマージュでもあり、作者の思い入れ、嗜好が色濃く反映されている。 作者と一緒に楽しめる読者にはたまらないだろうが、話自体の面白さも私には感じ取れなかった。 本格ものの少々苦手な私が手を出したのが間違いか。



[あらすじ]

 植野は水戸市の高校3年生。 学校はずば抜けた進学校ではないが、一応大学目指して勉強している。 友人の今井は小さい頃から箏を習っている男で、映画の感想を述べるサイトを運営している。 2人は春休みに映画館へ行き、チケット売場の女性に一目惚れしてしまう。 25才位の松下菜那という女性はとても美しいが、2人が足繁く映画館に通っても愛想がない。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 小説すばる新人賞受賞作。 序盤、年上の女性に想いを寄せる2人の男子高校生という図式は、陳腐だが爽やかな青春物語を期待させた。 しかし、ネット上のうつ傾向の女性の日記が出てくると様相も変わり、最後まで爽やかさとはほど遠い陰鬱な雰囲気が漂う。 肝心の想いを寄せられる女性も魅力が感じ取れず、ただむごたらしい印象。 偶然(?)の重なりも物語としてもう少し何とかならなかったか。 家族の姿が極端に希薄なのも疑問。



[あらすじ]

 "オービット"は6面のスクリーンをもち4000台も車を収容できるテキサス最大のドライヴイン・シアターだ。 金曜はオールナイトでB級低予算のホラー映画をガンガン上映している。 ぼくは友達のボブと黒人のランディと一緒に、年上のクールなウィラードに誘われて"オービット"に繰り出した。 ところが「大工道具箱殺人事件」が中盤まで進んだ頃、異変が起きる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 B級ホラー映画も脱帽ものの、とんでもなくぶっとんだSFホラー小説で、15年前の作品。 とても映像では描けない、人間性のかけらもない究極の話だが、もはや恐怖を突き抜けて笑うしかない世界になっている。 恐ろしく残酷で、かつ気色の悪い話だが、人間の真実の姿もかくあるやと思わせるところはさすが。 ラストがまたとんでもないことになっているが、これがそのまま続編に引き継がれるらしい。 是非とも邦訳をお願いしたい。


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