[寸評] 南北統一後のベトナムの姿、南北出身者の立場の違いなどたいへん興味深い。 修司が警察に逮捕拘禁される辺りは緊迫感十分だし、後半は迫力ある描写が続くアクションアドベンチャーの様相を呈し読み応えがある。 しかしチャウらの"黄金の島"への羨望と焦燥感、仲間同士の感情のぶつかり合いなど、生々しい描写が必要とされるあたりは作者のやや弱い部分でもある。 東京の暴力団抗争がベトナムと相前後して描かれるが、中途半端な印象なのも残念。
[寸評] 21回目となる横溝正史賞の受賞作。 新人の作品とは思えないほど破綻のないしっかりした作品には感心した。 古い因習の世界からゲーム業界までいろいろな要素を盛り込み、終盤の怪奇趣味までサービス精神も旺盛。 しかし人間に魅力の無いのが惜しく、すらすらと面白く読めるがあまり印象に残らないという感じ。 真相を追う者たちにも、なぜそこまで関わるのかという違和感が拭えない。 そつのない作品だが、魅力に乏しい。
[寸評] 不良だが心は純粋という2人の少年が、父親探しに大阪へ家出し、相当変わった連中に揉まれながら、もう1歩を踏み出す姿が破天荒に描かれる。 青春人情コメディーの体裁でラストも気持ちの良い終わり方をしてくれる。 でも読んでいて単純に笑って楽しむ気にはなれなかった。 この殺伐とした世の中で、中学を出たばかりの小僧が悪質な盗みや刃物を使った暴行を平気でやる描写を、関西訛のノリでアハハと笑う気にはなれません。
[寸評]
面白さでは定評のある作者の、期待どおりの娯楽作。
余分と思われる描写は極力排し、これでもかという位に趣向を凝らし、ひたすら読者を楽しませることに徹するプロ魂が感じられる。
現役弁護士でありながらこれまた相変わらず法廷場面にはさほどページは割かれておらず、場面を次々に転換させて読者を惹きつける。
思わせぶりが過ぎて真犯人は比較的早く割れてしまうし、都合のいい展開やおぞましい場面も多いが、とにかく一気に読ませる。
[寸評]
"密室長編ミステリ歴代第2位"という帯に誘われてしまいました。
1944年の作のためか、比較的古さとは無縁のジャンルでありながら、テンポといい登場人物の話ぶりや肝心のトリックまで、どうしても古さを感じてしまう。
前半の降霊会の場面は今読んでも面白いですが。
第2位なりのあっと驚く大トリックを期待すると肩すかしを食います。
いくら専門家の投票とはいえ、20年前のそれもたった17人の投票でのこのコピーにはやられたって感じ。
[あらすじ]
ヴァスケス刑事は警察にかかってきた匿名の電話で、カルドーニ外科医がコカインを山小屋に隠しているという情報を得る。
山小屋に不法侵入した彼は、そこに手術台と血痕、そして冷蔵庫の中に二つの生首を発見する。
捜索の結果、近くの林から9つの死体が掘り出される。
カルドーニは逮捕され、ジャフィ弁護士と彼の娘で新米のアマンダが弁護に付く。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
雪に埋もれた山荘、カプリオーン館で材木業者のオグデンは、妻アイリーンに降霊会を開かせる。
アイリーンは霊媒師だった。
今回は彼女の前の夫で14年前に山で遭難したデザナを呼び出し、20年間山の伐採を禁じたという問題の真偽を質そうとオグデンは目論んでいた。
会に集まった人たちの前で、アイリーンによってデザナの亡霊が導き出される。
[採点] ☆☆☆
ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ
▲ 横溝正史賞
横溝正史の偉業を記念して1980年に創設された角川書店主催の長編推理小説賞で、現在は横溝正史ミステリ大賞が正式名称。
第1回は斎藤澪の「この子の七つのお祝いに」が受賞。
当ページにある「T.R.Y.(トライ)」は第19回の受賞作。
第10回の候補の中には鈴木光二の「リング」もある。