◎00年5月



[あらすじ]

 妻が友人から言葉巧みに売りつけられた美顔器の出す匂いを嗅いだ時、35年ぶりに花奈子の顔が思い出された。 彼女は、私が幼い頃岩手の山深い村に住んでいた時期に近所だった年上の少女で、私の初恋の人だ。 この話を部下の須藤にすると、興味を覚えた彼は花奈子の消息を探るため岩手へさっさと向かってしまった。 しかし彼はまもなく行方不明に。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 記憶にまつわる幻想的なミステリーで、
「前世の記憶」に続く「記憶」シリーズの3作目。 表題作の他、全12作の短編集。 一編が20ページ程度と前2作の半分近くでさらに短くなっている。 ふとしたきっかけで甦った記憶の断片が、真相に迫るにつれ形を変えていきついに・・・というのが多いパターン。 各編それぞれに面白く読ませる技はさすがだが、これだけ続くとやっぱり飽きました。



[あらすじ]

 江戸下町の鉄瓶長屋と呼ばれる長屋で殺人が。 八百屋の富平の家で、寝たきりの富平に代わって店を切り盛りしていた息子の太助が殺された。 本所深川方同心の井筒平四郎は太助の妹お露が怪しいと睨むが、差配人(長屋の管理人)の九兵衛は自分と太助に恨みを持つ者の犯行という手紙を残して姿を消す。 やがて大家によって新しい差配人が長屋に送り込まれる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 いろいろなジャンルに挑戦している作者だが、時代ミステリーは以前からの得意分野。 本作は謎そのものより、江戸の下町に生きる人々の姿が生き生きと描かれ、気持ちの良い作品に仕上がっている。 一風(かなり?)変わったキャラクタが続々と登場して、逆に主人公のはずの”ぼんくら”同心である平四郎のぼんくら振りはさほどでもなく、やや霞み気味。 500ページもたせるにはちょっときびしい事件の展開ではあったが、助演陣の魅力で十分楽しめました。



[あらすじ]

 静岡県の遠州灘に面した町にある自衛隊のレーダー基地。 警戒監視隊の隊長大山三佐は隊長室の電話に盗聴器が仕掛けられているのを発見。 隊長室は常に密室の状態であったはず。 防諜のエキスパート、防衛部調査班の朝香二尉が派遣されてきて、警戒監視隊の野上三曹は補佐を命ぜられる。 2人は保全点検という名目で基地内の調査を開始する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 自衛隊基地を舞台とした本格推理ものでメフィスト賞受賞作。 作品名は、レーダー監視している領空侵犯の識別不明機(アンノン)から。 基地という閉ざされた舞台が興味深く、隊員たちの言動も現実味を持って描かれている。 長さはやや短めで、終盤があっさりしすぎている印象で、もう一波乱欲しかったが、デビュー作とは思えないほど良く整理されていて読みやすい。 作者のページは
こちら


 《未読だった過去の傑作》

[作品紹介]

 元外人部隊員のグィドーが経営するイタリアのペンションに、傭兵仲間だったクリーシィがやって来る。 精悍だった彼も50才に近く、アル中寸前の状態で、体も気力も衰えは隠せない。 身代金目的の子供の誘拐事件が多発しており、グィドーはクリーシィに、実業家の娘の警護役の職を世話する。 戦いに明け暮れてきた彼は11才の少女ピンタの扱いに戸惑いを隠せない。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 最近ようやく正体を明かした凡作無しの冒険小説作家の80年のデビュー作。 生きていく理由を失っていた元傭兵が少女と心を通わせていく第一部。 復讐を胸に肉体を鍛え直す彼と島民との交流を描く第二部。 そして燃える男となってマフィアにただ1人戦いを挑む第三、四部。 迷いのないストレートな展開が小気味いい。 クールな戦争のプロが徐々に人間としての心を持っていく様子も素直に描かれていて好感が持てる。 初老のランボーのあまりの強さにもう少し強い敵を欲するのは贅沢かな。



[あらすじ]

 渋六興業は渋谷、目黒一円を縄張りにする暴力団。 風俗営業の店からみかじめ料を取り立てて回っていた構成員の水間は、神宮署の刑事と名乗る男にいきなり拳銃を突き付けられ、金の入った鞄を奪われる。 組長の碓氷がレストランで食事中南米マフィアに銃で狙われたところを偶然助けてくれたのもその男らしい。 男は禿富という名の間違いない刑事だった。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 国内ものでは珍しい悪徳警官を主人公にしたミステリー。 暴力団に公然と金を要求したり、容疑者をさっさとバラしてしまったりと、不祥事続きの現実の警察官と比べてもあまりに現実離れしすぎている。 結果、物語にどうも緊迫感が乏しく、荒唐無稽の領域に入ってしまっている感じ。 南米マフィアの殺し屋も凄みが無く、終盤の展開も意外性が無い。 最近益々精力的に執筆活動を続ける作者だが、もう少し"切れ"が欲しいところだ。


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