◎6月


釣り侍の表紙画像

[導入部]

 北国羽州にある大泉藩。 大泉家中では釣りが武士の嗜み、武用の一助、侍の鍛錬として奨励されていた。 初夏四月の早暁、前原又左衛門は竹馬の友、山上藤兵衛と共に磯を目指した。 齢四十を過ぎた二人、山上家が百十石、前原家が百石と家格も近く、藤兵衛は郡奉行、又左衛門は勘定目付の役目に就いている。 夜道の山道を越え磯に着いた二人の狙いはもちろん黒鯛だ。 釣り餌に使うイサダを集め岩場へ向かうと、すでに二十人ほどの侍が竿を出していた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 江戸時代、磯釣りが武芸として奨励されているという東北の藩を舞台とした時代小説。 中級武士で釣り好きな主人公は、磯釣り中に事故死した藩主の跡目を巡るお家騒動に不本意ながら巻き込まれる。 次代藩主を決める釣り対決が本書のメインイベントなのだが、そのくだりは緊迫感や盛り上がりがいまひとつの印象。 主人公の娘の嫁入り話なども絡めて、人情味のあるほのかなユーモアをたたえた物語は軽く楽しめた。 チャンバラ要素があるにはあるが、非常に少ないのが残念でした。


夜明けまでに誰かがの表紙画像

[導入部]

 高校生のレッドは親友マディら友人六人で、大型のRVキャンピングカーに乗ってサウスカロライナのキャンプ場に向け春休みの旅行に出ていた。 しかし途中で道に迷ってしまい、携帯電話の電波も圏外になってしまう。 ナビも当てにならない。 真夜中で山道に入り、やがて道路は未舗装の土と石ばかりの道に変わる。 行き止まりのようなところに入り込んだとき、何かが割れるような鋭い音が鳴り響き、RVは左前方に沈み込んだ。 タイヤがパンクしたらしい。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 昨年末の各誌ミステリーベスト選びで軒並み上位に入っていたサスペンス小説。 私はそこまで絶賛というほどには思わなかったが、とりわけ後半のサスペンスの盛り上がりは凄いと感じた。 狙撃手に狙われた閉ざされた空間の中で、秘密を抱えた者は誰かという疑心暗鬼が支配する。 話はRV車の中だけで進行し、登場人物も限られているので一直線に進む。 終盤、謎の回収は緻密に組み立てられ、たいへん見事だ。 たださすがに550ページは、とりわけ前半は長さを感じさせた。


白と黒のソナタの表紙画像

[導入部]

 ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第三番」。 最後の和音を弾き終えた友澤伸多の上に喝采が降り注いだ。 前列の聴衆が拍手しながら立ち上がり、たちまち全席に広がってスタンディング・オベーションになる。 新関東フィルのオーケストラ全員も立ち上がり、拍手喝采は最高潮に盛り上がる。 翌日から伸多の人生は変わった。 数日の間にネット上に音楽評論家や音大の教授たち、名のあるピアニストからの絶賛の感想が発表された。 お祝いの電話がひっきりなしだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ドラマ性の強い作品の多い宇佐美まことだが、本作もなかなかドラマチックだ。 新進気鋭のピアニストにまつわる話と、イギリスから日本へと一台のピアノを巡る話が交互に語られていく。 とりわけ、華族や家といった制度に縛り付けられた女性たちを描いたパートはたいへん残酷な運命の話で、物語に翻弄される面白さが味わえた。 一方、若手ピアニストが思わぬ災禍に見舞われるパートは、設定も進行もややありきたりな印象を受けたが、それでもラストで光が見えたのは良かった。


私たちはたしかに光ってたんだの表紙画像

[導入部]

 高校一年の室瑞葉は、部活で軽音部に入るとクラスメイトの三浦朝顔に誘われてバンドを結成することに。 あとの二人はクラスの違う柏葵と広瀬緋由。 瑞葉の担当はベースだが、楽器経験は無くベースもこれから買う。 四人はファミレスで初顔合わせと自己紹介のあと、バンド名を『さなぎいぬ』に決める。 彼女らの夢はいつか武道館やドームでライブして紅白にも出ること。 瑞葉はさっそく、練習も勉強もめちゃくちゃするのでと親にお願いしてベースを買った。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ガールズバンドの一員だったが途中でバンドを辞めた女性の二十六歳での回顧録のような体で綴られる直球の青春小説。 わちゃわちゃした女子たちの会話、行動どれをとっても瑞々しくキラキラと眩しい、眩しすぎるほどだ。 主人公がバンドを辞める決断は説得力はもうひとつのような気もするが、それも若さゆえの行動と納得はできる。 バンドの軌跡が順風満帆すぎるのもまあ許せるかな。 “青春”が遙か遠い昔のことになった私にも、この本を読んでその輝きに触れた気がしました。


瞬きすら許さないの表紙画像

[導入部]

 キャット・フランク警視正はイングランド中部のウォーリックシャー警察に所属している。 新しい内務大臣はITのバックグラウンドがあり、AIの活用により警官の時間とコストを削減しようと目論んでいた。 キャットは本部長から、AIDE(人工知能捜査体)を使って未解決の行方不明事件を捜査するプロジェクトのリーダーとなるよう指示される。 彼女の下には警部補一名、部長刑事一名と若い女性科学者一名、そしていまいましい機械だけが配置された。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ベテラン捜査官がAIを相棒にして未解決事件に挑むもので、AIの活用はまさに現代的なテーマであり、本作はSFでも色物小説でもない正統な警察小説。 機械と組むことに懐疑的なキャットは捜査方針を巡ってAIと火花を散らしながらも、その圧倒的な処理能力に驚き活用していく。 キャットとAI<ロック>の凸凹コンビぶりが面白い。 またチームの警官たちはそれぞれに描けているし、事件解決に至るきっかけや過程も無理がない。 英国推理作家協会賞の最優秀新人賞を受賞。


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