マックス・クラインは検事補の仕事に嫌気がさして私立探偵になった。
クラインは、メジャーリーグでMVPを獲得したこともある元プロ野球選手ジョージ・チャップマンから仕事の依頼を受ける。
チャップマンは五年前に交通事故を起こし左脚を失くした。
今はニューヨーク州の上院議員選挙の次期候補に推されている。
そのチャップマンのもとに脅迫状が届いた。
五年前の約束を守らなければ命を狙うという内容だった。
[寸評]
ポール・オースターが作家として成功する前の1982年に別名義で発表した私立探偵小説で本邦初訳。
主人公の探偵がどんなに危ない場面でも軽口を叩き続ける、典型的なハードボイルドもの。
全編通して次々に主人公に危機がふりかかり、謎が謎を呼ぶ、とてもテンポの良い展開で楽しませる。
タフな主人公に妖しい美女等、登場人物も基本通り。
本筋ではないが、主人公が別居している息子を野球観戦に連れて行く場面はとても良い味が出ている。
採点はやや甘め。
弁護士の相田は、殺人事件の犯人として起訴された被告人・北尾洋介の父・明彦と共に土門鑑定所を訪れた。
鑑定所の土門は以前は警視庁の科学捜査研究所にいた人物。
事件の被害者・23歳の横手紘奈の遺体が発見されたのは都内の工事現場。
首には絞められた痕が残り衣服に乱れがあった。
被害者はストーカー被害に遭っていて、警察は元恋人の洋介を逮捕した。
逮捕の決め手は遺体に残された精液でDNA鑑定で合致した。
[寸評]
科学捜査研究所で凄腕“最後の鑑定人”と呼ばれていた男が警視庁を辞めて開いた民間鑑定所の事件簿四編。
いずれの話も様々な鑑定対象、鑑定手法が登場して興味深かったが、鑑定の中身をもっと深掘りして描いても良かったかな。
業務の性格からどの話も派手さはなく、事件が解明されてもスカッとした感じはないが、よく練られた話ばかりで面白く読めた。
孤高の鑑定人としての主人公の造形は気難しく魅力にはやや乏しい。
テレビドラマ化されそうな連作だ。
山縣泰介は大手ハウスメーカー・大帝ハウス大善支社の営業部長。
部下と共に関係会社を訪ねた帰り支社長から至急帰社するよう電話が。
指示どおり裏口から社屋に入りオフィスへ戻ると社員がほぼ全員泰介を無視している。
泰介は支社長から、自分が人殺しを仄めかすツィートをしたことで女性殺害犯としてネット上に実名、顔写真付きでさらされ大炎上していることを知らされる。
泰介はTwitterを利用したこともないのだが。
[寸評]
全く事実無根なのに我知らず殺人犯に誤認され、あっという間に日本中が敵になってしまった男の逃亡劇。
現代ネット社会の恐ろしさの一面がとてもリアルで怖い怖い。
物語はいろいろな登場人物の語りで構成され、場面が次々に移り変わり、スピード感を持って進む。
設定は単純だが、主人公の必死の逃亡を全編半端ない緊張感で読ませる。
決着の付け方は叙述トリックを使ったアクロバチックなものだったが、もう少し説明的な記述を加えても良かったかな。
僕と別れる日、彼女は自分の超能力を打ち明けた。
自分には予知能力があるというのだ。
未来が見えるっていうわけじゃなく、ただわかる、目の前の人や、物、場所について、ふと、ある文章が浮かぶのだと。
一方、僕もまた超能力者で、千里眼だった。ひと月に一度か二度、すごく疲れたとき、闇の中に突然映像が浮かぶ。
思いがけない人たちが、その瞬間どんなふうに過ごしているのかを見ることができた。
(表題作)
[寸評]
韓国人作家のSF作品集で、掌編から中編まで全10編。
小洒落た都会的なものからアクション満載の活劇までヴァラエティに富んでいる。
中では、アラスカのユダヤ人自治区でユダヤ人虐殺に関わったアイヒマンをひとの感情を移植できる“体験機械”にかける話と、木星・土星圏を指導する総統“アスタチン”の座を巡って15人の兄弟が殺し合う壮大なスペース・オペラの中編2作が面白い。
他の作品は雰囲気はともかく、短すぎて物語としての面白さには欠ける印象。
亜希は一歳四か月の息子・一維を連れて、よく訪れるショッピングセンターの有料プレイルームに入った。
普段は無料のキッズスペースに行くのだが、今日は混んでいたのと、一維があまりにも不機嫌だったので思い切ったのだ。
入室して十二分、ようやく一維が一人遊びを始めてくれたので、携帯でネットにつなぎ、ブックマークしているブログ「Hikari's Room」を開く。
しかし記事は更新されていなかった。
軽く溜息を吐く。
[寸評]
育休・求職中の亜希35歳、会社で営業事務のチームリーダーをしていて若い女子社員の権利意識に振り回される茗子37歳が主人公。
これにブログ主で40歳の三津子が加わり、旅先で出会った三人の、気持ちをぶつけ合う熱い議論が途中150ページ近く繰り広げられる。
アラサー、アラフォー女子の厳しい現実が心からの叫びとして吐露される、息詰まるような緊張感と迫力まで感じさせる場面だ。
タイトルの二重の意味付けが巧く、光に向かって進むラストがいい。
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ